グループ結成
事情聴取はつつがなく進行した。
澪には罰として1日のボランティア活動が義務付けられた。
戦いを始めたのが雷果からということもあるが、街の破損からしたら破格の罰であろう。
そして終わり際に白子が皆に再度伝える。
「先ほども言いましたが最近何かと物騒です。いきなり召喚されてきた少女に殺される事例も増えてきている…。
また、サファイアさんを狙う輩も出てくるかもしれない」
「サファイアちゃんを?」
「サファイアさんに関しては現状殆ど分かっていない。記憶阻害を解除するため協会の一番精神系に強いアイドルにやらせてみましたが全く効果がありませんでした。記憶を失う前の彼女はどういう人間だったのかは分かりませんが、強大な力を持っているのは確かです。その力を使おうとする者がいてもおかしくありませんからね」
「サファイアちゃんは私が守るから大丈夫ですよ!」
「ひまりさん…」
ひまりがサファイアに抱きつき、姫を守る騎士の様に宣言した。
実力はサファイアの方が圧倒的に上なのだが…。
それでも彼女は顔を赤くして嬉しそうにしていた。
「正直私は君については協会が保護すべきと思うんですがね。まぁネモが言ってるなら仕方ないでしょう。
さて、もう暗くなって来ましたね。長い間引き留めてすみません。お帰りいただいて大丈夫ですよ」
「おっしゃー!2人とも帰るよ!!」
ひまりが2人の手を握る。
すると思い出した様に澪が問う。
「そういえば舞子は…?」
「「あ」」
サファイアとひまりの声がハモる。
「あぁ、舞子さんは商業施設にいらっしゃいますよ。事情を話したら心配そうにされてました」
「流石ですね!!」
「では気をつけて」
三人は白子に挨拶し一階の商業施設に戻る。
運良く舞子と出会え、4人で帰路に着いた。
東京〜静岡駅の新幹線にて。
「もう〜心配したんだよ皆」
帰りの新幹線で4人は晩飯に駅弁を購入しそれぞれ舌鼓をうっていた。
だが舞子が珍しくプンプン怒っている。
雷果と澪の戦闘時、舞子はメイドカフェにいた。
轟音だけは聞こえていたが、まさか友人が戦っているとは思わなかっただろう。
護送車に乗せられる皆を見て驚いたのも無理はない。
「舞子ちゃんには迷惑かけたね〜。ほれ、椎茸あげるから機嫌なおして」
「それひまりの嫌いなもの押し付けてるだけでしょう」
ひまりの行いにツッコミを入れる澪。
サファイアはそばでクスクス笑っている。
「そういえば白子さんがティアマトとか言ってたけど…うちの学園にアイドルグループとかあんのかね?」
澪がふとエビフライを齧りながら疑問を口にする。
ひまりがすかさず反応した。
「そうだ!私たちでアイドルグループを作ろうよ!!」
「いい考えかも!」
意外に舞子も乗り気だった。
サファイアは箸を使うのが面倒になってきたのか素手で米を掴んで口に入れ、顔中米だらけにしながらひまりに問いかけた。
「グループ名とかはどうするんですか?」
「サファイアちゃん!素手でご飯食べたらダメでしょ!」
「ひぃぃぃ…すみません!」
「けどグループ名か…確かに。では澪ちゃんから言っていこうか」
「えぇ!?私ネーミングセンスとか無いんだけどな。…『ひまり隊』とか?」
「そんなシブがき隊みたいな!?」
「いや、何歳だよひまり…」
「じゃあ次は舞子ちゃん!」
「うーん…『ひまりん』とかかな」
「なんで2人とも私の名前入れたがるの!?」
「私も言っていいですか?」
意外にもサファイアが自らグループ名を申し出た。
「いいね〜そういう積極的なところ嫌いじゃ無いよ!どうぞ!」
「『東洋の魔女』」
「いや、だから何歳なんだアンタら!!」
澪が再び突っ込む。
そして舞子が代替案を提案した。
「せっかくだから学校名を使ったグループにしてみない?例えばウチの校名が静岡私立駿河学園だから…『駿河湾』とか?」
ひまりは弁当を食べ切り、ゴミを袋に詰めながら賛同する。
「おぉ〜いいじゃんそれ」
「いや、文字にしたらめっちゃ渋くない!?」
「う〜ん…なら英語にして『suruga⭐︎one』とかはどう?」
澪のツッコミにひまりはスマホのメモ帳に「suruga⭐︎one」と打ち込み皆に見せる。
それを見た澪を含む皆は歓声が上がる。
「これいいじゃん!ちょっとした田舎臭さと可愛さが両立してる!」
「澪ちゃんそれ褒めてんの!?貶してんの!?」
『次は静岡駅です』
「あ、もう静岡かー。新幹線で東京から1時間、速いもんだね〜。私をボコった雷果とかいう奴ならもっと速いんだろうけど」
「まさか澪ちゃん…リベンジする気かい?」
「ひまりさんや、リベンジっていうのは負けた時にするんだよ。あれは引き分け…いやアイツの方がダメージ負ってたね絶対!」
「負けず嫌いだな〜」
4人は新幹線を降りホームの改札を出る。
もう時刻は20時を回っていた。
彼女らは皆親元を離れて寮で生活をしている。
寮は駅から約徒歩10分。
近所には大きな商業施設や遊ぶところが無数にあり生活には困らない。
お金があれば…の話だが。
ひまりの部屋は205号室。
澪たちと別れサファイアはひまりと一緒に部屋に入った。
部屋は1DKでリビングが10帖の広さだ。
1人暮らしする分には十分、2人だと少し狭いくらい。
「ひまりさんの匂いがします」
「なんか恥ずかしいな…」
室内は大量のゲーム、同人誌、漫画、フィギュアで埋め尽くされていた。
しかし散らかっているという事はなく、意外にも小綺麗に整理整頓されている。
ひまりはベッドより布団派らしく部屋の隅に行儀よく水玉模様の布団が畳まれていた。
「先ほどの街で販売されていたものが沢山ありますね」
「あの街は私みたいなオタクの聖地だからね。タダで旅行できて良かったな〜」
「聖地?あの街はエルサレムだったのですか?」
「ん〜…まぁオタクにとってのエルサレムみたいなもんだよ」
「なるほどこの後は何かするんですか?」
「そうだね〜。協会で買ったお菓子でも食べようか」
「はい!」
ちゃぶ台の上にクッキーやチョコやらを置いてお茶する2人。
コーヒーを飲みながらひまりがしみじみと呟いた。
「にしてもやっと落ち着ける時間が来たね。2人きりになったから聞くけど、サファイアちゃんは本当に記憶を失っちゃったの?」
改めてサファイアの口から聞きたいと思い問うひまり。
サファイアは申し訳なさそうに頭を掻く。
「はい、スノウという少女と戦った以前の記憶が分かりません。覚えていないというよりは記憶に蓋がされているみたいなのです」
「記憶を失ったわけではない?」
「うーん…難しい表現ですが、『あの諺の意味勉強したけど忘れちゃったな。何だっけ?』という感覚に近いかもです」
「よく分かんないけど何かのキッカケに思い出す可能性はあるってこと?」
「それは十分にあると思います」
「おぉ!」
ひまりはテンションが上がったのか机から立ち上がる。
「なら私がサファイアちゃんの記憶を取り戻すためにお手伝いするよ!!」
「あ、ありがとうございます。これからよろしくお願いします!」
顔を赤らめペコリとお辞儀するサファイア。
協会からサファイアの荷物がまだ届いていなかったので一つの布団に2人で一緒に横になり寝ることにした。
サファイアが安物の布団のふかふか感に感動しているところを見て、ひまりもネモの言う通り彼女はかなり特殊な環境で生活してきた少女なのかなと思った。
疲れもあり、2人はすぐに眠りに落ちた。
長い1日が終わった。




