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ヴァイオレット・ステージ  作者: 秋葉缶
18/27

ネメシスの脅威

「眠い…」


ひまり達は教室で睡魔と戦っていた。

サファイアに至っては今朝寝ながら登校するという器用さを発揮していた。


「本当に眠そうだね、昨日訓練しすぎたの?」


ひまりの隣の席で澪は両手を後ろに組みながら尋ねた。


「どっちかというと訓練の後の方が疲れたかな…」


「ふーん?」


「澪ちゃんこそどうなのさ。しっかり掃除できたのかい?」


「たった1日だけど静岡駅の景観は私が守っている気になれたよ。通りすがりの色んな人から褒めてもらえるし」


「そりゃあ何よりで…」


半分目を瞑りながら受け答えするひまり。

よくみたらサファイアも入学二日目にして机に突っ伏して爆睡していた。


「ぐおー…ぐおー…」


「さ、サファイアさん!もうすぐ授業始まりますわよ!起きてください!」


エリノアが大きくイビキをかくサファイアの体をユサユサと揺するが、起きる気配がない。


サファイアはだらしなく涎を垂らしながら寝ている。


そうこうしているうちに担任が教室に入ってきた。


「はい皆んなおはよう。全員出席か、結構結構。さて、ちょっと真面目な話をしたいからサファイアとひまり君を叩き起こしてくれ」


教師がエリノアと澪にそれぞれ目を向ける。

エリノアは静電気、澪はデコピンで2人を起こした。


「起きたな、じゃあ周知していく。今朝未明、富士市の富士川海岸付近でネメシスが出現した。

等級はS相当。他の個体と違い人語を話していたそうだ。

ネメシスは自分の事を『フィーリア』と呼称していたようだ。


馬鹿みたいな火力で暴れたせいで付近の住宅にも影響が出ている。

一般人に怪我はなかったが、任務に当たった協会の職員が全部で10人。軽傷者2名、重症者3名そして残り5名が殉職した」


「そんな……」


クラス中が凍りつく。

高校生に聞きなれない殉職というワード、事件現場が比較的近いこと、ネメシスの等級がS級相当だということに直に身の危険を感じていた。


そんな中サファイアが担任に質問する。


「あの、そのネメシスはどうなったんですか?」


「事件にあたった職員によると、自分の意思で帰って行ったそうだ。どこに繋がっているかも分からない空間を出現させてな」


「先生!」


ひまりが突然立ち上がって声を荒げながら尋ねた。


「そいつは人の言葉を話していたんですよね!?何て喋ってたんですか!?」


ひまりの質問に担任は少し怯えた表情をした。

いつもと違う様子の担任に不安を募らせながら次の言葉を待つひまり。


「『もっと血を浴びたい』だそうだ…」

.

.

.


「ふざけた野郎だね」


昼休みの時間、食堂でひまり、エリノア、舞子、サファイア、澪の5人が机を囲んでいた。


澪はいつも通りハンバーガーを食べながらポツリと呟く。


その意見にエリノアも同意した。


「そうですわね、亡くなった方が不憫でなりません。ネメシスとやらの目的は単純に人類の虐殺なのでしょうか…」


「虐殺…」


サファイアがエリノアの言葉を反芻する。


「事件現場に駆けつけた職員は中級3人で残りは上級以上だったらしいよ。そんなメンバーたちでも太刀打ちできないなんて」


舞子はプリンをちまちま食べながら敵戦力の強大さに怯えていた。


「そうだっ!!」


ガタッ!とひまりは暗いムードを打ち消すかのように立ち上がった。


「せっかくエリノアちゃんもsuruga⭐︎oneに加わってくれたんだから何処かに遊びに行こうよ!」


え…、と一同がひまりに目線を向ける。


「明日は我が身かもしれない。けど普段から一緒に固まって行動してたらいざ襲われても返り討ちにできるよ!」


「ま、怖くて何もできないなんて私たちらしくも無いからね。エリノアの歓迎会は私も賛成だよ」


澪もその意見に賛同した。


「わたくしの為にそんな…なんか悪いですわね」


言葉の内容に反して嬉しそうなエリノア。


「いざとなったら私が皆さんを守ります。安心してください!」


「おっと、サファイアにだけ守られるほど私たちもやわじゃないよ!ネメシスなんて返り討ちにしてやる!」


澪の自信満々の発言で皆の緊張が解け、空気がいつものものに戻る。


「じゃあどこ行こっか。エリノアさんは行きたい所あるのかな?」


舞子が尋ねるとエリノアはう〜ん、と悩みはじめた。


「わたくしはあまり遊びというものをした事がないので…。見当もつきませんわ」


「じゃあ私がプランを考えるよ!今週の土曜日に日帰りで行けるところでプランを練っておくね!」


ひまりがエリノアの歓迎会の幹事をするという事が決まり、昼休みが終わった。




この日から実戦の時間は生徒皆気合を入れて訓練に励んだ。

何かあっても自分と仲間を守れる様になる為。


エリノアは前回の課題の雷による自身の防御をまだ荒いながらも実戦で使えるまでになった。

澪は自身のスキル【肉体強化】を使い以前より速いスピード、高い攻撃力を意識して毎日修練していた。




「どりゃあああ!!!」


ひまりはサファイアと白兵戦をしていた。


ひまりの課題は「移動速度」だった。

彼女のスキル【ツヴァイハンダー】は重量が10キロあるということもあり、サファイアみたいに剣を振り回す事ができない。

そのくせ移動速度も遅いので動き回る敵、例えばティアマトの天堂雷果のようなタイプにはめっぽう不得手だった。


そのためひまりは剣から出る衝撃波を利用して高速移動を実現していた。


サファイアの周りを剣を後ろに構えながら移動して技名を叫ぶ。


「これこそが【紫雲脚(しうんきゃく)】だよ。サファイアちゃん!!」


高速で移動するのが楽しいのかテンションが高いひまり。

そのまま勢いに乗ってサファイアに切り掛かった。


「せいっ!!」


「はい、残念ですね」


ひまりの渾身の斬撃を素手で掴み取るサファイア。しかも片手でだ。


「うっそ!!?」


「ひまりさん、防いでくださいね!!!」


「っ!」


サファイアが拳でひまりに殴りかかる。

とっさに剣でガードしたがあまりの威力に後ろに10mほど吹っ飛ばされるひまり。


「うおわぁぁぁ!!!」


「悪くない動きでしたよ。剣だけでなく、剣にオーラを纏わせながら切り掛かった方が良かったかもしれませんね」


「て、手が痺れる……。サファイアちゃんは素手でも強いのか」


「ふふ…ひまりさんも追いついてきてくださいね」


「もちろん。私はサファイアちゃんの騎士だからね!!」


「移動方法は今の修練を続けていれば洗練化されると思います。あとは技のコンビネーションですかね。【ヴァイオレット・ブラスト】は超強力です。生身で喰らえば私の命すら脅かしかねない。けど撃つたびに腕に負担をかけているようでは実戦で使うのは控えた方が……」


「サファイアちゃん」


サファイアが講義をしている途中で澪が話に割り込んできた。


「どうしました澪さん」


「今の見てたよ。結構腕っぷしも強そうだね、私とちょっと殴り合ってみない?」


「み、澪ちゃん?」


物騒な提案にひまりは、何言ってんだコイツという表情で澪を見ている。

しかしサファイアは乗り気だった。


「いいですよ。私の欠点は徒手戦だと思っていましたから。手合わせ願います」


「あっははは!!サファイアちゃんは見た目に似合わず根性あるよね。よっしやろうか。ひまり、3分間でストップウォッチ役よろしく!!」


「ま、まじでやるんですか……」


ガタガタ震えるひまりをよそに2人は真正面から向かいあっている。


「澪さん、スキルを使ってくださいね」


「へぇ?いいのかな。結構強いよ私」


「私の訓練のためにもその方がいい」


ピキ……


澪の顔に青筋が立った。

ひまりはバイブレーション並みに横で震えていた。


「やってやろうじゃん」


澪は自身のスキルを発動させる。

彼女のスキルは【肉体強化】だ。名前の通り攻撃と防御力が飛躍的に向上する。


澪の体全体に赤い刺青のような模様が浮かび上がる。


「ひまりさん、合図を」


サファイアの催促にひまりはどうとでもなれといった様子で開始の合図をする。




「スタートォォォォ!!!!」



「おらぁ!!!!」


開始と同時に澪がブゥン!!とサファイアの顔面目掛けて拳で殴りかかる。


「せいっ!!」


サファイアは慌てることなく手の平で拳を受け流し、澪の体を空中に投げた。

吹き飛ばされながら澪は思い出す。


「(昨日エリノアがされてた技だね!!!)」


サファイアは追撃を加えるべく、身動きのできない澪に走り出す。

澪の腹に突き刺さらんとする拳。


しかし澪はそれを読んでいた。


「ふんっ!!!」


両腕をクロスさせサファイアの拳を防いだ。

小さな拳から放たれる、凶悪な破壊力の攻撃。


防いだにもかかわらず、澪は数メートル殴り飛ばされた。


「(痛っいなぁ!どんな体してんの!?)」


間髪入れずに向かってくるサファイアに、前蹴りを放つ澪。

しかしサファイアはそれを華麗に避け、澪の顔面に左拳をめり込ませた。


バキッ、という音が鳴り、鼻血を吹き出しながら澪が再び後退する。



「「ひえぇぇ!!!!」」


ひまりと、後から観戦しにきたエリノアは凄惨な様子に悲鳴をあげていた。



「舐めんなぁ!!!」


モロに殴られても怯むことなくタックルを行う澪。

彼女のタックルはコンクリートすら楽々破壊できる。

  

「(素晴らしい精神力ですね)」


すぐに攻撃に転ずる澪に心の中で称賛を送るサファイア。

なんとサファイアは澪に向かってタックルを仕掛ける。


「(マジでいい根性してんなこの子)」


自分と同じ技で向かってくるサファイアに澪も賞賛を贈る。


1秒後、互いの体が激突し合う。


ガァン!!と人と人がぶつかり合ったとは思えない音があたりに響く。


競り勝ったのは澪だった。


「くっ!!」


サファイアは押し負け、盛大に吹っ飛ばされる。

空中を舞うサファイアだったが華麗に受け身を取り澪を見据えた。


「やりますね…」


「こっちのセリフだよ。スキルありの私と生身で渡り合えるなんてどんなフィジカルしてんの」



「こ、こらぁあああ!!!!!」



こちらを情けなく叱責する声が遠くから聞こえてきた。

体育教師の育野家子(いくのかこ)がぷんぷんと怒りながら近づいてきていた。

茶髪のツーサイドポニーで年齢は20代前半くらい。

赤色のジャージに身を包んでいた。


「なにガッツリ喧嘩しているんですか!?先生の前で…2人ともこちらに来なさい!!!」


「先生!?」


「わ、私たちは喧嘩はしていません!」


焦る澪とサファイア。

雄叫びをあげて殴り合っていたら誰がどう見ても喧嘩をしていると思うだろう。

現に澪は鼻からダラダラ鼻血を吹き出していた。



「あれ…そういや前の先生は?」


ひまりが以前エリノアがサファイアに負けて逃げた時、捜索をひまり達に丸投げした教師と変わっていることに疑問を投げかけた。


「何でも停職処分を受けたらしいですわよ。前から勤務態度が良くなかったとか……。私の件で監督責任に問われたそうです」


「へぇ……。大人も大変だねぇ」


完全に他人事のひまり。

サファイアと澪が家子に必死に弁明する姿を遠くで眺めていた。


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