狐さんとドロップアイテム
穂香の<収納>の中には、彼女の知らない間にアイテムが2つ追加されていた。見覚えのないアイテムも気になるが、喉が渇いていた穂香はとりあえずカバンを取り出し、ペットボトルから水を飲んで喉を潤すことにする。
「ごくっごくっ……ふぅ。あ~、お水も残り少なくなってきちゃったな~。どこかで補充できるといいんだけど」
水の量は既にペットボトルの三分の一くらいになってしまっていた。物資を補充することができない環境で歩き回っていたため、穂香は節約していたつもりだが空腹もあって水を飲み過ぎてしまっていたようだ。そして、穂香はカバンから水筒を取り出してシロにもお水をあげる。シロも喉が渇いていたようで夢中になって水を飲み始めた。
穂香はその様子を微笑ましく眺めた後、辺りを見渡す。似たような木々が生えていて見分けがつかなかった。
「……どうしよう」
カマキリから逃げるために走り回ったため、現在地を見失ってしまったのだ。不思議な門があった場所に戻りたいが、その場所に戻れそうもない。
気落ちしそうになりそうな思考を止めて、穂香は改めて収納画面に表示されたアイテムを確認することにした。
「スライムのヒマク……スライムって、やっぱりあのぷにぷにしたやつのことだよね? で、もう一つは~、しらは? はくじん? この漢字はきっとカマキリって読むんだよね?」
穂香は2つのアイテムから洞窟のような場所で遭遇した水色の半透明な不思議生物と、つい先ほど穂香が倒したモンスターはカマキリを大きくしたようなモンスターを連想した。あのぷにぷにした不思議生物の第一印象からRPGに出てくるスライムなのではないかと疑ったし、蟷螂は見慣れない漢字で表記されてはいるが、漢字が虫偏で構成されていることからおそらくカマキリと読むのだろうと穂香は推測する。
「つまり、このアイテムはモンスターを倒した報酬ってことかな?」
穂香は自分の尻尾をにぎにぎと握って心を落ち着かせ、思考を巡らせた。
(倒したモンスターはスライムとカマキリだけじゃなかくて、大きな蟻もいたよね。でもあの大きな蟻のアイテムはなくて、スライムと大きなカマキリのアイテムが入っているってことは、私が倒したモンスターの討伐報酬が<収納>の中に自動で入るってことなのかな?)
「ねぇシロ、ちょっとシロの<収納>の中身見させてもらってもいいかな?」
シロは顔を上げて、穂香を見てワンと鳴くとともに『いいよ』という思念が伝わってきた。ありがとうと返しつつ、穂香はシロの収納画面を表示させた。
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<収納>
5/100
・黒鎧職蟻の脚肉 ×2
・黒鎧職蟻の背板 ×1
・黒鎧職蟻の爪 ×2
・黒鎧職蟻の毒針 ×1
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「この漢字はアリって読んだはずだからやっぱり倒したモンスターの報酬ってことでよさそうだね。クロヨロイショクアリ? それにしてもこのアイテム、脚肉……。肉、お肉か~。う~ん、確かにお肉なのかもしれないけど蟻のお肉って……」
肉という字を見て空腹状態のお腹が刺激され、穂香のお腹がグゥと鳴る。スマートフォンで時間を確認すると、現在の時刻は12時半を回ってる。既にお昼ご飯を食べる時間だ。
「モンスター倒したら、食べ物が手に入るかもしれないってことか~。コオロギはちょっと食べてみたいと思ってたけどいきなり蟻はね。……できれば、最後の手段にしたいなぁ」
いくらお腹が好いていても蟻を食べるのは抵抗があった。それもあのモンスターとしか言いようのないサイズの蟻だ。食べるのに抵抗があってもしかたないことだろう。穂香はシロの収納画面をそっと閉じるのだった。
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