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【書籍化決定】隠れ居酒屋・越境庵~異世界転移した頑固料理人の物語~  作者: 呑兵衛和尚
王都ヴィターエで、てんやわんや

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115/140

115品目・ちょいと、閉店後に一休み(賄いの味噌ラーメンと炒飯セット)

 聖光教会から戻って来て、その日の夜はいつも通りの営業を行っていた。

 

 特に忙し過ぎる事も無く、常連さん達で客も回転して終わったので、ちょいと早めに店を閉めた後、夜の賄いを準備している。

 ちなみにマリアンとシャットは店内の掃除をしている真っ最中。

 外が秋雨混じりの天気に代わったらしく寝床が少し汚れてしまっているのでね。


「あ、シャット、ちょっと頼みがあるのですけれど、いいですか?」

「ん、何かあったかにゃ?」

「明後日の夕方ですけれど、越境庵を開くので給仕を手伝って欲しいのですわ。私一人では手が足りそうにありませんので」

「んんん、そんなに客が来るのかにゃ? 団体さん予約? まさか王族とか貴族の関係かにゃ?」


 マリアンの説明に、シャットがやや警戒しているが。

 そこまで身構えるほどのものではないよなぁ。


「いえ、今回はちょっと変わったお客様の団体なので」

「ん~、まあ、いつも通りの給仕なら大丈夫だにゃ。でも、粗相をした瞬間に打ち首とかにはならないよにゃぁ?」

「ん~、それは大丈夫ですわよね?」

「それなら構わないにゃ」


 ニコニコと返事しているシャット。 

 まあ、嘘は言ってないんだがねぇ。

 とりあえず、急ぎ賄いの準備でもしますか。

 今日は久しぶりに、というかこっちの世界では初めての味噌ラーメン。

 まずはスープを取る所から……だが、時間が遅いので中華スープの素を使用。

 こいつを水を張った寸胴に入れた後、仕込みに使った野菜クズや肉の端っこなどを纏めて入れて中火でコトコトと煮込み始める。

 

「さて、味噌タネも簡易でいきますか」


 材料は白味噌、塩、化学調味料、砂糖、しょうゆ、おろしニンニク、おろし生姜、ごま油、ラード、一味唐辛子、白ごま……などなど。

 等々の部分は隠し味で、秘伝なのでここでは割愛。

 分量についてだが、白味噌10:塩1:砂糖0.2:醤油2を大きな雪平鍋に入れて、弱火に掛けて混ぜていく。

 化学調味料は好みで、にんにく、しょうがは味噌の1/50ぐらいを目安に。

 全体が馴染んでフツフツとしてきたら、そこにごま油とラード、一味唐辛子、白ごまを投入。


「今日は時間がないので目分量でいくか」


 まあ、最初の白味噌の分量に合わせて1/20程度、一味と白ごまは気持ちで。

 多く入れれば辛みは増すが、癖が強くなる。

 という事で、ここはほんの少量で。

 

「まあ、辛みが足りなければ自分で一味を振ってくれればいいや」


 これで味噌タネは完成。

 正確には、これは『味噌タネの元』といって、ここにさらに色々と加えていって完成するのだが、材料を仕入れていない&分量が足りないということで、今日はここで妥協。

 これでも十分に美味しいのだが、とことん追求する親方がさらに改良を加え続けていたのでね。

 未だ最終形には程遠いとぼやいていたからなぁ。


「スープは弱火に切り替えて。具材は長ネギと叉焼、角煮の煮卵って所か。後は……」


 一通りの具材も用意した後、いよいよ麺を茹で始める。

 そして麺を茹でている最中にどんぶりを用意、熱湯を掛けて熱くしてから、味噌タネをディッシャー(盛り付け器)で掬い、ポンと落としておく。

 ああ、ディッシャーっていうのは、よくアイスクリームを掬うために使われている半円形の金属の道具があるだろう、あれ。

 サイズも色々とあるので、ちょうどラーメン一杯分を掬ったのち、茹でている麺の様子を見る。

 まあ、ぼちぼち上がりそうだと思ったら、スープの入っている寸胴から上澄みの部分を掬い取りどんぶりに注ぐ。

 そして味噌タネを溶かし込んですぐに麺を上げて、ミソスープの中に投下。


「んんん、すっごい美味しそうな匂いだにゃ」

「これは初めて嗅ぐ香りですわ。つまり新作料理ですわね」

「ああ、ぼちぼち出来るから待っててくれ」


 そう言いつつスープの中に落とした麺を軽く解し、仕上げに叉焼と煮卵、長ネギ、麩、メンマを乗せて完成。


――コトッ

「ほら、晩飯が出来たぞ。今日のは味噌ラーメンっていうんだ、今、炒飯もつけるから待っててくれ」


 炒飯は作り置きで我慢して貰おう。

 それをカウンターに並べると、二人は大急ぎで椅子に座った。

 

「んんん、あぶりゃーめんの麺がスープに入っているにゃ?」

「違いますわ、これが本物のラーメンなのですよ。確かユウヤ店長が前に話していたじゃないですか。それにあぶりゃーめんではなく、アブラーメンですよ?」

「うみゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 ああ、マリアンの話を半分に聞いて、早速食べ始めたか。

 そして分かったことは一つ。

 日本人の国民食であるラーメンは、この異世界でも通用するっていう事だな。

 そもそもパスタの原型がある国だ、スープに浸していてもおかしくはあるまい。


「いや、それはおかしいか」

「んんん、今何か話しましたか?」

「別に、ただの一人言だよ」

「そうですか……それにしても、この味噌ラーメンは凄く美味しいですわ。ユウヤ店長の店でしか味わえない味噌、それを濃厚な鳥のスープに溶け込ませ、ゆでたての麺を浸して食べる。鳥の旨味と味噌の甘辛さが程良く溶けていて」

「とってもうみゃあ。ユウヤぁ、炒飯のお代わりが欲しいにゃ」


 はいはい。

 急ぎ盛り付けると、シャットが黙々と食事を続けている。


「ほんと、シャットさんがお代わりするのが納得出来ますわ。この味噌ラーメンと炒飯の組み合わせは最高に合いますわ……何と言いますか、とっても美味しい以上の言葉が出てこなくなってしまいます」

「ユウヤぁ、これは昼には販売しないのかにゃ?」

「昼か……ちょいと難しいなぁ」


 実際の所、作って提供できれば売れるのだろうとは思う。

 パスタがある国だ、10人中10人が満足出来るとまでは言わないが、10人中4人ぐらいは美味いと言ってくれるだろうとは思っている。

 だが、こいつはテイクアウトには不向きだ。

 スープに麺を使っている時点で、熱々の内に食べないと麺が伸びてしまい不味くなってしまう。

 そんな半端なものを売るつもりはないというのが正直な所だろう。


「これは……持ち帰りには厳しい料理ですわね。熱々のうちに食べないと美味しくないのでしょう」

「マリアンの言う通りだ。仮に昼に販売するとしたら、テイクアウトは止めて食堂風に営業しないとならない。そうなるとうちに入れる客数は多くて16人。カウンター8席とテーブル二つで8席だ。そして外には行列が出来るだろうさ」

「でも、仕事の合間には並べないにゃあ……うにゅ、いつでも食べたいにゃ」

「賄いには作ってやるから安心しろ。ということで、これは夜の裏メニューか、〆の一杯ってところだろうさ」


 そんな感じでいいんじゃないかねぇ。


「ユウヤ店長、これも二日後の予約で出せますか?」

「ああ、そのために味噌タネは多めに仕込んであるからな」

「んんん、その二日後の予約って、どこの誰がくるにゃ?」

「ああ、それを説明していなかったか。色々とあって、二日後の越境庵の予約客は、この世界の12柱の神々が来ることになっている」

「……ん?」


 おっと、今一瞬だが、シャットの呆然とした顔の背後に宇宙が見えたんだが。

 まあ、気のせいだろう。


「い、いま、なんて言ったにゃ?」

「ああ、俺のいた世界の言葉で表すと。『お客様は神様です』っていうところか」

「……マリアン、嵌めたにゃ?」

「ユウヤ店長、事情を話していいでしょうか?」

「それは構わんよ」


 ということで、マリアンがシャットに事情を説明してくれた。

 それでどうやら納得したらしく、シャットも腕を組んでウーンウーンと唸り声をあげている。


「当日は、獣人の神様もくるにゃ。これはちゃんとしないと駄目だにゃあ」

「ま、そのあたりは信用しているのでね……と」


――コンコン

 ふと、店の扉を誰かがノックしている。

 閉店の看板は下げてあるので、客ということはないよなぁ。

 そう思っているうちにシャットが扉を開くと。


「おお、やはりユウヤ店長の店であったか。いや、つい先ほど飲みに来たのだが店がもう閉まっていてな。仕方なしに冒険者組合の隣の酒場で飲んでいたのだが、ちょいと小腹が減って来てな」

「それであたしと二人で、何処か空いている食堂でも探しに行くかいって酒場を出たんだけれど、そうしたら、すっごくいい匂いがしてくるじゃない。それで匂いを辿ってきたら、ここだったっていう事なんだけれど」


 グレンガイルさんとフランチェスカさんが、そう話している。

 まあ、ここで帰れというほど、俺は鬼ではないし。

 せっかくなので、二人にも味噌ラーメンを食べて貰って感想でも聞かせて貰いますか。


「まあ、そういうことならカウンターへどうぞ。賄いでよければ作りますよ」

「この匂いが賄いじゃと、頼む、すぐに食べさせてくれ」

「はは、まいどあり。しばしお待ちください」

「ねぇ、シャット。あんたたちの飲んでいるボトルキープっていうやつ、私達も出来るのかい? もう少しだけ飲みたいんだけれどさ」


 はは、何処までいっても飲兵衛っていうことか。

 別に構わないとシャットに告げると、急ぎ棚から鏡月を取り出してフランチェスカの前に置いた。

 その間にマリアンが越境庵にいって氷とグラス・割り材を取って来た。


「おお、こいつはすまないねぇ」

「ユウヤ店長、このボトルキープとやらは、ウイスキーも出来るのか?」

「まあ、グレンさんならそっちの方がいいでしょうね。シャット、奥の棚にウイスキーのボトルがあるので、それを持ってきてくれるか? マリアンは炭酸と氷の用意を」

「「かしこまりましたわ」」


 さて。

 ちょうど麺が茹で上がったので味噌ラーメンと炒飯を仕上げて二人の前に並べていく。

 そしてグレンさんのウヰスキーはサントリーの角瓶。

 うちでも人気があってね。

 それを出したら、フランチェスカとグレンさんが味噌ラーメンを食べ始めた。

 まあ、感想については予想通りというか、なんというか。

 ついでにマリアンたちも二人を見て呑みたくなったらしく、また後で掃除をするっていう事で飲み会が始まった。


 ま、こういう日があってもいいでしょう。

 俺もカウンターの中でのんびりと、たまには一杯ひっかけますか。 

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