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ヴァイオレット・ステージ  作者: 秋葉缶
24/27

フィーリア

「よっし!今日は午前の会議が終わったら静岡に帰れるよ、最後まで頑張ろう!」


「「おー!」」


時刻は午前8時。

メイメイの掛け声に2人は元気よく気合いを入れる。

二日目は京都市役所で会議が行われるようだ。


朝食を摂った後、護衛の任が再び開始された。


AM10:00


「ふぁ……」


ひまりが大きくあくびをする。

Cチームは市役所の隣にある大きなホテルの前で待機していた。


目の前の道路の真ん中には「アイレイク」という噴水があり、ひまり達はボ〜ッと眺めていた。


「早く終わらないかな〜」

.

.

.


「ではこれで会議を終わります。皆様お疲れ様でした」



ひまりの期待通り、パイプオルガンの演奏でもできそうな広い会議室で議長が終了を告げた。


「ふー、やっと終わりましたね」


メイド姿の市長、樋口は大きく伸びをした。

そんな行動を鬼無は咎める。


「背伸びしない!…では静岡に戻りましょう。根室さん、会議が終わった事を全チームに報告してください」


「分かりました。…あれ?」


「どうしました?」


スマホを持ったまま戸惑う部下を不審に思い尋ねる鬼無。


「何故でしょう、電波が入らないのですが」


「なら私が…あれ、私もだ」


鬼無は自分のスマホに目を通すと電波が立っていなかった。

よく見たら周りのお偉いさん方も通信機器が使えなくなっているようだ。


「電波障害ってやつですか?」


キョトンとしながら市長が疑問を口にした。

しかし鬼無は疑問に思った。なぜなら、この場所には100人以上の人が会議に出席している。


電波障害は大手キャリアの何らかのトラブルで引き起こされるものだ。

電波は大手の3キャリアで独占しているため、どこか一つの会社がトラブルを起こしても残り二つのキャリアの携帯を使っているユーザーは問題がないはずである。


100人もいれば流石にユーザーが3キャリア別れるはずだが、見たところ全員電波障害をきたしているようである。



「(そんな事あるのか?それともこれは…)」



ガチャン……



そんな時会議室中心に鍵を開けるような音が不気味に鳴り響いた。

直後に空間が裂け、中から1人の少女が出てきた。


いや、人というよりは獣のような獰猛さが顔に滲み出ている。

肌は褐色。白髪のデコを出したショートヘア。

胸と下半身に紅い布を巻いただけの肌の露出が多いファッションだ。

身長はサファイアと同じくらいで低い部類に入るだろう。

首には呪詛のような文字が書かれた紙を巻いていた。


そいつは市長を見るなり一言。


「ターゲットドンピシャじゃん」


ニタっと笑い、二本指に空気を纏いながら市長に振りかざす。

ズ、バァァァァァァン!!!!!!と軍事施設でも落とせそうな一撃を生身の人間に振るう。


だが襲撃者が望んだ悲劇は生まれなかった。


「あ?」


「ごふっ……」


護衛の1人が自らに防御スキルを纏い、市長の前に出て肉壁になったからだ。

右腕は吹き飛び、上半身と下半身がかろうじて繋がっていたが、大量の血を吐いて即死した。


空気の斬撃は死んだ護衛の後ろの壁を貫通しており、技の威力を物語っていた。


「きゃああああああ!!!!」


周りの人間は意図しないネメシスの襲撃にパニックになり悲鳴を上げていた。


鬼無も取り乱しそうな自分を何とか律して部下に指示を飛ばす。



「根室!!!私とアイツ以外の市役所にいる全員を外に出して!!!!!」


「け、けど……鬼無さんは」


「早く!!!このままじゃ全員死ぬよ!!!!!」


鬼無の部下は「分かりました!」と恐怖で声を震わせながら返事してスキルを発動した。


直後白い光が施設全体を包み、広い舞台には謎の襲撃者と鬼無のみが取り残された。


「大した根性だ。俺を相手にタイマンで挑むなんてな」


少女はクックックと楽しそうに笑った。


「お前は…いや、お前らは何なんだ!?」


いつもの彼女らしからぬ感情の爆発。

市長が狙われた事、部下が死んだ事の両方で怒りが恐怖を凌駕した。


「俺の名前はフィーリア。市長とやらを殺すように言われて遊びに来た」


「フィーリア…」


鬼無は思い出す。

約1週間前に起きた富士川海岸付近で暴れたネメシスの名前を。


「お前か……」


ギリ、と歯を食いしばりフィーリアを睨む鬼無。

フィーリアはニヤニヤしながら再び二本指を振りかざす。


「っ!!!!」


間一髪で躱わす鬼無。

今度は斬撃が幾つもの壁を貫通し天井まで崩壊し始めた。


「【オーダー・リボルバ】」


鬼無がスキル名を告げると彼女の両手に銀色のリボルバーが出現した。

それを見たフィーリアは酷薄に笑う。


「いいぞ!俺を殺して見せろ!!」


「言われなくてもだよ」


鬼無は右手に握ったリボルバーの引き金を引いた。

フィーリアに向けてではなく、真上に。


「あ…?」


意図が分からず放たれた銃弾の先を見るフィーリア。


「どこ見てるの?」


「!!」


気づけば自分の真横に鬼無が移動しており、フィーリアに銃口を向けていた。

今度は左のリボルバーで。


バァンバァンバァン!!!!!と三発の銃弾を容赦なく発砲する。

通常のリボルバーと違い、弾薬と炎がレーザー状に同時に発射される。


温度にして約3000度。

熱ですら余裕で溶かす彼女のスキルは人体に撃っていいものではない。


しかし今回の相手は人外、それも多数の人間を殺している『ネメシス』である以上躊躇う必要は無かった。


「おおっ!?」


直に【オーダー•リボルバ】の攻撃を受け、フィーリアは咄嗟に両腕をクロスさせ防御の姿勢を取る。


「ははははは!!中々やるじゃねぇか」


直撃を浴びたにも関わらずフィーリアは無傷だった。

鬼無は「ちっ…」と舌打ちした後右のリボルバーの引き金を引こうとする。


「逃がすかよ」


 フィーリアは今度は足に風を纏わせサッカーボールを蹴る動作で斬撃を飛ばした。


指とは比べ物にならない威力で市役所を破壊するが鬼無には当たらなかった。


ギリギリでスキルが発動し、フィーリアの死角となる場所に瞬間移動したからだ。


「(直撃でも傷一つ負わないのか…)」


「そのリボルバー。左が攻撃用、右が瞬間移動用って感じか」


「まぁバカでもわかるよね」


「はっ!チンケな能力だなぁ。その程度の能力、東條学園にはウヨウヨいたぜぇ!?」


「東條学園…?お前はそこに飼われているのか」


フィーリアは右の手のひらを前に突き出した。


それと同時にゴバッ!!と砲弾のような空気弾が発射され、壁、天井を全て破壊し市役所の外まで到達した。

鬼無に当てる気はなかったのか空気弾は彼女の真上を通過したが、余波だけで身動きが取れない程の一撃だった。


「言葉には気をつけろよ根暗女、俺は本来の自分の武器『フワワ』を探すためにアイツらに協力してんだよ」


「随分と可愛い名前だね。あなたの容姿そっくり」


ピキピキ……、とフィーリアの体全体に黒色の紋様が浮かび上がる。

彼女の周りには時空が歪んでいるかのようなオーラが吹き出し、触ってもないのに壁や床に亀裂が走った。


「お前はやっぱり面白ぇわ。何でそんな弱いのに俺を挑発すんだろうなぁ」


「……」


鬼無は様子の変わったフィーリアを真っ直ぐ見据える。


「お前何か隠してんだろ。ティアマトの奴らみたいなスキルのさらに先の能力が使えるとか」


「良い情報ありがとう。ティアマトもこれが使えるのか」


「っ!!!」


鬼無の体から先酷の戦闘の10倍以上のエネルギーを感じ、フィーリアは目を見開く。

彼女の周囲にバチッバチッと白い稲妻が迸る。


フィーリアは咄嗟に後方数メートルの距離をバク転でとった。



「『天衣偶像』」



カッ!!!と鬼無の体が白く眩い光に覆われる。

先ほどまで着用していた協会指定の制服が消失し、代わりにアイドルのライブで着るような青色と白色でコーティングされたフリフリのドレスが自動的に着用された。



「【スモア・バレット】」



再び言葉を告げると鬼無とフィーリアの中心から白色のドームが形成された。

ドーム内の広さは半径200m程で、中から外の様子は全く分からない。

周りの景色全て白しかない神秘的な空間だ。


実際にはドームの大きさは会議室の内部で収まっていたのだが、内部は物理法則に反して拡張されていた。



フィーリアは満足そうに腕を組んだ。



「『天衣偶像』……たしかアイドルのスキルの一歩先の段階だったな。数百人に1人しか使えないと聞いていたがティアマトのメンバー以外でお目にかかったのは初だ。…だがこんなマシュマロみたいな空間に閉じ込めるだけじゃ勝てねぇぞ?」


「余裕ぶってていいの?」


直後、ドームの内部全体を覆う程のマスケット銃が出現しフィーリアに一斉に火を吹いた。


「はっ!!!!」


フィーリアは目にも止まらぬ速さで回避して、そのまま鬼無に爆速で突っ込む。

走りながら先ほど放った空気弾を笑いながら発射した。


だが放った直後、鬼無の姿が消える。


「なに!?」


再びマスケット銃の雨が降り注ぐ。

ドドドドドドドドドドドド!!!!!!と1発でも戦車を破壊できる銃弾が万を超えてフィーリアの全身に浴びせられる。


「っ!!!」


頭、腕、足、脇腹…全身に銃弾が命中することで、子供が操り人形を振り回して遊んだかのように彼女の体が踊り狂う。

フィーリアは咄嗟に左腕を横に突き出して空気を噴射する。

銃弾の雨から逃れようと思ったのだろうが、移動した先でも集中砲火を浴びた。


「(ちっ、アイツはどこ行きやがった……)」


顔を庇い、攻撃に耐えながら目視で鬼無を探すが見当たらない。


「(私を探しても無駄だよ)」


鬼無はドームの天井に重力を無視して逆さに二本足で立っていた。


「(私の『覚醒スキル』はドームに相手を閉じ込めて多量のマスケット銃で集中砲火するもの。私自身はマスケット銃が当たっても効果がない上、ドーム内部であれば重力を無視して何処にでも移動できる)」


「うぜぇんだよ!!!!」


フィーリアは怒鳴りながら手刀で斬撃を飛ばしてドームを攻撃するが表面が少し剥がれるだけで破壊する事はできなかった。


「(無駄無駄。私の覚醒スキルの1番のポイントは防御力。このドームは以前小型核の爆発にも耐え抜いたんだから)」


生半可な威力では壊せないと思ったのかフィーリアは再び爆速でドーム中を走り回った。

ダンスのように銃弾を避けながら思考を巡らせる。


もう彼女は鬼無がドーム中を自由に移動できることを見抜いていた。

だから考えたのだ。鬼無を殺して出るか、ドームを破壊するか。


「両方だな…」


ニヤッと笑ったかと思えばその場で足を止めてしまう。


「何考えてるの…?」


フィーリアは立ち止まったことにより【スモア•バレット】の餌食になる。

銃弾を浴び続ける彼女にずっと鬼無は違和感を覚えていた。


鬼無の『天衣偶像』で発射される弾丸は一発一発が何棟もの建物を貫通し破壊し尽くす威力を秘めている。そんなものを何発も生身で喰らえばサファイアであっても死は免れない。


しかし目の前のネメシスはもう軽く数万

発はその身で浴びているだろう。


だというのに流血は愚かかすり傷一つない。


「(何か種があるの?あの体にできた模様が原因かな)」


フィーリアが発現させた黒い紋様に鍵があるのではと勘繰る鬼無。

そんな時、今まで攻撃されるがままだったフィーリアが両手で祈るように指を組む。

まるで敬虔なシスターが神に祈るように。



「【ニル】」



ゴァッ!!!とフィーリアの能力で無数の斬撃が繰り出される。

今までの攻撃の比ではない。

分子まで切り裂けそうな鋭利な攻撃がドーム全体に襲いかかる。


「ちっ!!!」


鬼無は舌打ちしながらドーム内を移動し、回避行動を取る。

しかし【ニル】はフィーリアを中心とした360度の範囲をカバーしており逃げ場がない。


全感覚を集中させてドームの内部を移動する。

フィーリアに充てていたマスケット銃を防御に回す。


斬撃はドームの壁にぶつかるが一発ではかすり傷程度しか与えられない。

しかし、それが万を超える斬撃ならどうか。


バキバキバキ、と【スモア•バレット】に亀裂が入り始めた。


【ニル】の攻撃は止むことなく数十秒続く。


「最悪……」


鬼無がボソッと呟いた直後、【スモア•バレット】が崩壊した。

ボロボロと崩れ落ちるドームの下でフィーリアは口を開く。


「よく生き延びたな…お前は弱くは無かった、けど相性ってもんがあるんだよ。普通の『アイドル』とか呼ばれてる連中じゃどんなスキルでも俺の命には届かない」


「ティアマトなら別なのかな」


疲れ切って、もう死を覚悟した諦めの表情で尋ねる。


「俺が『フワワ』を取り戻したら相手にもならねぇだろうがな。さて…そろそろあの世へ行くか?」


ザッ…とフィーリアが立ち尽くす鬼無に歩を進めていく。


「(あーあ、もっとひまりさんとゲームしたかったな…。アキバで一緒にレトロゲーム屋とか周りたかったのに…)」


死の際に自分がやりたかったことを思い返す鬼無。




「鬼無さーーーーん!!!!!!!!!」




件の彼女の何度も聞いた声が遠くから響いてきた。


「なんだ?」


あまりの声量にフィーリアですら声の発生源に目を向ける。


「鬼無さんから離れなさい、おチビさん!!!」


遠くにいたひまりが【紫雲脚】で高速移動してきて紫の斬撃をフィーリアに容赦なくぶっ放した。


ズドォォォォン!!!!と轟音が響きフィーリアの周りに砂埃が舞う。


「大丈夫ですか!?鬼無さん!!」


「馬鹿、なんで来たの!早く逃げなさい!!」


「貴方のナイトになんてこと言うんですか!?てかそのドレス可愛いですね…」


ぜひ写真に収めたくなるひまりだが今はそんなことしている場合ではない。

鬼無の手を取って戦線離脱するつもりだったが…。



「おいおい、どうなってやがる」



砂埃が晴れ、フィーリアの姿が徐々に現れる。

鬼無は目を疑った。


フィーリア自身も驚いていた。


何故なら【スモア•バレット】でも傷一つ付けられなかった彼女の肉体が、ひまりの攻撃で左肩から手の甲までうっすらだが、かすり傷があった。


「ひぇ〜直撃してもその程度!?」


ひまりは【ツヴァイハンダー】を構え直すが「その程度」の一撃すら恐らく与えたアイドルは今までいなかった。



フィーリアもひまりに興味を示したのか少し会話する気分になったようだ。



「お前名前は?」


「えと…草薙ひまりです」


「ひまり…?知らねぇがお前は俺を傷つけることができる希少なアイドルだ。ここで芽は摘んどかないとな」


「私が盾になるから逃げて」


鬼無はひまりの前に立ち【オーダー•リボルバ】を顕現させた。

しかし当のひまりは焦っていなかった。


「今だよサファイアちゃん!!!」


「【熖刄風】」


数十メートル離れた場所からサファイアの白い炎がフィーリアの全身を覆った。

ガシャアアアン!!と大きな音を立て、フィーリアの体が部屋の端まで吹っ飛ばされた。


サファイアは一瞬で鬼無とひまりの前に現れ指示を飛ばす。


「アレは私が倒します。お二人は市長の護衛に向かってください」


「てことで行きましょう!」


「ちょ」


ひまりは鬼無をお姫様抱っこしてその場から去ろうとしたがフィーリアの衝撃の一言で足を止めざるを得なかった。



「おいおい!お前サファイアか!?久しぶりじゃねぇか、100年以上ぶりだなぁ!」



煙の中から全身やけどまみれになったフィーリアが現れる。

自分の傷のことなどお構いなしで目の前のサファイアと出会ったことに興奮を隠せないでいる。


「サファイアちゃん、知り合いなの?100年ぶりとか言ってるけど厨二妄想激しい人なのな?」


ひまりは鬼無を抱えたまま尋ねたがサファイアは首を横に振る。


「そうか、なんかスノウの馬鹿に細工されてんだったな。お前ら昔は仲良かったくせに姉ちゃん泣いてんぞ?」


「なにを…」


サファイアは剣を構えながら、目の前のネメシスが記憶を失う前の自分のことを知っているどころかかなり親しい間柄なのではと困惑した。


未仄(みほの)と戦った傷は癒えたそうだな。今のお前なら『フワワ』無しの俺となら互角にやり合えるんじゃねえか?」


「黙りなさい」


ベラベラ喋るフィーリアにピシャリと言い放つサファイア。


「あなたが私の旧知の間柄である事は分かりました。だからといって罪なき人間を殺し回るような者に容赦する剣はありません」


「はははははは!!!良いねぇ。お前とは一度やってみたかったんだ。殺す気でやってやるよ!!!」


怪物同士の戦闘が街中で始まった。


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