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【書籍化決定】隠れ居酒屋・越境庵~異世界転移した頑固料理人の物語~  作者: 呑兵衛和尚
酒と肴と、領主と親父

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22品目・この件は、これで手打ちといきますか。(ホッケの開き定食と焼とうきび、フランクフルト)

 久しぶりの越境庵。


 シャットもマリアンもカウンター席についたものの、そわそわしていて落ち着かない。


「ん、別にお客さんみたいに座って緊張していなくて構わないぞ、いつものように好きにしていていいからな!!」

「そ、それじゃあ……ちょっと店の中を見させてもらうにゃ」

「あ、私もそうします」


 いそいそと席から立ちあがり、店内を徘徊し始める二人。

 前にここに入れてやった時もそうだったが、やっばり見た事の無い物ばかりなので、気になって仕方がないのだろう。

 俺はまあ、まずは炭を起こしてから保温ジャーを空間収納(ストレージ)から取り出して、メシがどれだけ残っているか確認。


「まあ、三人分なら大丈夫か……いや、きっと足りないな」


 急ぎ追加で六合ほどご飯を炊く。

 そして焼台の上にホッケの開きを三枚並べ、その横でみそ汁の準備。

 付け合わせにも何かないかと冷蔵庫を探してみると、ちょうど定食用に作り置きしてあった『おからを炊いたやつ』とカボチャの煮つけ、ニシン漬けが見えたのでそれを引っ張り出す。


「さすが、時間停止処置されているだけあって、作ったときのまま保存されている。まあ、こういうのはとっとと使っちまうに限るってところだな」


 人数分の小鉢に盛り込み、ホッケが焼き上がるのをのんびりと待つ。

 焼けてくるにつれてホッケから脂が滴り、炭火の上でジュッと爆ぜる。

 心地よい音と焼き魚独特の香りが煙と共に立ち上り、ダクトの向こうに吸い込まれていく……って。


「んんん、そういえば、このダクトってどこに繋がっているんだ? まさか宿の中に煙が充満していないだろうな?」


 気になったので見に行きたいところだが、今、焼き台から離れるとホッケが焦げること確定。

 だからここはすまないが、準備が終わり飯を食ってから考えることにする。

 まあ、生ごみとかと同じで、どっかに消えているんだろうなと祈ることにするか。

 そしてホッケも焼き上がり味噌汁も温め終わると、それぞれお椀や皿に盛り付けて角盆にのせて デシャップ台へ。


「ほらよ。今日の晩飯はホッケの開き定食だ。ここから持って行ってくれ」

「ホッケノヒラキ? 定食ってなんだにゃ?」

「シャット、まずはこれを持っていきましょう。ユウヤさんの分も並べておいて大丈夫ですか?」

「ああ、構わないよ……と、今のうちだな」


 火元を確認してから正面入り口に向かい扉を開く。

 そして頭だけ出してみるが、どうやら宿の中に匂いがこもっている様子はない。


「ははぁ。流石は神様の与えた特殊能力っていうところか。いや、大丈夫だなんでもない」


 ガラガラッと扉を閉じて、俺もカウンターへ。

 すでに二人は席について、今か今かとそわそわしている。


「別に、俺を待っていなくてもよかったのに」

「そうはいきませんよ」

「うん、みんなで食べる方が美味しいにゃ」

「そっか、それじゃあ」

「「「いただきます」」」


 三人で手を合わせて食事の作法。

 そして各々が定食を食べ始める。


「ホッケうみゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「うわ、これって魚ですよね、こんなに脂が乗っている魚なんて初めて見ました……」

「このお味噌汁の白くてフワフワしているものはなんだぁぁぁぁ」

「ああ、ホッケは海の魚でね。この時期は脂が乗って……って、このあたりには海が無いんだよな。あ、シャットの白いフワフワっていうのは豆腐だな、大豆の加工食品だ。それを作るときに絞ったものがおからで、この小鉢に入っているのがおからを炊いたもの。あとは木の葉南瓜っていって、カボチャを木の葉のように剥いたものを炊き合わせたものだな」


 一つ一つ説明しながら食事を続ける。

 案の定、二人ともお代わりを欲したので、炊き立ての飯を茶碗によそって渡してやる。

 そんなこんなで二人とも満足したらしく、お腹のあたりを撫でつつ満足そうな笑みを浮かべているんだが。


「はぁ。年頃のお嬢さんたちの仕草じゃないよなぁ」

「な、な、なにを言うのですか! こんな姿、他の人になんて絶対に見せられませんよ」

「ここは閉鎖空間だから、誰にも見られないからいいのにゃ……ちなみにユウヤ、あの黒い板はなにかにゃ?」


 シャットが店の角に吊ってあるモニターを指さしている。

 ああ、テレビのことか。


「あれはテレビっていってだな。まあ、映像が映るんだが」


 そもそも電波が届いていないので映るはずがない。

 ちなみにうちの店はアンテナを接続しておらず、もっぱらケーブルテレビを流している。

 なお、DVDを流したりサッカーの試合などを流して客を寄せるパブリックビューイングはやっていない、それは法に抵触するので。

 ただ、放送されている番組を流しっぱなしにしている分には問題はないので、音は小さめで音楽映像をもっぱら流したりしているんだが。


――プツッ

 試しに電源を入れると、見慣れた映像と音楽が流れてて来た。


「……はぁ?」

「うわわ、これって凄いにゃ、どこかの風景と音楽が流れてきたにゃ」

「魔導具の類でしょうか、それにしては発動時の魔力反応は確認できていませんでしたけれど」

「ん……まあ、そんなところだと思ってくれ。しっかし、これまで映るとは思っていなかったが……」


 気になったので、ニュース番組や情報番組を確認してみるが、不思議なことに俺が事故に巻き込まれた日までの番組しか放送されていない。

 つまり、このケーブルテレビのデータも、店舗と一緒に持って来てしまったということか。


「ははは。まあ、どうせ音楽番組しか流さないから、別に構わないか……と、そろそろいい時間だから、店を閉めるぞ? 明日の仕入れとかやることがあるからな」

「それじゃあ、それが終わるまで店の中を探検していていいかにゃ?」

「わ、私もこの本棚の本に興味がありまして」


 まったく、好奇心旺盛だこと。

 

「まあ、それぐらいなら別に構わないけれど……」


 そう告げると、二人は笑顔で店内を探検している。

 それじゃあ俺も、仕入れと仕込みを始めるとしますかねぇ。


 〇 〇 〇 〇 〇


 アードベッグ辺境伯の屋敷に招かれてから1週間。

 流石に海鮮系の露店をずっと続けていると、流石に肉系が食べたいという人たちも出て来る。

 そして、子供たちと女性客からは、もっと手軽に食べられるものがあったらいいですねぇというリクエストもあった。

 

「もっと手軽に……ねぇ。とはいうものの、この暑さでは揚げ芋とかジャガバターはきついよなぁ。ということで、今日はこれな」

「んんん? いつもとあまり変わらないような気がするにゃ」

「この黄色い粒粒のついた食べ物は一体なんでしょうか?」

「とうきびっていってな。こう見えてもしっかりと穀物なんだが、ああ、小麦の親戚のようなものだといえば、信じてくれるか? とうきびも小麦も、同じイネ科なんでね」


 そう説明しつつ、蒸し器で蒸したばかりのとうきびを取り出し、焼台の上の網に乗せる。

 表面に焼目が付いたところでタレを刷毛で塗って、もう一度炙って完成。

 たれは『醤油と砂糖と味醂』を使用、比率はまあ、2:1:1ってところだな。

 蒸したてのとうきびの甘い香りに醤油の焦げた香りが混ざり合い、実に食欲をそそってくれる。


「ほらよ、試食してみろ……と、手が汚れるから、気を付けてな」

「んんん、今日は野菜だにゃ」

「野菜じゃないが」

「んんっ、ハフハフハフハフ……んぐっ、美味しいですね、これは」

「ああ、そうだろうさ」


 一口齧りついてから、二人は言葉を失ったようにもくもくと食べ始める。

 まあ試食なので一人1/2ずつだけれど、もっと食べたそうにしているが、ここは我慢だな。


「そしてもう一つがこれ」


 次も夏祭り定番の、フランクフルト。

 割り箸をブッ刺して網で焼いただけのものだが、これがまたビールによく合う。

 たれとかは特に必要なし、試食用に半分ずつ焼いたものをシャットとマリアンに食べて貰ったが、すでに露店の周りには客が集まり始めている。


「ちょ、ちょっとユウヤさん、それってビールに合う奴よね? 今日は瓶ビールはないの?」

「誰かと思ったら、ミーシャさんか。流石に昼間っからビールは売っていないなぁ。うちでフランクフルトを買っていって、ギルドの酒場で酒と一緒に食べればいいんじゃねーか?」

「それよ、それでいきましょう。とりあえず10本、いただいてよろしいかしら?」

「ちょっと待っててな、シャット、マリアン。そろそろ仕事だ」


 俺の言葉で二人も仕事モードに突入。

 しっかし、いきなり10本も買っていくとは大したものだなぁと思っていたが、シャット曰く、うちから持って帰った『ラッキーエビス』を毎日拝んでいるらしく、あれを手に入れてから依頼の成功率が爆上がりしたらしい。

 おかげて報酬も色を付けて貰ったらしく、最近は懐があったかいとか。

 まあ、ご利益があったのならいいんじゃねーか?


「はいはーい。みんな綺麗に並ぶにゃ。ユウヤの露店は老若男女身分も関係ないニャ、買いたい人は後ろに並ぶにゃ」

「はい、焼とうきび2つとフランクフルト3本ですね。次の方はフランクフルト1本とラムネですね、少々お待ちください」


 接客と誘導はいつも通り二人に任せる。

 俺は黙々と焼台の前でとうきびとフランクフルトを焼いているだけだが。


「ふむ、相変わらず手際がいいね。私もフランクフルト2本と焼とうきび? とやらを頂けるかな?」

「はい毎度……って、アードベッグ辺境伯じゃないですか。少々お待ちください」


 いつの間にか辺境伯まで並んでいたのか。

 ああ、よく見たら後ろの方で、護衛の騎士とか文官らしき人がオロオロしているじゃないか。


「わざわざ辺境伯さまが並ばなくても、後ろの文官さんとかに並ばせても良かったのでは?」

「まあ、それでもよかったのだけれどね。今日は一つ、ユウヤさんにも報告がありましてね」 

「報告ですか?」


 まあ、顔が笑っているので悪い話ではないだろう。


「ダイスくんが今朝方、街へと戻っていきましてね。しっかりとうちの執務官を一人付けて監視をさせることにしました。まあ、今回の件については魔がさしたという事で内々に処理することになりましたけれど……2年間、報酬の3割を減額ということで、この件は手打ちという事で」

「そりゃ厳しいことで」


 そう笑って返事を返したものの、商業ギルドの書類偽造をはじめ、無実の俺に罪を着せたことなどが問題として取り上げられたらしい。それでも後釜が務まるものがいなかったことで、このような処分となったらしい。

 俺としては、この処分が軽いか重いかなんてことは分からないが、手打ちといわれた以上はこれでおしまい。


「まあ、あれからうちの政務官ががっちりと絞めたので、最後はかなり反省していましたよ。では、たまに寄らせてもらいますので。また、あの焼き鳥が食べられると嬉しいのですけれどねぇ」

「ははは、そりゃあどうも……と、今度、ごちそうさせていただきますよ」

「それは楽しみにしていますよ」


 フランクフルトと焼とうきびを手に、辺境伯は戻っていく。

 

「今度、ごちそう……ねぇ」


 よし、折角なので、越境庵にでも招待しますか。

 俺としても色々と世話になったからねぇ。

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