雷果再び
東條学園の生徒は皆なんかしらの組織に属している。
他校に攻め入る「強襲部隊」、「救護班」、情報を盗み出す「諜報部隊」などだ。
自校が攻撃を受けた際は「ガーディアン」が戦闘にあたる。
「このシールドもガーディアンとやらが貼ったのかな」
「さてどうでしょうか…ってサメが来ましたわよ!!」
遠くからホホジロサメに乗った少女がこちらにオートバイ並みの速度で迫って来ていた。
「避けましょう!」
エリノアが提案するが2人の周りに「檻」が出現した。
目の前のサメがいる方向だけご丁寧に開かれている。
「下がってなエリノア」
澪は拳を握りしめて迫り来るサメの鼻に渾身のテレフォンパンチを浴びせた。
ギャアアアア!!とサメが叫びながら校舎に突っ込んでいった。
少女もコンクリートにぶつかり意識を失っている。
すると校舎の上に青色のベストを着た少女が姿を現した。
「フォーメンションB!!」
「【ネラスライム!!!】」
青ベストの少女が号令をかけると別の少女がピンクのスライムを地面に湖の様に張った。
「足が取られるね……!」
スライムは粘着性になっており移動が困難になる。
動きの遅くなった2人の周りから生徒が出てきて一斉に遠距離攻撃型のスキルが浴びせられる。
「【ヴォルテックス•ディヴァイン】」
エリノアの十八番のスキルでその全てを薙ぎ払った。
青ベストの少女は感心した様に「ほう」と呟いた。
スライムは時間制限があるのか一瞬で消滅した。
少女は2人の目の前に着地し自己紹介を始めた。
「私はガーディアンのリーダー三園真。そのスキルは津島家のエリノアさんのものですね」
自分を知っている人物が東條学園にいたことに驚くエリノア。
「そうですわよ。よくご存知で」
「津島家として我が校に攻め入っているわけでもなさそうだ。何が目的ですか」
「私の友人を傷つけた理由を伺いにきました」
「それにしては随分方法が荒い。私怨が混じってるのでは?」
「混じっているに決まっているでしょう!!」
エリノアは叫びながら【ヴォルテックス・ディヴァイン】を三園にぶつけようとする。
三園は迫り来る龍に怯える事もなく躱し、エリノアに爆速で近づく。
「(接近戦ですか……!?)」
自身の必殺があっさり躱されると思っていなかったのか反応に遅れるエリノア。
しかし澪がエリノアの前に割り込み三園のパンチを左手で受け止めた。
「………!」
三園はパンチを片手で受け止める澪に驚きすぐ身を引こうとする……が。
「逃がさないよ」
ミシミシ…と音が鳴るほどに拳を握りしめられて引き剥がせない。
「(なんて握力だ!!!)」
「オラァァぁ!!!!!!」
ボゴォ!!と澪の右ストレートパンチが三園の顔面に突き刺さる。
鼻骨が割れてビキ、という音と共に校舎の2階までガラスを突き破り殴り飛ばされる三園。
「助かりました」
礼をいうエリノアだが澪はまだ警戒を解いていない。
「エリノアは周りの雑魚を狩って。私は今の三園とかいうやつを相手にするから」
「え…今ので倒したのでは」
ドォォォォン!!!と校庭にひびを入れながら三園が再び着地した。
「第二ラウンドだね三園さん?」
「第一ラウンドすら終わってないんですよぉぉぉぉぉ!!!!!」
先ほどまでの冷静さはどこへやら、鬼の形相で澪に走り出す三園だった。
「ちょっと何で戦闘に参加させてくれないの」
雷果は教室から出ようとしたところ、墨染の「お札」の力でドアをロックされてしまった。
「様子見は大事やん?ウチらが出るんはガーディアンがやられてからやろ。しかも今校内でS級はウチら2人しかおらんねんで」
「ビビりすぎ。正直2人とも私1人で相手できる」
「あの青ポニーテールの子はかなり強いで。追い詰められるほど強くなるタイプや…まぁいいやん後で戦えるねんし今はティータイムしとこうや」
「ちっ……」
「「おおおおおお!!!!」」
広大な学園を縦横無尽に走り回りながら殴り合いを行う澪と三園。
澪の左アッパーが三園の顎にクリーンヒットする。
「がっ!!!」
よろめく三園に距離を詰め、前蹴りで校舎の壁に蹴り飛ばした。
校舎にはヒビが入り三園が磔刑のポーズでめり込む。
澪は助走をつけドロップキックで顔面を再び蹴り飛ばす。
校舎の壁は崩れて2人は中の教室に移動した。
倒れる三園に馬乗りになる澪。
そのまま情け容赦なく両の拳を固めて顔面を殴り続ける。
「ぶっ…!がふっ………!」
次第に三園は動かなくなった。
顔面は鼻血でぐちゃぐちゃになっていた。
「……」
澪はゆっくり立ち上がり踵を返す。
シュ〜〜〜………
三園の体から白い煙が出始め一瞬のうちに傷が治癒した事に彼女は気づかなかった。
澪の後ろから飛びつきチョークスリーパーをかける三園。
「なっ……あんたっ……」
「私のスキルは【黄泉がえり】。戦闘継続困難な傷を負った時に完全回復するスキルです」
「ぐ…がふ……」
頸動脈を絞められ、意識が飛びそうになる澪。
なんとかスキル【肉体強化】を発動させる。
「っ!!!!」
澪は三園を背負ったまま校舎を駆け上がった。
そしてそのまま地面に落下する。
頭の位置は三園の方が高いのでこのまま落ちると三園に衝撃が加わる。
「ちっ!!」
地面に落ちる前に澪の体から離れて体勢を整えた。
「やるじゃん。便利なスキルだね」
澪は三園を褒めるが、三園の顔は曇っていた。
「(何者ですかこの女は…。相手のスキルはおそらく筋力を単に上げるもの。この女を倒すのが先か私の再生が終わるのが先かですね)」
「なにぼ〜としてんのさっ!!!!」
澪がミサイルの様に三園に突っ込む。
サファイアに使ったタックルの体勢だ。
ガシャン!と澪の進行方向の先に先ほどの「檻」が出現した。
しかしそれを豆腐の様に破壊して三園に迫る。
「なっ!!」
驚く三園だがもう遅い。
気づけば澪が目の前にいた。
ドゴォ!!と真正面からぶつかってしまい、三園の体が宙を舞う。
地面に倒れる三園に追撃を加えようとするが他の「ガーディアン」のメンバーが触手を澪の手に絡ませて動きを止めた。
「邪魔だよぉ!!!」
澪は触手をひっぱり、所有者のアイドルを自身に引き寄せ殴り飛ばした。
バキッ!!と嫌な音が響きその少女は動かなくなった。
すかさず傍から斧を持った双子が澪の左右から首を落とすべくスイングする。
ギィン!!と人肉に当たったとは思えない音が響き、なんと振るった斧の方が折れてしまった。
驚く双子の髪をそれぞれ掴み、互いの顔面を思い切りぶつける澪。
「ごばっ…」と血を流しながら2人とも地面にくずれ落ちる。
まさに鬼神のようだった。
「この…化け物がァ!!!」
体勢を整えた三園が飛び蹴りを仕掛けてくるが、澪は彼女の足を片手で掴みヌンチャクの様に振り回し校舎に投げつけた。
ボゴォォ!!!とコンクリートが崩れる音と共に、三園は胃液を吐きながら戦闘不能になる。
しかし三園と入れ替わる様に雷を身に纏う1人の少女が中から飛び出してきた。
澪はその人物に見覚えがあった。
「久しぶりだね澪ちゃぁぁぁぁぁん!!!!!!」
「お前は…雷果ァァァァ!!!!!」
秋葉原での因縁が再開した。
一方のエリノアはガーディアンの面々を数十人相手に善戦していた。
【ヴォルテックス・ディヴァイン】は一度瀕死にさせられたが再び復活し、学園内を飛行していた。
エリノア自身もスキルで空を飛んで辺りを見渡している。
「正直思っていたほどではないですわね……」
東條学園といえどもA級が何人もいるわけではないのだろう。
エリノアを攻撃するアイドル達は大体C〜B級で火力でゴリ押しすることができていた。
しかし澪の加勢に行こうとした瞬間、数百m離れた場所から青色の炎がエリノア目掛けて噴射された。
【ヴォルテックス•ディヴァイン】を防御に回すが圧倒的な破壊力によりその場から動けなくなる。
「この威力は…!!」
数秒後、炎の攻撃は止み、それが飛んできた方向から一体のドラゴンが大きな翼音と共にこちらに向かってきた。
背中には灰色髪のボサボサヘアスタイルのアイドルが乗っている。
「僕はA級アイドルのアイオラ!!スキルは【ワイバーン】。ガーディアンの副リーダーを務めてるよ。同じA級のエリノアさんとは戦ってみたかったんだ!よろしくね」
「随分侵入者に対して礼儀正しいのですね。良いでしょう互いにA級に恥じぬ戦いを!!」
エリノアは【ヴォルテックス•ディヴァイン】から雷の雷撃波を放った。
「【アクア】!!!!」
アイオラが叫ぶと再び【ワイバーン】から青の炎が噴射された。
互いの攻撃がぶつかり合い周りの建物のガラスを全て破壊した。
「威力は互角ですわね!ですがスピードでは私が圧倒的に上ですわ!」
雷龍が【ワイバーン】の後ろに回り込み体当たりを喰らわそうとした。
しかし、見えない壁に阻まれアイオワにまで届かない。
「速いねー!!」
エリノアも自身のスキル【雷電槍撃】でアイオラを狙った。
しかし再びシールドに阻まれてしまう。
「複数のスキルを扱えるのですね…!」
「うん。僕のスキルは【ワイバーン】を召喚するものだけど、【ワイバーン】自身がブレスと防御を兼ね備えているからね。簡単には破れないよ!……てか君もそのかっこいい龍と雷使ってるじゃん」
「わたくしは【ヴォルテックス・ディヴァイン】の発する雷を自身でも扱えるだけですわ。槍やボールも全て雷の派生ですから」
「うーん、一緒じゃないの?まーいっか。【ワイバーン】!!!!」
再び青色の炎が襲いかかる。
先ほどと違い炎を直線ではなく、渦状に吐き出すことで防御を困難にさせる。
しかも今はエリノアと雷竜の位置が離れているため、自身の機動力で避け切るしかない。
エリノアは全神経を集中させて炎と対峙する。
「(あのシールドを何とかしない限りはダメですわね…)」
「ほらほら!逃げているだけかい!?」
逃げるエリノアにワイバーンで追いながら攻撃し続けるアイオラ。
雷龍を呼び寄せ、同じく雷の放電で対抗する。
互角の様に見える戦いだが、破壊力が互角な以上シールドがないエリノアは徐々に追い詰められていた。
「(なんとしても突破口をみつけませんと…!)」
エリノアは雷龍の雷を帯びたタックルで再びシールドを破壊しようとするが真正面から弾かれる。
「【アクア】!!!!」
「くっ!!!」
度重なる炎を浴び続けた【ヴォルテックス・ディヴァイン】は地に落ちた。
「雷龍!!」
「終わりだね!!」
【ワイバーン】が生身のエリノアに突っ込んできたが、紙一重で避ける。
避けた際、彼女は間近でアイオラの顔を視認した。
手入れのしていないボサボサ髪だが容姿は良さそうだ。
しかしエリノアはその考えをすぐ横にしまい、彼女のある部分に注目した。
「傷がある……?」
アイオラの頬には複数の刺し傷があった。
何か細かく鋭いものが刺さった後。エリノアが負わせた覚えは無かった。
今までの攻防を振り返る。
「……試してみましょうか」
エリノアは【プラズマ・ボール】を3つ出現させ【ワイバーン】に飛ばした。
「そんなもん効くわけないじゃん!」
当然ながらシールドに阻まれ、三つとも霧散する。
「(やはり……)」
彼女は何かを確信した顔をし、できるだけ【ワイバーン】から距離を離す。
雷を足に纏い広い演習場を飛び回った。
東條学園には様々なフィールドがあり、今エリノア達は校舎から雑木林に覆われた場所に移動していた。
残り体力を気にすることなく自身の雷を派手に放出させる。
「そんな乱雑な攻撃では私に勝てないよ」
アイオラは【ワイバーン】でエリノアにトドメを刺すべく執拗に追い続けた。
しかしあたり構わず放電する彼女はアイオラの気づかぬうちに【プラズマ・ボール】を【ワイバーン】の裏に紛れ込ませていた。
「トドメと行こうか!!!」
再び【アクア】がエリノアに襲いかかるが、発射直後に【プラズマ・ボール】がアイオラの首に命中した。
「がっ!!!!」
感電した様に体を硬直させ地面に落ちていくアイオワ。
【ワイバーン】は消失した。
「【ワイバーン】が炎を吐いている間はシールドが使えない。その頬の傷は私と撃ち合いをした時のガラスの破片でついたものでしょう。とてもシンプルな謎でしたわね」
気を失っているアイオラに疲れた様子で伝えるエリノアだった。




