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【書籍化決定】隠れ居酒屋・越境庵~異世界転移した頑固料理人の物語~  作者: 呑兵衛和尚
王都ヴィターエで、てんやわんや

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107品目・マリアンの友達と、卵料理(親子丼と、病み上がりの鍋焼きうどん)

 ユウヤの酒場で、久しぶりのシャット家の団欒が行われた。


 それにしても、シャットの父親は蟒蛇(うわばみ)のように酒をがぶ飲みしていたなぁ、あれはかなりの酒豪と見た。

 決して酔いつぶれる事なく、ガハハと笑いながら店を後にしたのは大したものだよ。

 そして一番末の妹達は、シャットと離れたくないらしくぐずっていたので、今晩はシャットの部屋にお泊りする事になった。

 

 ちなみにだが、家族が帰って妹たちを寝かしつけた後、伝票を見たシャットが真っ青な顔になっていたのは凄かったなぁ。

 全て従業員割引にしてあげたから、どうにか事無きを得たっていう所だろう。

 シャットには日頃からお世話になっているので、うちもかなり奮発したからなぁ。


「……う~にゅ、父ちゃん恨むにゃ」

「ははは。まあ、たまにはいいんじゃないか。それで、親父さんたちはいつ頃帰るんだ?」

「二週間は、王都で観光を楽しむって話していたにゃ。まあ、それ以外にも仕事があるって話をしていたので、それが全部終わったら帰るみたいだにゃ」

「では、毎晩うちでご飯を?」


 そうマリアンが尋ねると、シャットが全力で頭を左右に振っていた。


「ブルブルブルブル、勘弁してほしいにゃ。あたいの稼ぎが全てなくなってしまうにゃ」

「ははは。まあ、食事程度なら格安で提供するから心配することはない。飲み代については従業員割引でよろしく」

「焼酎のボトルを入れさせるにゃ」


 それがいいと俺も思う。

 ということで、今日も昼営業の準備を開始。

 実はマリアンの提案で、今日から定番メニューを一つ増やすことにした。

 というのも、先日のように俺が全力で丼物を作っていると、客の流れが若干悪くなってしまう。

 ということで、カウンター横にケバブロースターを常駐し、シャットが飲み物とケバブロールを担当することになった。

 これなら、丼以外にも手軽に食べられる料理を選ぶことが出来るので、今まで通りの流れを取り戻せるそうだ。


「それじゃあ、ケバブロールと飲み物はシャットの担当で。マリアンは昨日に引き続き俺のサポート、今日は親子丼のテイクアウトでいこうかと思う」

「親子丼にゃ、リククックの卵だにゃ」

「そういえば、うちで卵料理を食べることが出来るって、あちこちで噂されていましたわ。今朝方も、魔導師組合にライセンスの更新に向かったのですけれど、そこでも色々と質問されまして」

「へぇ……」


 卵料理はこの世界でも一般的には存在するのだが、そもそも養鶏している農家が少ないらしく、新鮮な卵料理を取り扱っている飲食店は王都ではかなり少ないらしい。

 王都近郊の荘園領主の中には卵を専売している貴族がいるらしく、殆どの生みたて卵は第二城塞のレストラン等に卸されているとか。

 ちなみにだが、第三城塞でも卵料理は食べられない事はない。

 冒険者たちの依頼の中には、『スヴェードビショップ』という鳥の卵の捕獲依頼が常設されているらしく、朝一番で大量の卵が運び込まれる事もあるらしい。

 シャットも昔はそれで生計を立てていたらしいが、朝一番で10個ほどの卵を納品する事が出来れば、その週は遊んで生活出来る程だとか。

 

「……という事でですね、ユウヤの酒場の仕入れ先を紹介して欲しいっていう方がいらっしゃいまして。どうしても、新鮮な卵を10個程欲しいそうで」

「はぁ、別に10個程度なら売ってやっても構わないけれど……何に使うんだ?」

「家族が病気らしくて、栄養のある食べ物を食べさせたいとか」

「そういうことなら、越境庵の冷蔵庫から持って行っていい……って、ああ、勝手に開けたくないんだったな」


 マリアンとシャットも越境庵に自由に出入りできるようになったが、二人は独自にルールを作っているらしい。

 越境庵の厨房のものには許可なく手を出さない事、飲み物は実費で、休憩で入るのはいいけれどあまり長時間いないこと……等々。

 特に、冷蔵庫の中のものについては、仕事以外では手を出さないっていう絶対の決まりがあるそうで。

 それぐらいはまあ、当たり前と言えばそうなのだが。

 とにかく明文化する事で徹底しているそうで。


「どれ、ちょいと持ってくるから急ぎ届けて来たらいい」

「ありがとうございます!!」


 ということで、ボウルに10個の卵を持って来てマリアンに手渡すと、急ぎ配達に走っていった。


「さて、それじゃあ俺は親子丼の仕込みをしてしまうので……」

「はいにゃ」


 さて、今日は親子丼。

 使う材料は地鶏のもも肉と長ネギ、蒲鉾、卵といったスタンダードなもの。

 鶏肉は火が通りやすいように薄めの削ぎ切りにしてあり、酒と卸し生姜の絞り汁でさっと洗ってある。

 これで臭みは取れるのと、ちょいと生姜を利かせた方が味が引き締まるのでね。

 親子鍋に鶏もも肉を入れて親子丼のタレを注ぎこみ、火にかける。

 ぐつぐつと肉に火が通ってきたら、ここで細めの拍子切りにしておいた蒲鉾と長ネギを投入、さっと火が通ったあたりで溶き卵を上から回すようにかけたのち、蓋をして10秒待ち火を止める。

 

「さて、熱々ご飯は必須という事で」


 どんぶりにご飯をよそい、そこに親子鍋に仕上がった親子丼の具を掛けて、最後に刻んだ三つ葉を散らして完成。

 先日のかつ丼と同じように、卵が透き通って艶々と輝いている。

 かといって生ではなく、程良い加熱状態にあるっていう感じだな。


「ほらよ、シャット、先に食べちまいな」

「あいにゃ。マリアンの分は、戻って来てから作るのかにゃ?」

「追加で二つ作り終える頃には、帰って来るんじゃないか?」


 そう告げた時、階段の上から毛布を引きずるようにして降りてくるシャットの妹たちを発見。


「あ~、こりゃ、毛布は置いてくるにゃ。先に顔を洗ってきて、それから……」

「二つ、だな、今作るから待っていろ」

「ご飯を食べるにゃ」

「「あ~い」」


 はは、あの毛布は後で洗濯だな。

 ということで妹たちが身支度を終えた辺りで、二人分の親子丼を仕上げてしまう。

 そしてその後でマリアンも戻って来たので急ぎ用意してやると、食べ終わった辺りで昼営業を開始することにした。


………

……


――そして夕方

 昼の営業は、まあまあ。

 先日程の忙しさはなく、むしろケバブロールのおかげで注文が二つに分かれたのが功を成したという所だろう。

 今晩はシャットの両親も店には来ないで宿で食事を取るらしく、シャットとマリアンも今日は久しぶりにお客としてのんびりとするらしい。

 ちなみに昼間の喧騒はどこ吹く風、今日の夜営業は意外と静かである。

 カウンターでは宮廷総料理長のエドリント、噂の食通貴族ブリリアント・サヴァラン、名工グレンガイルといった常連さん達が、のんびりと料理談義に花を咲かせている。


「そういえば、ユウヤ店長。病み上がりに良い食べ物って、何かありますか?」

「病み上がり?」


 マリアンがそう問いかけてきたので、思わず問い返してしまったのだが。

 確か、彼女の知り合いの魔術師の家族が病気だっていう話だったよな。

   

「ええ、昼前に卵を売って貰いましたよね。あれを届けた知人が夕方に来まして、どうやら薬の効果がしっかりと発揮されたそうで、家族が元気を取り戻したそうなのですわ」

「そいつは良かった。ということは、その家族に食べさせたい料理っていうことか?」

「ええ。もしよろしければ教えて欲しいって頼まれましたけれど、料理となりますとユウヤ店長に聞くしかないと思いまして。私はまだ料理については素人ですので、迂闊な事を教えることは出来ないのですわ」


 なるほどねぇ。

 病気明けの食べ物で、栄養豊富なもの。

 そうなると、まずは御粥や雑炊で胃を整えるっていうのがいいんだろうけれど、こっちの世界の病気の治療って、魔法薬を使って病気を癒すらしいからなぁ。

 話では食欲は出てきたらしいから、今日はリゾットのようなものを作って食べさせるらしいが、明日は栄養があるものを食べさせたいっていう話か。


「それじゃあちょいと待っていろ……試しに作ってみるから」


 さて。

 俺の知る限りでは、こいつが一番ベストな料理だよなぁ。

 ということで、まずは一人前用の土鍋を引っ張り出す。

 つぎに材料……厨房倉庫(ストレージ)経由で、ストッカーに保存されている冷凍うどんを引っ張り出しておく。

 そして具材についてだが、スタンダードに長ねぎと茹でたほうれん草、刻んだ油揚げ、エビ、椎茸、かまぼこ、卵といったところだろう。

 この材料を一つ一つ丁寧に用意する、注意するのはエビの下準備。

 殻を剥いて背ワタを取り、さっと茹でておくのが基本だが、ここで茹で過ぎると後で鍋焼きにした時、固くなってしまうので加減が必要。

 丁度火が通った辺り、もしくは殻付きのまま背ワタを取り、炭火で炙っておくというのもあり。


「まあ、下準備に時間はかかるが、後は簡単なんだよなぁ……」


 という事で土鍋にかえし醤油と出汁を張り火にかける。

 ふつふつとして来た辺りで冷凍うどんを入れ、エビ以外の具材を入れて火にかけておく。

 そして再沸騰して来た頃にエビと生卵を割り入れて、蓋をして火にかけておく。

 仕上がり具合は、卵に火が通ったあたり。

 それ以外の具材は全て、最初に沸騰したころに火が通っているのでね。


「そして、うちでは定番のこれを乗せて完成……と」


 そう、うちの定番『鍋焼きうどん』には、麩が入る。

 棒麩を厚さ1センチほどに切り、最後に載せて完成だ。

 熱々のうちにマリアンの席まで運んでいってやる。


「ほら、うちの故郷では、風邪とかを引いた時にはこの『鍋焼きうどん』を食べて栄養を付けているんだが。これでいいのなら明日、マリアンに作り方を教えてやるが」

「はい、よろしくお願いします」

「うにゃ、ユウヤぁ、あたいにもこれ、作って欲しいにゃ」

「あ~、ゴホン、ユウヤ店長、カウンターにもその料理を3人前、頼みたいのだが」

「まいど……と、少々お待ちください」


 急ぎカウンターの中に戻り、都合4人前の準備を開始する。

 そしてふと、マリアンの方を見ると、熱々の鍋焼きうどんをフーフーと吹きつつ食べているのが見える。


「どうだにゃ、おいしいかにゃ?」

「ここ、これは食べやすくておいしいですわ。この麺はパスタではないですし、タリアテッレやラーメンとも違いますわ……ユウヤ店長、これはなんでしょうか?」

「そいつはうどんっていってね。ラーメン、蕎麦、うどん、パスタと、俺の故郷には様々な麵料理があるんだ。まあ、それについても今度、作ってやるので」

「期待して待っているにゃあ」


 はいはい。

 それじゃあ急ぎ、追加の分を作りますかねぇ。

 明日はマリアンに鍋焼きうどんの作り方を教えて、ついでに材料も渡しておきますか。

 鍋焼きうどんは、仕込みさえしっかりと終らせておけば、中々失敗しない料理だからなぁ。

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