サファイア対エリノア
そして訪れる実習の時間。
授業が始まったタイミングでエリノアが実習担当の教師に提案する。
「先生、授業の前に私とサファイアさんの模擬戦を行ってもいいでしょうか?私の戦闘を見ることで皆さんのスキル使用時の参考にもなるかもしれませんし」
教師は驚きサファイアに視線を移す。
「しかし…エリノアさんはA級ですよ。サファイアさんにいきなりA級の相手をさせるのは酷では…?模擬戦ならB級の澪さんか舞子さんが適当だと思いますが」
教師としては当然の反応。
しかしサファイアもエリノアに賛同した。
「先生、私のことはお気になさらず。私も「りはびり」というものをするように病院の先生に言われましたから」
リハビリ、という単語に周りがざわつく。
「あのエリノアさん相手にリハビリだなんて…」
「サファイアちゃんヤバいんじゃ…」
しかし舞子の反応は違った。
「ひまりちゃん。多分サファイアちゃん『リハビリ』の意味分かってないよね」
「そのようですな」
生徒は口々にサファイアの心配をする。
当のエリノアは普通なら挑発とも取れる言動を笑顔で受け止めていた。
しかし…その額には青筋がうっすら立っていたのだが。
「ふ…ふ…。さすがひまりさんの妹。その強気なところ嫌いではありませんわ。では双方の了解が取れたところで…先生」
「サファイアさんが良いのでしたら許可します。では皆さん安全なところで見学してください。前回のひまりさんとエリノアさんの試合で静岡県からクレームが来たので周りに私のスキル【ラブバリア】で防音をしておきますね」
「いやいや、当たり前でしょ!!」
ひまりが全力でツッコミを入れた。
教師がスキルを発動させると学校の周りをピンク色のシールドが覆った。
音を30分の1まで軽減させるスキルである。
生徒たちが校庭の端に寄り、模擬戦を行う2人が校庭の真ん中で対面に向かい合う。
窓からは授業中にもかかわらずエリノアが模擬戦するという噂を聞きつけ覗いている生徒がいる。
「では、初めッ!!」
「燃えろ(Ardere)」
サファイアが開始と同時に短剣を出現させ、白いドレスにフォルムチェンジする。
恐ろしい程のエネルギー量がサファイアから放出され、辺りの草木がざわめく。
サファイアの周りには白い炎が舞っている。
「……なるほどね」
額に汗を滲ませながらポツリとつぶやく澪。
澪はサファイアの【Ardere】を一度肌で感じていた。
秋葉原で雷果との戦闘時にサファイアが澪の助けに入ろうとした時だ。
「これは強いわ」
しかし実際に目の当たりにすると、その迫力に鳥肌が立っていた。
そして、そんなサファイアの殺気を真正面から受けているエリノアは………。
「……はっ」
笑っている。
澪と同じくサファイアの実力を感じ取っているのだろうが「絶対に負けられない」というプレッシャーのようなものがエリノアの顔からは確認できた。
「【剡斬】」
「っ!!」
サファイアが普段見せないような冷たい表情で一言告げる。
その1秒後、直径30mを超える白い炎のブレードがエリノアに襲いかかる。
校庭の端にいるひまり達ですら熱気を感じた。
「(これを直接受け止めるのは避けたいですわねッ!!)【プラズマ・ブリッツ】!!」
エリノアに炎が触れる寸前で、彼女のスキルが発動した。
両足に雷が纏われ、高速で【剡斬】を回避する。
「【プラズマ・ボール】ですわ!!」
エリノアは雷による高速移動を行ったまま、サファイアの周りを移動する。
そして、ひまりと戦った時に使用した雷の球体状の攻撃を繰り出す。
しかし、あの時とは違いボールは5個出現しており、それぞれ意志を持っているかのようにサファイアに向かっていった。
「凄っ!私と戦った時は一個だけだったのに!」
自分に向かってくる【プラズマ・ボール】に対してサファイアは動かない。
ただ、空いている手をエリノアの攻撃に対し虚空にかざすだけ。
するとサファイアの手のひらから炎の衝撃波が爆発かと紛う程の威力で放出された。
ボォッ!!と離れていても音が聞こえるほどの威力で【プラズマ・ボール】は全て塵となった。
「【雷電槍撃】」
【プラズマ・ボール】は牽制のつもりだったのか、エリノアは自分の攻撃を完封された事に驚くことは無かった。
バチバチバチ!!!と雷音を迸らせながら、サファイアから40m程距離を取り、雷の槍を投げつける。
ひまりが必殺の技で防いだ【雷電槍撃】。
サファイアはどう対処するのかとひまりはワクワクしていた。
彼女は冷静に短剣を前に突き出す。
すると【雷電槍撃】は短剣の先に避雷針のように呼び寄せられサファイアを避けるようにして砕け散った。
「便利な剣ですわねぇ!!!」
エリノアはスケートのように校庭を滑るように移動しながら叫んだ。
次に行う攻撃パターンを頭で組み立てようとしたが…。
「え……?」
サファイアの姿を視認していたはずが急にふと消えた。
誓ってエリノアは彼女から目を一時たりとも離していない。
見当たらないーーーまるで瞬間移動でもしたかのように。
「後ろです」
「なっ!!」
消えたサファイアを探そうとしたエリノアだったが、そうするより速くサファイアが真後ろで声をかけてきた。
反射的に腕を使ってサファイアを払い除けようとしたが、逆にサファイアに腕を掴まれ上空に投げ飛ばされてしまった。
生徒たちからは歓声が上がっていた。
宙を舞いながらエリノアは考える。
「(強い…!!ここまでの強敵は初めてお目にかかりますわ)」
「(けど弱音を吐いてる暇はありません。駿河の名家当主候補として…2度も負けるわけにはいかないのですッ!!!)」
「(私のスキルは雷。雷を応用しての高速移動【プラズマ・ブリッツ】、球体を相手に飛ばす【プラズマ・ボール】、殺傷力の高い槍を投げる【雷電槍撃】、そして………)」
「何かしようとしていますね」
先程とは比べ物にならないエネルギーがエリノアに集中しているのを感じ、この戦いで初めて警戒態勢をとるサファイア。
「【ヴォルテックス・ディヴァイン】!!!!!!!」
空中のエリノアが吠えながら発動させた、彼女の最強の能力。
獣のような咆哮と同時に雷を帯びた龍を彼女は纏う。
昔の人間が見たら、それを神か何かだと見紛うだろう。
それほど神々しい能力。
ドォン!!ドォン!!と周りには落雷が発生し、生徒達が悲鳴をあげている。
「行きますわよ、サファイアさん!!」
ガァアアアアアア!!!!!、雷龍が咆哮をあげ、【プラズマ・ブリッツ】と比べ物にならない速度でサファイアに向かっていく。
「【熖刃風】」
サファイアは冷静に短剣から白い炎をビームの様に射出する。
ド、バァァアアアアアアアアン!!!!
炎と雷がぶつかり合う。
ギャオオオオオオ!!!という龍の断末魔の声が響く。
火力はサファイアの圧勝だったのか雷龍は真っ黒に焦げ、地面に倒れていた。
「おや…」
サファイアは警戒を解かない。
直後、戦闘不能になった雷龍の傷が一瞬で治癒し再び襲いかかってきた。
「雷龍は一度ではくたばりませんわ!!」
大口を開けて迫る雷龍にサファイアは敢えて自分から龍の腹の中に入っていった。
予想外の行動にエリノアだけでなく、ひまりも慌てていた。
「サファイアちゃん何やってんの!?」
「まさか…。雷龍、放電なさい!!!」
エリノアの命令は間に合わない。
雷龍の内部が直後に木っ端微塵に爆破したからだ。
断末魔を上げる間もなく【ヴォルテックス・ディヴァイン】は破られた。
空中からゆっくりと地面に降りてくるサファイア。
圧勝だった。
「勝者サファイア!!」
教師の宣言で生徒達が皆悲鳴に似た喚起をあげた。
ひまりが真っ先にサファイアに駆け寄り抱きついた。
「すごいすごい!やっぱりすごいよサファイアちゃん!!」
「あ、ありがとうございます…」
先ほどの冷酷な表情は消え失せ、いつものサファイアの朗らかな顔に戻っていた。
「わ、私が短期間のうちに2度も敗北するとは…」
エリノアは俯いてワナワナと肩を震わせていた。
様子のおかしいエリノアに気づくこともなくサファイアはテクテクと彼女に近づいていく。
「エリノアさん、ありがとうございました。非常に良い『りはびり』になりました」
「こらサファイアちゃん!!」
「え?」
ひまりに注意されたが遅かった。
「リハビリ」という一言がトドメとなる。
「あは、あはははは…」
急に死んだ目で笑いだすエリノア。
不気味に思ったひまりが恐る恐る声をかける。
「え、エリノアさん…?」
「あははははははははは!!!!!」
「ひぃー!どうしたのエリノアちゃん!?」
「もうおしまいですわーーーーーー!!!!!」
天を仰ぎながら絶叫。
うわーん!!と泣きながら体操着のまま学校を全力疾走で抜け出すエリノア。
あまりに唐突でサファイアやひまりのみならず、教師や澪、その他生徒達も目を点にしていた。
ええええええええ!!!!!!
皆の驚きの声が校庭に響く。
「逃げちゃったよエリノアちゃん!」
「あぁ…私がやりすぎたからでしょうか。加減はしたんですけど…」
「サファイアちゃん…それ言ったらエリノアちゃんますます壊れるからね」
「ひまりさーん!」
教師が2人に走りながら叫ぶ。
「2人でエリノアさんを探してきてください!!」
「先生は行かないの!?」
「仲良いでしょう?私は授業がありますから」
「オイオイオイ!!何かあったら先生の責任になりますからね!」
「私も探したいです。行きましょう、ひまりさん」
「やれやれ…行きますか」




