深海水族館!!
「あ、終わった」
深海水族館の受付でひまりは言葉を発した後、バキバキバキ、と音を立てムンクの「叫び」のような絶望顔になりその場で固まった。
「え…どうしたんですの?」
突然奇行に走る友人が心配になり、エリノアがひまりに問いかける。
しかし幼馴染だけあり澪はなんとなく分かったようだ。
「もしかして財布落とした?」
「……はい」
「ボートめちゃくちゃ揺れてたもんね」
舞子がムンクひまりにフォローを入れた。
「仕方ない。受付の美しいお姉さん」
「えっ!は、はい……」
ひまりはガラス越しに、受付の人に顔を近づける。
「これ、そこで採れた花です。よかったらどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
受付のお姉さんは苦笑いしながらひまりのとって来た花を受け取る。
「私は将来A級に上り詰める逸材です。そんな私から受け取った花は凄く価値がある…。将来の資産として家に飾っといてください」
「は、はぁ……」
「しかしどういう事かそんな逸材が財布を無くしてしまいまして…。私の分の入場料だけ特別に免除して欲しいなって⭐︎」
きゃぴ、と可愛くお願いするひまり。
澪は無言でチョップをお見舞いする。
「ぐあっ!!」
「迷惑かけてすみません。私がこの子の分まで払うんで」
「あはは…。皆さんアイドルなんですね。私の妹も昔A級アイドルだったので懐かしく感じました」
「へぇ〜そうなんですね。妹さんは今何されてるんですか?」
ひまりの分のお金を財布から出しながら澪が尋ねた。
「静岡でアイドル協会職員をやってますよ」
「おぉ…エリートですわね」
エリノアが感心したように声に出す。
その後受付の人から全員分のチケットを貰った。
「茶髪の方、お花ありがとうね」
「家宝にしてくださいね!」
5人は水族館の暗闇の中に足を踏み入れた。
沼津深海水族館は世界初の深海魚をメインとした水族館で、ひまりも言ってたように世界で唯一シーラカンスの標本が存在する価値ある施設である。
沼津駅からも3キロほどなので立地も悪くはない。
館内は撮影は可能だが、暗闇にいる魚が驚くためフラッシュを焚くのは禁止されている。
最初は狭い通路があり、壁に小さな水槽が羅列されていて小型の深海魚を見ることができる。
「澪ちゃん。さっき深海に潜った時見つけた魚とかこの中にいる?」
「メギスは捕まえたんだよ。けど例のタコのせいで逃がしちゃってさ」
「そういえば私が深海に潜った時タコとやら見つけられませんでしたね」
澪とひまり、サファイアが沢山の深海生物が泳いでいる大型の水槽の前で話をしていた。
一方、エリノアと舞子は「ヒカリキンメダイ」という発光する魚のコーナーで感動していた。
暖簾の中にあるコーナーで中は真っ暗、しかしヒカリキンメダイが発光し泳ぐことでプラネタリウムのような光景が広がっていた。
「綺麗だったね〜」
「そうですわね!暗すぎて他の方とぶつかってしまいましたけど…」
深海のプラネタリウム鑑賞後2人は「深い海」というコーナーを回った。
舞子が一つの水槽を信じられないような顔をして指差した。
「え、エリノアちゃん…あれ」
「なんですの?」
エリノアもその水槽を覗き込む。
その水槽にはマアジが泳いでいた。
沼津名物といっても過言ではないアジ。意外にも日本以外では食用として定着していないようである。
ただその水槽の床に置いてあったものにエリノアも驚愕する。
「アジの開きが置いてありますわ!!」
なんと晩御飯に出て来そうな盛り付けのアジの開きと、アジの姿焼きがご丁寧に皿に乗せられているではないか。
しかも周りにはしゃもじや箸まで飾り付けてあり、泳いでいるアジにとっては何とも人の心がない仕様になっている。
「こ、この泳いでいるアジは何も知らない…自分が次に食われるかもしれない事にッ!!」
「何か凄い不憫ですわ…!」
舞子が劇画タッチのような顔でアジの現状を嘆く。
「そろそろ次行こう2人ともー」
ひまりが遠くから2人を呼んでいた。
「たくましく生きてくださいね、アジの助」
また勝手に魚にあだ名をつけるエリノア。
エリノアと舞子はアジに別れの挨拶をした後、3人に追いついた。
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2階に登るとシーラカンスの歴史史料館のような作りの部屋に出た。
初めてシーラカンスを捕獲したカヌーの現物や年表など多岐に渡り情報が盛りだくさんだった。
勉強嫌いなひまりと澪は文字を読むのが苦痛で先へ先へと行っていた。
サファイアは見るもの一つ一つが新鮮なためかずっと「お〜…」と感心していた。
舞子はひたすら写真を撮っており、エリノアは何故かその写真に映り込もうとしていた。
パシャパシャ、と撮るたびに半ボケのエリノアが画面に滑り込んでくるため舞子は郷を煮やした。
「エリノアちゃん何で入ってくるの!?」
「す、すみません…!私を撮りたいのかと思いまして…」
「謎の天然発揮しないで!」
そんな2人を見ていたサファイアが「みんなで写真撮ってみませんか」と提案して来た。
「それいいかも」
「賛成ですわ!」
という訳で冷凍シーラカンスの前で舞子がスマホを【クロユリ】の触手で支えながら5人で記念撮影を行った。
パシャ、というシャター音が鳴り、撮れた写真を皆で覗き込んだ。
「エリノアちゃん顔強張ってるね」
ひまりの指摘にエリノアは恥ずかしそうな顔をする。
「わたくしお友達と写真を撮るのは初めてなもので…」
「その割に私の写真に全部写り込んできたけどね……」
舞子がボソッと呟くと真っ赤になってエリノアが弁明した。
「あれは本当に勘違いしていたのです!」
記念写真を撮った後は沼津駅近辺のカフェで皆泥のように眠った。
澪だけは長期滞在の負い目もあるのか30分に一回ペースで何かを頼むようにしていたがその体力もなくなり夜6時ごろまで爆睡した。
約3時間の滞在。
痺れを切らした店員に叩き起こされてからは、夕ご飯を食べるため駅周辺を回っていた。
「体が重い…!」
ひまりの言葉に一同は頷いた。
「新幹線とか車でも乗ってるだけで何故か体力を持っていかれるもんね。それが今回は40キロ以上の距離をアヒルボートで漕いできたんだから疲労はその比じゃないよ…」
舞子の言葉にサファイアも同意した。
「最後皆さんを担いで沼津港まで飛びましたが、あの影響で腕がずっと鉛のように重いですからね」
「本当助かったよ、サファイア」
「いえいえ」
澪がサファイアに礼を言った。
実際サファイアがいなければ今だにボートを漕いでいたかもしれないと思うと身の毛がよだつ話だ。
ひまりが地魚が食べられる店に行きたいと言い出したため、5人は駅前の小さな商業施設の寿司屋に入った。
地元の人にも人気の寿司屋で店内は賑わっていたが運良く席が空いていた。
席につき、それぞれ好きなものを注文していく。
お客が多いため皆の注文が来るまで20分ほど待たされた。
エリノアが注文した地魚丼を食べながら口を開いた。
「それにしても色々ありましたがとても楽しい休日になりましたわ。ひまりさん、ありがとうございます」
「おいおいエリノアちゃん。私はリーダーとして当然のことをしたまでだよ。これから私たちはもっと色んな楽しいことを経験していくんだから、まだまだ満足しちゃだめだよ!」
「ひまりもたまにはいい事言うじゃん」
澪はそう言って海鮮丼に醤油をぶっかける。
「まぁ今は最後の大仕事のために英気を養っておこう!」
ひまりの言葉に皆ポカンとしている。
握り寿司を食べていたサファイアがひまりに尋ねる。
「大仕事って…まだ何か予定があるんですか?」
「なーに言ってんのサファイアちゃん。今日私たちは沼津港までどうやって来たか覚えているでしょう?」
「ま、さ、か……」
舞子が信じたくないように体を震わせながらひまりを見た。
「家に着くまでが遠足。キツイけどまたアヒルボートで帰らなきゃね…」
ひまりも本心では嫌なのだろう。
死刑宣告に等しい内容をひまりは顔を横に背け哀愁を漂わせながら皆に話した。
「「「えーー!?」」」
ひまり以外の全員の声が店内に響き渡る。
「ま、マジですの…!!?」
「パクパクパクパク」
サファイアは聞こえないと言うふうに無心で寿司を頬張っていた。
もうアヒルボートは担ぎたくないのだろう。
「ま、まぁそうだよね。あのアヒルを置いて帰るわけにもいかないし」
澪はひまりに理解を示そうとしているが、顔が引き攣っていた。
そんな時、ひまりのスマホに着信が鳴った。
「あ、お父さんからだ。ちょっと出るね」
父からのノイン電話に出るひまり。
「そうなの?よかったー!またね」
「どんな内容でしたか!?」
何となく電話がアヒルボートの内容だと分かったのだろう。
エリノアが食い気味にひまりに尋ねた。
「アヒルボートは船の販売店が取りに来るから電車で帰っていいって!!」
どっ…、とひまりの報告を聞き皆の力が抜ける。
「良かったぁ〜」
舞子が脱力のあまり机に突っ伏した。
その後はひとときの団欒を終え会計を済ませ外に出た。
もう外は真っ暗になっており一行は真っ直ぐ電車に向かい静岡に帰った。
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「ただいま我が家!!」
「疲れましたね〜…」
ひまりとサファイアは夜9時ごろに自宅に辿り着いた。
2人ともヘロヘロになっており、お風呂に入った後鬼無から「ゲームしたい」とノインが来た事も気づかずにぐっすり眠りについた。




