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ヴァイオレット・ステージ  作者: 秋葉缶
7/27

協会所属のアイドル達

注文したものを皆平らげて食後の紅茶、コーヒーが来たと同時にネモが口を開いた。


「では先日ひまり君が対峙したスノウという人物についての所感を述べていこう」


ごくり、とひまりが唾を飲み込む。

冗談抜きで殺されそうになる一歩手前だったのだ。

アレがどういう生命体か気になっていた。


「まず、スノウに限らず最近強大な力を持つ少女が何も無い空間から出現するケースが増えているという事は知っているかな?」


「そうなの!?」


「ニュース見ようよひまりちゃん…」


舞子が若干呆れながら呟いた。


「例えば先日の有明海で爆発があったが、それも戸籍不明の少女が起こした事件だ。そういった『召喚』された少女の事を『ネメシス』と呼んでいる」


「ホラーゲームの敵キャラから取ったんですか?」


呑気に尋ねるひまりに澪は注意する。 


「こらひまり!!」


「いや…ギリシャ神話の神からとっているらしい。いずれも強大な力を持つ少女達だ。

意思疎通はほぼ不可能。まれに人語を話す個体もいるらしいが…。

等級に換算するとB〜A級相当の実力を持つ。過去にはS相当の個体も出てきているらしい」


「S級って…マジですか」


ひまりがドン引きしている。

S級がその気になれば国家転覆ができると言われている。

そんな個体が突然街中で出現でもしたら被害は甚大なものになるだろう。


ネモは続ける。


「で、肝心のスノウだが協会としては等級はS級と認定している。…そしてサファイアも『ネメシス』の一員ではないかと尋問が行われた」


「尋問されちゃいました…」


サファイアが若干疲れた様子で、俯いた。


「けどサファイアちゃんは味方だと思いますよ!私がスノウと戦った時も逃げろって言ってくれたし」


「その話は聞いている。サファイアがネメシスと何らかの関係があるのは間違いないが、奴らの利となる関係性ではないだろうと私も思う。

協会幹部の中にはサファイアを処刑すべきとの声もあったが、会長がそれをやめさせた。

ネメシスと敵対的なサファイアを味方につけた方が利が大きいからね」


「会長……」


澪が興味深そうに呟いた。

アイドル協会会長は名前も顔も表には出てきた事がないからだ。


「話をスノウに戻そう。スノウの外見はサファイアとよく似ている。銀髪に紫の瞳…。

もしかしなくても2人は何らかの血縁関係だと推測できる。姉妹とかね」


「……」


サファイアは神妙な顔でネモの話を聞いている。

姉妹だとすれば殺し合う程の理由は何だったのか、ひまりは気になっていた。


「と、まぁ正直な話スノウについてはまだよく分かってないんだ。けど彼女が『召喚された』という話をしていた以上また地上に姿を現す可能性もゼロではない。

協会としては引き続き調査を続けるつもりだ」

.

.

.


ネモは暗い雰囲気に反して話しやすい女性だった。

三人はすぐに打ち解けて喫茶店で2時間も話し込んでしまった。


「あ…しまった。もうこんな時間か」


ネモがやってしまったという顔でスマホに目を通す。時刻は14時を回っていた。


「すごく遅くなってしまったがひまり君に頼みだ。サファイアと同棲して欲しい」


「「「同棲!?」」」


三人の声が見事に重なる。


「間違えた、同居だ」


「ちょっとネモさん!」


「すまない。真面目な話サファイアには現代の社会的知識も経験もほぼないからな。仲が良さそうな君が色々教えてあげて欲しいんだ。学校という環境で社会を学ばせてあげて欲しい」


「どうすんのひまり」


澪が結果を分かりきったかの様なドヤ顔でひまりに尋ねた。


「もちろん!これからよろしくサファイアちゃん!」


「こ、こちらこそ…」


「良かった。では君の寮にサファイアの荷物一式を送らせよう。生活費は協会が負担させていただく」


「動きが早い!」


支払いを済ませて喫茶店の外に出る五人。



「どうしたんですかネモ。お子さんをゾロゾロと連れて」


紫月(しづき)…」


突然凛々しい声でネモを呼び止める声があった。

ひまりとサファイアはその声に聞き覚えがあった。


「あ、あの時の和服の人だ。紫月っていうんですね」


その人物はひまりが通報をしたときに駆けつけた和服の美女であった。

室内にも関わらず刀を帯刀している。


「あなた達でしたか…。おや?そこの2人どうしました」


紫月がニヤニヤしながらこちらを見ていた。


「え?…って澪ちゃん、舞子ちゃん!何で戦闘体制入ってんの!?」


澪は両腕を構えてファイティングポーズを、舞子はいつでもスキルを発動させられる様に両手を前に突き出していた。


場の空気がピリつく。


澪が紫月に尋ねる。


「笑う状況じゃないと思うけど?あなた随分血の匂いがするね…」


「えっ…」


ひまりがスンスンと紫月に近づき鼻を鳴らすが血の匂いは分からない。

澪は常人と比べて五感が優れているからこそ分かったのだろう。


「失礼、私は戦いが好きなものでつい顔に出てしまいました。あなた達、この腕章を見たことはありますか?」


紫月は左腕に巻かれている黒色の腕章を見せる。

腕章の中心には「1」の文字が刻まれている。


「ないよ」と即答する澪。


すると紫月はやれやれといった様子で口を開く。


「全く…学校は何を教えているんでしょう?これはアイドル協会で1thから9thまで定められている数字です」


「どういう意味の数字?」


澪が構えを解かずに尋ねた。


「戦闘力を表しています。数字が低いほど強い。私は1(ファースト)アイドルと呼ばれています」


それを聞くとひまりが目を見開き驚いた。


「え!?じゃあ紫月さんが協会で1番強いってことですか!?」


「正面から殺し合えば私でしょう。ですが『クラス』持ちのアイドルは一人一人が国家転覆を起こせる戦闘力を持っています。さて、そこのポニーテールの少女。この意味が分かりますか?」


「え、な、何さ」


戦う気だった澪は、紫月が急に講義を始めたため調子を狂わされた。


「私たちは世界の平和を維持するため常に動き続けています。世界大戦後、アイドルの誕生によって諜報や暗殺がかなり容易になりましたからね。ハンムラビ法典の「目には目を」という事で、スキルで平和を乱す者には治安維持のためのアイドルが必要なのです」


「……」


澪は黙って聞いている。


「私たちが血を流す事で、あなた方が平和を享受できているという事をお忘れ無く」


「う…ちょっと喧嘩っ早かったよ」


「そうだね…」


ようやく澪と舞子が警戒体制を解き少し反省した。


「ですが私の血の臭いに警戒できたのは上々です。まだ若いのに優秀だ。名前を聞いても?」


「松浦澪だよ」


「近江舞子です…」


「なるほど、戦闘力も悪くない。精進すれば協会の一員になれるかもしれません。さて…私はそこの喫茶店に入りたいので道を開けていただいても?」


五人は喫茶店の入り口を塞いでいたことに気づき急いで道を開ける。


「失礼、またどこかで」


紫月は一言声をかけると店内に消えていった。


「もーう、2人とも何でいきなり喧嘩売ったの!?」


「ごめんね、ひまりちゃん〜。何かあの人怖くて」


「それで喧嘩売るかい普通!?」


「あはは悪かったって」


ポンポンとひまりの頭を叩き謝罪する澪。

一行はその場から移動した。

少し険しい顔に戻りながら紫月の事を思い出す。


「(それでも何か嫌な感じがするんだよねアイツ…)」


戯れる三人に今まで借りてきた猫の様におとなしかったサファイアが口を開く。


「それにしてもよくお二人ともあんな強そうな方に立ち向かえましたね」


「本当だ、紫月を知っている者が見たら卒倒するだろうな。とはいえ本物の実力者を見ておくのも悪くはなかったと思うよ」


「協会ってどうやって入るんですか?」


興味本位でひまりが尋ねた。


「協会からのヘッドハンティング、それか高校か大学を卒業後の進路先として志願することだな。最低条件はスキル持ちであることだ」


「え…じゃあここに居る人達って全員…」


「スキル持ちだな。事務員から清掃員、小売店の従業員に至るまで全員が何らかのスキルを扱える。ここでテロを起こすのは簡単ではないだろうね」


「ネモさん、アイツはどんな風に協会に入ったのさ」


澪が腕を組みながら質問した。彼女にも紫月の実力が分かっていたのだろう。それ故の興味だった。


「さぁ?」


「え」


「私は高校を卒業してすぐに協会に入ったが、もうその時にはファーストの位置にいたからな。噂では私の親が働いていた時からファーストの位置に居座っているとか…。だからかれこれ数十年いるのかな?」


「えぇ〜あの人20代に見えましたよ!それじゃあ年齢合わなくないですか?」


ひまりが驚きの声を上げる。


「クラス持ちは皆似た様なものだ。一体どういう原理なのか…あまり深入りしない事を薦めるよ」


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