123話・ティラキート藩王国の顛末・ユウヤの場合(こいつは煮物? 焼き物? 揚げ物?)
ベルタン枢機卿が店にやって来てから、既に一か月。
この間、様々な出来事が起こった。
小さな出来事はアイラ王女殿下に頼まれて、ローゼス王妃がティラキート藩王国へと帰るので最後に晩餐会を催したいという頼み事。
そして大きな出来事は、王都郊外に新たな迷宮が発見された事。
ローゼス王女の為の晩餐会は、いつものように出張越境庵を王城の応接室で開き、神々の宴会と同じように注文を受けて料理を作った。
さすがに王家の方々がメニューから好き勝手に注文するというのはどうかと思ったのだが、どうやら神託がアイラ王女殿下とアイリッシュ王女殿下の二人に下ったらしい。
『神々の晩餐と同じやり方でお願いします』
そう二人の王女殿下に言われると、断るわけにはいかない。
まあ、王様相手に純米酒を注いでいたマリアンはガッチガチになっていたし、料理を運んでいるシャットも緊張していた。
しかし、神様のときはそんなに緊張していなかったのだが、どうして王家主催となると緊張するのかねぇ。むしろ逆なんじゃないかなぁと思ったのだが。
「神様の場合は、何もかもすっとばしてしまいましたから。緊張どころではありませんでしたわ」
「にゃはは。神罰と処刑、どっちが怖いって考えると処刑の方が怖いにゃ。目の前にある危険だにゃ」
「ふぅん、そういうもねのかねぇ……」
ということで、この時の褒美として俺とマリアン、シャットの三人は【王城通行許可証】を入手した。
というか、国王陛下直々に、無理やり渡されたんだよ。
というのも。
………
……
…
『此度の神々の抗争を納めた功績として、ユウヤ・ウドウに伯爵位を授ける』
『あの、できればお断りしたいのですが……』
『いえ、貴方がいなければ、ティラキート藩王国は滅びの路を歩んでいたことでしょう。その功績は、伯爵位だけでは足りません』
『その通り! という事でユウヤ店長は私、アイラの直属の筆頭料理人として召し抱えるわ』
『お姉さま、それは狡いです。私とお姉さま直々の料理人では』
――パーン
この国王と三姉妹の暴走を拍手一つで納めたのが、クリコ王妃さま。
ニコニコと笑顔を振りまきつつ、王女殿下と国王陛下に一言。
『そろそろ。お戯れは止めた方がよろしいかと思いますわ。このままではユウヤ殿に対する報酬が決まりませんので、この私が決定します。ということでユウヤ・ウドウ並びにユウヤの酒場の従業員2名には、王城の自由通行許可証を。加えて王城内で使用している謁見室の一つをユウヤの酒場専用とします。以後、お願いがある時はそちらで行うことにしましょう。という事でよろしいでしょうか』
『い、いや、それでは示しが……』
『では。ユウヤ・ウドウ殿には名誉伯爵位を授けましょう。貴族としての責務も領地の管理も何もない、名誉としての伯爵位です。それならば、貴族の煩わしさもありませんし、他の貴族家からの圧力もないでしょう。何せ、貴族院が与えた名誉爵位ではなく、王家が直接与えたものですから。という事で、面倒かもしれませんが、受けていただけますか?』
………
……
…
という事があってね。
しかも、その場にジ・マクアレンの神威まで降り注ぎ、【今後の為に、受けておいて大丈夫ですよ】というアドバイスまで届いたものだから。
仕方なしに、名誉伯爵位というものを受け取ったよ。
こいつは俺にとって都合の良いもので、貴族院での会議などには出席する必要もない。
貴族主体の晩餐会などでは招待状は届くものの参加についての強制はされず。
あくまでも、『国に貢献した者に与えられる名誉』の一つらしい。
そして王城内に与えられた謁見室だが、なんというか、俺たちが王城に向かうたびに逐一門番が走って連絡するのでは可哀そうだという事もあるらしい。
その結果として、俺がちょくちょく越境庵を開いている応接室は【ユウヤの酒場専用執務室】という名前の看板が掲げられ、いつでもここに来ていい事になった。
というか、体よく越境庵を開く為のお膳立てが整えられてしまったという事だ。
そして、もう一つの大きな問題である【王都郊外の迷宮】について。
王都近郊の荘園領主の荘園内に突如、巨大な空洞が出現した。
直径が約15メートルの大空洞、その壁面には地下へと続く螺旋状の階段のような道が作られていたとか。
しかも、発見から一週間後には迷宮が危険な状態まで活性化、つまり【ダンジョンスタンピード】が発生しそうになったらしい。
そんな中、冒険者組合に登録している冒険者たちが大氾濫を止めるべく次々と迷宮に向かった。
そんな何、特に活躍したのがフランチェスカ率いるクラン【ミルトンダッフル】。
ダンジョンコアとやらを破壊するには至らなかったものの、ダンジョンスタンピードの発生源であるらしい暗黒竜の討伐を成功し、どうにか危機は去ったらしい。
………
……
…
――越境庵
「それで、この肉を食べたいから料理して欲しいっていうのか……」
無事に王都に戻って来たフランチェスカが、夕方、ユウヤの酒場にやってきた。
それも、大量の肉を持って。
「ああ。こいつは今回の大氾濫のボスの暗黒竜の肉さ。こっちが尻尾の付け根、これは足のもも肉の一部。これは胸肉あたりで、これが腕肉、そして翼の付け根と背肉だったかな?」
「……つまり、討伐してきた暗黒竜の肉で料理を作って欲しいって事だよな」
「そういうことさ。とりあえず、一つの部位につき10キルケ(10㎏)ずつ置いていくので、料理出来るかどうか調べて欲しいんだよ。なにせ、亜竜種のドラゴンの肉だったら、王都のレストランでもごくまれに食べることが出来るんだけれどさ。真竜種のドラゴンなんて、一番新しい討伐記録でさえ今から550年前らしいからさ、ということで頼んだよ。食べれるものが出来たら、シャットでも使いに出してくれればいいからさ」
それだけを告げて、ミルトンダッフルの御一行様は店を後にした。
そして残っているのは、店内に溢れんばかりに置いてある肉の入った袋。
部位だけでも20か所ぐらいはあるんじゃないかな、さっきは途中で面倒くさくなって説明を止めていたからな。
「……これはまた……どうしましょうか」
「一旦、俺のアイテムボックスに納めて時間停止処理をしておく。明日からは、夕方にこいつを巧く食べる方法を試してみるさ……という事で、夜営業の仕込みでもするので、二人は休んでいてくれ」
「あいにゃ。尻尾の付け根はスープが取れるにゃ、亜竜種ならそうして食べるにゃ。身は臭くて食べられないにゃ」
「そうですわね。亜竜種の肉は独特な臭みがあるのと、腐敗するのが早いので食用には適していないのです。鱗や骨は素材として優秀なので、狩りの対象としては人気なのですが、それでも犠牲者はでることが多いぐらいですから」
「そしてこいつは、その亜竜種の上って事か。本当に、ややこしいなぁ」
ま、なるようになれだ。
竜の肉を料理するなんて、そうそう経験できないから。
ちょいと本気を出してみますかねぇ。
〇 〇 〇 〇 〇
――翌日・昼営業後
昨日の夜は、ものすごく忙しかった。
まあ、迷宮の大氾濫を食い止めるために戦った冒険者たちが、集めた資源や素材を組合で換金。
さらには依頼料としても莫大な報酬を得る事が出来た為、皆、羽振りが良くなっているとか。
もっとも、大半の冒険者や騎士、傭兵はそんな大金を持ち歩くことはなく、王家の財務官が管理している『公的両替商』に預けているらしい。
つまりは、銀行のようなところに預金しているらしく、若手の独身冒険者のように毎晩飲み歩いているような事はないらしい。
そんなこんなではあるが、やっぱり迷宮の発見で王都に多くの人達が集まっているのは事実であり、大氾濫は食い止めたもののダンジョンは残っているので、今では新しい稼ぎ口の一つとして重宝されているとか。
そりゃあ、うちの営業も忙しくなるっていうものだ。
「さて。それじゃあ肉質の確認と臭みを取る方法を考えてみるか」
そこから試してみない事には始まらないのと、兎にも角にも食べてみないとどうしていいか分からない。
幸いなことに毒性はないらしく、俺の『詳細説明』で確認しても、食べて害がない事は理解出来た。
しっかし、ほんと、こういう能力って意識して使わないと忘れてしまうよなぁ。
便利なんだけれど、もう少し使ってみても罰は当たらないか。
さて、それじゃあ各部位ごとに切ってみて、確認を始めますかねぇ。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




