エリノアを探せ!
校舎を飛び出したエリノアを探しにいくひまりとサファイア。
「あの〜金髪の体操着の女の子を見ませんでしたか?」
ひまりが通行人に片っ端から声をかけていく。
10人ほどに声をかけた結果どうやら駅の方に走っていったことが分かった。
「ふふふ」
ひまりが不意に笑った。
授業中に街に繰り出して自由に行動できる事に特別感を感じ、楽しかったのだ。
「静岡駅って都会ですね」
駅を見たサファイアがポツリとつぶやく。
「そうなんだよ!デパートも周りに沢山あって、駿河◯もあってオタ活にも困らないんだ!そのせいでいつも金欠だけど…」
「へぇ〜」
2人は駅内のデパートを散策する。
おしゃれなカフェなどがある道を抜けるとサファイアがある店に興味を示した。
店の入り口には「沼津おすし」と達筆な文字で書かれた看板があった。
「おすし…ってなんですか?」
「サファイアちゃんお寿司知らないの!?静岡県のソウルフード(ひまり調べ)だよ」
「おぉ……」
「ここ高いけど入ってみる?」
「お昼食べたばかりですよ!?」
「まぁまぁ。食べきれなかったら私が食べるから。レッツゴー!」
ガララ、と木の扉を横に引き店内に入るひまり達。
店内はかなり混みあっていたが、丁度テーブル席が一席空いておりそこに案内される。
「ここもタブレットで注文形式になったのか…」
「この国の人たちは皆スマホというものを持っていますね」
「もはや体の一部だよ。私はパソコンの方が好きだけど!…ん?」
「どうしました?」
「今この国って言った…?」
「えぇ」
「サファイアちゃん記憶が…」
「あぁ…すみません。記憶に蓋をされているものの、私が外国で育ったことは分かるんです。どの国かは分からないんですが……」
「そっか。まぁゆっくり思い出していこうよ。ネモさんはヨーロッパかもとか言ってたよね…今度志◯スペイン村でも行ってみようか」
「スペインですか。ありがとうございます、遠出になりそうですね」
2人は地魚を使った寿司を注文した。
しばらくして鯵やシラス、マグロの握り寿司が来た。
初めは生の魚を食べる事に躊躇していたサファイアだが、一口食べて、口に中に広がるとろみに驚いていた。
「美味しいです!」
「良かった良かった!」
そして2人はしばしの時間、寿司に舌鼓をうちながら駄弁り出した。
ひまりがサファイアに記憶を呼び起こさせるため海外のネタ知識を披露していたが、もう彼女の頭にエリノアはいなかった。
30分が経過した。
「良かった良かった。そういやヨーロッパは金髪の子とか多いのかな〜」
「金髪……」
「ひまりさん?」
「やばっ!!エリノアちゃんの事忘れてた!!」
2人は大急ぎで会計を済まし、店を出る。
「にしてもエリノアちゃんは何で逃げ出したんだろう」
「少し授業の合間に彼女と話をしました。なんでもエリノアさんは駿河の名家の跡取り候補で厳格な躾を受け育ってきたみたいです」
「うーん。逃げた理由は敗北は許されない…とかかな」
「かもしれませんね…」
再びひまりは聞き込みを開始する。
街の人が言う通り道を進んでいくと、どうやらエリノアは駿府城公園に行ったようだった。
「どんだけ遠くまで行ってんのエリノアちゃん……」
サファイアは平気そうだったがひまりには疲れが見えていた。
公園といっても名前に「城」の文字がある通り、徳川家康によって建てられた城の中に公園があるといった作りだ。
公園にしては広く園内は周回で1.6キロメートルもあり、園内はジョギングや犬の散歩などたくさんの人で賑わっている。
内部には売店やベンチがあり住民の憩いの場といった感じだ。
そんな公園のベンチに座る1人の金髪、エリノアの姿があった。
遠目で見て分かる程負のオーラに包まれている。
「エリノアちゃーん?」
「はっ!!」
ひまりの声に飛び起きる様に反応するエリノア。座りながら両手をひまり達に向け、拒絶の意を示している。
「こ、来ないでください…!!」
「皆驚いてたよ。あの学園トップクラスのアイドル、エリノアちゃんが奇声をあげて泣きながら逃げ出したから」
「うっ……」
「聞かせて、貴方のこと」
芯の強い声でエリノアに頼むひまり。
ここまで探しにきてくれた罪悪感もあったのか、エリノアはうなだれながらも、小さく頷いた。
三人は公園にあった4人がけの机に移動する。
「私の家は知っての通り駿河の名家、『津島家』ですわ」
自販機でコーラを買ったエリノアが、プシュ!と蓋を開けながら話し始めた。
ひまりは、エリノアちゃんコーラとか飲むんだ…と意外そうな顔をしている。
「じゃあ『津島エリノア』が本名なんだ。学校では先生もエリノアとしか呼んでないから初めて聞いたよ」
「津島家はこの辺では有名ですからね。皆さんと壁を作りたくなかったので先生方には名前で呼んでもらう様にしていたのです。…まぁ正直意味がなかったんですけど」
確かに、一般生徒はエリノアには近付き難かった。それは普通の出自とは違う、上流階級ならではの気品があったからだろう。
「私はこの辺にずっと住んでたけど『津島家』が名家なんてうっすらとしか聞いた事無かったよ。その津島家がどう関係してるのかな?」
「我が家系はスキルが発現しやすいのです。私の家は分家ですが、母親は私を当主にするべく小さい頃から厳格に躾けてきました」
「へぇ〜。よく分かんないけど、分家の人が当主とかなれるの?」
「ウチは実力主義ですから…。母親も元A級アイドルでした。それでも当主にはなれなかった…。上には上がいたのです。だから私に対する期待は尋常ではない」
「しっかし…一回負けただけでそんな気にしなくて良い気がするけどね」
「いえ、2回目なんです」
「え」
「以前、新しくA級に昇格したメンバーが集まって演習を行った事があるのですが、その時に敗北しました。しかも演習を見に来た母の目の前で。もう演習後は散々でしたわ…帰りの車内で永遠に罵倒し続けられました。次負けたら勘当だとも言われましたわ」
「顔の傷はそういう事なんだ。にしても勘当は酷いね…」
「エリノアさんは実力者だと思います。それを負かすなんて…かなり強いですねその人」
ひまりとサファイアでそれぞれ全く違う反応を見せた。
エリノアとしては勘当される事に反応して欲しかったのだが、空気の読めないサファイアであった。
完全に自分のことを棚に上げているが、サファイアは本心で言っている。
ひまりは、うーん…と唸って色々考えている。
「私はお父さんもお母さんも一般人で、偶発的にスキルが発現したんだ。だから最初から期待も何もなかったし、むしろめでたい事ってことでゲーミングパソコン買ってもらったよ。
エリノアちゃんみたいに将来を考えたこともなかった。何となく同人作家かゲーム配信者になれればいいなーとしか思ってなかった」
「(…中々人生舐めてますわね)」
「けどこういうのって答えはないけど最終的にはエリノアちゃんがどうしたいかが大事だと思うんだ」
「!!」
「エリノアちゃんは津島家で当主になりたいのかな?」
「わたくしは…」
エリノアは俯いて考える。
いや、彼女の答えはもう出ていた。それが彼女にとって最善かは分からないけど。
「わたくしは…当主になりたいと思ったことはありませんわ。お母様の期待に応えるのが小さい頃から当たり前になっていた。津島の娘としては当然のことだと思っていましたわ」
「…」
「将来のことは分かりません。けど今はもっと…恥ずかしいですけど学生らしいことがしてみたいと思っています!」
「おぉ…!」
サファイアが目をキラキラさせながらエリノアの告白を聞いている。
「恥ずかしがることなんてないと思う。自分の好きな事に向き合う事は、人として生まれたからには当たり前の権利だよ!」
「ひまりさん……」
「ん?」
エリノアがもじもじして何か言いたそうにしていた。
「あの…よろしければ私と友人になってくれませんか?」
「!!」
「わたくし…この学園で三ヶ月も経つのにまだ誰もお友達がいなくて。よろしければ、なんですが…」
「もっちろん!これから仲良くしようよ!そうだ、良かったら私たちのアイドルグループにも入ってみない?」
「え?」
「私も賛成です!」
サファイアがすかさず同調してくる。
エリノアは一瞬ポカンとした表情をした後、すぐに慌ててお辞儀をしてきた。
「ふ、不束者ですがよろしくお願いします!!」
「こちらこそ!」
3人が学校に戻る頃にはちょうど授業が終わろうとしていた。
エリノアは教師に謝罪をしたが日頃の行いがいいせいか、軽い注意だけで終わった。




