128品目・エルフの国、そして案内人はフリーダムです(まずは移動から、そして観光案内へ)
ユウヤの酒場で、【どちらがフォーティファイド王国に親善大使として行くのか会議】が行われた翌日。
どうやら朝一番の会議により、無事アイリッシュ王女殿下が大精霊祭に代表として赴く事が決定した。
殿下付の宮廷騎士団である『グロマンサン騎士団』より、騎士団長である『パシュラン・ドゥ・ヴィクヴィル子爵を筆頭に合計5名の同行も許されている。
そして。それとは別に、俺とマリアン、シャットも一般招待客として同行して欲しいとディズィ大使に頼まれてしまった為、当分の間、ユウヤの酒場は休業する事となった。
「しっかし……商業組合と料理人組合からは、出来るならマリアンかシャットに残って貰い、酒場を営業して欲しいと言われたんだけれどねぇ。流石に、こればっかりは難しいんじゃないかなぁ」
「その通りだニャ。そもそも、あたいとマリアンは一心同体、二人でようやく一人前だにゃ。そのどちらかを残したとしても、絶対に酒場を巧く切盛りなんて出来ないにゃ」
「ま、まあ、二人で一人前というのもいささか誇張気味ですけれど。私とシャットだけでは絶対に無理に決まっています。そもそも仕入れと仕込みを出来るのは、ユウヤ店長だけなのですから」
「そうなんだよなぁ……。という事で、この件は断りを入れて来るよ。それに、留守の間の店内の清掃とかは、アイリッシュ王女殿下付の侍女の中から一人、ここに住み込みで建物のメンテナンスをしてくれるっていうから。そこはお願いしようと思っている」
という事で、昼営業が終わってから、商業組合と料理人組合に顔を出して店を長期休業する事を伝えた。更に翌日の朝には、ユウヤの酒場のメンテナンスをしてくれる侍女さんがやって来たので、俺達は早速旅の準備を開始。
シャットとマリアンは大量の荷物になったのだが、一時的に【越境庵】の小上がりに荷物を纏めておいておく事で解決。
幸いな事に二人は自由に出入り出来るので、そのうち倉庫の一部を荷物置き場に改造してもいいだろう。
という事で、一通りの手続きを終えてからは、俺達は出発日までノンビリとした日々を過ごす事になる……と思いきや、長期休業を聞きつけたお客が押し寄せてくるようになり、出発前日までは夜営業のみを再開する事になった……。
まあ、嬉しい悲鳴っていう事になるんだがね。
………
……
…
――出発当日・王城中央庭園
「へぇ。ここに例の転移とか言う魔法陣が開くのですか」
出発当日の正午。
俺達は荷物を纏めて王城へとやって来た。
というのも、アイリッシュ王女殿下は国家代表として正式にフォーティファイド王国へと赴くので、簡単な式典が催される事となった。
その場に同席するのは王都及び近郊の貴族及び関係者であり、俺達はというと同行する使節団ではなく、一般参加客としての参加となったのである。
まあ、伯爵位を所持しているとはいえ名誉伯爵。
使節団には同行する事が許されていない……というか、そっちの方が自由に動けるので助かっている。
「そうですね。まず、最初にアイリッシュ王女殿下と使節団が【精霊の旅路】でフォーティファイド王国の王城にある【精霊の箱庭】という場所に移動します。そののち一般参加者の皆さんにも【精霊の旅路】で移動しますが、到着地点は王国王都にある『旅客転移広場』という所です。そこで入国手続きを行っていただき、あとはご自由にしていただいて大丈夫です。詳しくは、広場で案内の者が待っていますので」
「そいつは楽でいいねぇ。こっちとしても、自由に動き回れる方が楽でしてね」
「まあ、ユウヤさん達は国家に縛られていない賓客のような感じですけれど。それでもフォーティファイド王国に滞在している間は、自由にしていただいて構いません。ただ、大精霊祭で精霊の女神ターシュラー様に捧げる供物だけは、作って頂けると助かりますが」
ディズィの説明に、思わず腕を組んでウンウンと頷いてしまう。
まあ、俺の呟きが聞こえたのか、使節団の席で凛とした表情をしているアイリッシュ王女殿下が冷汗を流しているように感じるのは、気のせいという事にしておこう。
その後、式典が始まり楽団の奏でる音楽に耳を奪われつつ、無事に国王の激励の言葉が告げられる。
まあ、そんな感じで厳かな式典は完了し、いよいよディズィが【精霊の旅路】を発動。
――ゴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ
直径が15mほどの巨大な魔法陣の中に精霊の力が集まり、虹色に輝く柱が生み出される。
そしてアイリッシュ王女殿下と使節団がその中へと入っていくと、やがて魔法陣が消失し無事に最初の転移が終了する。
そして俺たちの出番になったので、ユウヤの酒場の3名と大商会の会頭、副会頭、聖光教会の司教などが魔法陣の中へと入って行く。
「それでは、皆さんに精霊の加護があらんことを……」
『まあ、妾がついているので安心するがよいぞ』
ディズィの祝詞の後、ボソッとターシュラーさまが俺の耳元で呟いていたので、肩の力も抜けるっていうものだ。
――シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ
そして俺達は、何事もなくフォーティファイド王国へと到着したのであった。
〇 〇 〇 〇 〇
――フォーティファイド王国王都・アンダルシア
広大な庭園。
その中に俺達は立っていた。
あまりにも一瞬で到着したようなので、動揺するというよりも何か『なつかしさ』というものを感じている。
何というか、俺が死んで初めてこの世界に立った時のような、まるで映画の場面転換のような状況といえば理解してくれるだろうか。
「お疲れ様でした」
そして俺のように周囲を見渡している人々に、一人のエルフが話しかけてきた。
「貴方は誰だにゃ?」
「初めまして。私はこの『精霊の箱庭』の管理人を務めていますフロンテーラと申します。まずは入国手続きを行いますので、こちらへどうぞ」
「それでは、よろしく頼むとしようか」
大商会の会頭の言葉で、全員がフロンテーラについて行く。
そして俺達が立っていた場所から少し離れた場所にあるちいさな小屋で入国手続きを行うと、小さなペンダントトップのような装飾品を手渡してくれた。
「この『風水晶の登録粒』が入国証です。こちらは常に身に付けるか、アイテム鞄に仕舞っておいてください。結界無効化の加護が付与されていますので、アイテム鞄のような内部拡張された鞄に納められていても反応しますので」
「ほう……これはまた珍しいですな。それで、この街については教えて頂けるのでしょうか。フォーティファイド王国の王都など、隣国の王族でも立ち寄る事出来ない程の閉鎖された都市と伺っていますので」
そんな感じで会頭がフロンテーラさんと話をしているので、ここは黙って聞き耳を立てる事にした。
面白いのは、この王都は城塞から外に続いている『開放された門』というものは存在していないらしいい。というのも、王都に住む者たちは『風と大地の精霊』の加護があるため、城塞の壁に触れるだけで自由に出入り出来るらしい。
そして外から入る為には、城塞外にある『精霊の箱庭』で手続きを行い、精霊たちの審査を受けなくては入る事が許されないのだそうで。
今回のように、国賓として招待された者は直接王城へ。そして同行者である俺達は、特別入国という形で許可が出たのである。
「では、説明が終わりましたので、ここから先はご自由に。この先の路を真っすぐ進みますと、すぐに箱庭の外にでます。そこにも案内人がいますので、後はそちらから話を伺うのがよろしいかと」
「そうでしたか、ご丁寧にありがとうございます。では、この地に精霊の加護があらんことを」
「ありがとうございます。お客さまにも、精霊の加護があらんことを」
丁寧に挨拶を繰り返して、ようやく一行は箱庭の外へと向かっていく。
「では、俺達も行きますか」
「そうだにゃ。この王都の美味しいものを食べまくるにゃ」
「精霊魔術にも興味がありますので、魔導商会にも行って見たいですわ」
「それはよい心掛けですね。では、今日はわたくしが王都を案内しますわ」
「「「誰……ってうわぁぁぁぁぁ」」」
俺たち三人以外の声。
そして同時に突っ込んで分かった事実。
「せ、精霊の女神ターシュラーさま……」
「本当に、フットワークの軽い女神さまだにゃ」
「シャット!! 相手は女神さまなのですよ、もっと敬意を」
「あらら、そんなに堅苦しくなくて大丈夫ですわ。あなたたち以外の人には、普通の町娘にしか見えていませんので。では、早速行きましょう」
という事で、急遽、精霊の女神さまにより王都観光案内ツアーが始まったのだが。
これって、聖職者さんにはバレるよなぁ。
ほら、箱庭の外にいる受付さんがチラッとこっちを見た途端、目線を外して震えているじゃないか。
変装は出来ていても、体から滲み出る神威までは隠し切れていないんだよなぁ。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




