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【書籍化決定】隠れ居酒屋・越境庵~異世界転移した頑固料理人の物語~  作者: 呑兵衛和尚
交易都市キャンベルの日常

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75品目・キャンベルでの、仲間たちとの語らいと(海鮮生ちらし鮨と、開きホッケ焼き)

 ミーシャ達が顔を出した日の夜。


 いつものように夜の営業を行っていると、ラフロイグ伯爵とグレンガイルさん、そしてディズィの三人がやって来る。

 更にミーシャとアベル、マリアンとシャットもやって来たので、大急ぎで椅子を一つ厨房倉庫(ストレージ)から引っ張り出してカウンターの一番奥に並べようとしたのだが。


「あたいは、ここでいいにゃ」


 カウンターの中、一番奥に追加の椅子を置いて、そこに座っている。

 まあ、カウンター席が狭くならなくていいのだが、それでいいのかって突っ込みたくはなって来たが。


「さて、今日はどうしようかのう……よし、ウイスキーとやらを、ロックで頼む」

「私は純米酒を冷でお願いします」

「あのね、この前飲んだお酒があったじゃない? あのシュワシュワしたやつ、あれをもらえるかしら?」

「私とシャットは、ボトルが入っているのでそれでお願いします。割り剤はいつものやつで……って、ええ? シャットが用意するの?」


 グレンさんには『サントリーウイスキーの角瓶』でロック。

 こいつは料理の邪魔をしないウイスキーで、うちのような居酒屋では定番の一本。

 なんといっても、焼き鳥や揚げ物といった味の濃いものにはよく合う。

 ウイスキーの味を楽しむ方がメインなら、うちでは『竹鶴ピュアモルト』という手もあるし、もう少しグレードの高いものも用意してあるが、今日はこいつからスタートだな。

 

「さて、伯爵用の純米酒……そうですね、では、こいつで」


 最近、ラフロイグ伯爵も日本酒の旨味を勉強していたらしくてね。

 うちで色々と呑んでいるので、味については結構うるさい。

 

「では、グレンさんにはサントリー角瓶をロックで。ラフロイグ伯爵には、加賀鳶の極寒純米辛口を一合……いえ、枡でお出ししますので」

「おお、それはいつものやつじゃな」

「私のは初めてですね。ええ、武蔵野国さんが枡で飲んでいたのが気になりましてね……それでお願いします」


 まずは二人に酒を出して。

 あとはディズィさんには『すず音』を、シャットたちには……ってああ、すでにボトルはシャットが引っ張り出しているしアイスペールの中の氷は魔法で作ったのか。


「二人には炭酸と割り剤だな。レモンとライムと、梅と……あとはこいつだな」


 本日初登場。

 リボンナポリンの割り剤だな。

 こいつは焼酎と炭酸さえあれば、いつでもどこでも『リボンナポリンサワー』が飲める。

 二人の前にそれを並べてやると、シャットのテンションがとんでもないものになっていた。


「うきゃぁぁぁぁぁ、リボンナポリンだにゃあ、割るにゃ、急いで割るにゃ」

「ちょ、ちょっと待ってください、今は私のを作っているのですから」

「はは。喧嘩しないようにな。それで、アベルとミーシャは、何を飲むんた?」


 そう問いかけると、二人は周りで飲んでいるものを眺めてポカーンとしている。

 ああ、二人は日本酒派だから、こんなに色々な種類の酒があるとしって呆然としているのか。


「え、えぇっと……燗酒……じゃない、ユウヤさん、どんだけ酒の種類があるんだよ」

「うちは居酒屋、酒を楽しむ店なんでね。グレンさんの飲んでいるのは麦を使った蒸留酒、伯爵は純米酒。ディズィさんのは日本酒の発泡酒で、マリアンたちはボトルキープしてある焼酎を、色々と割って飲んでいるだけだな」

「へぇ。それじゃあ、シャットとマリアン、私もそっちに混ぜて貰っていいかしら? ユウヤさん、あの焼酎をもう一本追加して」

「はいはい、鏡月の追加ね。炭酸もあと一本入れておくか……それで、アベルはどうする?」


 そう問いかけると、アベルは腕を組んで考えている。

 果たして、どんな答えを持ってくるか。


「そ、それじゃあ、まだここで誰も呑んだことが無いお酒……っていうのを一つ」

「ふむ、そうきたか……」


 それじゃあ、こいつなんかいいかもしれないな。

 厨房倉庫(ストレージ)から、マイヤーズ・ラムのボトルを取り出してカウンターに置く。


「こいつはラム酒といいます。種別はダークラム、廃糖蜜といって砂糖を絞った後の糖蜜を使って作った酒です。そのままではきついですが、どうやって飲みますか? ロック、水割り、ストレート……色々とありますが」

「それじゃあ、酒そのものの味を知りたいので、ストレートで」

「かしこまりました」


 ストレートなら、ショットグラスで出す。

 まあ、これも好みの問題だけれど、ショットグラスで飲むと味が強調される感じがしてね。

 目の前で注いでやると、アベルがショットグラスを手にしてまずは一口。


「んぐっ……んぷっは、うわぁ、水、水をくれ」

「既に用意してありますよ……どうぞ」


 ラム酒のストレートなら、チェイサーは付ける。

 特にマイヤーズは水と触れる事で、味わいが変化して楽しめるからね。


「ングッングッ……ぷっは。喉が焼けるかと思ったわ」

「はは、この程度ではまだまだ。更に凄い酒も用意できますけれどね」


 そう呟くと、グレンさんがウンウンと頷いている。

 そのあとは皆、好きなものを注文したのでそれに合わせてオーダーを捌いていく。

 焼き鳥、ザンギ、天ぷら、豚の角煮とカレーライス。

 まったく、統一性がないと言われればそれまでだが、うちは居酒屋。

 好きなものを食べ、好きなものを飲む。

 そして楽しく語り合うっていうことで。


「ああ、そういえば、これを届けに来たのを忘れる所だった」


 ラフロイグ伯爵が懐から一通の手紙を取り出し、俺の前に置く。

 しっかりと封蝋も施されている正式な書面らしい。


「これは?」

「王都中央の商業組合に持っていくといい。私からの紹介状と身分保障について一筆したためてある。そろそろ春だ、王都に向かうのだろう?」

「ええ、これは助かります、ありがとうございます」


 手紙を手にお礼を告げるが、ラフロイグ伯爵は手で制し、また焼き鳥を食べ始める。

 

「おお、それではわしもそろそろ移動するかな。王都中央に向かう隊商交易馬車便なら、一週間後にこの街から出るからな」

「えええ、それじゃあ急いで手続きを取るにゃ」

「大変ですわ、今日確認したときはなかったのに」


 シャットとマリアンも慌てているが、グレンさんがウイスキーを飲み干して一言。


「そりゃそうじゃ、儂もついさっき、ここに来る前に聞いたばかりだからな。ほら、ウーガ・トダールにはスペイサイド商会があるじゃろ、そこのキャンベル支店が今朝方、荷物を積んでウーガ・トダールに向かったらしくてな。話では、折り返してくる形で、キャンベルを経由して王都に向かう隊商交易馬車便が出るらしい」

「それにゃ」

「そうですわね、明日にでも席を押さえに行きますわ」


 このあたり、冒険者組合に顔のきく二人に任せておけば大丈夫だな。


「スペイサイド商会の隊商交易馬車便か。それじゃあ護衛の口もあるな」

「そうね、そっちの申し込みもしておいた方がいいわね」

「はは、皆さん色々と大変ですね。私は、また皆さんがここに遊びに来るのを待っていますよ」

「私はどうしようかなぁ……このキャンベルで大使を務めているのも飽きちゃったからなぁ。誰かに押し付けて王都にいこうかしら?」

「待って、それだけは待ってください……本当に頼みますよ」


 まあ、とにもかくにも、これで王都行きのスケジュールはどうにかできそうだ。

 そしてふと見ると、皆の摘まんでいたものがぼちぼちなくなりそうになっている。


「さて、それじゃあ次は何を作りましょうか?」

「まだ、この店で出したことがない珍しい食べ物を!!」

「ありゃ、アベルが無茶振りしているにゃ」


 またアベルがとんでもない事を言い出したが。

 まあ、作る気になれば色々と出来るのだが、そもそも仕入れてある材料でどうにかしたい所だ。


「炊き立てご飯はあるからなぁ……それじゃあ、ちょいと珍しい物を作りますか」

 

 まずは材料から。

 今日は本マグロ、スルメイカ、ハマチ、サメガレイ、甘エビの入荷があった。

 マグロ以外は例の『みなも(みんな持っていけ)』で付き合わされたものである。

 これと先日仕入れた鮃とサーモンがあるので、全て刺身用に切り付けておく。

 スルメイカ以外は薄い削ぎ切りにして冷蔵庫で時間停止処理。

 そしてスルメイカは鹿の子に包丁を入れてから、細切りにしてやはり冷蔵庫へ。

 甘エビは皮を剥いてから、軽く土佐醤油に漬けてから冷蔵庫。

 

「では、そろそろ始めますか」


 水で濡らした鮨桶に保温ジャーからご飯を入れて。

 そこにすし酢を加えて、手早く混ぜ合わせる。

 空気を含ませるようにしつつ、時折うちわであおいで冷ます感じにすると、それをどんぶりに盛り付けて。


「後は、大葉を敷いてから、刺身を盛り付けて……と、これで完成。お待たせしました。海鮮生ちらし鮨です」


 仕上げは天に山葵を添えておしまい。

 店によっては小菊を飾ったり、紅蓼(べにだて、食用ダテ)をあしらったりするけれど、食べるのに邪魔なので割愛。

 出来上がった丼を各々の前に並べ、山葵を溶くための刺し猪口(刺身用小皿)もつけておしまい。

 

「ふ、ふぅん……綺麗じゃない」

「これは生魚ですか。ああ、刺身というやつですね」

「酢の香りもするのう……どれ、それでは」


 各々好き勝手に山葵を醤油で溶き、それをかけ始める。

 マリアンとシャットは刺し猪口に山葵を溶くと、そこに刺身を漬けてからまたご飯に戻している。

 箸が自在に使える二人ならではという所だろう。

 そして食べ始めると、皆が口を閉ざして黙々と食べ続けている。


「それじゃあ、ちょいと摘まむものでも」


 炭焼き台の上にホッケの開きを乗せて焼く。

 これも鮮魚店で作った自家製でね、高い金を出してホッケ専用の乾燥機を買ったって愚痴を聞かされたものだよ。でも、それだけの事はあって、程良く脂の乗ったいい開きホッケを作ってくれるようになったんだよ。


――ジュゥゥゥゥ

 ホッケの脂が炭に落ちて煙をあげる。

 まあ、生チラシを食べている最中だから、こっちはじっくりと焼いても大丈夫だろう。


「ユウヤぁ、半分だけお代わりにゃ」

「ははは、半分だな。ちょっとまってろ」

「あ、儂も普通にお代わりを頼むぞ」

「私はご飯だけ、少し頂けると……」


 結構気に入ってくれたようで、何よりですよ。

 生魚を食べる風習がない国だったので、受け入れられるかどうか考えてはいたんだけれどね。

 まあ、ここにいる皆は食べれるのは分かっていたので、それほど抵抗は無かったか。

 という事でお代わりを作りの終わると、ちょうどホッケも焼き上がったので、大皿に盛り付けて大根おろしと生姜おろしを添えて出す。


「これはホッケの開きといいまして。ホッケという魚を生干ししたものを炭で焼いたものです。熱いので気を付けてください」

「ふぅん……本当に、色々な食材が出てくるのねぇ。武蔵野国の人が、ユウヤさんを欲しがるのも判るわぁ……ねぇ、王都じゃなく私の国に来ない?」

「はは、エルフの国にも顔を出しますので、暫く待っていてくださいよ」


 そんなことを話しつつ、飲み物が空いた人には追加の酒を用意する。

 そして一通り満足したらしく、そろそろお開きかなというところで、ラフロイグ伯爵が真面目な顔をして話かけてきた。


「ユウヤ店長。王都では貴族の派閥にだけは気を付けた方がいい。人がいい店長を利用して、自分の派閥に引き込もうと企む輩は必ずいる」

「そうですか……」

「ああ、特に南部のアードモア侯爵家の派閥には気を付けた方がいい。ダムドゥ子爵家は、アードモア侯爵家の寄子だったからな。北方のアードベック辺境伯とは敵対関係にあるといってもいいだろう」

「そうですか。ご忠告、感謝します。ちなみにですが、ラフロイグ伯爵は」

「うちは王家、ウィシュケ公爵派でね。だからその紹介状が生きることになる」


 ああ、つまり俺に手を出すということは、王家筋が黙っていないぞという忠告にも使えるっていう事ですか。そいつは助かりますわ、面倒ごとは勘弁してほしいのでね。


「そいつは助かりました」

「まあ、ユウヤ店長が王都に着いたら、すぐにでも王城から迎えが飛んでくると思うがね。既に正門には、アイラ殿下から連絡が入っているとおもうぞ」

「はは、その可能性は十分にありますか。まあ、色々と目立たないようにしますよ」


 そう告げるが、シャットとマリアンがウンウンと頷いて。


「無理だにゃあ」

「無理ですわね。ユウヤ店長は目立ちますから」

「そうかぁ? こんなおじさんがやっている店なんて、そうそう目立つことはないと思うがねぇ」

「「「「「おじさん?」」」」」


 シャットとマリアン以外は驚いているんだが。

 いや、俺って中身はアラカン(アラフォー還暦)だからな。


「ち、ちなみにだけど、ユウヤ店長って何歳なの?」

「さぁ? 此処だけの話、俺的にはもうすぐ60歳ぐらいなんだけれどねぇ。ほら、外見的には全然若いだろ?」


 ステータス画面には、あいかわらず何も表示されてない。 

 まあ、この部分に詳細説明が浮かび上がるので、そういうものだろうとは思っている。

 

「……ユウヤの国の60歳ぐらいということは、こっちでは年数えで60歳、三季数えで120歳というところか。私よりも年を取っているとは思わなかったな」

「おや、ラフロイグ伯爵は俺よりも若いのですか?」

「そういうことになるな。三季歳で110歳だから」


 まあ、外見的には若々しいので、今度から歳を聞かれたら、それっぽく説明しよう。

 俺は三季歳で120歳になるらしいけど、まあ、その半分ぐらいにサバを読んでおくか。


「それじゃあ、今日から俺は三季歳で60歳ということで」

「おおざっばにゃ、鑑定鏡でバレるから、そのまま120歳でいいにゃ」

「おう、そういうものもあるのか」


 では、誤魔化さずに行くとしますかねぇ。

 そんなこんなで楽しいひと時を過ごしたから、いよいよ明日からは出発の準備……は終わっているので、出発まではもう少し仕込みをしておきますか。

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