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デュ・アル  作者: あめ
始まりは希望と絶望から。
2/6

もう一つの罪。






 「暴食」。






 これが七つの大罪の一つであることは説明も不要だろう。しかし何故ムーンイーターの中に突然姿を現したのか。

それは七体の神龍が今は内に秘めているものではあるが元々は王族、農民、特別な血を持つ一族のとある思想によって生まれ、それが哀しき戦争へと繋がった。強欲で傲慢ゆえに堕落した王家、激情を憤怒へと変え貪欲になった農民、神龍の放つ不思議な美しさに魅了されその嫉妬から竜を乱獲し、喰らった一族。


 世界に希望を授けた後、神龍達は人から戦争の元凶となった七つの思想を取り除き、一つずつ分け合い自分の心に取り込んで管理した。


 またあの悲劇が繰り返されないようにと。


それと同時に人の弱さも知った。いつも人の強さを認め、称賛し見守っていたが一つだけ間違っていた。

「人」は助け合わなきゃ生きていけない生き物だと。独りになってしまうととても弱く、霧のように散ってしまいそうだ。なのに傷を負ってどんなにボロボロになっても隣に誰かがいてくれるだけで立ち上がる勇気を持っている。


「人」とは儚い生き物だと神龍達は思った。

消えてしまったら何も残らないのに。そんな生き物なのに、たとえ自分が消えてしまっても未来に希望を

託せるのなら痛みだって喜んで受け入れる者もいて

心の傷を負ってしまうと中々立ち直れず闇を受け入れてしまう者もいる。


その悲しさを忘れぬようにと、胸にしまい込んだ。


なぜならこの世界では7つの思想が元になっている「七つの大罪」とは心の闇を好み自我を乗っ取る龍を表していて、その龍達を「七大罪龍」『ななだいざいりゅう』とレイディアに生きる者達は呼んでいるからだ。




 オールクラウンは「暴食」という何よりも聞きたくなかった言葉に悔しさと自分への怒りが溢れ出てきた。


まず何をすべきか。

ムーンイーターにデスミラー。自分がそのうえに立つ存在だとしても神龍2頭を相手にするのは無謀すぎる事は分かっている。ならば今は慧眼と記されるその能力に頼るしかなかった。オールクラウンの元々純白な体が光に包まれると共に銀色に輝く。普段は黄色い目も黄金に輝き、燃え滾る炎のようなその羽からは火花が散っている。


「何をしてるんですかねえええええ!?あんまり綺麗だと惚れちゃ

いますよおおおおおお!?きゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」


その声の主は王と呼ばれる目の前の神龍をバカにしていた。だがその憎たらしい瞳の奥には少なからず恐怖があることを微かに感じ取っている。その恐怖がある限りまだ攻撃はしてこないと。


 今、オールクラウンの脳裏には慧眼により何パターンもの未来が視えている。ここで戦えばムーンイーターは倒せても傷だらけでは後からやってくるデスミラーに殺されてしまうこと、他の神龍達に知らせる時間もないこと、人に助けを求めればまた戦争へと繋がってしまうのではないか。そもそもこれは我ら龍が招いた事。こういう時ばかり人を頼るのはおかしくはないだろうか。


と悩んでも現状は何も変わらない。


「こざかしいからそろそろ消し去っちゃってもいいですかねえええええ!?お仲間さん呼ばれても困りますし、パワーアップなんてされたらめんどくしゃいですからああああああ!!!」


そう言葉が切れると「暴食」はムーンイーターの大鎌のような巨大な角を振りかざしてきた。


だがオールクラウンの体をすり抜ける。


「申し訳ないが君の攻撃はこの状態の我には届かない。消し去りたかったのなら、こうなる前に行動をしておけばよかったものを。それができないのも悲しいものだ」


「暴食」は七大罪龍の中でも知恵が足りず、行動も単純だ。だからこそ今のオールクラウンには都合がよかった。


「どどどどどどうなってるんですかああああああ!?すり抜ける...とはどういうことおおおおお!?分からない...分からないいいい!なんで当たらないんですかねええええ!この肉体が悪いんですかああ!...私は...この肉体が悪いんですねええええ!!!」


慧眼の能力が発動されると未来が視える一方で周りには幻を視せることができ、敵には「惑わしの幻影」と味方には「癒しの幻影」という名の二つの幻を操ることが王にはできる。


その王の姿さえも今「暴食」には見えてはいない。

「死の墓場」の中で特に険しい洞窟前の山岳も今のオールクラウンには味方した。


だが今は「暴食」の器になっていてもムーンイーターは元は同じ神龍。気配を察するぐらいは何もせずとも容易で近くに王の存在は感じている。それに慧眼の能力は消費が激しく、未来を視るには莫大なエネルギーを必要とする。長期戦になると分が悪い。


そして今のオールクラウンに望む未来が視えてくれない事も悲しい現実だった。いや何を望んでいるのかは分からないのだ。救いを求めてる自分がいることだけが確かだった。それは認めたくもないが紛れもない事実。今までここまで追い詰められた事などなかったのだから。


「また我を導いてくれ...ラ...」


慧眼を維持しつつ、救いを求めるかのように何かを口にしようとした時に長年忘れていた大切なものを思い出すような感覚でオールクラウンの脳裏に懐かしい笑顔が浮かんだ。「ラーク」という小さな村の少年の笑顔だ。


「あれからどれぐらい経ったのだ...。

分からないが、あの笑顔が我の記憶から消えてくれない。『守るために戦う事も罪』...まだ小さい子供になんて残酷な言葉を言わせてしまったんだ...。

少年もあの血を持ちし者...命の灯が消える前にこの世界の全てを知れたのか。ん...待てよ...血筋は途絶えてなければまだ存在しててもおかしくはない。

...そうだ!ならば今どこにいるのだ、慧眼よ!!!他に何も見せなくていい!...血を継ぎし者を血眼になってでも探し出すのだ!!!」


「暴食」は乗り移った肉体で暴れ、角を振りかざし、大地を揺らし、尾で木々をなぎ倒しながら王を探している。時が経つにつれてその巨体からは「闇」が広がっていて、その「闇」は霊魂を「生ける屍」、紛い物へ変えてしまう。洞窟にはデスミラーもいる。


まさに「絶望」以外のなにものでもない。


それを見て打開策を考えつつも、今は何もできない自分が嫌になった。オールクラウンの目からは血が涙と共に溢れ出ている。慧眼も限界が近い。


闇に汚染されていく光景に耐えられなくなり目を閉じようとした、その瞬間。一つの鮮明な映像が流れ込み、






オールクラウンは絶句した。




 神の慧眼に映りし、絶句するほどの未来とは...?


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