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ヴァイオレット・ステージ  作者: 秋葉缶
17/27

鬼無円(きなしまどか)

「いや〜なんかすみませんね」


「ありがとうございます、鬼無さん」


2人は口止め料?としてか鬼無に高そうなイタリアンを奢ってもらっていた。


「それにしても驚きましたよ。まさかあんなに厳しそうな鬼無さんが、さっきみたいに可愛い声でゲームしてるなんて」


ギロっとひまりを睨んでワインを一口飲む鬼無。


「ストレスが溜まってるの…色々と」


「な、なんか疲れてますね」


サファイアが鬼無を気遣ったが、その言葉に彼女は少しムッとした。


「疲れてるのは主に君たちが余計な仕事を増やしてくれて残業したせい」


「ひぃ、ごめんなさい!」


ひまりが必死に謝ると少し罰の悪そうな顔をする鬼無。


「……ちょっと大人気なかった、ごめん。最近『ネメシス』関連で全国的に職員がピリついてる」


「なんか白子さんが言ってたやつか。突然何もない空間からアイドルと同等の力を持った少女が出てくるんでしたっけ?」


白子の名前を出したら鬼無が意外そうな顔をした。


「君たちは9thとも知り合いなんだ。随分良いコネがあるね。うん、まぁそんな感じで合ってるよ。実際『ネメシス』が出てきた場合その場所に近い協会支部のメンバーが駆けつける。近くに『クラス持ち』アイドルがいれば安心だろうけどそう簡単にはいかない…」


「9人しかいませんもんね」


ひまりが言うと鬼無は頷いて続ける。


「大抵は協会の下級〜上級職員が駆り出される。私は上一級という役職に分類されているから真っ先に危険な任務に駆り出される」


「上級にも種類があるんですか?」


「下から下級、中級、上三級、上二級、上一級と5段階に分けられるよ。私の位より上はもうクラス持ち。だから馬鹿にしてるかもだけど私は結構偉いんだよ。お金もたくさんもらってる」


「そ、そすか」


えっへんと胸を張る鬼無が何となく幼く見えてしまい反応に困るひまり。

しかし、その後少ししょぼんとした表情になり、鬼無が続けた。


「さっきも言ったけど私たちは一番危険な任務に充てられる。つい先日の有明海で起こったネメシス事件にも私の友人が主導で任務に当たったけど、大怪我を負ってしまった。明日は我が身。怖い」


「苦労されてるんですね。しかし何でそんな危険な協会に就職したんですか?」


ひまりがパスタを山盛り頬張りながら質問した。サファイアも気になっていたのか隣でうなづいている。


「私の妹はアイドル同士の戦闘の余波で大怪我を負ってしまった。そんな悲劇を繰り返させたくなくて協会に入った」


「あ…」


ひまりは先ほど鬼の形相で怒られたことを思い出す。

妹がアイドルの喧嘩で怪我した過去があるなら自分達に怒ったのも頷ける。


「妹さんはどうなったんですか?」


心配そうにサファイアが聞いた。

しかし鬼無は少し笑顔になった。


「大丈夫、しばらく入院してたけど今はもう元気に大学生をやってるよ。あの子はスキルが発現しなかったけど私はそれでよかったと思う。協会は福利厚生は良いけど任務で普通に死人も出るしめちゃブラック」


「普通の人より強靭な肉体でかつ拳銃とか爆薬レベルの攻撃を生身で扱えるアイドルを取りしまるってなったらやっぱり大変ですよね…」


「ひまりさんの言うとおり。実際ネメシスとかはA級相当の実力を持つ者が多いからね」


するとサファイアがオレンジジュースを空にしてからすかさず尋ねた。


「ネメシスって逮捕とかできないんですか?」


「できない。何故なら彼女らはほとんど人語を話せず、劣勢になると霧散して消滅する。だから現状討伐しかない」


「厄介だね〜。この場で出てくる可能性もあるって考えたら怖いな」


「それもそうだね。話変わるけど君たちはもしかしてアイドルグループでもやってるの?」


ひまりが少し驚きながら、嬉しそうに答えた。


「えぇ、suruga⭐︎oneというアイドルグループを先日結成しました!よく分かりましたね」


「訓練場を使ってまでスキルの練習に励む子達も珍しいからね。私もよくあそこで訓練したな…」


サファイアはもしかしてと言う顔で鬼無に尋ねた。


「鬼無さんも駿河学園だったんですか?」


「あぁ、うん。言ってなかったね」


「えぇ〜じゃあ学校に報告は勘弁してくださいよ〜」


情けなくひまりは頼み込むが鬼無はピシャりと断った。


「それとこれとは話が別」


「ですよね〜」


「ん…皆食べ終えたね、もう出ようか。家まで送るよ」


「え、そんなのいいですよ」


ひまりが断ろうとするが鬼無は頑として拒んだ。


「いくら強いと言っても貴方達は学生。協会職員として家まで安全に送り届ける義務がある」


「あ、はい…」


ひまりは店を出る間際にお会計の値段をチラ見した。

値段は2万円を超えており、驚きのあまり目玉が飛び出た。


時刻は22時過ぎ。

外は人も減っていてほとんどの店は閉まっていた。

もうすぐ7月に差し掛かろうとしているため、夜でもじめっとした暑さがあった。


ひまり達のマンションに帰る途中、鬼無から提案があった。


「貴方達、よかったら協会から提示されているアルバイトをやってみない?」


「アルバイトですか?スーパーの品出しとか…」


「スーパーの品出しを雇うのにわざわざ協会が求人出さないでしょ。今度の土曜日に静岡市長が京都へ会議に行くの。それの護衛に当たって欲しいんだ」


「市長の護衛!?そんな重大任務学生に任せていいんですか!?」


ひまりが驚くのも当然だろう。

高校生が普通お目にかかる事がない、自分が住んでいる市の一番偉い人物。

その人物の命を守るなんて大役務め切る自信がなかった。


「市長の横にべったりくっついている必要はないよ。それは上級以上のアイドルがやるから。貴方達は離れた所で怪しい人物がいないか確認してくれたらいい。まぁ強制はしないよ。ひまりさんほどの力量があれば居ないよりはいいかなって思っただけ」


「ちなみにお駄賃は?」


ひまりが瞳を「$」にしながら尋ねた。


「日当5万円」


「「5万円!!?」」


ひまりとサファイアの声が重なる。

高校生のバイトで日当5万は破格の金額だろう。


「ひと月は外食だけで生活できるよ!!」


「お昼に行ったお寿司屋さんに毎日通えますね!」


「貯金という選択肢はないんだね…」


盛り上がる2人に若干呆れる鬼無。


「その反応だと参加でいいのかな?」


「「よろしくお願いします!!」」


「バイトは二週後の土日。当日は君の部屋まで向かいに行くよ。一応ノイン交換しとこっか」


「おぉ…協会のエリートとノイン交換してもらえるなんて。人生何が起こるか分かりませんな」


「私はスマホがないのでひまりさんだけお願いします」


「ガッテン承知」


「今時スマホが無いなんて珍しいね」


「まぁ…私は色々経歴が複雑でして」


「そういえばネモさんから送られてくる荷物にサファイアちゃんの荷物も入ってるらしいよ」


「それは嬉しいです!」


会話しているとあっという間にひまり達のマンションの前に到着する。


「では詳しいことはノインでまた連絡するね。おやすみ」


「はい、ごちそうさまでした!またゲームもやりましょうね」


ひまりが食事のお礼をすると、鬼無は顔を赤らめながら小声で「気が向いたら」といい解散した。


2人がひまりの部屋の前に着くとドアの前に複数の段ボール箱が置かれていた。


「あ!サファイアちゃんの荷物届いてる!」


「こんな夜更けに届くものなんですね」


「いや、多分普通の宅急便じゃないね。協会専属の宅急便だと思う。取り敢えず中に運ぼうか」


せっせと段ボールを部屋の中に運び解体する。

中身はパジャマや歯ブラシ、布団など生活に必要な物が詰まっていた。


「これといって目新しいものはありませんね」


「そりゃあ生活用品一式だからね…。うん?これ何かな」


ひまりが段ボールの奥をゴソゴソと漁っていると冷たい感触を手に感じ、その物体を取り出す。



それは骨董品のような、西洋風の彫刻がなされた腕輪だった。



「何じゃこりゃ」


「これは…」


「サファイアちゃんの私物かな。はいどうぞ」


「ありがとうございます」


サファイアはひまりに礼を言うとその腕輪を受け取った。


ーーーその瞬間


バシュン!!!


「きゃあ!!」


「サファイアちゃん!?」


腕輪に触った瞬間、カッ!!と閃光が輝き、サファイアの腕に嵌め込まれてしまった。


「な、何なのこの腕輪。サファイアちゃん大丈夫!?」


突然のことに動揺するひまり。しかし当のサファイアは至って平常だった。


「えぇ、驚きましたが、何でしょう…少し懐かしい感じがするんです」


「記憶を失う前に嵌めていた思い出の腕輪とかなのかな?」


けど初めて会った時そんな腕輪つけていたかな、と頭に?マークを浮かべるひまり。


「かもしれませんね。元は私の所持品だと思うので大丈夫だと思いますよ」


「なら良いけど…」


心配そうにするひまりだったが当のサファイアが大丈夫と言っているなら気にしなくて良いかと、荷物の整理を再開する。


あらかた荷解きが終わった後、サファイアの布団をひまりの布団と並べて就寝した。


色々してたら、時刻は深夜2時をまわっており、次の日は2人とも寝不足で登校した。



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