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135/135

第135品目・神託は一人? いえ、出血大サービスのようです(野菜サンドの準備)

 マクファーレンを名乗る老人が広間に姿を現してから。


 突然大声で叫び出し、今にも俺たちに向かって掴み掛らんとする勢いで詰め寄って来たのだが、よいタイミングで警備の騎士達が駆けつけてマクファーレンを取り押さえると、そのまま別室へと連行されていった。

 まさかとは思うが……精霊の女神の加護を失ったのか?


「……ふぅむ。何というか、この世界の神様の加護っていうやつは、とんでもない力を持っているんだな」

「そうだにゃ。それこそ定命の種族を不老にする程度は朝飯前だにゃ」

「朝飯前って……そんなに簡単な事ではありませんよ。加護を授かるという事は、それだけ神々に貢献していたり、この世界の危機を救ったとか、そういうレベルの活躍を行わないと得られるものではないのですが」

「それってつまり?」

「「英雄的行為です(にゃ)」」


 成程なぁ。

 それ故に、加護を一度でも与えた場合、その者に対しての責務っていうものも存在するっていう事だよなぁ。

 加護を与えた者が悪行に手を染めたとしたら、その不始末は加護を与えた神々の責務。

 だが、神々は確か、約定により直接的には手を出す事は出来ないと。

 中々に、加護を得るという事は厳しいものだなぁと考えている内に、気が付くと奥の間の前まで辿り着いていた。

 

「ここから先は、加護を得られる方のみ、入室する事が許されています」

「では、順番にどうぞ……と、え、あ、あの、それは……」


 部屋の前で待っていたらしい司教がうやうやしくそう告げたのだが、突然、天井を見上げて狼狽し始めた。ふと司教の視線の先を追ってみると、天井部分に描かれていた絵画のようなものが神々しく輝いているじゃないか。


「では、加護を得る方は特別に、二人の同行者を許可します。但し、その者が神の加護を得られるかどうかは、精霊の女神ターシュラー様の思し召し。では、順に入りなさい」


 司教の言葉と同時に、目の前にある巨大な両開き扉が音もなく開いていく。

 恐らくは世界樹なのだろう、細かい装飾が施された扉の向こうは、以前、聖光教会に神々の供物を届けに向かった聖堂の奥にあった聖域のように広く、いくつもの柱が並んでいた。


「では……」


 そう告げて、アイリッシュ王女殿下と護衛の騎士が部屋の中へと入っていくと、再び扉がゆっくりと閉ざされていく。そのまま内部では、精霊の女神ターシュラー様の神託を受ける事になっているそうだ。

 そして最初の神託が終わるまで、おおよそ30分の時間が経過した。


――スッ

 最初と同じく、静かに扉が開いたのだが。

 室内から出てきたアイリッシュ王女殿下は、すっきりとした表情を浮かべていたものの、こちらを見た瞬間に何か驚いたような表情になり、そのまま最初の広間へと向かって行く。

 そして次に入室した枢機卿もまた、30分程してから外に出て来たのだが。

 やはり俺を見て頭を傾げた後、広間へと戻っていった。


「……何だろうなぁ」

「ちょっと気になるにゃあ」

「でも、悪意があるような雰囲気ではありませんね」

「ま、俺に何かあるのなら、後で声を掛けて来るだろうさ。それじゃあ、入るとしますかね」


 丁度扉が開いたので、俺達は三人で中へと入っていく。


「ああ、外から見た感じだと、あの聖光教会の聖域のような感じだと思ったが。全く同じなんだな」

『ええ。聖域は一つしか存在しませんから。各国の教会にある聖堂、その奥の扉は、全てこの聖域に繋がるように作られています』


 そうドーム状の室内に声が響いたかと思うと、室内の中央にそびえる巨大な柱の周囲に綺麗に並ぶ小さな柱、その一つが輝きターシュラー様が姿を現した。

 その瞬間、シャットとマリアンは跪いて頭を下げようとしたのだが、すぐにターシュラー様が右手を翳した。


『皆さんはそのままで構いませんよ。ユウヤの酒場の店員なのですから』

「そ、そんな恐れ多いにゃ」

「ここは酒場ではありません。ゆえに、神々に対して頭を下げるのは当たり前なのですが」

『まあ、あなた達がそんな事をすると、ユウヤさんまで右に倣えになってしまいますので、そこはご勘弁を。運命の女神の眷属を跪かせたなんて事になると、ジ・マクアレン様の説教が待っていますので』


 はぁ。

 何というか、俺程度が跪いただけでそんなに大事になるのかねぇ。

 とはいえ、ターシュラー様の仰る通りにしておいた方がいいだろう。


「だ、そうだ。シャットもマリアンも普段通りでいいみたいだな」

「そんなお気楽にゃ」

「はぁ。ユウヤさんにはこういった事についての常識は通用しないのでしょうか」

「固っ苦しいのは苦手な性分でね。頭を下げるのは親方衆と取引先だけだ、後、お客さんには当然ながら頭を下げるさ」


 そんな事を話していると、ターシュラー様がクスッと笑っている。


『それでは本題に入りましょう。我が名、精霊の女神ターシュラーにおいて、ユウヤ・ウドウとシャット、マリアンの3人に精霊の女神の加護を授けます。シャットには『精霊の目』を、マリアンには『精霊の理術』を。そしてユウヤさんには……どうしましょうか』

「どうしましょうか……といいますと?」

『いえ、あなたには既に、運命の女神の加護が授けられているのですよ。それもとんでもなく強力なものが。故にあなたは運命の女神の眷属として認められているのでして。私が新たに加護を授けるとなりますと……あなたが作った料理全てに『精霊の女神の加護』が宿るといった事ぐらいしかありませんが』


 何だろう。

 その、俺が作る料理全てにターシュラー様の加護が宿るっていうのは、どういう効果があるんだ?


「あの、それはどういったことで」

『まあ、鮮度を長時間保てるとか、腐敗しづらくなるとか。お弁当が傷みにくくなるといった感じでしょうか』

「ああ、そいつは助かりますね」

『では、あなたの関与する食材すべてに腐敗防止を……と、それでは発酵食品が成立しませんね、そのあたりはゆるゆると調節できるようにしておきます』

「ありがとうございます」


 こいつは料理人にとってはありがたい。

 ゆるゆると調節という部分が難しそうだが、食中毒を未然に防げるようなものだと思えばいいか。

 こっちの世界にに来てからは、生前よりもその辺りを徹底してきたつもりだが、この世界特有の細菌などもあるだろうからなぁ。


『ごほん。では、これにて神託を終わりましょう。という事でユウヤさん、あの供物はとてもおいしくいただきました、ありがとうございます』

「いえいえ。ターシュラー様は肉食が出来ないという事で、全て新鮮な野菜の実で作らせていただきました。お口に合いましたら幸いです」

 

 とはいえ、野菜オンリーのポトフだけでは物足りないかもしれないよなぁ。

 そう思ってターシュラー様の方をちらっと見ると、やはり何か話したそうにもじもじしている。


「ターシュラー様、実は新メニューとして野菜の実で作ったサンドイッチというものがあるのですが。もしよろしければ、ここで用意する事を許していただけますか?」

「え、野菜だけでサンドイッチ作るにゃ?」

「それってどういう……」


 うん、まあシャットとマリアンが驚くのも無理はない。

 とはいえ、実は『豆乳マヨネーズ』という卵を使わないマヨネーズや、『豆乳チーズ』といったものも実は作ることができる。

 まあ、うちの店は大学の近くにあったのと、その大学の国際交流センターからやって来るお客さんもいたのでね。宗教的に食べられない食材などもあったので、色々と工夫はしていたのだよ。


『そうですか。では、ここで料理をする事を許します。聖域には雑菌は存在しないので、ごゆるりと料理を楽しんでください』

「かしこまりました。それでは……」


 一旦、越境庵に移動して作ってもいいのだが。

 目の前で作るところが見たそうなので、ここに露店の道具を引っ張り出して料理する事にした。


「それじゃあマリアンもシャットも、じっくりと見ていてくれ。これはそんなに手間がかかるものじゃないからな」

「わかったにゃ」

「それでは勉強させていただきますわ」


 という事で、一通りの道具を引っ張り出して、早速始めるとしましょうかね。


いつもお読み頂き、ありがとうございます。


・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。



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