111品目・ユウヤの万能薬と、精霊の加護(業務用アイスクリーム)
久しぶりにやってきた王城。
さすがに徒歩での移動となると時間がかかり過ぎてしまうので、ここは一発、俺とマリアン、シャットの3人は自転車(大人用三輪車)で移動する事にした。
作っておいたスープなどは全て厨房倉庫に保存し時間停止処理を行ってある。
俺達の住んでいる第三城塞ウッドフォード地区から、王城のある第一城塞ブラントン地区まで徒歩で行くとなると、それこそ2時間じゃきかないだろうからなぁ。
そんなこんなで、夕方5つの鐘が鳴り響く前に、第一城塞に入り王城正門まで到着。
自転車は色々と聞かれそうなので厨房倉庫経由で事務室に移動させると、そのまま手続きを終えて見た事のある応接室へと案内された。
「うにゅ……凄く綺麗な場所だけれど、やっぱり落ち着かないにゃあ」
「まあ、私達のような市井の民がおいそれと来れる場所ではありませんからね」
「全くだ。まあ、今日は料理を運んで来ただけだから、すぐに帰れるだろうさ」
そんな話をしつつ、侍女たちが持って来てくれた紅茶に舌鼓を打つ。
地球でもめったに飲めるものではない、そんな高級品っぽい味。
まあ、飲んだ瞬間に言葉を失ったぐらいだから、かなり上質なのだろう。
美味しい紅茶を飲むと、やはりお茶請けというか甘いものが欲しくなる。
かといって、ケーキをほいほい取り出すわけにはいかない。
「ユウヤぁ、甘いものが欲しいにゃ」
「そうですわね。この味わいですと、生クリーム系が合うかと思いますわ。でもシャット、流石に王城の謁見室で越境庵の料理を出すというのは、いささが問題があると思いますわ」
「まあ、マリアンのいう通りだからなぁ。今は、この程度で我慢してくれ」
厨房倉庫経由で、アイスクリームストッカーから業務用のアイスクリームを取り出す。これはアイスクリーマーを使って作るタイプではなく、よく業務用の食材を取り扱っている店で売っているタイプ。
大きさもストッカーに入れておくのに丁度良いし、何より味についても天下の〇eiji(〇治)だ、とにかく美味い。
その中からバニラとストロベリー、チョコレートの三色入ったものを取り出し、ガラスの器に盛り付けて出す。
「うにゃ、これは初めて見たにゃあ」
「いや、プリン・ア・ラ・モードとか、ユウヤの酒場のデザートではよく使っている奴だ。原価を考えると、こっちの方が安く提供できるのでね」
「でも、白とピンク、ブラウンと色合いも綺麗ですし。いい香りですわ」
という事で王女殿下たちが来るまで、のんびりとプチ・アフタヌーンティーを楽しんでいると。
――ガチャッ
「遅れてすいません。ちょっと手を離せなかったものでして」
そう告げつつ入って来たのは、宮廷料理人であり総料理長のエドリントさん。
その後ろに数名の料理人も同行しているので、俺が料理を持ってきた事は既に連絡が入っているのだろう。
「いえ、こちらもノンビリとさせてもらっていましたので。では、早速ですが料理をお渡ししますので」
「そうですね、よろしくお願いします」
厨房倉庫から『トマトとチキンのスープ』と『ショートパスタ』の入っている寸胴を取り出してテーブルの上に置く。
するとすぐさまエドリントさんが近寄って蓋を開ける。
「ふうむ。赤い野菜のスープですか。これはトマトをベースに?」
「ええ。トマトとチキンを煮込んだスープです。病み上がりに優しい味ですので、ローゼス王妃の口にも合うかと思いますが」
「そうですね。流行り病ですっかり体力を失ってしまいまして。料理を食べることも出来ず、今では果実をすり潰したものやジュースといったものしか摂ることが出来なかったのですよ」
「そんなにですか……」
そうなると、風邪薬も手渡しておきたいところだが。
どうやって誤魔化せばいいのかと、頭を傾げてしまうが。
「ユウヤ店長。ヘーゼル・ウッド様から頂いた、病を癒すお薬を少し分けて差し上げてはいかがでしょうか?」
「ああ、そうだな……」
マリアン、それはいいアシストだ。
「ほう、ユウヤ店長は、そのようなものをお持ちでしたか」
「ええ、少量しか残っていないので、あまりお渡しできませんが、こちらをお渡ししておきますので、食前に飲ませてあげてください」
取り出したのは風邪薬でも漢方系。
食前に飲むタイプのやつなので、これを飲んで少しでも元気になれば、食事を取って貰えばいい。
マリアンの話では、流行り病に一番よく効いていたのが風邪薬等の総合感冒薬だったらしいので、それを事務室の薬箱から取り出し、10錠ほど紙に包んで手渡す。
一度に二錠ずつ飲むやつだが、恐らくは毒見などで使われるだろうから少し多めに渡しておく。
飲み方なども一通り説明したのち、毒見でしたら王宮付司祭長に確認を取ってくださいとだけつけ加えておいた。
「そうですか……わかりました。これは私が責任をもって司祭長にお渡ししておきます。では、急ぎますので、これで失敬します。すぐに事務官が代金を持ってきますので」
「いえ、代金については王家から頂いた褒賞がありまのすので」
「そう言わずとも、受け取っておけ」
――ガチャッ
突然扉が開き、国王陛下が入って来る。
すぐに跪いたのだが、よいよいと手を振って立つように告げられたので、今はそれに従う事にした。
ちなみにマリアンたちもそれに従って立ち上がったものの、ガクガクと震えている。今日の国王は、何か雰囲気が違うようだ。
「では、お言葉に甘えて受け取らせていただきます」
「そうしてくれ。ジ・マクアレンさまからも、ユウヤには寛大な心で接しなさいと言われているのでな……と、エドリンド、急ぎ司祭長の元へ向かい、ローゼスの元に薬と料理を届けるように」
「かしこまりました、では失礼します」
急ぎエドリントさん達が部屋から出ていったのだが。
国王陛下は、部屋から出る様子がない。
まだ、何か用事があるのだろうかと思っていると、テーブルの上に置いてあるアイスクリームの入った器を指さした。
「……わかりました。ユウヤ殿、これを二つほど、急ぎ用意できるか?」
「は、はい、少々お待ちください」
急ぎアイスクリームを二つ用意してテーブルに並べると、国王陛下が両手を組んで何か祈りを捧げる。
――キィィィィィン
途端、室内の空気が清浄化したような雰囲気が漂い始めた。
『ユウヤさん、この度は色々と手を尽くしていただき、誠にありがとうございます』
聞こえてくるのは、ジ・マクアレンさまの声。
「いえ、自分が出来る事を行っただけです。それが、俺がこの世界に返せる恩だと思っていますので」
『ですが、ユウヤさんには私達からこそ、お礼をする必要があると思っています。ということで、今日は彼女の加護をお渡ししようと思いましたので。それでよろしいですね?』
え、どういう事だと思っていると、テーブルに二人の女性が座っているのに気が付いた。一人は白く輝くローブを着た女性、もう一人は吸い込まれるような黒いローブを着た少女。
その二人が、楽しそうにアイスクリームを食べている。
『あ、初めまして。私はルミエール。光の精霊の長を務めています』
『あたしはマルベック。闇の精霊の長を務めている』
『という事で、ヘーゼル・ウッド様とジ・マクアレン様の召喚に応じ、貴方に加護を授けましょう』
『ついでに、そこの二人にも加護を差し上げます。マリアンには私、ルミエールの加護を』
『シャットには、あたしマルベックの加護を授ける』
そう告げたと思ったら、両手を俺達に差し出して何かを呟いている。
いや、確かに以前、精霊の加護を受けなさいと言われていたけれど。
色々と忙しくて、教会へ向かうことが出来なかったんだよ。
『ええ。あなたが日々、仕事に勤しんでいるのは御柱を通じて見ていましたよ。ですから、此度は流行り病に苦しむ人々を助けたという功績に対して、私達が自ら赴いたという事です。では……またお会いしましょう』
そう告げられた瞬間、室内の雰囲気が変化した。
気付くと国王陛下まで跪き、両手を組んで祈りを捧げていた。
「……という事だ。今の私は、ジ・マクアレンさまの代行という事でここにやってきた。最後に、流行り病の一件が終わったら、また聖域に食事を届けて欲しいとジ・マクアレンさまがおっしゃっていたので、そう従うように……さて、それでは私は戻るとしよう……では、またな」
「はい、ありがとうございます」
「いや、ローゼスを助けてくれた事にも感謝する。また近い内に越境庵を開いてくれると聞いているから、楽しみにしておるぞ」
それだけを告げて、国王陛下は部屋から出ていった。
そして入れ替わりに事務官が室内に入ってくると、今回の報酬として5万メレルを渡されたんだが。
「あ、あたいはマルベックさまの加護が貰えただけで幸せだニャ」
「私もですわ。ルミエールさまの加護なんて、そうそう頂けるものではありませんから」
「そうなのか。それじゃあ、二つとも頂いた俺は特殊なのか?」
「「ユウヤさんですからねぇ……」」
なんだ、その納得感は。
なんだか解せないんだが、まあ、いいか。
という事で帰りも自転車で帰ったのだが、店に戻って来たのが夜の8時。
今から店を開けるというのも始末が悪いので、今日はこのまま休みという事にした。
しっかし……ほんと、いつも見守ってくれてありがとうございます。
ヘーゼル・ウッド様には、感謝の言葉しかありませんよ。




