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ヴァイオレット・ステージ  作者: 秋葉缶
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アイドルがいる世界

それは遠い遠い昔の話。

風が吹けば吹き飛びそうな古びた木製の家に、10代後半程の幼さの残る少女が2人住んでいた。



「スノウ。川に水を汲みに行きましょう」


「う……サファイア、もうちょっと寝かせなさい」


スノウと呼ばれた少女は簡素なベッドでマットレスに顔を押し付けて拒否している。

サファイアと呼ばれるた少女はスノウの服の襟を掴んで起こそうとする。

2人とも質素なドレスを着ていた。


「ぐぬぬ……起きましょうよ」


「………」


なおもベッドにへばりつくスノウを見て呆れたように口を開くサファイア。


「アイラさんも来ています」


「ちっ……」


スノウは舌打ちをするとノロノロとベッドから起き上がり、玄関へ1人で歩いていく。

サファイアは長年の経験で分かる。

スノウはアイラの名前を出した瞬間喜んでいたのだ。


スノウがドアを開けると、そこには茶髪のロングヘアの元気いっぱいな少女がいた。


2人同様綺麗な服装ではない。

至る所に縫い目があるシフトスカートを着用しており、決して裕福でないことが窺えるがそれでも人生を楽しんでいるように見えた。



「あ!スノウ寝起きでしょ。寝癖立ってるよ」


「うるさいわね……」


「さぁ2人とも、水を汲みに行きましょう」


3人は仲良さそうに土道を歩き始める。


「ねぇ2人とも、最近魔女が火炙りにされる事件が増えてきてるらしいよ」


歩きながらアイラは2人に最近の話題を振る。

スノウは呆れた様子で頭を抱えた。


「魔女ね…ほとんどは無実の人間でしょうに。民衆と教会は全員首を括るべきよ」


「それだと民衆である私たちも死んじゃいますよ」


サファイアはスノウに突っ込みを入れる。

スノウはムッとしてサファイアの頬を摘んだ。


「揚げ足を取らない」


「いでででで!」


いつもの事なのか戯れ合う2人を微笑ましい目で見ながらアイラが口を開いた。


「ま、スノウなら魔女狩りにあっても敵をみんなやっつけられるだろうけど」


「当然ね。私はこの国の兵を全て相手にしても勝てるわ」


スノウは右手を前に突き出すと、虚空に指をそわせる。

すると指の動きに合わせて「炎」が出現した。


「おー!相変わらず凄いね」


「うーむ…私もそんな摩訶不思議な力が目覚めてみたいものです」


サファイアとアイラは人地を超えた力にそれぞれ賞賛はすれど畏怖の念は見せなかった。

彼女らにとってはこれが日常のようだ。


「あーあ…私も『人を回復させる能力』みたいなのがあればお母さんを助けられるのにな〜」


アイラは両手を頭の後ろで組み、無い物ねだりをする。

悪気はなかったのだろうがスノウが申し訳なさそうな顔をしていた。


「私は炎も水も雷も操れるし回復も使えるわ。けど回復は自分にしか使えない。あなたのお母さんも治せるのならとっくに…」


「あー!ごめんごめん、そんな意味で言ったわけじゃないよ!」


「スノウはどうやってその能力を手にしたんですか?」


サファイアが興味本位でスノウに聞いた。


「生まれた時から。正直言うと3歳くらいまで皆が何かしらの能力を使えるものと思っていたわ」


「んなわけあるかい!!」


アイラがスノウに突っ込みを入れる。

サファイアは笑いながら2人を見ていた。

いつも通りの、3人の微笑ましい日常。

.

.

.

.


「……」


サファイアは神社の浜床の上で目覚める。 

どうやら夢を見ていたようだ。

周りは草木だらけで、近くの立て札に「ヘビ注意!」と書かれていた。


「こんな時に昔の夢を見るなんて……」


ゆっくりと起き上がり、ボソッと呟くサファイア。

彼女の声色からは少し名残惜しさのようなものが感じ取れた。

しかしすぐに真剣な眼差しになり口を開く。



「Ardere(燃えろ)」



ジュボォッッ!!!!!!!!と彼女の質素なドレスが燃え尽き、アイドルが着るような白いドレスにフォルムチェンジした。

手には素朴な短剣が握られている。


「待っていてくださいスノウ」



静岡県静岡市。

人口約70万人のこの街は大都会とまではいかないが駅周辺は複数のデパート、高層ビルが立ち並び、静岡県で1位2位を争うほど賑わった街だ。



静岡駅から徒歩5分の場所に存在する利便性の良い場所に一つの高校があった。


静岡私立駿河学園。アイドルを育成する学校である。

しかし歌って踊るアイドルではない。


校庭の中央に2人の少女がいた。

取り巻きの生徒達が校庭の端で2人を応援していた。

片方は茶髪のミディアムヘアで緋目の快活そうな雰囲気の少女。

もう片方は金髪のウェーブがかかったロングヘア。蒼目で吊り目のいかにもプライドの高そうな美少女だ。


金髪の少女、エリノアが手のひらから雷を放出させる。



「ひまりさん、準備はいいかしら?」

「私が本当は強いって事、思い知らせてあげるよ!」


ひまりと呼ばれた少女は笑顔で応じた。


「では試合開始!!」


「行きますわよ!」


教師が開始を告げると同時に、エリノアが放出した雷を器用にバレーボールほどの大きさの球体に変化させた。


「【プラズマ・ボール】ですわ!」


そのまま【プラズマ・ボール】を指で弾くエリノア。

プラズマは初めはゆっくり動いていたが、次第に高速になっていきひまりに襲いかかる。


「【ツヴァイハンダー】!!」


ひまりは掛け声と共に何もない空間から両刃の剣身が1.2m程の長剣を出現させた。


全体的に銀色の装飾がされている剣で、刃の幅が15cm程度ある非常に重さを感じさせる剣だ。


刃全体が紫のオーラに包まれている。


「ハァッ!!」


勢い良く剣を振り被ると、刃から紫の斬撃破が飛び出した。

斬撃破はそのまま雷に向かって突き進み、着弾する。


ドォォォォォン!!!とエリノアの攻撃とひまりの攻撃が炸裂する。

地面にヒビが入り砂埃が2人を覆う。


「やりますわね…」


賞賛と共にエリノアは手のひらに雷を溜める。

雷は徐々に直径2mほどのランス(槍)に変化した。


「これは防げますか!?」


ランスは夥しいほどの雷を帯電しており半径数メートルに渡り雷が迸っている。


「【雷電槍撃】」


「ちょいちょいちょい!!!!」


楽しそうにひまりに向かってランスを投げるエリノア。

それは先ほどの攻撃とは比べ物にならない破壊力を感じさせひまりは慌てて剣を構える。


「(これ撃つと結構腕に負担がかかるんだけど…)」


逡巡するひまりだが目の前の脅威の方が上だと考え、エリノアを倒すために全力を出す。



「【ヴァイオレット•ブラスト】!!!!」



技名を叫ぶとひまりの剣が一瞬発光し、刃から紫色の光が炎柱のように舞い上がる。

腕を上げ、その存在感をまわりに見せつける。

その光は街ゆくサラリーマンや主婦などにもみえておりパシャパシャと写真を撮る者もいた。



「避けてねエリノアちゃん!!」



ゴォォォォォォ!!!!!と地面が唸るような音と共に必殺の一撃がエリノアに襲いかかる。

エリノアの【雷電槍撃】など一瞬で吹き飛ばし、彼女自身に光が向かっていく。



「(避けるか…。しかし駿河の名家である私が同学年の攻撃を避けるのいかがなものか。仕方ない、受けて立ちましょうか!)」



バァァァァァァァン!!!!!!



攻撃がエリノアに直撃……したかのように見えた。


「!?」


自分の目を疑うひまり。

エリノアをよく見ると彼女を周りに透明の障壁ができており攻撃を真っ向から防いでいた。


透明な障壁は徐々に輪郭をあらわにする。

その輪郭はまるで蛇のようであった。


「私の最強の技です…【ヴォルテックス・ディバイン】!!!」



エリノアが叫ぶと同時に障壁が本来の姿である「雷竜」に変化した。

エリノアの周りに雷が降り注ぎ、神話のワンシーンかのような神々しさを感じさせる。


雷龍はエリノアを守る為とぐろをまき、ひまりの【ヴォルテックス・ディバイン】を真っ向から防ぐ。


高火力同士がぶつかるその音はまるで戦争でも起きたかのようで数キロ先まで音が響いていた。


「マジかっ!!?」


ひまりの【ヴァイオレット•ブラスト】は直撃すれば建物すら粉々にできるほどの威力を持っている。

腕にかかる負担のため1日1回を限度としている必殺の一撃。


しかしエリノアの技はそんな一撃を真正面から受け続けている。


「ギブアップと言いなさいエリノアちゃん!!」


「ちっ…」


エリノアは自分の技に自信を持っていたがひまりの技が予想以上に凄まじく舌打ちした。

一瞬でも気を抜くとひまりの攻撃に潰される。


5秒経過。


エリノアの最強の技が明らかに押されていた。

ミシミシと嫌な音を立て数秒後の破壊を予兆させる。

これほどの威力の攻撃を生身で食らえば即死することは必然だ。

しかしエリノアは引けない理由があった。


「(どうすればいいか考えるのです私!)」


エリノアはパニックになりそうな自分をなんとか律し思考を巡らす。


そんな時、突然ひまりの攻撃が止んだ。


「……?」


不思議に思いひまりに視線を向けるエリノア。

   


「ギブア〜ップ…」



ひまりが両腕を上げ、疲れ切ったようで降参のポーズをとっていた。

遠目でも両腕が赤く腫れているのが分かる。

ひまりにとっても先ほどの技はリスクがあったのか…ともあれ戦闘続行は不可能なようだ。


「ひまりさん……」


「勝者エリノア!!」


教師が勝者を告げると周りから歓声が上がった。


「ひまり!!!」


そんなひまりに駆け寄る1人の少女がいた。青色のポニーテールの背の高い少女だ。


ひまりの幼馴染の松浦澪である。


「うぅ…澪ちゃん。私はもうダメみたいだよ。最期に静岡名物こっこを奢って欲しいな」


澪の体に寄りかかり茹だるひまり。


「そんなに話せりゃ大丈夫でしょう。保健室行くよ」


「あい」


澪に付き添われながら校庭を後にするひまり。

しかしそんな2人を不満げに睨みつける少女、エリノアがいた。


「…ふん」


「エリノアさん、流石『津島家』の当主候補ですね!素晴らしい戦いでした」



体育教師がエリノアを褒めちぎるが彼女はあまり嬉しそうではない。



「…ありがとうございます」



第二次世界大戦後、100人に1人の確率で15歳以上の少女達が超自然的な力を発現する現象が確認された。


電気を発する者、火を使う者、風を操る者、様々な能力の事をまとめて【スキル】という名称で定められた。


女性にしか現れず、スキルに目覚めるのが殆ど思春期であることから彼女らは【アイドル】と呼ばれていた。


力の使い方を学ばないと事故にも繋がる。

強力な力を持ったアイドルが暴走した場合、街一つがいとも容易く破壊される。

そうならないために全国各地にアイドルを育成する学校が作られたのだ。

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