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【書籍化決定】隠れ居酒屋・越境庵~異世界転移した頑固料理人の物語~  作者: 呑兵衛和尚
王都ヴィターエで、てんやわんや

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106品目・シャット家の、家庭の事情……っていうほどでもなく(アイスクリームとプリン・ア・ラ・モード)

 夜の営業。


 本日は、奥のテーブル席をシャットの家族で独占して貰った。

 マリアンの話していた通り、シャットの家族は全部で10名、両親とシャット、その妹、ずっと下に更に三つ子の姉妹と、実に女性家族という所である。

 男性は父親一人のみかと思ってたが、実はシャットの上に兄貴たちが3人いるらしく、とっくに成人して独立しているらしい。

 これにはマリアンも初耳だったらしく、目を丸くしている。

 ちなみにそういう事情から、シャットは本日は休み……と話したのだが、せめて自分の家族のテーブルについては、自分で責任をもって給仕するという事でそこだけは任せる事にした。


「さて、とりあえず焼き鳥の盛り合わせ、豚の角煮、炒飯と焼きそば、揚げ物の盛り合わせまでは出したのだが……」

「凄い食欲ですわね……まるでシャットさんが7人もいる感じですわ」

「にゃははは。あたいの家族はみんな、よく食べるにゃ。という事で、飲み物の追加を持っていくにゃ」

「ああ、それは任せるので、伝票も自分で切っておいてくれるか?」

「あいにゃ」


 いそいそと奥の倉庫へと走っていくシャット。

 そこから『合鍵』の能力で越境庵に移動し、ドリンクを用意してくるらしい。

 ほんと、正式な従業員になってからというもの、生ビールの中ジョッキも定番メニューに加えることが出来たので非常に便利である。

 マリアンにしても、純米酒やワインの注文を受けた時、自主的に越境庵に飛んでいっては幾つかのお酒をチョイスして戻って来る。

 ほんと、しっかりした従業員になった事で。


「……う~にゅ。ユウヤぁ、何かこう、がっつりとお腹に溜まる肉料理が欲しいって言われたにゃ」

「がっつりと腹に溜まる……ああ、それならちょいと待っていろ」


 カウンターの端っこに、ケバブロースターと牛もも肉が刺さった金串を用意し、火を着ける。


――ジリジリジリジリ

 ゆっくりと回転を始めたケバブ肉が焼き上がり始める。

 先に周りだけは焼いてあるので、ここからはシャットに任せておくか。


「ほらよ、ナイフとトルティーヤ、サワークリーム、タバスコ……と、大体こんなものだろうさ。あとは大丈夫か?」

「任せるにゃ……って、こら、近寄ると熱いから離れて居るにゃ」

「シャットおねーちゃん、これも食べ物なの~ん」

「何か、いい匂いがするの~ん」

「ボプティもシャルトも少し離れるにゃ、火傷するにゃ」

「はは。シャットお姉さんのいう事を聞くんだぞ、後で美味しいデザートをあげるからな」

「デザート!」


 おっと、これはいかん。

 そっちに気が散ったかな。

 そして焼きあがった端から肉を削り、トルティーヤで巻いてテーブルに運んでいるシャット。

 ほんと、随分と手慣れたものだよなぁ。


「そういえばさ、ユウヤ店長。藩王国に嫁いだ第二王女さまが帰省するっていう話は聞いているかい?」


 そうカウンター越しに話しかけてきたのは、ご存じ冒険者クラン『ミルトンダッフル』のフランチェスカ。その隣では久しぶりに顔を出したグレンガイルさんの姿もある。

 

「へぇ、園遊会の時に戻って来たらよかったのに。それなら藩王と一緒に来れたんじゃないかねぇ」

「それがさ。なんでもちょっとした病気というか、体調を崩してしまったらしくてね。ようやく船旅に耐えられるようになったとかで、急ぎ戻って来たらしいんだよ」

「おお、その話なら、うちにきた冒険者たちも騒いでおったな。大藩王に嫁いだものの、他の妃と仲が良くなかったとか、いじめられておったとか、色々と噂が立っておったぞ」

「へぇ、そいつは色々と大変ですねぇ」


 うん、この手の話に深く踏み込んではいけない。

 そう、俺の直感が警鐘を鳴らしている。

 ただ、帰省理由がいじめとかはあり得ないような気もするので、病気なのかなぁとちょいとは気になってしまう。


「そういえば、グレンさんは最近はご無沙汰でしたけれど、仕事が忙しかったので?」

「うむ。鍛冶組合のほうで、年に一度行われる品評会があるのじゃが。そこの審査を引き受けていてな。流石にわしが打った刀は品評会には出せないのでな、今年はずっと審査員を引き受けておったのじゃよ」

「そうそう、グレン爺さんのロングソード、あれが欲しくて海向こうから来た冒険者もいるっていう話じゃないか……うちも新しいショートソードが欲しいところだけれどねぇ」

「フランチェスカのは、この前、手直ししたばかりじゃろ。まだまだ使えるし、あれだけ手に馴染んでいるのじゃから、新しい武器に持ち変えるとバランスが悪くなるぞ」


 ふぅん。

 品評会ねぇ。

 やっぱり刀剣監査会みたいなものがあるのかねぇ。


「そうそう、それで思い出したんだけれどさ。ユウヤ店長、ちょいと一つ頼まれてくれないかい?」

「はぁ、どんな頼みか分かりませんが、可能なものでしたら」

「今度さ、うちのクランでダンジョン中層の大規模攻略が始まるんだけれど。現地でベースキャンプを設置するんだけれど、どうしても料理人の伝手が無くてねぇ……」

「さすがに、ダンジョンの中まで同行して欲しいっていうのは無理ですよ?」

「違う違う。以前、ウーガ・トダールでサーカス団の団長に頼まれて料理を作っていたじゃないか。あんな感じで、ちょいとうちにも料理を作って欲しいんだよ。出来るなら多めに、そして日持ちをするものがいいんだけれどさ」

「アイテムボックスは、誰か持っているのですか?」


 さすがに、いくら大量の料理を作っても保存状態が悪いと傷んでしまう。

 そして時間停止タイプの効果があるアイテムボックスでないと、多分数日も持たないと思う。


「それが、いないんだよねぇ……うちの団員たちはさ、ユウヤさんを雇ってきて貰えばっていうんだけれど、流石に自分で店を持っている人を長期間も雇うなんて出来ないからさ」

「そうですねぇ……」


 サーカス団のときは、その日のうちに食べて貰うという条件で作っていたので寸胴ごと渡すことが出来た。だが、今回はそうはいかない。

 詳しい話を聞くと、迷宮中層部に一か月ほど滞在して攻略するっていうのだから、本格的な遠征の準備が必要になって来る。

 そうなると、いくら俺が作った料理といっても持って三日。

 最悪、ここから持って行って迷宮入り口に着く頃には傷んでしまう。


「……う~ん、やっぱり難しいですねぇ」

「そうだよねぇ、うん、わかった、この話はここでおしまいという事で」

「時間停止処理が施されているマジックアイテムは、ミルトンダッフルでは保有しておらんのか」

「以前は一つだけあったけれどね。実は前回の遠征時に壊しちゃってさ……あれって、オーバーホルト遊牧国家の古代遺跡以外では発見されていなくてさ。修理するにしても、高位の錬金術師でないと無理らしいからねぇ……さすがに、海向こうにまで行って修理してもらうには、予算が足りないんだよ」

「へぇ、やっばりマジックアイテムっていうのは高価なんですねぇ」


 うちはほら、何かとマリアンが作ってくれるので大変重宝しているんだけれど。

 基本的にマジックアイテムを作れる錬金術師っていうのは希少らしく、マリアンでもそれほど強力なマジックアイテムは作る事が出来ないらしい。


「そりゃそうさ。そもそも、マジックアイテムを制御するために必要な魔導核っていうのがあって、それが入手できないんだよ。そんじょそこらの魔物を討伐しても、手に入る魔石じゃ純度が足りないし。かといって、ドラゴン種やベヒモスといった迷宮中層の支配者クラスの魔物なんて、あたいたちじゃ勝ち目なんてないからさ」

「はぁ、そいつはまた……なんというか、聞いているだけで身震いしてきますね」


 以前、アイリッシュ王女殿下がうちのラムネのビー玉がマジックアイテムに必要不可欠だとか話していたけれど。ここは黙っていた方がよさそうだな。


「ユウヤぁ……うちのチビスケたちが、デザートを食べたいそうだにゃ」

「はいはいっと……シャット、あのアイスクリーマーは使えたか?」


 越境庵の厨房に設置されている、アイスクリームマシーン。

 カップのアイスを機械にセットして抽出するタイプなのだが、確かシャットかマリアンには使い方を教えてあったような気がしたんだが。


「あ、私が使えますわ。では、ちょっとシャットに教えて来ますので、お店を任せてもよろしいでしょうか?」

「ああ、そいつは助かる。それじゃあ頼むわ」

「う~にゅ、いつもすまないにゃ」

「気にすることはありませんわよ、シャットも覚えてくれれば、私の手間も省けますし。何より、こっちの店でもデザートとして使えますので」


 いや、まったくその通りで。

 豊穣季が終わり、今の季節は冥神月の1季。

 マリアン曰く、これから気温が高くなり、ものすごく熱い月神季が間もなく訪れる。

 地球の季節で表現すれば、今が春でまもなく初夏。

 月神季が猛暑の季節という所らしい。

 そんな季節になったらなったで、また新しくメニューを考える必要があるよなぁ。


「ユウヤぁ、これでいいかにゃ」


 奥の倉庫から、シャットが両手にソフトクリームを持ってきた。

 まあ、初めてにしてはいい感じじゃないか?

 マリアンも両手に持っているので、ちょうどシャットを除く子供たちの分は用意できたことになる。


「それじゃあ、あと二つも作って来てくれ、こっちは特製プリン・ア・ラ・モードも用意してやるから」

「最高だにゃ!! では、先にチビスケ達の分だにゃ」

「はい、どうぞ~」

「ありがとにゅ」

「ありがとーにゃ」


 はは。

 子供は遠慮する必要はなし。

 それにしても、シャットから話を聞いていたが、本当に乳製品が大好物なんだなぁ。

 自宅ではチーズも作っていると、さっき親父さんも話をしていてシャット本人がびっくりしていたからな。

 どうやらシャットが実家に仕送りをしているおかげで、実家では鎧牛を数頭、飼育できるようになったとか。そいつから牛乳を搾ることができるらしく、山羊乳のチーズよりも濃厚で大層評判がいいらしい。

  

「さて、それじゃあプリン・ア・ラ・モードでも作りますか……」

「よろしくおねがいするにゃ」

「はいはい、お任せあれっと」


 シャットの家族も暫くは王都に滞在するそうで、たまには顔を出してくれる事になったし。

 家族と離れて暮らしているシャットにとっても、楽しい時間が過ごせそうだ。


いつもお読み頂き、ありがとうございます。


・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。



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