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【書籍化決定】隠れ居酒屋・越境庵~異世界転移した頑固料理人の物語~  作者: 呑兵衛和尚
フォーティファイド王国の日常

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133/140

133品目・二種類の料理、その意味は?(二種類のポトフとブルスケッタ、赤ワインはボジョレー)

 精霊の女神さまに捧げる供物。

 下拵えは既に終わったので、いよいよ仕上げを始めるとしますか。


「それじゃあ、大き目の雪平鍋を二つ用意して……」


 一つの鍋にはにんじん、玉ねぎ、ジャガイモ、キャベツを入れる。

 もう一つにも同じ量の野菜を入れるが、こっちには『中落ちベーコン』も入れておく。

 そしてどちらにも水を張り、ベーコンの入っている方にはキューブコンソメを加えた後、蓋をして弱火で火に掛けておく。


「そして、こっちの肉が入っていない方には、干しシイタケから取った出汁と、ベジタブルコンソメを入れてから火に掛ける……と」

「んんん? どうして別々に作っているにゃ? それに、入れている調味料も違うようだけれど、味付けが二種類あるのかにゃ?」

「まあ、な。こっちの鍋のやつは普通のポトフだけれど、こっちは肉が一切入っていない野菜のみのポトフだ。精霊女王ターシュラー様に供物として捧げるのは、こっちの肉が入っていないやつ。そして来賓用に作っているのがこっちの普通のやつ」

「「あ~」」


 そう、今日は二種類のポトフを用意している。

 だから一つは『野菜ブイヨン』というベジタリアンでも安全に食べられる調味料を使ってみた。

 うちのお客さんの中にもベジタリアンのお客さんは何名かいたのと、後は宗教的に肉が食べられない方もいたので、少しだけストックしてあった。

 それを使って二種類のポトフを用意。

 後は付け合わせに仕入れておいたフランスパンを使ってもう一品。


「ポトフは弱火に掛けておいて、次は……マリアン、このバゲットをスライスしてくれるか? 厚さはガーリックトーストぐらいでいい」

「かしこまりましたわ」


 という事で、バゲットはマリアンに任せて、俺は大量のトマトを使ってブルスケッタを用意する。

 まあ、水洗いしてヘタを取り除いたトマトを横半分に切った後、さいころ大にカット。

 こいつをボウルに入れてから、洗って水けをさっと落とした生バジルをちぎり、両手でパン、と叩いてからトマトの入ったボウルに入れておく。

 どうして叩くのかって、こいつは親方譲りの理屈なんだけれど、空気を含ませるようにして叩くと、香りが引き立つらしい。

 

「味付けはバルサミコ酢と……」


 バルサミコ酢、オリーブオイル、砂糖、塩、黒コショウを加えてさっと混ぜる。

 分量はまあ、バルサミコ酢は少し控えめ、オリーブオイルはバルサミコ酢の倍程度。

 砂糖と塩、胡椒の加減はお好みで。

 あくまでもポトフの付け合わせなので、あまり味を濃くする必要はない。


「さて、大体こんな感じかな……」 


 軽く味見をした後にマリアンにカットしてもらったバゲットをクッキングシートを張った鉄板に並べておく。

 ここにさっと『ガーリックオイル』を刷毛で塗って軽く焼くだけ。

 ガーリックオイルは自家製で、細かくみじん切りにしたニンニクと、同じくすりおろしたニンニクをオリーブオイルの入れてある小瓶に入れて数日寝かせたもので。

 こいつを使う直前にざっと振って混ぜ合わせた後、刷毛を使ってバゲットに塗るだけ。


「後はこいつを焼いて完成だな。ブルスケッタは食べる直前にセルフで載せてもらうから……って、おいおい、まだ早いぞ」

「オーブンからいい香りがしてきたにゃ」

「こ、こんなにいい香りがして来たら我慢出来ませんわ」

「はは……ちょいと待っていろよ」


 さて、そろそろポトフの野菜にも火が通ってきた頃なので、金串を使って火の通り加減を確認。

 スッ……と抵抗なく刺さったら完成で、火を止めておしまい。

 出来立て熱々をボウル皿に盛りつけたのちに焼きたてのバゲットにトマトのブルスケッタを載せて完成だ。


「ほれ、味見用だ。熱いから気を付けてな」

「はいにゃ」

「では……いただきます」


 二人とも手を合わせて挨拶をした後、まずはポトフをひと掬い。

 ほどよく煮込まれた野菜をスプーンでサクッと掬ったのち、スープとともに口の中へ。


「ん~っっっっつんっんっんっっっっっっ」

「んほっんはっほふっふぁぁぁぁぁぁ」


 まあ、その反応ととろけそうな表情で、何が言いたいのかは理解できる。

 そう思った刹那、二人同時に俺の方を向いてウンウンと頷いているので味加減は問題がないだろう。

 さて、料理はこれで完成したので、このまま熱々を厨房倉庫(ストレージ)に収めて時間停止処置。

 

「さて、供物といえば、飲み物も必要だよなぁ……」


 ポトフに合う飲み物は数あれど。

 俺の一押しは札幌のエビス。

 とはいえ、飲みなれていない人にいきなりエビスの瓶ビールを取り出して飲ませるっていうのもなんだよなぁ。

 という事で、赤ワインも用意する。

 用意した銘柄は『レニエ』のクリュ・デュ・ボージョレー。

 ボジョレーと聞くと、ボジョレー・ヌーヴォーを思い出す人が多いけれど、こいつはボジョレー北部のレニエ村で作られた赤ワイン。

 

「あわ、また高そうなワインですね」

「まあ、ハウスワインとしては高い部類になるが。供物としてはいいところだろうさ。こいつを使ってビアスプリッツァールージュを作ってもいいし、このまま飲んでもらってもいい。とはいえ、こいつは3本しかないので、一本はそのままターシュラー様に供物として差し出す。残りは、その時の対応だな」

「それでいいですわ」

「うんうん、ターシュラー様最優先だにゃ」


 これで一通りの準備が終わった。

 そして外から楽しそうな楽曲が流れて来た所を見ると、どうやら百年大祭が始まったらしい。

 といっても俺たちは裏方なので、ここでのんびりと待つだけ。

 さて、どのタイミンクで供物を出すのだろうねぇ。

 それにしても……とうとう、あの勇者とやらは姿を現さなかったな。

 何かあったのだろうかねぇ……。 


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