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【書籍化決定】隠れ居酒屋・越境庵~異世界転移した頑固料理人の物語~  作者: 呑兵衛和尚
交易都市キャンベルの日常

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48品目・盗賊団の奇襲と、奇跡の治療薬(炊き出しと、置き薬ふたたび)

 俺の名前を騙って詐欺を働く奴がいる。


 そいつをどうにかしたいところだが、どうやらウーガ・トダールに滞在している流れの商人らしく、今からどうこうできる事じゃない。 

 もっとも、同乗している商人たちの話で、そういった被害については大都市の商業組合に報告すればいいらしい。

 馬車に揺れつつ、そんな話を商人たちとしていたが。


「それじゃあ、ユウヤさんは契約書を交わした事はありますか?」

「契約書……ああ、藩王国の商人に香辛料を売るときと、サーカス団の団長さんに頼まれて毎日料理を卸す契約をするときに、組合で書きましたねぇ」

「それじゃあ、次の街に着いたら、【魔術認証】の登録をしておいた方がいいですね」

「魔術認証?」


 そう問い返すと、マリアンが詳しい説明をしてくれた。

 商業組合だけじゃなく、様々な組合との取引を行う場合、書面による契約を交わすのが普通だが。

 所属している組合で【魔術認証】を受けておくと、契約の際に魔力により【その契約は正当である】という認証を受けることができるらしい。

 そして【魔術認証】は複製も偽造もできないので、本人が契約したことの証になる。


「ちなみにですが、皆さんは俺から賄い飯を食べさせてもらえるっていう話を聞いた時、魔術認証は確認しなかったのですか?」

「急いでいたからねぇ……」

「俺は持っていなかったからねぇ」

「同じく」


 ああ、なるほどねぇ。

 ちなみに【魔術認証】を受けると、首から下げる【魔力印】というものが手渡される。

 それを常に首から下げておくか、胸元に入れておけばいいらしい。


「ちなみにですが、私は所持していますよ? ほら」


 マリアンが首から下がっている【魔力印】を見せてくれた。

 まあ、印鑑というよりはカードのような感じで、小さな石が填められている。


「へぇ、ちなみにシャットは?」

「邪魔だから、カバンの中にゃ」

「あ、そういうことね」


 レンジャーであるシャットは、首から下げていると邪魔らしく普段は鞄にしまってあるそうで。

 まあ、使う時に取り出せばいいらしいが、首から下げておけば自動的に発動するらしい。

 便利なものだねぇ。

 

 そんな感じで、道中は色々な話を聞くことが出来た。

 その分、こっちとしても色々とサービスしてやらんとならないと思い、昼食については俺のおごりという事で無料で提供させてもらった。

 夜はまあ、有料だがちょいと豪華にさせて貰ったので、隊商交易馬車便の護衛たちやサーカス団のメンバーが羨ましそうにこっちを見ている事もあった。

 まあ、あと数日で交易都市キャンベルに到着するんだけれど……。


――ピクッ

 いつものように、のんびりと馬車の中でトランプを楽しんでいた時。

 突然、目の前のシャットの耳がビクビクと動き始めた。


「ユウヤ、馬車の中でじっとしているにゃ。マリアン、なんか来た!!」

「お仕事ですか? 馬車の護衛では足りそうもありませんか?」


 さっきまでの長閑な雰囲気が、緊張した空気に包まれる。

 

――ピリリリリリリリリリリリリリリッ

 そして先頭馬車のあたりから、笛の音が響いて来た。

 

「敵襲だにゃぁ!!」

「了解ですっ。御者さん、守護します!!」


 そう叫んで、シャットが幌馬車の後部出口あたりに顔をだすと、そのまま天井部分に捕まってぐるりと一回転、そのまま幌馬車の梁の部分に飛び乗った。

 マリアンはシャットが飛び出した直後に幌の後ろ部分を閉じて魔法を詠唱。

 どうやら馬車全体に【守護の結界】を施したらしい。

 そして同乗していた冒険者たちも荷台の後ろに移動し、いつでも武器を構えられるように身構えている。


「……」


 俺たち商人はというと、荷台の真ん中あたりで固まり、じっと静かにしている事しかできない。

 

「ユウヤ店長、先頭馬車が盗賊団に襲われたようです。でも、ミルトンダッフル所属の冒険者が護衛についていますので、大丈夫のようです」

『ん~、盗賊たちが撤退を始めたにゃ。前の方で小競り合いがあったみたいだけれど、もう収まったようだにゃ』


 上からシャットの声が聞こえてくる。

 暫くは警戒しつつ進み、停車場まで行ってから休息をとるらしい。

 それまでは盗賊の襲撃がまたこないとも限らないため、冒険者たちも周囲を警戒しつつ移動しているらしい。


「マリアン、怪我人っているのか?」

「どうでしようか……ここからだと、前の方で戦いがあっても見えないのですよね。シャット、そのあたりはどうなのでしょうか?」

『ん~、御者さんが何人か怪我したみたいにゃ、あと冒険者も結構傷を負っているみたいだけれど、深手を負っている人は見かけないニャ』

「そうか……」


 マリアン曰く、このまま停車場に向かい怪我人の治療とか行うらしい。

 盗賊団の規模によっては、再度の襲撃を警戒する必要もあるらしいが。

 ここの隊商交易馬車便を護衛している冒険者が『ミルトンダッフル』だと判ったら、二度目の襲撃はそうそう起こらないそうだ。

 それだけ、フランチェスカの率いる冒険者クランの実力は知れ渡っているっていうことらしい。


「まあ、それじゃあこちらとしても、守って貰っている以上は何かしてやらんとねぇ」


 ということで、停車場にでも着いたら、炊き出してもしてあげますかねぇ。


………

……


――停車場

 ガヤガヤガヤガヤ

 隊商交易馬車便が停車場に入ったので、俺はすぐに厨房倉庫(ストレージ)から折り畳みテーブルと大量の食材を引っ張り出す。

 カレーライスに麻婆豆腐、クリームシチューに炒飯、鳥串などなど。

 どれもこれもサーカス団に頼まれて料理を作ったときに、多めに仕込んだ奴だけどな。

 久しぶりに俺が作った熱々の料理が食べられるっていう事で、大勢の人たちが集まって来た。

 さすがに俺一人じゃ回せないから、サーカス団の料理人たちにも手伝って貰ったので、それほど混乱することなく皆楽しそうに食事を行っている。


「それでフランチェスカ、怪我人の容態はどんなかんじなんだ?」

「まあ、治癒師が一人ついているけれど、どうにもよろしくないんだよねぇ」


 動けない怪我人のために、フランチェスカも料理を取りに来た。

 まあ、命の危険はないらしいが、今すぐに治療できるかというとそれも難しいらしい。


「回復魔法とか、そういうのもあるんだろう?」

「あるにはあるけれど……大ケガとか病気とかは、司祭より上の聖職者じゃないと厳しいんだよ。だから、今はとりあえず、腐敗止めの術式を施して止血して、様子を見るしかないんでね。」 

「……そうか、それは大変だなぁ……と、ちょっと待てよ」


 確か、以前も腹痛が酷かった商人に正露丸を渡したことがあったよな。

 あの時は、一瞬で腹痛が収まった。

 ということは、今回もひょっとして、どうにかできるかもしれないか。


「料理人さん、ここはお任せします……フランチェスカ、その怪我人のところに案内してくれるか、うまくいけば怪我が治せるかもしれない」

「なんだって、ユウヤ店長はそんなこともできるのかよ……よし、こっちについてきてくれ」


 フランチェスカの後ろをついていく。

 ちょうど焚火を挟んで反対側、先頭馬車の近くで横になっている冒険者が数名いるところまで案内してもらった。

 怪我人の数は全部で4名。

 シャットとマリアンも心配そうについてきたので、彼女たちにも手伝いを頼むか。


「シャット、マリアン、何処をケガしているのか聞いてくれるか、そしてできるなら傷を見てみたいと伝えてくれ」

「わかったにゃ……」

「ユウヤ店長、こちらの方は右上腕に矢が刺さったそうです。矢は抜きましたけれど、結構深く刺さっていたらしく、止血して様子を見ているそうです」

「了解……っと」


 急ぎ厨房倉庫(ストレージ)から『置き薬』の箱を引っ張り出す。

 困った時は、大抵は痛み止めと絆創膏でどうにかできるのだが、矢が刺さるほどの傷となると。

 包帯と除菌ガーゼ、そしてスプレー式の外傷液だな。

 特にこの外傷液は傷の痛みを緩和するだけじゃなく、創傷面を保護して傷の修復を速めてくれる……って説明書に書いてある。


「おう、それじゃあ傷を見せて貰いますよ……っと、こりゃあ酷いな」


 傷の上の方を紐で縛って止血しているらしいが、あまり長時間縛っていると鬱血して血の巡りが悪くなってしまう。

 だから、縛っている今のうちに。


「今から薬を吹きかけるけれどちょっと染みるぞ、我慢しろよ」

「あ、ああ……」


 返事をするだけの元気はあるようなので、まずは外傷液を傷口にスプレーする。


――ヒッ!!

 傷口にちょいと染みたのか、黄色い悲鳴のようなものを上げたが、これで多分大丈夫。

 目に見えて傷が塞がっていくように感じる、というか滲んでいた血が止まったように見える。

 あとは除菌ガーゼを当てて、上から包帯を巻いておしまい。


「止血帯は外していい、あとは栄養を取って休んでいればいい。飯は反対側で配っているから!! よし、マリアン、次は誰だ!!」

「ユウヤァ、こっちの冒険者は足に一発喰らったらしいにゃ!!」

「今行く!!」


 シャットの呼んでいる方に向かい、脚の傷を見る。

 刃物傷なら、ある程度は分かる。

 まあ、さっきの矢傷を治療した感じだと、スプレー式外傷液でどうにかできるんじゃないか。

 

「今から薬をスプレーするから。ちょいと染みるが気合を入れて歯を食いしばれ」

「あ、ああ……ヒッ!」


――プシュゥゥ

 さっきよりも傷が深いので、少し多めにスプレーする。

 すると、やはり傷口が少しずつ塞がっていくのが見える。

 さすがは置き薬の老舗、効果抜群だ……って、やっばりおかしいだろ。

 正露丸といい、外傷液といい、効果出まくりじゃないのか?


「これでよし、止血帯はとって、栄養を取って休んでいろ。次はどっちだ?」

「こっちです、頬から瞼までざっくりと切られています」

「わかった、すぐにいく」


 急いで次の怪我人の元へ。

 そしてその場にいる怪我人全てを治し終わると、こっちもようやく人心地つける事ができたんだが。


「ユ、ユウヤ店長……その薬って、まさかエリクシールとか、最上級魔法薬とかなのか? そんな高価なものを使ってくれて助かったよ……必ずお礼はするからさ」

「まあ、そんなに大げさなのじゃないな。とはいえ、老舗の薬だ、効果は抜群だったろう?」


 不安そうな顔で話しかけてくるフランチェスカに、ニイッと笑ってみせる。

 凄く効果が高いといっても、異世界から持ってきたチート置き薬だからなぁ。

 それに、毎月補充してくれるから、そんなに畏まられても困るんだが。


「前も、腹痛の商人を一瞬で直したことがあったにゃ」

「ええ、あの時も凄かったですよねぇ」

「はは、そうだな」


 残った包帯やスプレー外傷液を箱に戻し、そして鞄に戻すふりをして厨房倉庫(ストレージ)へ。

 

「それじゃあ、フランチェスカもどこか怪我しているのなら声をかけてくれ。俺たちは馬車に戻っているからな」

「ああ、助かったよ……ありがとうな」


 まあ、軽く右手を上げて挨拶しておくか。

 ほんと、俺の力じゃなくて、この薬のおかげなんだけれどね。

 

 〇 〇 〇 〇 〇


 盗賊団の襲撃の日。

 その夜はいつも以上に警戒していたんだが、再襲撃されるような事もなく。

 護衛の冒険者のあとに怪我をしていた御者さんも治療したところで殺菌ガーゼが切れてしまった。

 あと小さな数は絆創膏を貼ってやっておしまい。

 翌朝には全員の怪我が癒えていたらしく、隊商交易馬車便の治療師や商人たちが次々とやって来て薬を売って欲しいと頼まれたが、それについてはしっかりと固辞。

 そうして三日後には、交易都市キャンベルへと到着することが出来た。


「この交易都市キャンベルは、ラフロイグ伯爵領の管理する都市のひとつで、ウィシュケ・ビャハ王国の隣国であるシュッド・ウェスト公国とフォーティファイド王国の二つの国からも交易便が集まる都市なんですよ」

「うちの王国最大の一大商業都市で、色々な国の食べ物や飲み物も集まって来るにゃ。だからユウヤの料理もそんなに目立たないから大丈夫にゃ」

「へぇ。そういうところなのか」


 主街道の丘の上から見下ろした先。

 巨大な城塞に取り囲まれた、楕円形の都市。

 城塞の外を大きな堀で囲まれ、さらに二つの川が町の中に流れ込んでいる。

 そして幾つもの隊商交易馬車が、城塞の中に入っていくのが見える。

 その光景は、俺がこの世界に始めてきたときに見た風景にも感じられる。


 やがて隊商交易馬車便も、キャンベルの街へと近づいていった。


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