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【書籍化決定】隠れ居酒屋・越境庵~異世界転移した頑固料理人の物語~  作者: 呑兵衛和尚
交易都市キャンベルの日常

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47品目・旅は道連れ、余は情けってね(娯楽用トランプと、マーボーご飯、中華スープ)

 ウーガ・トダールの収穫祭を終えて。


 俺とシャット、マリアンは雪が積もる前に、南の街へと向かうことにした。

 幸いなことに、世話になったサーカス団と王都の冒険者クランも南下する事になり、急遽隊商交易馬車便が成立。

 フランチェスカのクラン『ミルトンダッフル』が護衛を引き受ける事となり、俺達は便乗する形で、隊商交易馬車便に追従する乗合馬車に同乗して交易都市キャンベルへと向かう事になった。

 

 出発の前日には商業組合に露店を閉める為の手続きを行い、その夜には領主であるアードベック辺境伯の元に挨拶にも向かった。

 まあ、この街を離れる最後の晩餐ということもあり、急遽であるが隠れ居酒屋・越境庵を開店。

 辺境伯一家とユウヤの露店従業員一同で、ささやかなパーティーを行ったのである。


――ガラガラガラガラ

 朝一番で隊商交易馬車便は出発し、まもなく昼。

 街道途中の停車場で休憩を取り、そのまま次の停車場へと向かう。

 ちなみに俺たち3人以外には、商人が5名と冒険者が二人同乗し、堅い木造りの床板の上に胡坐をかいて座っている。


「……やっばり、これが無いと辛いにゃあ」

「本当ですわね。それに少し冷えてきましたので助かります」

「まあ、備えあれば憂いなし……ってね」


 シャットとマリアンには、店の小上がりに置いてある座布団と、俺の宿泊用の毛布を貸してある。

 馬車の幌も閉じているので風が入ってくることはないが、それでも明り取りに少しは開けてあるので隙間風が辛い。

 俺も毛布に包まり、体力を温存するために静かに座っている。

 これが夏場の旅なら、馬車の幌も下半分が開けられているので景色を楽しむ事ができるのだが、流石にこの季節はそんな事をする事もできない。

 結果として、馬車の中でじっとしているしかないっていうのが実情だ。


「う~、なんか暇だにゃあ。ユウヤぁ、なにか暇つぶしできるものかお菓子はないかにゃ?」

「暇つぶし……ねぇ」


 このガタゴトと揺れる馬車の中での暇つぶしなど、大したものはない。

 せいぜいが、店に置いてあった将棋盤や囲碁、トランプなどが娯楽用品として置いてある程度。

 そしてこの揺れでは、将棋や囲碁なんて不可能。


「そうさなぁ。まあ、できるとすればトランプぐらいだなぁ」

「そ、それでいいにゃ」

「いや、それでいいなら別に構わんが、大丈夫か?」

「遊び方を教えて頂ければ大丈夫ですわ」


 まあ、そういう事なら旅を楽しみますか。

 ということで、厨房倉庫(ストレージ)からトランプを取り出しで、まずは簡単な遊びから説明。


「ふんふん、ババ抜きっていうのにゃ」

「はぁ、手札の中の同じ数字のカード二枚を場に捨てて、残ったカードで遊ぶのですね」

「お、意外と呑み込みが早いなぁ。それじゃあ、暫くはババ抜きで楽しむとしますか。ちなみに魔法はなしで頼むぞ」

「わかりましたわ。では始めましょうか!!」


 とまあ、ババ抜きを始めたのはいいのだが、このゲームは如何にポーカーフェイスを決められるかが勝負のカギ。

 手元にババが来ても動揺することなく、如何に相手にババをひかせるか。

 そして最悪なことに、俺の相手は魔法使いのマリアンと、獣人でレンジャーのシャット。


「……くっそ、またかぁぁぁぁ負けたかぁぁぁぁ」

「ふっふっふ、ユウヤもマリアンも、ババが手元にある時は顔に出ているにゃ。そしてそれを引きそうになった時にも、すぐにわかるにゃ」

「な、なんでわかるのですか……冷静な素振りをしても、顔に出るというのですか!!」

「ふっふっふ」


 ああ、ババ抜きについてはシャットの一人勝ちだったよ。

 なんでこう、巧みにババを回避できるのかさっぱりわからん。

 そんな感じで遊んでいると、やがて昼の休憩場所に到着。

 そこで一度馬車から降りて体を伸ばしたり暖を取ったりしてから、一時間後には再び馬車は走り出した。

 ちなみにだが、この休憩で俺は厨房倉庫(ストレージ)から薬缶(やかん)と水を取り出して沸かし、4本のポットにお湯を入れておいた。

 これがあれば、馬車の中でお茶やコーヒーが飲めるっていう事。

 まあ、揺れが怖いので作れたとしてもマグカップ半分程度、それでも夕方の宿泊場所まではあったかい思いが出来たのでよしとしておこう。

 

 〇 〇 〇 〇 〇


――そして宿泊場所

 日が暮れ始めたころ、今日の宿泊場所に到着する。

 ここは王国の主街道なので、所々に停車場が設けられている。 

 まあ、ウーガ・トダールに向かった時も経験しているので、もう慣れたものである。


「さて、晩飯だが……」

「カレーライスがいいにゃ」

「麻婆豆腐掛けご飯が食べたいですね」


 晩飯は各々勝手に食べるべしが原則。

 なので、隊商交易馬車便は同行しているサーカスの料理人が晩飯の準備を始めている。

 『ミルトンダッフル』も護衛契約の際に、道中の食事はサーカス団で用意することになっているらしく、今は焚火を囲んでノンビリと休憩中らしい。

 ちなみに馬車に同乗していた冒険者は晩飯の準備を始めているのだが、商人たちはこっちをチラッチラッと見ているだけで、何も用意はしていない。


「ま、こっちはこっちで勝手に始めますか………ということで、今日の晩飯は麻婆豆腐とご飯だな」

「よっし!!」

「うにゅ」


 ガッツポーズをしているマリアンと、ちょっとしょげているシャット。

 まあ、どうせ明日もカレーライスっていうんだろうさ。


「まあまあ、そんなにしょげるなって。明日はシャットのリクエストのカレーライスにしてやるから。しかも、カツカレーだ」

「さ、流石ユウヤは分かっているにゃあ」


 そんな感じで、厨房倉庫(ストレージ)から折り畳みテーブルとイス、保温ジャー、そして麻婆豆腐の入った寸胴を取り出す。

 時間停止処理はしてあるので出来立て熱々なので、そのまま紙の器にご飯をよそい、その上から麻婆豆腐を掛けてやる。

 

「これだけじゃあ、味気ないよなぁ。麻婆豆腐といえば、スープは欲しいところだが」


 それなら作ればいい。

 ということで、カセットコンロと雪平鍋を取り出し、昼に沸かしておいたポットからお湯を注ぐ。

 具材は乾燥若布と卵でいい。

 お湯が沸騰したら缶入りの中華スープの素を加え、そこに若布を入れて中火に。

 沸騰してくる直前で溶き卵を回し入れ、ここで塩、胡椒であたりを取る。

 超がつくレベルの手抜きスープだが、キャンプで食べるご飯と思えばいいかんじだろう。

 これも紙の器に注いで、スプーンを取り出して完成。


「よし、熱々のうちに食べるとするか」

「いただきまぁぁぁす」

「はい、いただきます!!」


  三人で手を合わせて、いつもの挨拶。

 そして食べようとしたときに、こっちをずっと見ていた商人の一人が口を開いた。


「あ、あの……私達の分は?」

「え? 別に頼まれてもいないので用意していませんが」

「え……ええっと……あ、ああ、そうですよね…我々の分もある筈だと思っていたので」

「はは、まさか。先ほども言いましたけれど、頼まれていないので用意なんてしていませんよ? ということで」


 そのまましばし食事タイム。

 その間、商人たちは腕を組んで考えていたり、財布の中の小銭を数えていたりと忙しそうである。

 特に、三人の商人はこっちをチラチラと見ながら言い争いをした挙句、三人同時にがっくりと肩を落としているんだけれど。 

 そして食事を食べ終わり、お茶を飲んで寛いでいると。


「あの、大変申し訳ないのですが、食事を売っていただけないでしょうか?」


 一人の商人が銀貨を差し出して頭を下げる。

 まあ、別に構いやしませんが、どうしてこんなことになったのやら。


「それは別にいいですよ、少々お待ちください。シャット、麻婆丼を一人前、よそってくれるか?」

「はいにゃ」


 俺は追加でスープの準備。

 さて、残った商人たちもこっちを見ているけれど、頼むなら纏めて一回にしてほしいところだね。

 一人分作ってから、それじゃあ俺も俺もって言われると手間がかかるのでね。


「そちらの商人さん、一食につき1000メレル銀貨で食事の準備をしますけれど、どうします?」

「1000メレル……う~む、よ、よし、頼む」

「俺も頼む。すっかりあいつらに騙されたわ」


 こっちを見ていた二人の商人は、麻婆丼を食べたいという事で用意する。

 残った二人は諦めて、自前の保存食を食べることにしたらしい。

 それにしても、騙されたってどういうことだ?


「ほい、それじゃあこれで」

「ああ、助かったよ……」

「あったかいねぇ。もしも売ってくれなかったら、隊商の隊長に頼む所だったよ」

「まあ、次の交易都市に着くまででしたら、用意できるだけのストックはありますので。ちなみにですが、さっき、騙されたって言っていましたよね?」

「ああ、実はね……」


 一人の商人が説明してくれたことによると。

 今回の隊商交易馬車便に俺達が乗ることが決まったとき、商人の彼らに話を持ち掛けた奴がいるらしい。

 なんでも、一人5000メレル支払ってくれるのなら、この旅の最中はユウヤの暖かいご飯が食べれるぞって言われたらしく。うちの露店の事を知っているらしいこの商人たちは、疑うことなく5000メレルずつ支払ったらしい。

 そして今日、俺たちが食事の準備をしているが自分達の分は用意されていなかったので、話しかけて来たらしい。

 

「あ~、商人さんたち、騙されたにゃ」

「よくいるのですよね。馬車を探している人にいい馬車を斡旋しますよって手数料を取ったりする人が。今回はユウヤ店長のご飯が付くって話を振って、金を巻き上げていたのですか」

「あ~、そういうことねぇ。そりゃあ残念なこって」

 

 まあ、慰めにもならないが、熱々のお茶ぐらいはサービスしてやるよ。

 そもそも、お茶程度で金をとる気はないんでね。

 薬缶に番茶のパックを放り込み、水を入れてカセットコンロに掛けておく。

 そして厚手の湯飲み茶碗を取り出して、それにお茶をそそいで差し出した。


「そっちの商人さんと冒険者さんもどうですか? 熱々ですよ。お茶程度で代金を頂こうって思ってはいませんから」

「そ、そうかね、それじゃあ」

「私達もいただいていいのでしょうか?」

「どうぞどうぞ。俺の故郷の言葉で、『旅は道連れ世は情け』っていうのがありましてね。長い道中、お互いに持ちつ持たれつといきましょうや」


 そう告げて湯飲み茶わんを手渡す。

 まあ、素直に受け取ってくれているし、心なしか皆、笑顔になったのでよしとしておこうか。

 それにしても、俺の料理を使って詐欺を働く輩がいるだなんて、注意しないとならないよなぁ。


 〇 〇 〇 〇 〇


 翌日。

 自家製カツサンドで軽い朝食を取ってから、焚火の残り火でお茶を用意する。

 これは店に備え付けてあった保温ポットに入れて置き、湯飲みと一緒に馬車の中に置いておいた。


「どうぞ、寒くなったらお好きにお飲みください」ってね。

 

 番茶のパック程度でガタガタ抜かすほどケチな性分ではないし、なによりもこうしておけば、俺たちが他の人の眼を気にして飲むこともない。

 そして俺の気持ちを理解してくれたのか、各々が好き勝手にお茶を飲み始めた。

 まあ、お盆にメレル銅貨を入れてくれる人もいるが、それは気持ちとして受け取って置く。


「ふむ、こうなるとお茶請けも欲しくなるよなぁ……とはいえ」


 空間収納(ストレージ)の中を探しても、お茶請けになりそうな菓子のストックはない。

 駄菓子の卸問屋から仕入れることができるが、旅の最中に越境庵に行って仕入れをする訳にもいかず。ここは我慢して貰うしかない。


「ぷっは。お茶が美味しいにゃ」

「そうですわね。この干し果実といい相性ですわ」

「干し果実って……ああ、向こうの街を出る前に買ってきたのか」

「はい。旅に出る以上は、何処で何が起きるかわかりませんからね。私たちのご飯はユウヤ店長が用意してくれるって話していましたので」

「あたい達は、干しものを買ってきているにゃ、はい!!」


 そう告げながら、シャットは干し芋のようなものを、マリアンは干し杏子のようなものを俺に手渡した。いやぁ、ありがたいねぇ。


「ああ、ありがたくいただいておくよ」

「それよりもトランプだにゃ!! 今日も完勝するにゃ」

「あ、その獣人さん、お二人の眼を見てなにかブツブツ話していましたよ」


 やる気満々のシャットだが、後ろにいた冒険者の女性が、なにやら種明かしをしてくれた。

 なるほどねぇ、俺たちの眼を見てカードの中身を調べていたのか。


「シャットさぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」

「あ、いや、それなら今日は別の遊びをするにゃ」


 よし、今日は神経衰弱だ。

 これは記憶力の勝負だから、ずるはできないだろうさ。

 そして他の乗客も混ざりたいような話をしていたので、トランプをもう一セット貸し出してやったよ。商人は『これは、商売になります!!』とか話していたけれど、どうぞご自由に。

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