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ヴァイオレット・ステージ  作者: 秋葉缶
23/27

KYOTO

「よし…」


日にちは流れていき土曜日の朝9時。

ひまりは布団から起きると横で寝ていたサファイアの後ろからしがみついた。


「サファイアちゃん、朝ですよ〜」


「う、うぅ……」


サファイアは心底起きたくなさそうに布団にうずくまる。

そんなサファイアの耳に息を吹きかけるひまり。


「ふぅ〜」


「ひゃあ!!」


不意の刺激に驚き、布団から飛び起きるサファイア。


「おはようサファイアちゃん、今日からお仕事だよ」


ニコニコ笑いながら挨拶をするひまり。


「う〜まだ寝ていたいです」


目をこすりながら、寝起きの社会人のような事を言うサファイア。

そんな時ピンポーンとひまりの部屋のチャイムが鳴った。


「え!もう鬼無さん来た!?」


ドタバタと走りながらドアを開けるひまり。


「おはようございます!」


予想通りそこには鬼無がいたがひまりの格好を見て目を丸くしていた。


「君たちまだパジャマ姿なの?市長の出発の時間に間に合わなくなるから急いで!」


「は、はい!」


ひまりとサファイアは慌てて身支度を整えて部屋を出た。



静岡駅に9時半に着いた3人。

鬼無は2人に京都での動き方について説明した。


「君たち2人はCチームに同行して。役割は不審人物がいたら私たちに報告する事と仮に悪い奴が市長を狙って失敗し、逃走した場合の捕獲任務に当たってもらう」


「あ、鬼無さんと一緒じゃないんですね」


ひまりは意外そうに口を開いた。


「私は市長の横にべったりくっついているから。…あと言いにくいんだけど」


「何ですか?」


珍しく鬼無が髪を触りながらもじもじし、何か言いたそうにしていたためひまりは気になって尋ねた。


「私が誘っておいてなんだけど、仮にアイドルとかが襲撃して来た場合、命の危険を感じたら逃げていいからね。

君達が十分任務にあたる実力があるのは分かっているけどまだ学生だから」


「市長の能力を狙ってくる輩がいるんですよね」


「知ってたんだ。そうだよ、あの人は過去に大なり小なり色々な事件に巻き込まれて来ているからね。今回もないとは言い切れない」


「ありがとうございます、もしもの時はひまりさんだけ逃がしましょう」


サファイアがひまりに変わり返答した。


「おーい?サファイアちゃん。私を舐めてもらっちゃ困るよ。どんな奴が来ても私が返り討ちにしてあげますから大丈夫ですって!」


ひまりは元気よく鬼無に意気込む。

それを聞いてクスリと笑う鬼無。


「そっか。まぁ精々頑張ってね…とは言っても会議を行う相手の陣営にも『クラス持ち』に匹敵する者もいるらしいから、そんな心配杞憂だと思うけど」


それを聞いてサファイアが興味を示した。


「そんな方がおられるんですね。是非お会いしたいものです」


「ん、じゃあそろそろCチームに合流しなよ。私ももう行くから」


「ありがとうございます!また京都でお会いしましょう!」


新幹線がもう出るためCチームが集まっている車両に急ぐひまり達。


件の場所にたどり着いた2人だが…。



「……あはははは!!!グロすぎでしょ!」



席には声を出しながらギャグ漫画らしきものを読んでいる協会職員が1人いるだけだった。

髪はピンク色のロングヘアで頭には大きな星型の髪飾り。頬にはハートのタトゥーが入っている



この時代には珍しく紙の漫画を読んでいた。

しかも表紙には昭和の趣を感じる主人公の顔が描かれており「イボグリくん」と題されている。



「あ、あの人だよね…サファイアちゃん」


「だと思いますが…」



「お、来たね!?君たち2人がCチームのメンバーかな?」


女はこちらに気づくと漫画を閉じてトテトテと歩いて来た。


「はい!草薙ひまりと言います!」


「草薙サファイアです」


「うん、私はアイドル協会静岡支部所属のメイメイだよ。位は下級!まだ18歳だからね。よろしく!!」


「え、本名ですか?」


メイメイという名前は聞きなれないのか、ひまりが疑問を口にした。


「そーなんだよ!よく言うキラキラネームってやつだね。私の親はちょっとイカれているからね…ま、そんな話はいいじゃん!さ、座って座って」


メイメイの闇の部分が少し見えたひまり達はこれ以上触れない事にした。

3名席にひまりは真ん中、サファイア1番外側に座る。


「さぁCチーム一丸となって頑張ろう!」


「Cチームは3人なのですか?」


意気込むメイメイにサファイアは疑問を投げかける。


「元々Cチームは私がメインで任務のたびに攻撃スキルのあるアイドルを侍らせて編成してたんだ。私は戦えないからね〜」


「メイメイさんのスキルって何ですか?」


「私のスキルは【バニーちゃん】。ほら見てみて」


ピョコン!とメイメイの頭からピンク色のウサギ耳が飛び出した。


「うわっ!」


突然のメイメイの変化にひまりは驚き声を上げた。


「この耳は半径100m以内の人の声を拾い上げることができるよ!…むっ!!今市長が鬼無さんとトランプで遊んでるね!」


「スキルにも色々なものがあるんですね…」


サファイアが感心したように呟いた。


「とまぁこんな感じ。護衛中は基本この耳を出しっぱにしとくから2人とも私の警護お願いね」


「ガッテン承知です!」


ひまりは元気ある返事をした。

朝ごはんがまだだった2人は車内販売の菓子パンを頬張る。

メイメイはチョコを食べながら仕事の話を続ける。


「今回の会合…実は東條学園が何か仕掛けてくるんじゃないかって噂があるんだ」


「東條学園って…前澪ちゃんが戦った雷果とかいう子がいる学校か」


「学校ねぇ。まぁ表向きはそうだけど実際あそこはカルト宗教みたいな施設だよ」


「かると…ですか?」


聞きなれない単語を反芻するサファイア。

ひまりが代わりに説明した。


「『特定の思想や教義を熱狂的に進行する小集団』…って昔読んだオカルト本に載っていたよ」


「ひまりさん…。成績は悪いのにマニアックな知識はあるんですね!」


「サファイアちゃんが私を浅い所で舐めている気がする」


「あはは!模範的解答だね。だって考えてみてよ、普通協会に敵対して色んな犯罪行為を犯すイカれた学校に保護者は愛娘を置いておきたいと思うかい?」


「あ、確かに……」


ひまりにも家族はいる。

もちろん駿河学園にも複雑な事情をもつ者もいるだろうが大半は一般家庭で育った少女達だ。

もしアイドルにスキルを使った犯罪行為を学校側が命じるなんて事があれば保護者のクレームは殺到する。


しかし東條学園にはそういう話を聞いた事がない…という事は。


「ほとんど生徒は親がいないの。それかイカれた親御さんね。だから精鋭が多く他人に暴力を振るう事に躊躇ない奴が多い…学校の外へ出るのも許可制だから外部の世界を知る手段も少ない。歪んだアイドルの誕生ってわけさ」


「お詳しいですね」


サファイアが感心したように話すとメイメイは自嘲気味に微笑んだ。


「私も東條学園出身だからね…」



静岡駅から京都駅までは約90分。

あっという間に京都に辿り着く。


『次は京都〜京都です』


「おぉ!もう都ですか!!」


ひまりがテンション高めに立ち上がる。

メイメイは車内で漫画を読んでいたためか酔い潰れており、ずっとビニール袋を両手で持っていた。


「や、やっとか…!うっ…安心したら決壊が…!」


「め、メイメイさん…?」


ひまりが急激に顔が青くなったメイメイに心配そうに声をかける。

しかしもう遅かった。


「おええええええ!!!!!」


「うわぁぁあああ!!!」


「きゃあああああ!!!」


メイメイの嘔吐と同時に電車が止まった。





「ふぅ〜…ふぅ〜…」


涙目になりながら背中をサファイアに撫ででもらい駅ホームのベンチで休憩するメイメイ。


『Cチーム何をしている。速く移動しろ』


他チームから無線が入ったため移動し始める3人。

麦茶を飲みながらひまりが尋ねた。


「そういえば任務ってもうこの距離を保って移動するだけですか?」


「はっ!そうだった。耳出しとかないと…【バニーちゃん】」


ヨタヨタと歩きながらメイメイはスキルで自らの頭にウサギ耳を生やした。


「そうだね、何事もなければ私たちは後は京都を歩き回って旅館で美味しいものを食べて帰るだけだよ。…ふむふむ外人がたくさんいるね。聞こえてくる言語が色んな国の言語だ」


京都は外国人観光客が全国3番目に多い国だ。

1位は東京で2位は大阪。人口比率的に見れば京都は外人の比率が非常に多い街と言える。


「このまま国際会館っていう所で市長は会議するからこのまま付けるよ」


「「はい!!」」


市長は電車を使うと思いきや防弾仕様の車に乗り込んだ。

ひまり達はあらかじめ用意されたタクシーを使う。


「ちょ、また車乗るの!?」


メイメイは嘔吐したばかりのため電車に乗りたかったが仕事なので仕方ない。

乗車から20分。再びリバースした。


「オェェェェェ!!!」


「ひぇっ!!」


「深呼吸してください!」


数分後国際会館に着いたがメイメイはほぼグロッキー状態だった。


「もう帰りたい…」


弱音を吐くメイメイだがきっちりスキルを行使しているのは流石というべきだろう。

項垂れながらも周りの音を拾い上げる。


3人は会館内の入り口で待機を命じられていた。


「お偉いさんの会議する場所って聞いてたからどんな所かと思ってたけどすごい田舎にあるんですね」


ひまりが周りを見渡しながら呟いた。

確かに会館自体は立派な作りだが施設を出るともう山や木で囲われていた。


移動中は野生の鹿が道路を走っていた姿まで確認できた。


「静岡の方が栄えてそうですね」


そう言いながらサファイアはスマホでパシャパシャと記念撮影をしていた。



その日は国際会館で会議を終え、そのまま河原町という繁華街にあるホテルに移動した。

食事とシャワーを浴びて時計を見ると時刻は20時。


大きな事件も無く全てが淡々と進んでいった。


「ふぁ〜、たくさん歩いたなぁ」


和風のホテルの一室でひまりはコーヒー片手に大きな欠伸をする。

部屋は広く、4人部屋になっておりひまり、サファイア、メイメイがベッドの上でくつろいでいた。


「あははははは!!!ひどすぎ!!」


メイメイは完全にオフモードに入っており先ほどの「イボグリくん」とやらを読んで爆笑していた。

サファイアにいたっては、オレンジジュースを飲みながら残念そうな顔をしていた。


「まさか例の『クラス持ち』に匹敵する方が家出しているとは…。一目見ておきたかったのですが」


「強者ならではの苦悩みたいなのかな?あ、そういや話変わるけど舞子ちゃんの実家って京都の横の滋賀県じゃん。いつか行ってみたいなぁ〜」


「私も琵琶湖を一度見てみたいです」


「私も見たことないんだよね。今度舞子ちゃんの里帰りに同行するか…」


「ですね。しかしまだ20時ですがやる事がありませんね」


サファイアがベッドに座り可愛いらしく足をパタパタさせている。

ひまりもサファイアに同意した。


「せっかくだしちょっと出歩いてみよっか」


「え…いいんでしょうか」


学生とはいえ護衛任務に就く身なのだ。

そんな勝手が許されるのかと思いサファイアはメイメイの方をチラリと見た。

メイメイは漫画から目を離さず口を開いた。


「あんまり遠くに行かなかったらいいよー」


何とも適当な返答だった。


「んじゃあ行こっか!」


ひまりが財布とスマホをポケットに入れてサファイアの手を引っ張る。


「は、はい!」



2人はホテルを抜け出して京都の歓楽街、祇園に行く事にした。


「す、すごい。ライトアップされていかにも京都って道だね!」


ひまり達がいるのは花見小路という場所で伝統ある料理屋や呉服屋がある通りだった。

左右の建物全てが和風で趣のあるもので統一されており、沢山の観光客が写真を撮っていた。


「確かに…前に観た映画の中の街みたいです」


サファイアも目を輝かせて周りを眺めていた。


2人は北に上がり、クラブや居酒屋があるような通りに出た。

外人観光客向けに、昔の衣装で着飾った人形がある店の前に夥しいほどの人が群がっていた。


「人多いな〜!この街はこの時間から動き出すって感じがするよね」


「この時間に働き始めて朝に寝るんでしょうか?生活リズムが狂いそうですね…」


ひまりはこの周辺は和風の小物店や和菓子屋が複数ある事に気づいた。


「ふふ…サファイアちゃん、せっかくだから何かお姉ちゃんが買ってあげるよ」


「え…悪いですよそんな」


遠慮がちなサファイアだったがひまりは譲らない。


「私ってサファイアちゃんに色々お世話になってるのにそういえば何もお返ししてないなと思って。あと今日はせっかく京都に来たんだから思い出の物を買ってあげたいの」


狐色の光に輝く街の街灯に照らされながら告げるひまりの表情に押されてサファイアは……。


「あ…」


「ん?」


「分かりました。お言葉に甘えます」


「うん!じゃあ行こっか!!」


2人は近くにあった小物屋に入る事にした。


「雅な物が沢山ありますな〜〜」


ひまりがうきうきしながら店内を回っていた。

着物を着た高齢の女店主が微笑ましそうに2人を眺めていた。


「サファイアちゃんは髪長いからな…。櫛とかどう?」


「ひまりさんが選んでくれるなら何でも嬉しいです」


「じゃあ櫛だね。沢山種類あるな…可愛らしいお花が描かれてるこれにしよう!」


ひまりは木製でできた櫛を手に取る。

それは茶色い塗装で彩られており、握る場所に可愛らしいミヤコワスレの花が手書きで描かれていた。


「おばちゃん!これください!」


「はい、2400円ね」


プレゼントを買ったひまりはサファイアに渡そうとするが件の彼女が見当たらない。


「あれ、サファイアちゃん?」


「ここですよ」


ひまりの真後ろから声が聞こえて振り返ると、サファイアがプレゼント用の包装紙に包まれた何かを抱えて佇んでいた。


「サファイアちゃん、それは……?」


「私もひまりさんにプレゼントです。いつもお世話になってるお返しです」


どうぞ、とサファイアはプレゼントをひまりに手渡す。

彼女の行動が予想外だったためか、両手でプレゼントを受け取りしばらくポカンとしていたが我に帰り「開けていい?」と尋ねるひまり。


「もちろんです」


「えへへ、じゃあお言葉に甘えて」


ガサゴソとプレゼントを開封し中にあった物を手に取る。


「これって小銭入れ?」


中身は和風の小銭入れだった。

黒い布でできており、財布の端にシオンの花柄がおしゃれに縫われていた。


「ひまりさんはよくゲームセンターで遊ばれるので便利かなと思いまして」


「おおお!!ありがとうサファイアちゃん。これはめちゃ便利だよ!」


「どういたしまして」


「じゃあ私もこれ!」


どうぞと先ほど購入した櫛をサファイアに渡すひまり。


「ありがとうございます。大事にしますね」


サファイアはひまりに貰った櫛を愛おしそうに両手で握りしめた。

ひまりはこの時の彼女の表情を一生忘れる事は無いだろうなと思った。


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