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ヴァイオレット・ステージ  作者: 秋葉缶
22/27

思わぬ来客

休み明けの月曜日、ひまりとサファイアが教室に入ると担任が慌てた様子でこちらに向かって来た。


「廊下は走らない!!」


ひまりが担任に注意をしたが無視され、代わりにスマホの画面を見せてきた。


「お前ら沼津新聞の一面飾ってるぞ!!何したんだ!!?」


「うわっ、本当だ!…題は『アヒルを抱える少女、沼津に上陸!!』…ぷははは!!」


「笑ってる場合か!!おかげで我が校の電話が鳴り止まないぞ!!」


「え、マジすか…抗議的な電話?」


「いや、この子達は何者なのかって内容だ。てかお前らマジで何してたんだ?」


「用宗漁港から沼津深海水族館までアヒルボートで行っただけですよぉ〜」


やだなぁもう!といった様子でひまりは担任の肩を馴れ馴れしく叩く。

担任はドン引きした様子でひまり達を見ていた。


「ま、マジでか。やっぱお前らイカれてんな…。ちょっと待て、土曜に『ネメシス』が発生したのも駿河湾だったよな。まさか…」



「知らなかったんですか?わ・た・し、が単独撃破したんですよ!!」



周りの生徒から歓声が沸いた。


「えー!ひまりネメシス倒したの!?」


「C級なのにすごい…」


「カッコいいね!!」


「マジか……」


周りからの賞賛の雨にひまりはニヤケが止まらない。


「た、担任くんちょっと…」


「校長、どうされました?」


皆が盛り上がっている中、6〜70代ほどの年配の校長が担任と何か会話をしていた。

会話が終わった後、担任がひまりに近づいてきて恐る恐る口を開けた。


「ひまり、お前にお客様だそうだ。応接室に向かえ。至急に」


「お客さんですか…?わかりました」


妙に仰々しく話す担任に違和感を覚えながらも、ひまりは応接室に向かった。


「何じゃこりゃ」


ひまりが応接室に向かうと部屋の目の前に複数人の協会職員が姿勢良く立っていた。


「いいかい、ひまり君。失礼の無いようにな」


「?…分かりました」


校長もやけにひまりに念を押してくる。

ここまでくるとひまりはどんな人物が待ち受けているか気になってきた。


「失礼します!」


大きな声で応接室のドアを開けるひまり。

中にはソファに腰をかけたメイドのコスプレした20代ほどの女が足を組み、紅茶を飲んでいた。


黒いショートヘアにヘッドドレスまで付けておりメイドとしての拘りを感じさせた。


あまりに想像とかけ離れた人物がいたため、ひまりは思わず「は?」と声に出てしまう。


「お帰りなさいませ、ご主人様」


「ええ〜…。私にメイドの知り合いは…あ、いたわ。ゲーム上だけど」


「私を知らないのですか?最近の若者は政治に興味が無いんですね。ま、それだけ日本が平和ということですけど」


「政治?まさか総理大臣とか…」


ひまりの言葉に女は声をあげてクスクスと笑い出した。


「惜しいですひまり様。私は静岡市市長の樋口美波ひぐちみなと申します」


メイド姿の女が自らを市長と名乗ったら疑うのが普通だが、ひまりはすんなり信じた。


「え〜!市長さんですか!?サインください!!」


ひまりは何処からともなく色紙とペンを取り出して市長に渡した。


「ひまり様は有名人なら誰でもサインをもらうタイプなのですね。どうぞ」


はい、と色紙に一瞬で「市長」と丸っこい可愛らしい字で書き、ひまりに手渡した。


「やったー!ありがとうございます。ところで何故市長さんがメイド服きてるんですか?」


ひまりがここにきてようやく誰もが思う疑問を口にした。


「メイドの目的は奉仕にある。私は静岡市民がより良い暮らしができるよう、身命を賭して奉仕するという意思を示すためにメイド服を着ることにしました」


「ほほう。ふざけてるわけじゃなかったんですね。けどよく選挙通りましたね…」


「私の政治に対する真摯な姿勢が市民の心を動かしたのでしょう。私の給料も夕張市の市長と同じくらいにしました。まさしく市民に対する奉仕です」


えっへんと誇る樋口だが、政治に詳しく無いひまりには市長の給料など相場がよく分からず「はぁ…」と、から返事するしかなかった。


「よく分かんないけどよく分かりました。それで今日は市長さんが私に何のご用で?」


「先日、駿河湾で『ネメシス』が現れたようですね」


「はい。けど私が倒しましたよ!」


「…」


「え…なんですか?」


突然樋口が真剣な表情でひまりの顔を正面からじっと見据える。


時間にして数秒。


「なるほど、よく分かりました」


樋口が目を伏せて微笑んだ。


「え…私達見つめ合ってただけですよ?」


「今のは私のスキル【ウソツクナー】です。

名前の通り相手の言葉が嘘か真が見抜くスキル。

発動条件は2人きりの空間で対象者の顔を数秒見つめる事。」


「スキル名ダッサ!!というか市長ってアイドルだったんですか!?」


「はい。私も駿河学園出身です。ちなみにひまり様にアルバイトを持ちかけて来た鬼無円は私の後輩ですよ」


「へぇ〜そうだったんですね。あれ、もしや市長が私を尋ねて来た理由って…」


「えぇ、そのアルバイトの件です。正直私自身学生を護衛に使うのに躊躇があった。

しかし『ネメシス』を単独で倒したアイドルであれば話は別です。

だから今日はその真偽を確かめに来たのです」


「面接だったわけですね…合格で良かったです。しかしそんなに護衛任務って危険なんですか?いや、そりゃ市長の命を守らないといけないとのは分かりますけど何か素人目に見ても警備がガチガチだなって…」


「おっしゃる通り。普通の市長であればここまで厳重な警備で固めない。けど私は市長であると同時にアイドルなのです」


「あ……」


「私のスキル【ウソツクナー】は結構便利なんですよ。他人の言ってる事が嘘かどうか分かるだけで様々な場面で役に立てます。戦闘力は皆無ですが希少性から等級はA。それ故に私を狙う犯罪組織も多い…色々苦労してきましたよ」


遠い目で窓の外を見る樋口。

その苦悩はひまりの想像の範疇を超えるのだろう。


「けど鬼無がいつも私を守ってくれました。学生時代からの付き合いですからね。腐れ縁というやつです」


「鬼無さんは市長にとっての騎士みたいなものですか。まるで私とサファイアちゃんの関係だ」


「ふふ、そうかもしれませんね。では私は用が済んだので失礼します。授業頑張ってください」


「もう帰るんですか?」


市長はスカートを押さえながら立ち上がり、荷物のカバンを手に取った。


「ひまり様の大切な学生生活の時間を私のために取らせるのも良くありませんからね。土日はよろしくお願いします」


ペコリと丁寧にお辞儀をするとドアを開け、協会職員と共に去っていった。


「…最近私、色々貴重な経験してるよね」


さっきまで市長が座っていたソファを眺めながらひまりはしみじみと呟いた。


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