第136話・軽食だったはずなんですが、なんで宴会に?(豆腐マヨネーズと豆腐チーズの野菜サンド、神々のオードブル)
まずは、豆乳マヨネーズの仕込みから始めますか。
基本、マヨネーズは卵黄とサラダ油、酢の三種類があれば作れる。
きれいなボウルに卵黄を入れ、そこに少量のサラダ油を加えて手早くかき混ぜる。
ここで手を抜くとサラダ油と卵黄が分離してとんでもない事になるので、ここは丁寧にしっかりと。
そして角が立つ程度まで硬さが出てきたら、ここで酢を少しずつ加えて混ぜていく。
一般的には【サラダ油と酢を乳化したもの】がマヨネーズの正体で、卵黄はいわばつなぎのようなもの。
卵黄に含まれている成分が乳化を助けるので、これなくしてはマヨネーズはあり得ない……と、昔は考えられていたんだけれどねぇ。
「それで、豆乳ってなんだにゃ?」
「お豆の乳……ユウヤ店長の世界では、豆が乳を飲んで育つ?」
「そんな訳あるかって。豆乳は、茹でた大豆を絞って取り出す液体だと思ってくれていい。まずは」
ボウルに豆乳と酢、砂糖を入れておく。
ここにサラダ油を少しずつ加えて手早く泡だて器でかき混ぜる。
この辺りがいい加減だと、油は分離したままなんだけれど。
普段からマヨネーズは手作りのものも用意しているので、慣れたものである。
ちなみにだが、卵黄とサラダ油だけで作ったマヨネーズ状のものは、すり身に加えることで触感を抑止、ホワッホワッに仕上げることができる。
ほら、名店の手作り蟹焼売とかがふっくらしているのを見たことはないか? あれの正体の一つは【卵の元】と呼ばれている『サラダ油と卵黄を乳化させたもの』ということはここだけの話という事で。
――シャカシャカシャカシャカ
「うにゃ、滑らかになってきたにゃ」
「そうだろ。それじゃあマリアンはサンドイッチの具材になる野菜の仕込みを頼む。シャットはそっちの焼き台で、トーストを片面だけ焼いておいてくれ。この一斤すべて焼いて構わないからな」
「「かしこまり!!」」
早速越境庵の作務衣を羽織り、二人も作業を始める。
そうこうしている内に豆乳もいい感じに滑らかになって来たので、ここに少しずつサラダ油を加えて手早く混ぜて完成。
こいつは低温で保存しないとすぐに緩くなってしまうので、厨房倉庫経由で冷蔵庫に入れて冷やしておく。
「次は、豆乳チーズだが……」
こいつはちょいと気合が入る。
まずは豆乳を大き目の鍋に入れてゆっくりと沸騰させる。
ただし、ここで注意しないとならないのは火加減。
沸騰直前まで温めると、豆乳の表面にうっすらと膜を張ってしまうのでその手前で必ず止めること。
温度でいえば、大体70度前後あたりで止めるといいだろう。
そこに酢を加えてゆっくりと混ぜ合わせると、豆乳の成分がポロポロと固まり始めるのでそれをつぶさないように混ぜた後、サラシを敷いた盆ザルの上に流し込む。
するとサラシの上に水分が抜けたそぼろ状のものがたまるので、後はサラシで丁寧に包むようにしてから重しを載せて、余剰な水分を全て取り除く。
この時、穴あきの流し缶などがあるときれいに形を作れるのだけれど、なければ牛乳のパックを加工して型枠を作ってもいい。
「後は、このままバットに入れて水分を取りつつ冷蔵庫で冷やす……と」
ちなみに酢だけでは面白くないので、もう一種類。
酢の代わりにレモンのしぼり汁を使ったものも用意しておく。
「ユウヤ店長、野菜の仕込みは終わりました」
「トーストも焼けたにゃ」
「ありがとさん。それじゃあ仕上げと行きますか」
トーストの焼き目のない方にレタスを千切ったものとトマトのスライス、キュウリスライス、オニオンスライスを載せていく。
そして軽く豆乳マヨネーズを掛けた後、豆乳チーズを横に薄くスライスして乗せ、最後にトーストを乗せて軽く押して完成。
まあ、具材の量は好みの量で。
後は……野菜はしっかりと水気を切っておく事。
すぐに食べるのなら特に大切。
そして完成したサンドイッチを対角線上にカット、きれいな二等辺三角形を皿に盛り付けて完成。
「お待たせしました。こちらがベジタリアン必見の野菜サンドです。お飲み物はフレッシュのオレンジジュースとリンゴジュースをご用意しました」
「おお、これが私の為に作ってくれたサンドイッチですか」
「ふぅん。ゆうやさん、私達の分はないのですか?」
「ターシュラーひとりだけ、ずるいのでは? あれから私達には供物を届けてくれなくて寂しいのですよ?」
「まあ、私は毎日、おいしいものを備えて頂いていますけれど……これは初めて見ましたわ」
おっと、ターシュラー様の後ろから、ひょっこりと三人の女神さまが顔を出してきた。
水の女神レミィさまと月の女神カタルーニャさま、最後はヘーゼル・ウッド様か。
何だか恨めしそうにターシュラー様を見ているし、マリアンとシャットはその場で硬直しているし色々と大変な事になりそうだな。
「まあまあ、すぐに追加で作りますので、しばしお待ちを……シャットは追加のトーストを頼む。マリアン、さっきの手順は見ていたよな? 一人で作れるか?」
「あいあいさ、だにゃ」
「ちょっと自信が……いえ、大丈夫です、女神さまの食事ですから気合を入れて作らせていただきます」
「頼む。こっちは飲み物と、後は軽くつまめるものを用意するので」
という事で、急ぎ越境庵に転移してから、簡単なオードブルを用意して戻って来る。
既に聖域では宴会場のようなものが作られており、テーブルの上にはマリアン達が用意したサンドイッチだけでなく、見た事のない料理まで並んでいるじゃないか。
「お待たせしました。簡単ですがオードブルをご用意しました。こっちは肉抜きのオードブルで、こちらは普通のオードブルです。それと、こちらの料理はどちらから持ってきたのですか?」
銀盤に乗せられた料理……一見すると宴会場やホテルの朝食バイキングなどで見かけるような料理が並んでいるのだが、どうにも神々しさを感じる。
「これは、私たちの住む神界の料理人が作ってくれた料理です。神樹の実を使ったものや、セーフリームニルというイノシシの肉を使った炒め物などなど。まあ、人間界では食する事が出来ないものばかりですので。ユウヤの料理に対するお礼という事で、よろしければどうぞ」
にこっと微笑むカタルーニャ様に一礼して、俺達は早速食事を楽しむ事にした。
それにしても、神々の食事というのを食べる事が出来るとは、実にありがたい。
出来るならば、この料理を作った料理人にも会って話を聞いてみたい所だ。
「まあ、流石に神々の料理人を地上に派遣する事は出来ぬゆえ、今日、ここで食べて味を覚えておくとよいかと思いますわ」
「そうですね、ありがとうございます」
という事で、しばらくの間、女神さま達と俺達で歓談を楽しんでいた。
大体一時間程でお開きとなったのだが、後片付けをしている時にふと、女神さま達が聖域の扉、つまり大聖堂へと続く扉の方に視線を送る。
「ターシュラー、どうやらあの無礼者がそこまで来ているようですが」
「まあ、いくら嘆願しても無意味ですとは伝えてあるので。おそらくはユウヤさんに頼み込んで、『加護のおすそ分け』でも求めるのでしょうね」
「あの、ターシュラー様。加護のおすそ分けとは?」
そう思って問い掛けると。
要は、神々の加護を持つ者が聖域にて神と謁見し、『別の者に新たに加護を授けて欲しい』と嘆願する事が加護のおすそ分けというらしい。
もっとも、その際にも神々の審判は行われるため、余程の事がない限りは加護のおすそ分けは成立しない。
それどころか、無謀な願いを持ち込んだ無礼ということで、加護を得ていた者が加護を失う事もあるらしい。
その説明を聞いて、シャットたちも納得しているらしくウンウンと頷いている。
という事は、あの扉の外には勇者もしくはその仲間が待っているという事だろう。
「まあ、彼らには新たに神託を授けましょう。その上で、速やかに帝国に戻り余生を過ごすようにと伝えておきます。もっとも、女神の加護ありきで繁栄した国家ですので、その大本が絶たれた以上は国が騒動に巻き込まれる事でしょうけれど……勇者の傀儡と化した帝国には、私たちは新たに加護を授ける気はありませんので……」
「まあ、ターシュラーの加護であった聖剣が失われたのですからね。これもまた運命です」
「という事で、ユウヤさんは気に病む必要はありませんよ。元はといえばターシュラーが」
「ああっ、ここでその話は勘弁してください……と、では、彼らとその仲間達、帝国全域に対して神託を授けて来ますので……ユウヤさん、本日はありがとうございました」
という事で、女神さま達が一斉に姿を消した。
俺達は一刻程たってから外に出るようにと伝えられたので、それまでは中でのんびりと休憩。
そしてそろそろかなと思い、聖域から外に出ると、そこには大司教が頭を下げて待っているだけであった。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




