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【書籍化決定】隠れ居酒屋・越境庵~異世界転移した頑固料理人の物語~  作者: 呑兵衛和尚
異世界転生した頑固料理人

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10品目・越境庵のプレ・オープンと旅支度(鳥つくね串と鳥スープと、ぶっかけご飯)

 交易都市の責任者のいやがらせ? にあって、露店を追い出されてしまった。


 まあ、悪質な地上げにあったというか、そんな感じだろうと納得して次の町へと向かう事にした。

 その諸々手続きを行っていたので、同行していたシャットとマリアンは腹ペコ状態。

 とりあえずは二人に食事でもと思い、城壁近くにやって来た。


「な、なあユウヤ、流石に城壁近くでの露店は禁止されているんだぞ? ここで炭とか用意したら憲兵につかまっちまうぞ?」

「まあ、ちょいと待っていろって……厨房へ」


――シュンッ

 一瞬で俺は厨房へ移動する。

 そして店の照明を全てオンにして、暖簾に手を掛ける。


「ん~、ちょっと待て、暖簾が白地のままだと効果は発動しないのか。つまり名前を付ける必要があると……」


 さて、以前の店の名前でも構わないが、あっちは弟が継いでいると思う。

 同じ名前でこっちに店を開くのもなんだし。

 向こうの人間である俺が、異世界で店を開く……。


「ようは、俺は異邦人ってところだからなぁ。国境ではなく世界を越えてやってきた異邦人。ん、越えて来た? ああ、それなら」


 暖簾に軽く触れて、念じてみる。

 すると、頭の中に浮かんでいた文字が綺麗に転写された。


「これでいいのか。それで営業方法は……ああ、準備中モードっていうのがあるのか」


 入り口の部分の内側、つまり店舗内に暖簾を掛ける。

 すると両開き扉が淡く輝いた。


「これでよし。それじゃあ、開けてみますか」


 扉に手を当てて、勢いよく横にスライドする。

 すると、ちょうど目の前で、ビクッと体を震わせたシャットとマリアンの姿が見えた。


「よう、とっとと中に入ってくれ。あまり人目に付きたくないものでな」

「ふぁっ、ユ、ユウヤなのか? これっていったい何なんだ?」

「いいからいいから、とっとと入ってこい」


 そういって手招きすると、二人が恐る恐る店内に入って来る。

 そして素早く扉を閉めて暖簾を外すと、これで外に出現していた扉も消えたらしい。


「……こ、これっていったいなんですか? 見たことのない調度品、知らない文字の看板。ここは本棚のようですが、まったくわからない文字で記されていますし」

「クンクン……ああ、ここってユウヤの露店の本店かにゃ? そんな匂いがするにゃ!!」

「ああ、シャットは察しがいいな。俺はこの中で仕込みをして、そして外に持ち出して露店をしているんだ」


 そう告げてから、適当な場所にでも座って待つように指示をするが、やはり異国の建物の中というのは二人にも興味津々なのだろう。


「ね、ねね、ちょっと中を見ていていいかしら?」

「それは別に構わないが、この厨房と事務室には入るなよ。あとは好きに見ていて構わない」

「ほへー」


 音が無いと味気ないから、レジ横の音響機器のスイッチを入れてBGMも流しておくか。

 まあ、無難なジャズでも流しておけば、問題はないだろう。

 そのまま昨日仕込んだつくね串を炭火で炙り、たれを潜らせて熱々ご飯の上に乗せる。

 鳥スープも温めて味を調えたのち、お盆に乗せてカウンター横のデシャップ台に並べる。


「ほら、賄い飯が出来たから、ここから持って行ってくれ」

「はーい」

「わかったにゃ」


 二人ともデシャップ台まで近寄って来て、お盆を手に席へと戻っていく。

 ついでだから、ホールにあるドリンクサーバーの使い方も教えておいたので、いつでも冷たい水とお湯、そして温冷二種類のお茶が飲めるようになっただろう。


「ふわぁぁぁぁ、知らない魔導具がいっぱいだにゃ」

「これって、王都の上級貴族でも持っていないですわよ……と、ああ、冷めないうちに、でしたわね、いただきます」

「いただきます」


 パン、と手を叩いて食事を始める二人。

 ついでに俺の分も用意して、隣の席でちょっと遅めの昼飯といこうか。


「んんん、このスープ、鶏肉の味がする!! ちょっと胡椒も効いていて、それで美味しい」

「ええ、これはとっても美味しいです。あの……スープのお代わりが欲しいのですけれど」

「ははは。ちょいと待っていろ」


 ちょっと大きめの鍋にスープを取り、温めてからカウンターに持っていく。

 ついでに保温ジャーも並べておくので、ご飯とスープだけなら食べ放題だって説明してやった。


「……んんん、ユウヤ、このご飯にスープを掛けて、ポリッジのようにして食べるのはありかにゃ?」

「ああ、俺の故郷では汁かけご飯っていうんだが。まあ、食べて見な、飛ぶぞ」

「魔法がかかるにゃ?」

「いや、俺が悪かった……飛ばないから安心しろ」


 そのままつくねを食べつくしてから、ご飯を装い鳥スープをぶっかける二人。

 それならフォークで食べるのは無粋なので、レンゲも用意してやる。


「ほら、カウンターに並んでいる調味料を使って味変することもできるからな、かけすぎるなよ、特に塩と醤油は」

「塩……は、この白いブツブツでわかります。醤油……は、この黒いのですか?」

「そういうこと」


 あとは細かく説明してやって、しばし二人の腹が満たされるのをノンビリと待っている。

 今のうちに中の片付けも終わらせておけば、あとは店から外に出るだけ。

 そうして片付けも終わり二人の腹も満たされると、ようやく二人が本題を切り込んできた。


「なあ、ユウヤって魔法使いなのか?」

「いや、料理人だな」

「ただの料理人が、こんなものを持っているはずがありません……けど、まあいいですわ。深く詮索する必要もありませんし」

「そうなのか?」


 興味津々のシャットにたいして、マリアンはいたってクールな対応。


「誰にでも、一つや二つの秘密はあります。その秘密の一端を、ユウヤさんは私たちに教えてくれました。それだけで十分ですので」

「わ、わたしだって信用しているし、ここのことは絶対に話さないからにゃ!!」

「ははは、ありがとうよ」


 まあ、そういう性格だってわかっていたから、二人をここに招待したんだけれどな。


「この店の名前は『越境庵(えっきょうあん)』。俺の故郷とこっちの世界の間にある、異空間居酒屋ってところだ。好きな場所にいつでも店を出すことができるのと、俺は単独でここの店に戻って来て仕込みをすることができる。ていう感じだと思ってくれればいい」


 その説明でシャットとマリアンは成程といった顔で頷いている。 

 さすがは物分かりがいい。


「それじゃあ、領都までの旅の間も、ここで賄いご飯が食べられるっていう事だよな? 最高の旅になりそうだにゃ」

「残念だけど、それは無理だろうなぁ。扉を出せる条件は『壁があること』なんだよ。ほら、そこの扉が開くだけの広さの壁がないと開けられないから、旅の間はここから食材を取りだして、外で料理するしかないが……それでも構わないか?」

「んんん……ん~、大丈夫」

「ええ。それで問題ありませんわ」


 まあ、難しい仕込みの必要なものでなければ、簡単に用意できる。

 なによりも冷蔵庫やストッカーの中では、時間停止処理をしてある総菜が豊富にある。

 それを少しずつ使えば大丈夫だろう。


「よし、それじゃあ、あとは出発の日まで、のんびりとしていればいいな」

「ユウヤの露店がないのは残念だけれど……夕ご飯は、ここで食べたいです」

「そうですわね。わたしはユウヤ店長のご飯でないと満足できませんわ」

「ははは、まあ、その程度ならいいか」


 話し合いはそれで終わり。

 ついでという事で、店内のさまざまな備品などについても興味を持ったらしく、一通り説明することになったのはいうまでもなく。

 二人が満足して帰路に着いたときは、既に日が暮れていた。


 〇 〇 〇 〇 〇


 翌日からは、露店の準備も必要ないのでのんびりと過ごすことにした。

 シャットとマリアンの二人も、冒険者ギルドで簡単な依頼を受けて時間を潰すことにしたようだし、俺も厨房に戻っては色々と仕込みを行うことにしていた。

 そんな感じで宿と厨房に籠り続け、いよいよ明日の正午には隊商交易馬車便(キャラバン)が出るのだが。

 一仕事終えて、宿の食堂で夕食を食べている最中に、来客がやって来た。


「ユウヤ・ウドウさま。ご主人様がお呼びですので、ご同行願いたいのですが」


 身なりのいい執事が、俺を訪ねて来た。

 

「さて、俺を呼んでいるっていうご主人様って、いったいどこのどなたですか? 俺は人に呼び出されるようなことをした記憶はないのですが」

「いえいえ、我が主人であるダイスさまが、貴方と直接交渉をしたいというのですよ。そろそろあなたも限界でしょうと仰っていましたので」

「ああ、そういうことか」


 なるほどねぇ。

 商業ギルドで断られてから、俺が日銭も稼げなくなって厳しい状況になっているとでも思っているのだろうか。

 そもそも、露店を休んだのはたったの3日だ。その程度で生活が厳しくなるなんていう可能性は……多分、こっちの世界ではあるんだろうなぁ。

 

「では、こうお伝えください。『特に困っていることはありませんし、俺の持っている調味料やレシピについては門外不出ですので、どれだけ大金を積まれてもお譲りすることはできません。どうしてもというのなら、この国の国家予算と同額で如何ですか?』と」

「では、どうしても同行いただけないと?」

「ああ。俺はダイスさんの交渉テーブルに着くことはない。それで、今度は力ずくでも連れていくとでも?」


 そう告げると、執事は頭を左右に振る。


「暴力で解決しようなど愚の骨頂です。アードベッグ辺境伯さまの懐でそのような事をした場合、犯罪奴隷に身分が下げられてしまうのがおちです。では、そのようにお伝えしておきましょう……ああそう」


 軽く一礼をして振り向く執事だが。


「私の子供たちが、貴方が販売していたじゃがバターをたいそう気に入っていましてね。明日にも貴方がこの街を離れてしまうのが、非常に残念ですよ」

「へぇ。子供のリクエストなら、しゃーないよなぁ」

 

 しっかりと、俺たちがこの街を離れることまで調べてあるのかよ。

 だが、甘いと思われるが、子供たちが食べたがっていたというのなら満更でもない。

 店の倉庫と直結の厨房倉庫(ストレージ)からアルミホイルとお土産のパックを取り出すと、個人で使っている空間収納(ストレージ)の方から熱々のジャガイモとバターを取り出して詰めてやる。


「ほら、子供たちのお土産にどうぞ……と、勘定はいい、世話になっている宿の食堂で流れの商人が食い物を売っちゃあ駄目だろうからな。あとダイスにもよろしく伝えてくれ」

「ほっほっほっ。ではありがたくいただいておきます。それでは、冒険者さん達にもよろしくとお伝えください」


 そして執事はお土産袋を空間収納(ストレージ)に収納して立ち去っていく。

 うん、俺以外の空間収納って、アイテムボックスとかいうらしい。

 以前、マリアンから教えて貰ったから間違いはない。


「うん……まあ、あれだけ話しておけば、いい加減に諦めるだろうさ。自分の面子を取って、犯罪者になるなんて愚行は犯さないだろうからなぁ」

 

 これが変なフラグでないことを祈るよ。

 さて、とっとと寝て、明日にでも備えるとするか。

いつもお読み頂き、ありがとうございます。


・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。



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