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デュ・アル  作者: あめ
始まりは希望と絶望から。
3/6

鏡花水月。






 何も映っていなかった。






そこには誰も映っていないのだ。

流れてきた映像、それは見覚えのない荒れ果てた地。


血は途切れている。


オールクラウンは信じたくないが、そう思わざるをえなかった。

「慧眼」が間違いを起こすはずはないのだ。

今まで悠久の時を過ごしてきた中で事あるごとに慧眼に導かれ、人の未来も導いてきた。

ならこの荒地は一体どういうことか。


 おそらく「ラーク」というあの村があった場所。


神龍であるオールクラウンも悠久の時の中を生き、長寿であるがゆえに答えを見つけ出すまで時間がかかってしまった。人の一生は永くても100年、神龍の一生は永くて10000年。神龍の場合は命が尽きても肉体は滅びるが「一部の記憶」だけは消滅せずに霊魂に宿り、命が尽きる直前の「思想に関係のある場所」で卵に転生するため神龍と人ではその時間の価値が違う。

神龍ほど強くはない人の視点からすればいつどんな災害が起きても、村が襲われたとしても全くおかしくはないのだ。

その現実が分かってしまったオールクラウンに今の状況は酷すぎるものだった。


「何があったのだ...あの笑顔を絶やしてしまった...。

あの時の彼女のように我が手を差し伸べるべきだった...。悔いる...悔いるぞ!!!」


彼のいう「あの時」、「彼女」とは...?そして手を差し伸べられた事があるような言動は不思議だ。

神龍は全ての人に平等に接し、急用や余程のことがない限りは中々会う機会もない。それを考えれば「彼女」とは神龍の中の誰かなのだろうが今はよく分からない。


 そんな謎を呼んだオールクラウンはというと、

たった一つの望みに賭けていたが辛い現状を味わい、自分と「暴食」への怒り、それに迷いと悔やみで打開策も逃げ道もなく、「内に秘めた存在」が語り掛けてくるのを必死に聞き流していたが、映像は未だに荒れ地で何も

変わっていない。周りを見渡しても草木は1本も生えてないが、一つだけポツンと卵がおいてある。

人が存在してる形跡はないことが分かり、そこは日照りが強い。血を持つ者を探した結果がこれならばオールクラウンも絶句して当然といえる。

王でさえ俯きそうになった、その時


 大鎌のような鋭利な角が王の頬を掠め、おびただしい量の血が溢れ出る。


「みーーーつーーーけーーーたっっっ!!!!!」


その声はもう聞きたくもない、「暴食」だ。

だがまだ慧眼の効果は続いている。

おそらく王の気配がする場所を手当たり次第切り刻んでいたのだが、

オールクラウンが思考に夢中になるあまり「暴食」の存在を脳裏から忘れてしまったその一瞬のひと時に気配が停滞した事でそこに狙いを定めた「暴食」の攻撃を受けてしまうことに至った。そして血が滴ることで既に限界近くだった慧眼も疲労により映像が歪む。


 ふと、ムーンイーターとの日々が脳裏をよぎった。


「あなたはそのままでいいのです。

優しい王のほうが人も竜も慕ってくれますよ。

傷付ける事しかできない力なんて、あなたには必要ないのです。そのままであれ未来永劫、私達の偉大なる王よ」


ムーンイーターは常に神龍は勿論のこと人や竜にも優しく、霊魂にさえも行くべき場所へ行けるように導き愛した。その姿は誰が見ても美しかった。


若い頃、オールクラウンが落ち込んだり俯いていると


「俯いてはいけません...心というのは脆いものです。

その脆さにつけ込んでくる存在だっているんです。

何か辛い出来事にぶつかってしまっているのなら、

あなたがそれを乗り越えられる勇気を持てるように私はこう言います。

『顔をあげて考えてみてください。

困難に打ち勝った後にどんな未来が、何が待っているか。今が本当に辛いというのであれば、きっと乗り越えた暁には楽しい素敵な出来事が待ってると思います。

結果自体は慧眼なんかに頼らなくても分かるものかもしれませんね。笑顔で今を生き、笑顔で未来を考える...それが困難に打ち勝つ第一歩ですよ、」


未来を諦め、俯こうとしたオールクラウンに攻撃が当たってしまった事もムーンイーターが俯かせる事を許してはくれないように思えた。都合がよすぎる思考だとは思っても、そう思いたいほど王は追いつめられているのだ。


 ムーンイーターは強い心も持ち合わせており、オールクラウンよりも先に転生していた分、面倒見もよく姉御肌で慕っていた。転生はしても「一部の記憶」が引き継がれる事以外は普通の幼竜と何も変わりらない、それを思い出した王は


(また彼女に救ってほしい...まだ彼女を取り返せる望みがあってほしい...)


と強く望む。


「慧眼よ...我は恨むぞ...自分自身を」


慧眼を使えば見えたはず。

それを平和だからと油断していた。

ムーンイーターなら呑まれる事もないと油断していた。

今ではそれも言い訳にしかならないのだろう。

だからこそ「暴食」がいたことに気付かず過ごしてきた時間を、自分をオールクラウンは恨む。


「王しゃまよおおおおおお!出ーておいでえええ!

姿隠すことしかできないなんて...哀しい王しゃまでしゅねえええ!!!そのご様子だとお得意の慧眼とやらにも裏切られて、もう何の手段も持ってはいないのでしょおおおおおお!!!...今のあなたには...絶望しかないのです!!!」


慧眼の能力が終わる。


と同時に王の姿が露わになり、痛々しい傷が見えるも迷わず抗う姿勢を見せる。


「...君に何が分かる!!!

あの時のようにまた悲劇を繰り返すつもりか!!!

絶望なんて何回も!...」


(ん?不自然だ...何か引っかかる...。

今のあなたには絶望...そうか、そうなのか...我の望みとはそういうものなのか...!)


と王は「そこ」に気付いた。


「正解だ、暴食よ...そうだ、絶望しかない...哀しいが、今の我にはな!」


全龍オールクラウン、王と呼ばれしこの神龍は笑っていた。まるで未来に希望を見つけた、「あの時」のように。


(これでいいのだな、ムーンイーター...)






 確信した二つの思い違い。

望みとは儚く、それもまた一つの幻であった。


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