狐さんと不思議な門
無数の石を積み重ねてできた四角い枠。その枠の中には仕切るものは何もない。では周囲の壁と同じように岩肌が見えるのかというと、それも違う。そこだけまるでぽっかりと穴が開いたように暗くて見通せないのだ。
(扉? ん~、でも何もないから門って言ったらいいのかな?)
扉というのであれば開口部を閉じる木製なり金属製の仕切りがあるはずだが、この石枠には何も仕切るものがはまっていなかった。穂香は遠くから見て異質な雰囲気がただようその枠が、どこか別の場所へとつながっているのではないかと思った。
「もしかして……、出口なのかな?」
穂香は足早に扉へと近づいた。近くで見ると、石の枠は大人二人が余裕で通れるくらいの大きさをしているのが分かる。枠の中を見ると、そこには不思議と先の見えない暗闇が広がっていた。穂香は吸い込まれるように自分の手を近づけていた。そして手が暗闇に触れる寸前、シロが「ワン!」と鳴いた。
「あっ!?」
穂香は手を止め、慌ててその扉から離れるように後退った。穂香の後を追ってきたシロが放った警戒の声で我に返ったのだ。
「あ、危なかった~」
やっとダンジョンから出られる希望となりそうなものを見つけたとはいえ、まだそれが本当に出口なのかはわからないにも関わらず不要に触れようとしていたことを反省する。
「ありがとう、シロ」
穂香がお礼を言うと、シロは嬉しそうに尻尾を振った。少し冷静になった穂香は周りを見回しながら考える。
(危ない危ない。出られるかもしれないと思って、触ろうとしちゃったよ。でも、まだ見回ってない場所がたくさんあるとはいえ、ここは行った方がいいんじゃないかな? でもでも他にも同じような場所がないか確認したほうがいいかも……)
ステータスを確認すると穂香のHPは40、MPは65とどれも前に確認した時より減ってしまっていた。そのままパーティー画面を開いてシロのステータスを確認するとシロのステータスもHPは50、MPは30と減ってきているし、おまけに状態が穂香と同じ空腹状態になってしまっていることに気づいた。
「そうだよね。シロだってお腹すいてるよね」
申し訳ないと思いつつも、穂香はそんな状態でもシロが自分におやつをくれたことが嬉しくなった。
穂香がシロを見ると、シロは不思議な門の興味深そうに匂いを嗅ぎまわっている。
『シロ。このまま、ここを探すのは体力的にも厳しいと思うんだよね。先に進もうと思うんだけどどうかな?』
穂香は自分の意見だけではダメだと、シロに念話で話しかけた。シロも同感だったようで「ワン」という鳴き声と共に、『行こう』という思念を返してきた。
穂香は覚悟を決め、不思議な門の奥に広がる闇を見つめた。いざ潜ろうとすると緊張してしまい、ごくりと唾を飲む。
「よし! 行くよ!」
穂香とシロは横に並んで、不思議な門をくぐる。すると一瞬体がフワッと宙に浮くような感覚がした後、地面に足が付いた。そこは薄明かりの洞窟の中より明るく、穂香は思わず目を瞑ってしまった。
木々の香りが鼻腔をくすぐり、踏みしめた地面は先ほどまでの硬質な感触から柔らかい土のような感触に変わっている。目を開くと木々が生い茂る自然の景色。
「わぁ! 出られた!」
隣を見るとダンジョンに入った時とは違い、シロもちゃんとそばにいた。穂香はシロに抱き着く。
「やったー! よかったよ~!」
すっかり安心していた穂香だが、シロからは『警戒して!』という思念と共にが飛んできたことに驚いた。
「え? どうしたのシロ?」
そして、シロは穂香の抱き着きから抜け出し、周りを警戒するように歩きだした。それにつられて穂香は辺りを見渡す。そこはやはり洞窟内とは違って、ダンジョンに入る前に見た林の風景とよく似ている。
「出られたんじゃないの? あれ?」
穂香が周りを見渡すとその途中で視線が止まる。その視線の先には、見覚えのある石枠があった。林の中に不自然な石枠、そして石枠の中に広がる暗闇。
「……もしかして、まだダンジョンの中なの?」
穂香は呆然と呟いた。
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