14品目・ちょっと目立った料理人と、偉い人(ラーメンサラダと焼き鳥丼セット)
同乗していた商人の腹痛を治してから。
一緒に乗っている商人達の態度が、どうもよそよそしく感じている。
特に正露丸を飲ませた二人は、何かと俺たちの行動をチラリと見るようになっている。
特に、俺がアイテム鞄から物を取り出すときに顕著に感じるようになってきた。
「……なあ、俺って何かしでかしたのか?」
ようやく正露丸の匂いが取れて、シャットも俺の正面に座るようになった。
だから、人一倍そういう他人の視線などに敏感なシャットに尋ねてみるが、腕を組んだまま天井を見たり床を眺めたりと、とにかく忙しそうに考えている。
「ユウヤ店長、恐らく皆さんは、店長が所持しているアイテムに興味があるのだと思いますよ」
「マリアンのいう通りだと思うけれど……うん、悪意は感じないから、きっと大丈夫だにゃ」
「そっか、それならいいんだけれど……」
どのみち、あと三日程で領都に到着するらしいからな。
明日には領都近くの宿場町にも到着するらしいし、今日は久しぶりにちょっと豪華な食事にでもしたいな……というか、そろそろ俺も、作り置きの食事に飽きてきたところだ。
幸いなことに、つくね串は作り置きがしまってあるし、温泉卵とみそ汁程度なら簡単に作れる。
あとはそうだなぁ……。
「うん、久しぶりにラーメンサラダでも作ってみるか」
「らーめんさらだ?」
「また、私たちの知らない料理ですか?」
「まあな。本当なら生めんで作るのがお約束だけれど、ちょっと中華乾麺が倉庫にあったからな。それを使ってみようと思うが、どうだ?」
「「よろこんで!!」」
まったく、何処の居酒屋の店員だよと突っ込みそうになるけれど、うちにもそういう店員がいたからなぁ。まあ、今頃は元気になっているだろうさ。
そんなことを考えつつ、椅子に座って静かに窓の外を眺めている。
それまで森林や草原地帯を走っていた街道の風景が、いつのまにか田園風景へと変わりつつあった。
そしてかなり大きな停車場に近づくと、隊商交易馬車はゆっくりと停車場へと移動していく。
すでに別の隊商もそこに泊まっていたらしく、俺たちの馬車はそこから少し離れた場所に泊まるらしい。
「ん~っ、流石に座りっぱなしはそろそろ腰に来るなぁ」
「あはは、ユウヤ、うちのじっちゃんのようなことを話しているし」
「まだ若いのですから、そんなジジ臭いことは言っては駄目ですよ。【言葉はめぐって真実になる】っていうことわざもあるのですからね」
「はは、それじゃあ、気を付けることにしようかねぇ……さて、晩飯の準備でも始めるとするか」
いつもならアイテム鞄経由・空間収納から出来立ての食事を取りだすところだけれど、そろそろ同じものばかりでは飽きて来た。
だから、久しぶりにユウヤの露店を開くことにした。
――シュルッ
厨房倉庫から炭置台とテーブル、カセットコンロを取り出す。
まずは炭火が起きるまでにラーメンサラダの準備をする。
大きめの寸胴にお湯を沸かし、そこで乾麺を茹でる。
その間にレタスと水菜、キュウリ、トマトを用意。
レタスは千切って水を張ったボールに晒しておき、残りの食材は一口大にカットしておく。
ラーメンサラダに使うドレッシングは砂糖・酢・醤油の三つをベースにゴマ油とすりゴマであたりを取る。
比率はそうだな……今日は1:1:1でいいだろう。ごま油とすりごまは香り付け程度でいい。
ゆであがった麺は素早く冷水で手洗いし、ざるに切って空間収納に移動させておく。
「ユウヤ、炭が起きたよ」
「おう、それじゃあシャット、これを焼いてくれるか?」
「へ? あ、あたしが焼くのかい?」
「そういうことだ。マリアンはこれを皿に盛り付けてくれるか? 俺たちが食べる分だから、きれいに盛る必要はないからな?」
「はいっ!! お任せください」
バットに並べてあるつくね串を取り出してシャットに手渡す、一度茹で上げているので火は通ってあるから大丈夫だろう。
それじゃあ、俺は炊き上がったご飯が入っている保温機を空間収納から取り出し、どんぶりにご飯をよそっておく……と、ああ、こいつを忘れちゃだめだな。
「シャット、タレはこれを使ってくれ」
「はいよっと!! もういい感じに焼けて来たよ」
「そんじゃ、あとは大丈夫だな」
「お任せあれ!!」
――ジュウウウウウウ
ほら。
タレに浸かったつくねが炭火で炙られ、炭火の上にタレが零れていく。
ジュウジュウと音を立て、そして甘しょっぱい香りが煙と共に周囲に流れていく。
うん、露店の感覚が戻って来るわ。
「おっと、みそ汁の準備……と」
使うのは、つくねを茹でた時のゆで汁。
ここに白みそを溶かし込み、乾燥若布をパラパラッと入れておく。
本当なら生若布を使いたいところだが、あいにくと仕入れていなかったからなぁ。
そして沸騰する前に火から下ろしておくと。
「ユウヤ店長、らあめんさらだの準備が出来ました」
「ツクネ丼も出来たよっ」
「おう、みそ汁も準備ができた。ということで、さっそく頂くとするか」
テーブルを出してそこに夕食を並べる。
そして熱々のほうじ茶もポットに用意しておいておく。
そしてシャットが作ったつくね丼の上に、温泉卵と紅ショウガを乗せて完成だ。
「それじゃあ、いただきます!!」
「「いただきます」」
まずは若布の味噌汁を一口。
――ズズスズッ
「うん、乾燥若布でも、いい感じに仕上がっているな」
「こ、このらあめんさらだってなんだにゃ、ズルズルと後を引いて、酸っぱくてゴマの味もして、美味しいにゃ」
「このつくねもいい味ですよ。でも、シャットさん、ここが焦げていますわ」
「焦げもいいアクセントだにゃ」
「ははは……でも、いい感じに焼けているじゃないか。今度はマリアンにも教えてやろうか?」
そんな笑い話をしつつ、楽しい食卓を囲んでいる。
周囲では、いつものように保存食を食べている商人たちの姿もあるが、相変わらずこっちを見て生唾を呑みこんでいるのが判る。
別に俺たちが食べ終わってからなら、用意してやっても構わないけどな。
そんな感じでもくもくと食べていたら、別の隊商から騎士らしい人たちがこっちにやって来るのに気が付いた。
「ゴホン。そこの商人よ、頼みがある」
騎士の中でも一番年長者なのだろう。白髪に綺麗な顎髭を蓄えた男性が、咳ばらいを一つしたのち、俺たちに話しかけてきた。
「ん、頼みか? まあ可能かどうかは分からないのですぐには返答できないが。どのような頼みだ?」
「其方たちの食している食べ物を、我らが主人が欲しているのでな。アードベッグ辺境伯様と奥方様、そしてお嬢様の三人分を用意して欲しいのだが。可能だろうか? 当然、代価は支払うが」
まあ、ここで断るという選択肢はない。
そもそも露店で作ったものを食べたいと言ってくれるのだ。
お客が求めているのなら、用意するのは必然。
「まいどあり。三人前でいいんだな? 今から作るので、少々時間を貰うが」
「それは構わない。料理を作るのだから時間が掛かるのは当然だ。では二人、ここで待っているように。私はアードベック様に報告をしてくる」
「「ハッ!」」
部下に指示を出してから、踵を返す騎士のおっさん。
さて、それじゃあ、焼き鳥屋のユウヤ、久しぶりに営業といきますか。
「マリアン、つくねスープを二つ、待っている騎士さんに渡してくれ。ただ立って待っていても辛いだろうからさ」
「畏まりましたわ……ささ、騎士のみなさん、こちらでも飲んで体を温めてくださいませ」
いそいそとスープを手に、マリアンが騎士の元へと向かう。
さて、それじゃあ俺は……。
「つくねだけじゃ、辺境伯様には物足りないだろうからなぁ……」
空間収納から鳥串、豚串、つくね串を取り出して焼台の上に並べていく。
そして焼台の左側には網を乗せて、そこで茄子とシイタケも焼き始める。
「ユウヤ、わたしは何かすることがあるかな?」
「ん~、シャットは……そうだなぁ」
ふと、俺たちがお世話になっている隊商の責任者や護衛の冒険者たちがこちらを見ているのに気が付いた。まあ、折角なので、ここらでサービスしておくのもいいだろう。
「マリアンと一緒に、うちの隊商の皆さんにもつくねスープを配って来てくれるか?」
「そ、そんなことをしたら、私たちの飲む分がぁ!!」
「また仕込むから、心配するなって……と、おっと、焦げちゃうぞと」
いい感じに焼きあがって来たので、一度炭を調節して弱火に。
みそ汁の準備とあとはラーメンサラダは……まだ残っているな、ちょうど三人分ぐらいなら間に合う量だ。
厨房倉庫から角盆を三枚取り出し、そこに盛り付けたサラダとお新香を乗せておく。
ちょうど焼き鳥もいい感じに焼けたので、たれを潜らせたのち、もう一度焼き台へ。
――ジュウウウウウ
ほらな。
焼き鳥の焼ける音、煙、そして薫りが周囲に再び溢れていく。
これが深い森の近くだったなら、きっと隊商のリーダーに止められていただろうけれど、ここは宿場町の近くで、周りは田園。
匂いに惹かれて襲い掛かって来る魔物もどこにもいない。
そして焼きあがった焼き鳥と野菜を、たれを軽くかけたご飯の上に並べて。
最後に温玉と紅ショウガ、そして追いタレを少々かけて完成だ。
「よっし、完成だ。そこの騎士さん、これで完成したんだが、持っていけるか?」
「大丈夫だ、心配するな」
そのまま器用に角盆を持つと、隣の隊商へと戻っていく。
さて、このあとはどういう展開になるかねぇ。
「マリアン、シャット。この場合の、次の展開って予想できるか?」
「う~ん。椅子とロープを用意してほしいかにゃ?」
「私はこちらで、焼きあがったものを紙袋に詰めることにしましょう。お値段はいつも通りで宜しいので?」
「やっぱり、そうなるよなぁ……」
空間収納から鳥串、豚串、つくねを新たに追加。それらを焼台に並べると、マリアンが周囲に響くように声を上げた。
「それでは、焼き鳥のユウヤ、臨時営業を始めます。購入したい方は、彼女の指示に従って並んでくださーい」
「購入希望者は、ここに並ぶにゃあ。横入りすると売らないので、ちゃんと並ぶにゃ」
――ザワザワザワザワッ
マリアンとシャットの言葉で、隊商の関係者たちが次々と並び始めた。
さて、露店は10日ぶりだが、その程度で鈍る腕じゃない。
どんどん焼くことにしようかねぇ。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




