三つの願い
ひょんなことから魔法のランプを手に入れた男。
そんなもの嘘に決まってる……などとは思いもしない。手に持てばわかる。なんとも不思議な気配を放っているのだ。
男はよくあるお話と同じようにランプを擦った。それで中にいるランプの精霊を呼び出し、願いを叶えてもらおうと考えたのだ。
……が、ランプの先っぽから煙が出るもその量は一定。沸騰するヤカンにも劣る。それに加え、手を休めれば煙もまたランプの中へ引っ込む。
なので、男は気合を入れて、こすこすこすこす……が、やはり出てこない。やがて、ああああ! と苛立ち叫び「さっさと出てこい馬鹿!」と怒鳴りつけながら、こすこすこす……。
するとようやく中からランプの精霊が出てきて……
「いや、すぐに引っ込むな! この!」
サッと引っ込んだランプの精霊。男はガンガンとランプを叩く。するとついに、モクモクモクモクモク。凄まじい煙と共に堂々とランプの精霊が現れた。
「お、おおお! いや、煙たいが、うおおおおお!」
男は大興奮。声を両腕を高く上げた。
「……」
「わぁ……ん? おい」
「……」
「なあ、あれ?」
「……」
「いや、なんか話せよ! 言葉通じないのか!?」
「はい、話します。私は三つ願いを叶えることができるのですが」
「おお! それだよそれぇ!」
「たった今、三つ目の願いを叶えましたので、さよならぁ」
ランプの精霊はそう言うと煙と共にランプの中へ戻り、そしてランプもまた、煙のようにその場から消えてしまった。
「いや、いやいやいや一つでよかったのにぃ……」
海を漂流中、偶然釣り上げた魔法のランプ。彼の願いはそう、たった一つ。この命が助かること。それすら叶わずに泣き崩れる男。
と、ランプから出たあの大量の煙を発見し、船が近づいていることを彼はまだ知らず。