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【書籍化決定】隠れ居酒屋・越境庵~異世界転移した頑固料理人の物語~  作者: 呑兵衛和尚
王都ヴィターエで、てんやわんや

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86品目・ピザラッシュと、ジビエ料理(特盛ピザとシーフードピザ、ウサギのジビエ料理)

 こっちの世界では初めての、ピザの仕込み。


 基本、やることは同じなので、環境が変わっても仕込みについては特に問題はない。

 むしろ札幌の店には無かった石窯があるので、ワクワク感が否めない状態になっている。

 普段は五徳とプロパンガス、もしくは炭焼き台かオーブンしか使っていなかったので、本格的な石窯でピザを焼くというのは楽しそうでねぇ。


「ええっと……シャット、ベーコンはこれぐらいでいいかしら?」

「もっとにゃ、チーズとベーコンで生地が隠れるぐらいにするにゃ」

「えええ、それって味が濃くなりすぎませんか? なんとなく油も多く出そうですけれど」

「もっとにゃ!!」


 はは。

 先ほど、マリアンにも作り方を教えてあげたので、自分の分はいい感じにバランスよく仕上げてある。そしてシャットの分も作ってやっているらしいが、どうにも……肉々しいなぁ。


「そんなに味を濃くしたら、喉が渇いて食べづらくならないか?」

「その時はお酒を飲むにゃ。焼酎のラムネ割りを作っていいかにゃ?」

「あ~、確かにピザは酒とよく合うが。そもそも営業前だから、酒は慎んだ方がいいんじゃないか? それとも今日は客になるのか?」

「ん~、マリアン、どうするにゃ?」


 昼間の営業時間は、契約なので仕事を手伝って貰っているが。

 夜の営業については、彼女たちに一任してある。

 働くのなら賃金は出るし賄い飯もおまけについてくる。

 だが、客モードで楽しむ場合は、自腹で支払って貰うことになっている。

 まあ、従業員割引なので高くつくことはないだろう。

 そもそも、鏡月のボトルを入れて、割り材を注文しているので安く済んではいるのだがね。


「そうですわね……今日は、私もお客になってよろしいでしょうか?」

「それは別に構わないさ」

「それじゃあ、開店準備が終わったら客になるにゃ!! あたいの焼酎はどこだったかにゃ」

「どこも何も、棚にはシャット達のボトルしかないからな」

 

 まあ、楽しそうだからよしとしておこう。

 そんな感じで営業時間になった時。


――ガチャッ

「お待たせ! いやあ、風呂が混んでいてねぇ。なかなか体を洗うのに手間どっちまったよ」

「でも、しっかりと清潔にしてきたからな。それで、今日は何を食べさせてくれるっていうんだい?」

「ああ、ちょいと待ってろ、今から焼くのでね」


 それじゃあ、さっそく一枚目を焼くとしますか。

 すでに石窯の状態は最適、そこにピザをそっと入れて静かに待つ。


「さて、飲み物はどうしますか?」

「エールが欲しいところだが。この店にあるビールっていうやつもうまいそうじゃないか。それを貰えるかな?」

「ああ、俺もそれで」

「まいど、少々お待ちください」


 クーラーボックスで冷えている瓶ビールを2本取り出し、栓を抜いてグラスと一緒に差し出す。

 お通し代わりはいつもの定番、塩キャベツ。

 

「お待たせしました。焼き上がるまで少々かかりますので、それまでは塩キャベツでも摘まんでいてください。それか、普通の注文なら受け付けますけれど、どうしますか」

「注文……と、ああ、このメニューっていうやつか。いや、折角なので焼き上がるまで待つとするさ」

「そうだな。それまでは、この塩キャベツとかいうので」


 瓶ビールをグラスに注ぐことなく、豪快にラッパ飲みし始める二人。

 そして時折塩キャベツをつまんでは、またグイッとビールを飲む。

 そんなかんじで楽しんでいると、石窯の中のピザが焼きあがった。


「よし、それじゃあ……取り出して……と」


 金属製のピザピールを使って焼きあがったピザを取り出すと、それをまな板の上で6等分に切る。

 ピザ用の皿は木製のワンプレートという、丸いまな板のようなものを使用。

 うちでも5枚しかない貴重品……というか、それ以上は必要ないと思っていたので購入していない。

 そこにカットしたピザを載せ、タバスコと一緒に二人の前に出す。


「お待たせしました。こいつはピザと言いまして、生地の上にトマトソースと様々な具を載せて焼いたものです。味変にタバスコを置いておきますので、好みで掛けてください。あと、タバスコはかなり辛いので、加減して使ってください」

「おお、それではさっそく、頂くとしようか」

「そうだな、では」


 食べる前の挨拶、二人は右手の人差し指と中指を立てて胸の前に置き、目を閉じて神に祈っている。

 このあたりの礼儀作法は信仰する神によってさまざまだが、食事の時までしっかりと神に挨拶をしている宗教は、それほど多くはないらしい。


「熱っ……これはなかなか手ごわいな」

「だが、この薫りは堪らんぞ……んんん、これは凄い!! チーズが溶けて糸を引いているじゃないか。それにこの赤いソースも酸味が効いていて、実に美味い」

「乗せられている具材はなんだかわからんが、塩漬けの燻製肉が大量に乗っているのは嬉しいじゃないか」


 ああ、これはすぐに追加で焼いた方がよさそうだな。

 ちょうどマリアンとシャットの分が焼きあがるので、それに合わせてもう2、3枚は焼いた方がよさそうだな。

 そうなると、同じ具材というのも面白くはない。


「まだ食べれそうでしたら、追加で焼きますが、どうしますか?」

「俺はあと2枚はいける」

「俺は……3枚だ」

「かしこまりました……」


 厨房倉庫(ストレージ)から冷凍のシーフードを取り出して解凍。こいつはペスカトーレの具材として使う。

 そして解凍している間に、マリアンがシャット用に作っていた肉特盛ピザと、野菜がたっぷり乗っかっているオルトラーナ、サラミやチキン、トウガラシなどを乗せたスパイシーなディアボラまで仕込んでおく。

 あとは1枚ずつ焼いていくだけ。


「さて、マリアンとシャットの分が完成したので、取りに来てくれ」

「わかったにゃ……」

「ああ、熱いから気を付けて食べるよう『うきゃぁぁぁぁぁぁぁ』に……って、遅かったか」


 猫舌のシャットにとっては、熱々でとろけているチーズの熱さは堪らないだろうなぁ。

 

「ユウヤさん、あっちの席に持って行ったのは、俺たちの分じゃないのか?」

「あれは彼女たちが作った分ですよ。二人のは間もなく焼きあがりますので」

「そ、そうか……いや、すまない。あれもなかなか美味そうだったもので」

「そういっていただけると嬉しいですね……と、ビールの追加はいりますか?」

「ああ。これなら幾らでも飲めるな、2本ずつ頼むよ!」


 急ぎ、厨房倉庫(ストレージ)から冷えた瓶ビールを取り出して、栓を抜いて手渡す。

 そしてちょうど焼きあがったピザをカットして差し出すと、ふたたび瓶ビールをチン、と鳴らして食べ始めた。


――カランカラーン

「ねぇユウヤ店長、店の中からすっごい美味しそうな匂いが流れてきたんだけれど……って、マリアンもその料理はなに? 初めて見たんだけれど」

「これはピザですわ。今はオーダーがいっぱいで、すぐには焼けませんわよ?」

「そ、そうなの……ユウヤ店長、私もこっちで飲みたいから、瓶ビールとピザを頂けるかしら?」


 いきなり店の中に入って来たミーシャが、マシンガントークのように一気にまくしたててからマリアン達のテーブル席に同席した。

 まあ、時間がかかるけれど、それでいいなら。


「それじゃあ先に、瓶ビールと塩キャベツな。ピザは焼きあがるまで時間がかかるから、ちょいと待っててくれ……と、そういえばアベルは一緒じゃないのか?」

「ああ、今日は臨時パーティーの面子に招待されて、どっかに飲みに行ったわ。私はこっちの方がいいから、面倒臭い事はアベルに任せて来たのよ」

「へぇ……冒険者の世界も、いろいろあるんだなぁ」


 そんなこんなでカウンターの二人以外にも、フラッと来店したお客さんに頼まれてピザを焼いたり、定番の焼き鳥盛り合わせを出したりと大忙し。

 そしてアバンとロトの二人も、合計9枚のピザと瓶ビールひとケース分を飲み干して満足したらしく、そのまま帰っていった。

 それにしても。


「今日の飲み代って置いていった金額、あきらかに多すぎるんだがなぁ。次に来た時にサービスするとしますか」

「あの二人は、大雑把すぎるにゃ」


 まあ、財布から金を取り出して、数えないでカウンターに置いて行ったからなぁ。

 明らかに多すぎるのに、『いいっていいって』で済ますのはアリなのか?

 

「あの二人は、組合でもかなり上位の冒険者ですから。ユウヤ店長の料理に感動して、自分達なりの支払いをしたという事でよろしいのでは?」

「そういう事か……しっかし、まるでプロレスラーみたいな食欲だな。あんなに飲むとは思っていなかったよ」

「あの二人は、冒険者の中でも酒豪で有名だニャ」

「ロト兄弟は何処の組合でも指名依頼が入るぐらいですから」

「道理で……」


 俺も修行時代、出向先の割烹で似たような事があったな。

 ススキノのホテルの地下にあった割烹で働いていたんだが、ある日、ホテルのラウンジから連絡が来て、ビールを全部貸してほしいって言われてね。

 話を聞くと、プロレスの巡業でホテルに大勢のプロレスラー達が宿泊していたらしく。

 ちょうど、そのホテルがディナーバイキングをやっていたものだから、もう大変なことになったんだよ。

 ビールのストックは全てカラになるわ、日本酒やウイスキーもほぼ全滅。

 挙句に、ご飯が足りないとかで割烹の米も全て持っていかれてね。

 急遽、予約客対応以外は御断りさせてもらったんだわ。


 閑話休題。

 そんなこんなで夜も更けて、客たちも帰路に就いた。あとは片づけをしてから、足りない食材の発注をしておかないとならない。


「それにしても……あの食欲なら、預かっているリエーブルもペロッと食べるんだろうなぁ」


 明日は朝から解体作業。

 そしてジビエの仕込みといきますか。

 ほんと、ウサギの解体なんて初めてだよ。


 〇 〇 〇 〇 〇


――翌日、昼少し前

 どうにかこうにか解体したリエーブルは、一度マリアンに頼んで浄化術式で消毒を行った後、空間収納(ストレージ)に保存。

 こいつをどうやって料理するか、それが問題なんだが。

 淡白でうまみのある肉は、どんな料理にも合う万能肉。それゆえに、料理方法を選ばないというのは便利でいいのだが、言い換えると『特徴がない』。

 

「とはいえ、まずは作ってみるとしますか」


 すでにウサギのレバーを使ってパテを仕込んである。

 こいつはガーリックトーストの上に塗って食べればいいだろう。

 もも肉の部分は酒と醤油に漬けこみ、ザンギ風に味付けしてある。

 今回は醤油1:酒8:オレンジジュース1、にんにくは使わずおろししょうがだけ使う。

 そして卵も全卵ではなく白身だけを使い、しょうがを効かせた塩ザンギとして仕上げるつもりだ。


「ウサギの肉は……あとはトマト煮でいいか。使う部下は背中肉、背ロースだけでいいだろう」


 背ロースはさっとオーブンで表面を焼いたのち、トマトジュースとトマトピューレ、角切りトマトを大きめの雪平鍋に入れてゆっくりと煮込む。

 臭み消しに必要なブーケガルニも忘れずに。

 それとは別に、ジャガイモを蒸して皮をはがし、裏漉ししてから鍋に入れ、牛乳とバターを少しずつ加えてマッシュポテトのように練り上げる。

 これをトマト煮を盛り付けるときに、横にどかっと添える。


 もも肉と背ロースはこれでいいので、あとは前足部分、俗にいう『マエ』の処理。

 こいつは骨から肉を削ぎ落し、ひき肉にしてハンバーグに仕上げる。

 といっても、特に珍しいことをするわけではないので、下拵えをしたマエをよく叩いておく。

 みじん切りにした玉ねぎは飴色一歩手前まで炒めて火から下ろし、よく冷ましておく。

 あとはひき肉と玉ねぎ、全卵、パン粉と牛乳を加えてよく練り込む。

 味わいにも好みがあり、滑らかで口溶けのよい物を求めている時は細かく叩いて念入りに混ぜ合わせ、逆に肉の食感をしっかりと楽しみたい時はひき肉もやや粗めにして、混ぜる時もさっと混ざる程度に。

 ただ、手を抜き過ぎると焼いている内にばらばらになり、出来の悪いそぼろ状になるので注意が必要だな。


「レバーパテ、ウサギのザンギ、トマト煮、ハンバーグ……まあ、今日はこんな感じでいいだろう」


 一通りの仕込みが終わったら、厨房倉庫(ストレージ)に時間停止処理をしたのち保存。 

 ロトとアバンと約束は3日後、つまり明後日。

 まだ肉も半分近く、内臓は殆ど残っているので、明日以降も色々と調べて仕込みすることにしますか。


「さて、そろそろ今日の仕込みを始めますか……」


 今日は焼き鳥ではなく、ザンギ串。

 次々と揚げるザンギを、太めの串に打つだけという、実に簡単な料理なんだが。

 実は、俺がいつも購入していたちくわパンのメーカー『どんぐり』の人気ナンバーツーのメニューが、このザンギ串。

 パンの専門店なのに、どういうことかザンギ串が大人気でね、何度も買ってみては味の研究をしてきたものだよ。

 ということで、大きめの天ぷら鍋で次々とザンギを揚げていく。

 そして油を切ったザンギに串を打ち、バットに入れて厨房倉庫(ストレージ)へ。

 ただ、これだけでは足りないというか、主食っぽいものも欲しいと思ったので、ザンギを揚げ終わったら豚串を使って串揚げも用意。

 

「ふぅん。いつものザンギだにゃ。こっちはいつもの串揚げにゃ?」

「まあ、シャットたちにとってはいつものだけれど、この街の人にとっては初めての味わいだからな」

「確かに。これだけ大量の油を使っている料理なんて、高級過ぎて誰も手を出せませんわ」

「はは、確かに」


 そう笑いつつも、急ぎ仕込みを終らせる。

 まあ、今日も忙しくなりそうだよ。


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