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【書籍化決定】隠れ居酒屋・越境庵~異世界転移した頑固料理人の物語~  作者: 呑兵衛和尚
ウーガ・トダールの収穫祭

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41品目・ポップコーン狂騒曲と、貴族子女の買い食い(豚の角煮と、フレーバー綿菓子)

 収穫祭が始まって、既に二週間。


 サーカスの団長に頼まれたメニューも二回転し、今は三回目のクラムチャウダーの仕込みの真っ最中。

 露店の方も、シャットとマリアンがうまく回してくれているのだが、あまりにも連投が続いてしまったため、先日で機材のレンタルを終了し、本日新たにレンタルを開始した。

 

 これは、一つの機材を長期間借り続けていると目に見えない部分に不具合が発生するため、レンタル会社から一度返却もしくはメンテナンスの為に社員を派遣したいという申し出があったから。

 まさかの社員派遣は不可能と判断し、別の機種で借りることとなったのだが、幸いなことに同系列の機種を借りることが出来たので、シャットたちに新しく手順を教える必要がなくなったのである。


「本当に、いつも助かっていますって……」


 こういう細かい気配りについても、運命の女神様が色々と骨を折ってくれているのだなぁと神棚に感謝しつつ手を合わせる。

 

「しっかし……派遣されてくる筈だったレンタル会社の社員って、まさか運命の女神さまが制服を着てやってきたりしないだろうな……まあ、そんなことはないか」


――ギクッ

「ん? 今、なにか音がしたような気がしたが……気のせいか。さて、それじゃあ本日の仕込みを始めるとしますか」


 サーカスの団長曰く、三回目のメニューについては、半分だけ同じもので残りの半分は別の日のメニューか、もしくは全く新しいものでも構いませんよと頼まれた。 

 まあ、俺としても毎日同じ様なものばかりを仕込んでいては飽きてしまうので、今日は久しぶりに和食から一品、作ってみようと思っている。


 材料は、豚の三枚肉、つまり豚バラ肉。

 豚バラ肉を横から見ると、赤身部分と脂肪が3層に重なっているから『三枚肉』と呼ばれるようになったとか。


 まずは豚バラ肉の処理から。

 今回は一つの大きさを拳半分程度に仕上げる予定なので、まずはその大きさにカットする。

 少し広めの豚串肉を作る感じで冊取りしたのち、拳半分の厚さに切っていく。

 これを大きめのフライパンを使い、全体的に焼目を付ける。

 この時、少し強めに焼いて余計な脂分を少し落としておくといい。

 ちなみにフライパンに残った油は濾し器でかすを全て取り除き、ラードとして保存する。

 

「さて、後は大して手間はかからないんだよなぁ」 


 大きめの寸胴の中に、表面を焼いた豚バラ肉を入れていく。

 この時はできるだけ綺麗に並べていき、重なる場合は肉と肉の間にキッチンペーパーを挟むのもあり。


「まあ、大体こんな感じか……次は……と」


 水と酒、みりん、ザラメ、黒砂糖を加えていく。

 比率は内緒だが、大体の目安で6:1:1:1:1ってかんじだが。

 これは親方のところの比率で、うちでは水の比率を下げて炭酸を加える。

 あとは黒砂糖を抑えてサイダーを加えるときもあるが、これはその時の肉質が硬そうなときにやっているだけ。


「今日の肉は、ちょいと硬そうだからなぁ……サイダーじゃなくコーラでも入れてみるか」


 これは俺のオリジナル。

 ちなみに結構評判がいいため、ランチの小鉢などに付けるときはこっちを採用している。

 あとは中火にかけて、ゆっくりと甘さが肉に浸透し、全体的に味が染みていくのを待つ。

 この時、こまめに灰汁(アク)を取るのを忘れずに。

 そうして肉を一つ取り、ちょっと味見をしたのち、最後に醤油を1だけ加えて弱火にして30分。

 そして火を止めて自然に冷ましていくと、醤油の塩分がゆっくりと肉に染みていき、いい感じに仕上がる。


「まあ、こればっかりは時間停止処理はできないからなぁ」


 このまま放置して、次の仕込みを開始。

 といっても、半熟茹で卵を大量に作り、皮を剥いて角煮の中に放り込むだけ。

 店で出すときは大体二日ほど経過するので、卵にも角煮のタレの旨味が浸透していい感じになるのだが、流石に今仕込んで数時間後に引き渡しとなると、味はそれほど浸透しない。

 だから、今日の分には卵は付けない。

 大きめの寸胴に二つ仕込み、そのうちの一本は中ぐらいの寸胴二つに分けておく。

 このうち中ぐらいの寸胴一本はサーカス団用として渡し、もう一つは賄い用だな。

 そして大寸胴一本は、次に何かあったときに使うことにする。

 それと、次に渡す奴には卵を付けておくとしよう。

 ということで、角煮はこのままサーカス団に渡す寸胴一本だけ避けておき、残りはこのまま冷ましておく。

 露店が終わったころには、いい感じに冷めていることだろう。


 あとは賄い用に、包子(パオズ)も仕入れてある。

 こいつは冷凍なので、少し解凍してからレンジで温め、袋から出してバットに並べておく。

 具の入っていないサンドイッチタイプなので、間に角煮を挟んで食べることができる。

 

「さて、問題はこいつをどれだけ用意するかだよなぁ。俺は二つで十分だけれど、シャットとマリアンなら四つぐらいは食べそうだからなぁ。となると10個か……」


 そう考えて10個分用意したが、またミーシャとアベルが顔を出しそうなので、あいつらの分も少しだけ用意してやるか。

 最近は、片づけを手伝ってくれるようになったからな。


「まあ、賄い目当てで手伝っているっていう可能性の方が高いけれど……それもまあ、いいか」


 〇 〇 〇 〇 〇


――いつもの広場のいつもの露店

「おいおい……マジかよ」


 いつものように目店の場所に向かっていると。

 今日は、あちこちの露店でメニューを変えていた。

 まあ、収穫祭の期間も折り返しとなったので、いつまでも同じメニューだけを出し続けるよりは、別のメニューに切り替えた方が売り上げが下がらないと判断したのだろう。

 それについては問題ないし、俺でもそうする。

 だが、今日のこの光景は、ちょいと不思議だなぁ。


――バンボンババンボン!!

 あちこちの屋台で聞こえてくる、ポップコーンの音。

 まあ、ここの市場で売っている爆裂種を使えば、作れないことはない。

 事実、俺も簡単に作ったのでそんなに難しくはない。

 ただ、食用油もしくはバターと、塩が必要。 

 それも手に入るだろうけれど、原価としてどれだけかかるのか。


 そんな光景を眺めつつ、いつもの場所に到着する。


「ユウヤぁ!! ついにポップコーンが真似られたにゃ」

「それと、一軒だけですけれど、綿菓子も真似られました!! どうしましょうか」

「はぁ? ポップコーンはまあ、いつか作る奴が出るだろうと楽観視していたが、綿菓子はどうやって作っているんだ?」


 そうマリアンに尋ねると、ちょうどうちの斜め向かいにある露店で、綿あめを作っている最中。

 鍋で溶かした砂糖を魔法で宙に浮かべ、それを高速回転させて綿のようにしているらしい。

 周りに飛び散らないように、結界のような魔法でカバーを作り、その中に溜まった綿あめを箸のようなもので丸めている……と。


「ほほう、あれは凄いなぁ。思わず関心してしまうが。マリアン、あれって魔法使いなら誰でもできるのか?」

「いえいえ、そんなの無理ですよ。あの子は精霊魔法だけじゃなく錬金術も使える子ですから。それに、初日からずっと、私のところにきては綿菓子を作るところを観察していたのですよ?」

「そりゃまた、勉強熱心だねぇ」

「そんな気楽な!!」


 そうは言っても、俺としては別に困ることも止めることはできないし、そもそもやらない。

 各自で創意工夫して頑張ったんだ、むしろ拍手してあげたいぐらいだ。


「それじゃあ、こっちはいつも通り……シャット、今日のフレーバーはカレー味と醬油バターの二つで行く。お客さんにどっちがいいか聞いて、かけてあげてくれ」

「わ、分かったにゃ」


 厨房倉庫(ストレージ)から、フレーバーの小袋が入っている箱を取り出し、シャットの足元に置いておく。そしてマリアンにも秘策を渡しておきますか。


「マリアン、今日の綿菓子だが、このザラメを使ってくれないか? 使い方は教えてやるから、見ててくれ」

「畏まりました!! って、ライバル心剥き出しじゃないですか」

「そりゃそうさ。創意工夫して同じものを作ったのなら、うちはそれ以上のものを作るだけだ。それじゃあ始めるぞ」


 とはいうものの、対して難しいものではない。

 用意するものは、赤と青と緑のザラメ、つまりフレーバーザラメ。


「え? これってなんですか?」

「まあ、見ていろって」


 まずは赤いザラメを、いつもの1/3だけ入れる。

 すると赤い綿菓子が出来るので、それを巻き取ってすぐに青いザラメも投入。

 さらに青い綿菓子を巻き取ってから最後に緑のザラメだ。

 そうして完成したのは三色綿菓子だが、表から緑、青、赤の順に食べれるように仕上げてある。

 ちなみに赤は苺フレーバー、青はラムネフレーバー、そして緑はメロンフレーバーだ。


「えええ、色が違って、なんだか果物っぽい香りがしますね」

「まあ、味については食べてみてからだな」

「では、いただきます……んんん……なんだか不思議な味ですね」


 まあ、こっちの世界にラムネと苺とメロンがあるかどうかは知らないが、似たような感じの果物があるのは市場で見かけている。

 この色と味については、香料が違うだけで味は一緒。

 食べるときに漂ってくる香りにより、頭の中で錯覚を起こしているので、苺味だったりメロン味だったり感じているらしい。

 ちなみにかき氷のシロップがその代表例だな。


「この表側の緑色ってククルピ(メロン)の味がします。その次はなんというか、ああ、ラムネ味ですね!! そして赤いのはフラーナ(イチゴ)のような味がします!! これは凄いですね」

「わ、私にも食べさせてほしいにゃ!!」

「今作りますので、待っていてくださいね」


 そして練習で作った三色綿菓子を食べて、シャットもニマーッと笑っている。


「エヘヘ……甘いにゃ」

「ま、そういう事で、よろしく頼む。足りなくなったら、追加で出すから」

「はい!! それじゃあ開店しますよ~」


 ということで、ユウヤの露店はちょっと遅れて開店。

 まあ、煮物や焼き物と違って、フレーバーで香りや味を付けているだけなので、周りに匂いが流れるほどではない。


「こんにちは。今日の分の料理を取りに伺いましたよ」

「あ、こいつはどうも」


 ということで、クラムチャウダーと角煮の入っている寸胴を二つ渡す。

 まあ、クラムチャウダーは三回目なので、ウンウンと頷いているだけだが、角煮の方を見て目を丸くしていた。


「ユ、ユウヤさん、この肉の煮物は一体何でしょうか?」

「ああ、角煮といってな、俺の故郷でよく作られている豚肉の煮ものだ……まあ、オークのバラ肉を煮込んだものだが、この街で手に入らない調味料だからなぁ」

「そ、そうですか……では、堪能させていただきますよ」

「ああ、サーカスの皆さんによろしく……」


 もの凄く良い香りが溢れてくる寸胴を手に、アンドリューさんたちが帰っていく。

 最近では、サーカスのテントに向かって、賄い飯がたべられないか交渉している客もいるとかで、アンドリューさんも苦笑していたよなぁ。


――グゥゥゥゥゥゥゥゥ♪

「さて……って、分かったわかった、これでも食べて頑張ってくれって」


 俺も今日からチョコバナナではなく、姫リンゴ飴でもやろうかと思っていたのだが、今のアンドリューさんと俺のやり取りを見て、お嬢さんたちの腹の虫が大合唱。

 やむを得ず、厨房倉庫(ストレージ)から角煮の入った寸胴と包子を4つ取り出し、角煮包子を作って二つずつ手渡した。


「ありがとうにゃ」

「わ、私はですね、お腹が減っていて、いえ、そうではなく」

「ははは。まあ、腹が減ったら食べてくれ。それじゃあこっちも始めるとしますか」


 とはいうものの、やることはいたって簡単。

 よく洗った姫りんごの軸を取って竹串を刺し、あらかじめ仕込んでおいたシロップにくぐらせてから皿に並べていくだけ。

 シロップはグラニュー糖と水を3:1で火にかけて、少しだけ弱火で煮詰めてから食紅で薄く赤色を付けるだけ。

 ここにトポンとつけてから、取り出して冷ますだけで完成。


「あ、今日はチョコバナナじゃないのですね、これください」

「はい、まいどさん」


 次々と購入しては、歩きながら齧っているお客さんたち。

 

「ん~、周りは甘くてぱりぱりしているのに、この姫リンゴとかいう果実は少し酸っぱくて、美味しいですねぇ~」

「そりゃどうも……って、ああ、誰かと思ったら、アードベック辺境伯のお嬢さんですか」

「はい、いつも食べに来ていたのに、気づきませんでしたか?」

「次々とお客さんがくるのでね……」


 とにかく人だかりで出来るので、お客さんの顔なんてあまり覚えちゃいないというのが本音。

 正確には、ある程度は顔は覚えていてもどこのだれかは分からないってところだが。

 今日は少し余裕があったので、アードベックさんのお嬢さん……フローラ・ウーガ・アードベック嬢については思い出せたが。

 隣にも、身なりのいいお嬢さんがご一緒していた。


「わ、私にも、その、えっと……姫リンゴ飴とやらを頂けますでしょうか?」

「はい、まいどさん」


 代金を受け取って一本手渡す。

 でも、すぐには食べるようなことはせず、フローラさんの方をチラッチラッと見ている。


「アイリッシュさま、ユウヤさんの露店で供される料理は安全ですのでご安心ください」

「そ、そうなの? まあフローラがそういうのでしたら……」


 そんなことを話しつつ、カプッと小さな口でりんご飴を食べているお嬢さん。

 フローラさんのように、身なりが良く上品な食べ方をしているので、どこかの貴族子女っていうところだろう。

 そして俺の姫リンゴ飴が気に入ったのか、ポップコーンや綿菓子もお買い求めいただいた。

 そして、フローラさんたちが立ち去った後でまた忙しくなってきたのは、どういう事なんだろうか。

 

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