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【書籍化決定】隠れ居酒屋・越境庵~異世界転移した頑固料理人の物語~  作者: 呑兵衛和尚
王都ヴィターエで、てんやわんや

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109品目・流行り病も吹き飛ぶおかゆ(中華粥と、青梗菜と海鮮の餡掛け)

 第三城塞での流行り病対策。


 基本的には教会で司祭を始めとした聖職者達が行っているのだが、どう考えても手が足りなくなりそうなのは目に見えている。

 それならば、対策方法を知っている俺も一肌脱ぐことにして、越境庵の厨房で栄養のあるものを作ることにした。

 神の加護が得られている食材だから、耐性ぐらいは身に付くらしいからな。


「それじゃあ、始めるとしますかねぇ」


 材料は至って簡単。

 まずはベースとなる粥を仕込む。

 分量の米をまずは研ぐ。

 そして越境庵で一番大きな中華鍋を用意し、そこに研いだ米を入れて火にかける。

 そう、まずは米を軽く炒めてしまう。

 日本風の粥なら、大量の水と生米を火にかけて、コトコトと炊いていくのが普通なんだが、中華風は先に生米に火を通してしまう。とはいっても、完全に火を入れるのではなく、米が透き通る程度でオッケー。

 ここに鶏がらスープを注ぎ、後はゆっくりと中火程度でコトコトと煮込むだけ。

 ちなみに鶏がらスープは市販のものを使用、急ぐのでガラを仕込んでいる余裕が無くてねぇ。

 困った時の業務用粉末っていう事で、今回は勘弁を。


「そして、中華粥を炊いている間に、具を用意しますか」


 用意するのは烏賊とエビ、そして青梗菜。

 イカは下処理をした後、鹿の子に切れ目を入れておく、エビは殻を剥いて背ワタを取り、酒で軽く洗う。

 そして青梗菜は葉の部分と茎の部分をまずは切り分けておき、茎の方は短冊状に切りつけておく。

 葉の方はやや細かく、ざっくりとしたみじん切り程度に。

 そして中華鍋でイカとエビ、青梗菜の茎を炒め、酒と塩、醤油で薄く味を付けたのち、最後に刻んだ葉の部分を加えてざっと混ぜ合わせ、最後は水溶き片栗粉を少し垂らして軽いあんかけ風に仕上げておく。


「おっと、中華粥といえば、忘れちゃいけないよなぁ」


 という事で、続いては『クコの実』を水で戻しておく。

 後は時折、中華粥の様子を見て水が足りなくなってきたら追い水を加える。

 出来るならぬるま湯で、冷たい水だと粥の温度が下がってしまい、粘り気が出始めるので。

 

「……具材は青梗菜と海鮮の餡掛け、クコの実、あとは……」


 玉子焼き……いや、中華粥だから、ここは炒り卵がいいかもしれないが。

 ちょいと卵は別に使うかもしれないので、ここはスタンダートに搾菜を刻む。

 自家製メンマとザーサイは単品メニュー用に仕入れてあったので、急ぎ搾菜を水で塩抜きし、薄く切った後に賽の目に刻んでいく。

 

「……こんな所か。後は多めに仕込んで、炊き出しに使えるようにするだけだな……」


 完成した中華粥と海鮮あんかけを、それぞれ寸胴に移して厨房倉庫(ストレージ)へ。

 時間停止処理をした後、同じ手順を次々と繰り返していると。


――シュンッ

 ホールにシャットが転移して来た。

 それも顔色が悪い、何かあったのか?


「ユウヤぁ……父ちゃんが変な病気になって、ベッドから起きれなくなったにゃぁ。何でも治る薬があったら、分けて欲しいにゃぁ」

「ああ、シャットの家族も流行り病にやられたのか」

「流行り病? それはなんだにゃ?」


 どうやらシャットはまだ、街に蔓延し始めている流行り病については知らなかったらしい。

 だから一旦仕込みの手を止めて、シャットに一通り説明をしたのち、予備で置いてあった別の薬を手渡しておく。

 置き薬の箱の中には、大抵何種類かの風邪薬が入っているのでね。そのうちの流行り病に一番効く奴はマリアンに預けてあるが、うちに来たお客にも分けてあげれるように二番目に効果のあるやつを店に置いてあってね。


「まずは、こいつを飲ませてから、栄養を取ったほうがいい。そうだな、妹さんやお母さんは一緒なのか?」

「病気がうつるとまずいから、宿の一階にある食堂にいるにゃ」

「それなら、妹さんたちだけでも店に連れてきた方がいい。あとは……これを食べさせてやってくれ、うちの料理は流行り病に対して耐性が付けられるからな。あと、宿の主人にもこっそりと話はしておいた方がいい、必要ならその薬を分けてきても構わないから」


 錠剤を少し多めにフリーザーパックに入れて渡すと、ついでに小鍋に出来立ての中華粥を入れて保温バッグにしまっておく。

 これは配達用ではなく、俺が自宅に飯を持って帰る時に使っていたやつ。

 買い物などでも使えて便利だから、店に置きっぱなしにしてあった。


「うにゅ……ありがとうにゃ。それじゃあ、急いで持っていくにゃ、その後で妹たちもここに連れてきていいかにゃ?」

「ユウヤの酒場は開けておくから、そっちに案内しておくといい。ま、教会も色々と手を尽くしてくれているようだから、そんなに長期間化はしないだろうから」

「わかったにゃ、それじゃあいってくるにゃ」


 シャットが鞄を背負って、大急ぎでユウヤの酒場へと転移する。

 さて、俺は引き続き、中華粥を仕込むとしますかねぇ。


 〇 〇 〇 〇 〇


 冥神日の夕方には、ユウヤの酒場を開けて中華粥を振る舞った。

 どうやら教会と王城から各組合などに通達があったらしく、街の中は閑散としている。

 不要不急の外出を控える事、病人が出た場合はすぐに近くの騎士団詰所もしくは教会に連絡を入れる事、そして病人から離れることなどの指示が徹底され始めた。

 とはいえ、飯にありつけなくなる人も大勢いるらしく、そういう人たちにはユウヤの酒場で炊き出しをしているので、元気な奴もしくはうちの常連が飯を取りに来てくれとマリアンか近くの騎士団詰所に連絡を入れてくれた。


――ガヤガヤガヤガヤ

 店の前には、飯を受け取りに来た人たちが並んでいる。

 流石に病人かどうかの区別は俺にはつけられないので、うちで食事を取っている人たちを中心に中華粥と青梗菜と海鮮の炒め物を入れた袋を手渡している。


「はーい、体調が悪い人は、食べ物を受け取ったら急ぎ帰ってくださいね。元気な方は、近所に病人がいるのならその人達の分も持って行ってください!!」

「はい、3人分入っているにゃ、次の方……4人分だにゃ、すぐに用意するにゃ。んんん、酒は無料で配らないにゃ、元気ならとっとと帰るにゃ!!」


 マリアンとシャットに受け渡しを頼み、俺はとにかく盛り付けを続ける。

 シャットの妹達も奥のテーブル席で中華粥を食べているが、どうやら流行り病には掛かっていないようなのでなによりである。

 しかし、シャットの家族のうち、父親だけが発症したっていうのは、どういう事なのだろうか。

 家族全員が家で食事を取っているので、運よく父親以外には耐性が付いていたのか、あるいは……。


「酒か? 食事でついた耐性が酒で洗い流されたとか……いや、単純に、食事量も影響しているのかもしれないねぇ」

「ユウヤぁ、3人前の後で2人前が3つだにゃ」

「あいよっと」


 ま、今は余計なことは考えず、とにかく中華粥を盛り付けることに専念しますか。


………

……

 

 そんなこんなで、夜7つの鐘の鳴ったあたりで、店で販売する分の中華粥は品切れ。

 幸いなことに、ちょうど売り切った辺りで客足も途絶えたので、今日はこの辺りでおしまいとしようか。


「シャット、妹さん達は部屋に泊めても構わないからな。まだ空き部屋があっただろ、倉庫に置いてある予備の布団とかを持って行って構わないからな」

「うにゅ……助かるにゃ。とうちゃんは母ちゃんが見てくれているので、こっちにちびっこ達を預かって欲しいって頼まれていたにゃ」

「「「ありがとうございましゅ」」」

「ん、別に気にする必要はないさ。そろそろ風呂に入って寝る準備でもすればいい。俺は明日以降の仕込みをどうするか考えてから休むからさ」


 そう告げてシャットを見送った後、カウンター席にどっかりと座り込む。

 詳細説明を確認して俺の体調も調べてみたのだが、流行り病に侵された形跡も何もなく健康そのものだった。


「さて……それじゃあ、俺はちょいと出かけてくる。片づけが終わったら、先に休んでいていいからな」

「え、こんな時間にどこにいくのですか?」

「教会まで、中華粥を届けにね。流石に聖職者さんたちも、ずっと神の奇跡とやらを使い続けていれば疲れるだろうからさ」

「では、ご一緒します。私が一緒の方が、話は通りやすいかと思いますので」

「そうか、そいつは助かる」


 ということで、マリアンがシャットに出かける事を告げに行ってから、俺たちは急ぎ近場の教会へと向かっていった。 

 幸いなことに第三城塞にある聖光教会が王都では一番大きいらしく、俺たちが到着してもまだ正面入り口の扉は開けっ放しになっている。

  そして中に入ると、司教を始めとした聖職者たちが、椅子に座ってぐったりしている人々に手を翳し、癒しの魔法を唱えている。


「おお、これはユウヤ殿ではありませんか。本日は聖域に御用でもありましたか?」

「まあ、ようやく時間が取れるようになってきたので、そろそろ精霊の加護の件でお話を伺いたかったのですが。この様子では、もう少し落ち着いてからの方がよろしいですね」

「ええ。此度の流行り病ですが、あと一週間ほどで鎮静化するという神託がありました。では、本日は?」


 ローモンド・スチル大司教が俺を見つけて話しかけてくれたので、話がトントン拍子で進む。

 こいつは助かった。

 ということで、厨房倉庫(ストレージ)から中華粥と海鮮あんかけの入っている寸胴を取り出して、近くのテーブルに載せる。


「こいつは家で作った中華粥です。栄養が尽きますし、なにより神の加護を得ている食材を使っていますので、流行り病に対しての耐性が多少は付くと思います。よろしければ、皆さんで食べてください」


――パァァァァァァァァッ

 そう俺がスチル大司教に説明をすると、天井から虹色の光が注がれ始めた。


「お、おお……ジ・マクアレンさまの御言葉が……はい、畏まりました」

「おっと、これはマクアレンさま。お久しぶりです」

『ええ、ユウヤさんも息災のようで何よりです。ヘーゼル・ウッドの加護を得し食事を届けて頂き、ありがとうございます。この流行り病は、八邪神の一人、エル・ディアブロスが起こしもの、既にかの者の元には、神の御使いが向かっています。もうまもなく終結するでしょう』

「そうでしたか……ありがとうございます。では、近いうちに、お伺いしますので」


 そう言葉を告げると、ふたたび天井が輝き、そして元の様子に戻っていく。

 

「おお……今の御言葉はまさしくジ・マクアレンさま。そうですか、では、こちらはありがたく頂戴いたします。聖職者たちと、教会を訪れた方々に少しずつ振る舞うことにします」

「よろしくおねがいします。では、私はこれで」


 マリアンは別の司祭と話をしていたらしく、運ばれて来た人たちの容態とかを聞いていたらしい。

 幸いなことには死者がいないらしく、俺としてもこのまま終息してくれる事を祈るしかなかった。

 俺は、飯を作る事しか出来ないからねぇ。

 こういう時、魔法により人を癒すことが出来る人たちを羨ましく思ってしまったよ。


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