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【書籍化決定】隠れ居酒屋・越境庵~異世界転移した頑固料理人の物語~  作者: 呑兵衛和尚
王都ヴィターエで、てんやわんや

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125/140

125品目・本日は、神有月ではないですが貸し切りと相成りまして(ドラゴンスネ肉のアイスヴァインと生春巻きパーティー)

 さて。

  

 ドラゴンロインのカツを食べたフランチェスカとメドックさんは、どうにか無事に食事を終えて満足そうに帰っていった。

 それはもう、一口食べてかみしめるたびに口の中が輝き、ほのかに木漏れ日のような光が口から溢れていたからなぁ。

 それを見ていた他の常連さんが『何だ何事だ』と心配するも、屈託のない満足した笑みを浮かべたフランチェスカに『いや大丈夫だ、気にしないでくれ』と言われたら、それ以上は問いかける事も出来ないよなぁ。

 

 ちなみにだが、ドラゴンテイルのねぎま串は、本当に普通だった。

 塩コショウよりもタレの方がよく合い、白飯との食べ合わせなんて最高の一言に尽きる。

 ちなみにだが、ちょいと心配だったので『詳細説明』でドラゴンテイルのねぎま串を確認してみたが。


『……ドラゴンテイルのねぎま串は滋養強壮疲労回復効果あり。魔力回復特化、若干の中毒性あり』


 という事で、細かく調べた結果として、本日のみ一人三本までの提供となった。

 それなら中毒症状症は発生しないのだが、当初は提供を止めようかとも考えたが。

 さすがに客の目の前で焼いてしまったものを出さないという訳にはいかなので、症状の出ない3本まで。

 明日以降は販売なしという事で決着した。

 そして、この日を境に、フランチェスカは毎晩のように訪れるようになった。 

というのも、一日ひとつか二つ程度のドラゴン肉のメニューを仕上げて、それをフランチェスカに食べて貰うためだ。

 ハンバーグステーキ、メンチカツ、ビーフシチューならぬドラゴンシチューも作った。

 当然、デミグラスソースを取るために牛骨ならぬ竜骨を使用。

 普通の包丁やハンマー程度では傷もつかなかったのだが、グレンガイルさんの柳葉包丁だとスパッと切れた。おかげでトンデモなく美味いデミグラスソースが出来たので、シチューも作った。

 薄くのばした竜首肉に野菜を巻いて八幡巻き造りの照り焼きにもしてみた。

 当然、ローストビーフならぬローストドラゴンも仕込んでフィリーチーズステーキにも使ってみた。

 そして昨日、いよいよ残り2部位の一つを使って、ドネル・ケバブも仕込んだ。

 これは大盛況だったので、もう少し仕込んで置く事にした。


………

……


――ユウヤの酒場・夜

「それで、今日がいよいよドラゴンメニューの最終日っていう事かい。今日は何を食べさせてくれるんだい?」


 いつものように、料理の仕込みが終わってからフランチェスカの元へシャットに走って貰ったのだが。ここ数日は、斜め向かいの冒険者組合の酒場でのんびりと待っていたらしく。シャットが飛び出して5分後にはメドックさんと一緒に来店した。


「そういえば……今日は何を出すのか、私達も知りませんわ」

「という事で、今日はお休みしてフランチェスカと一緒に食べるにゃあ」

「ああ、そのつもりで多めに仕込んでおいたので安心しろ。という事で、今日はカウンターではなく、4人でテーブル席に座ってくれるか?」

「ああ、そいつは別に構わないさ」


 メドックさんもウンウンと頷いてテーブル席に着く。

 それじゃあ、本日のメニューを用意しますか。


――スッ

 大きな丸皿に幾つもの具材を盛り付けて。

 それとは別に、 大量の肉を盛り付けた皿も取り出して並べていく。

 こいつは、暗黒竜のスネ肉を使ったアイスバインだ。

 まず、ソミュール液を仕込んでおき、そこにドラゴンのすね肉を漬けこんでおく。

 一緒にローリエやクローブなどの香辛料と、薄く削いで干しておいたマンドレイクも粉末にして一晩付けておいた。

 そして12時間の時間加速ののち、ソミュール液から取り出してから、大量の水で黒胡椒と香味野菜(生姜、ニンニク、セロリ、バジル、タマネギ、長ネギ)と一緒にじっくりと煮込み始める。

 中弱火でじっくりコトコトと煮込んだ後、ドラゴンすね肉だけを鉄板に乗せて焼いた。

 つまり【ドラゴン肉のシュバイネハクセ】を作ったんだ。

 こいつを丁寧に薄く削ぎ切りして皿に盛り付けてある。


 他にも、種と皮を取って薄くスライスしたアボカドや、手でちぎってさっと水に打っておいたサニーレタスとべビーリーフ、半分にカットしたプチトマトと軽く炭火で焼いて拍子木状に切った人参とジャガイモ。大葉とカイワレは忘れずに。


「うにゅ……これは凄いにゃ。それで、どうやって食べるにゃ?」

「ああっ、もう堪らない。このまま一気に食べてしまいたいぐらいだ」

「ははは。それじゃあ最後の仕上げだな。今日はこいつに巻いて食べる」


 取り出したのは【生春巻きの皮】と、水の入ったボウル。

 まあ、作り方については実演して見せると、スイートチリソースに付けて一気に齧る!!


――ムシャァッ

 スイートチリソースの甘辛さが口の中に広がったかと思えば、春巻きの中から幾つもの旨味が溢れてくる。そしてカリカリに焼かれたアイスバインからも肉汁があふれ出し、それが口の中で混然一体となりうまさのハーモニーが奏でられていく……って、まあ、そんなに大げさじゃあない、美味い、以上だ。


「……とまあ、こんな感じで……」

「いただきますだにゃぁ」

「あ、飲み物は私達で対応しておきますので、ユウヤ店長はカウンターのお客さんの対応をお願いします。さて、この料理に合う飲み物は……」

「とりあえず、生だな」

「ええ、私もそれでお願いします」


 シャットとマリアンはいつものボトルの準備。

 やがてテーブル席では、楽しそうな生春巻きパーティーの声が聞こえ始めていた。

 

「さて、カウンターのお客さんといっても、今日はまだ誰も来ていないからなぁ……」


 今しばらくは、俺もノンビリとさせてもらいますか。


………

……

 

――ガヤガヤガヤガヤ

 うちのお嬢さん達とフランチェスカ、メドックさんの生春巻きパーティーが始まって30分後。

 カウンター席でも、同じように生春巻きパーティーが始まっていた。


「ほほう、これが報告に合った、ダンジョンスタンピードを引き起こしたという暗黒竜のお肉ですか。王城で様々な料理を食べたことがある私でも、真竜種のお肉を食するというのは初めてですわね」

「ええ。私共でも、この素材を仕入れる事は不可能ですから。メドックさんから報告を聞いた時は、耳を疑ってしまいましたから」


 アイラ王女殿下と、宮廷総料理長を務めるエドリントさんが、皿に盛り付けられているドラゴン肉のシュバイネハクセを少し取って、口の中に運んでいる。

 同じようにエドリントさんの隣に座っているブリリアント卿もフォークで肉を取り分けた後、一つを口へと放り込み、舌鼓を打っている真っ最中。


「それでですね。このようにライスペーパーというのを水につけて少し置いておきますと、このように柔らかくなるのです。そこに好きな具材を乗せて丸めてから、好みのタレに付けて食べるだけなんですわ」

「ふぅん。これは参考になりましたわ、ありがとうございます。ユウヤ店長の料理の引き出しは、一体どれぐらいあるのでしょうね」

「うにゃ。恐らくだけれど、夏と冬で引き出しを交換しているにゃ」


 おいおい。

 アイリッシュ殿下に生春巻きの食べ方を教えるのは構わないけれど、なんで俺の料理の引き出しの話になっているんだ? 衣類じゃないんだから、そんな気軽に出し入れはしていないぞ。

 そう思って、最後の一組用に具材を盛り付けた皿とライスペーパー、水の入ったボウルをカウンターに並べる。

 今、カウンターに座っているのはアイラ王女殿下とアイリッシュ王女殿下、エドリントさんとブリリアント卿。そして初見……ではない二人の女性客。

 8席のうち6席が埋まっているのと、流石にこの客層では他のお客さんも尻込みするだろうと思い、急遽貸し切りにしておいた。


「それではいただきますわ……でよろしかったのですよね?」


 王女殿下自ら巻いた生春巻き。

 それを手に食事の挨拶をしていると、テーブル席でマリアンとシャットがサムズアップしている。

 いや、不敬じゃないのか、いいのか?


「ええ、それで構いません」

「では私はこの、細いチーズと野菜をメインに巻いてみますね……こうかな?」


 肉多めのアイラ王女殿下とは対照的に、アイリッシュ殿下は生野菜とチーズといったものを巻いて食べている。スイートチリソースではなく、レモンを小皿に絞り、そこに塩コショウを少々とは。

 

「アムッ……ンンっ……ふぁ、これは凄いですわね。エドリント、これを王宮で作れるかしら?」

「このライスペーパーというのは、流石に製法が判らないので……ユウヤ店長。よろしければこちらを少し融通して頂けると助かるのですが」

「はは、それは構いませんよ。後、暗黒竜の肉については、料理人組合かフランチェスカに直接交渉してください。俺も分けて貰った口ですので」

「そうですね。では、明日にでも」


 ライスペーパー程度なら、別にいくらでも発注出来るので問題はない。

 むしろ、俺が仕入れを出来ないものについては、そっちで直接交渉して貰った方がいい。


「ねぇ、ユウヤさん。生ビールというのを頂けますか?」

「私は……ラムネを貰えると」

「畏まりました。レミィさま……さんが中生で、ターシュラーさ……んが、ラムネですね」

「ええ、お願いします」


 ちょいと裏の倉庫へ移動して、越境庵から生ビールを注いで来ようと思ったのだが。

 途中でシャットに腕を掴まれた。

 そして俺の耳元に顔を近づけてくると。


「ユウヤぁ、まさかとは思うけれど、カウンターの端っこで食べている2人って、神様だにゃ?」

「ああ、水の女神レミィさんと精霊の女神ターシュラーさんだな。前に、たまに遊びに来るって話していたんだが、まさか今日来るとは思っていなかったよなぁ」

「まあ、そうだにゃ。神威を消しているから普通のお客さんかと思ったにゃ」


 そう呟くシャット。

 こっそりと二人の方を見てみると、今の話が聞こえていたのか、二人してこっちに手を振っている。


「挨拶にいった方がいいのかにゃ?」

「むしろ、行ったら怒られると思うぞ。多分だが、お忍びで来ているんだから」

「えええ、何かあったのですか?」


 俺とシャットのひそひそ話が気になったのか、マリアンも近くに来たので。


「詳しくはシャットに聞いてくれ。俺は飲み物を取って来るので」

「判りましたわ。それでシャットさん、二人で秘密の会話だなんて怪しいですわよ?」


 はいはい、俺はとっとと飲み物を取って来て、そのまま女神さま達の前に並べていく。

 

「ああ、ありがとうございます。普通に酒場でエールを飲むことはあるのですけれど、ここのは格別に美味しいので感動しましたわ」

「私は、このラムネが大好きです。出来るなら、このラムネを神の供物に指定したい所ですが」

「はは、それはご勘弁を」


 ターシュラーさま曰く、神の供物、すなわち神饌(しんせん)として選ばれた食べ物は、それを取ることにより一時的な神の加護を授かるという。

 まさかラムネを飲んで神の加護を得る、なんて事があるとは思っていないからなぁ。

 そう思っていると、レミィさまがこっそりと。


「この店のビール、この中生は神の供物として既に指定されていますわ」

「ええ、そりゃまた、どこの神様で?」


 そんなの聞いていないだが。

 そう思ってレミィさまに問いかけると、にっこりとほほ笑んで答えを返してくれた。


「ああ、そいつはまあ、そうですよねぇ」


 そもそも、うちの生ビールはサッポロのエビスだ。

 つまりは、そういう事らしい。

 そして俺がレミィさん達とこそこそ話をしていると、時折アイリッシュ殿下がチラッチラッとこっちを見ている。

 そして引き攣ったような笑みを一瞬浮かべたと思ったら、何だか穏やかな顔で笑っている。

 ああ、あれはバレたかな。

 ま、お忍びですので、今日の所はお静かに。



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