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狐さんの初戦闘

 巨大な蟻が不気味な鳴き声を響かせながら迫ってくる。穂香とシロは探索を始めて早々に、再び大きな蟻と遭遇してしまったのだ。

 事態を想定していた穂香は冷静に大きな蟻を見据える。


(相手は一匹!)


 ステータスボードの恩恵を受け、戦闘手段である狐火のスキルを習得したのだ。さっきまでの穂香とは違い立ち向かう術がある。相手が一匹ならそれを試すいい機会であるのは間違いないと、穂香は緊張に汗ばむ手を握る。


「よし!」


 声を出して自分に活を入れ、蟻に戦い挑む。狐火が実際にどれくらい役に立つのかはわからないが、それを知るためにもここで奮い立たなければいけないと穂香は覚悟を決めた。


「ガゥ!」


 そんな穂香の横から颯爽と駆け抜けていく姿があった。


「あっ、シロ!?」


 愛犬のシロだ。シロは穂香が呼び止める間もなく、瞬く間に蟻との距離を詰めた。蟻はそれを迎え撃つように噛みつきを放つがシロは横斜め上に飛んで躱す。

 穂香が躱すにしても高く飛び過ぎだと思うのもつかの間、シロは何もないはずの空中をたんと蹴って進行方向を変えるとその勢いのまま、蟻の首元に噛みついた。そして、ボキッという鈍い音とともに蟻の首をへし折ってしまった。

 先ほど習得したばかりのエアロステップを早くも使いこなし、よりアクロバットな動きができるようになったシロには蟻程度では相手にならないようだ。


「ハハハ……」


 穂香はあっさり片付けてしまったシロを見て、苦笑いする。


 ほめてほめて! と元気に尻尾を振りながら自分の元にやってくるシロを怒るにも怒れず、穂香はしゃがんでシロの頭を撫でた。


「もう、シロは凄いな~」


 こうやって甘やかしてしまうから、うまくいかないとは知りつつも穂香はわしゃわしゃとシロを撫でまわした。


(でも、このままじゃだめだよね)


 シロは確かに強い。それでもこのダンジョンという未知の場所でシロだけを頼りにしていては、穂香だけでなくシロにとってもまずい。シロに何かあった時に助けられず、お荷物になってしまう。

 穂香はシロの両方を手で掴んで目を合わせる。


『ねぇ、シロ。次は私に任せてくれないかな?』


 穂香はシロに念話でそう伝えた。念話を試していてわかったが、おそらく穂香が言葉で話すより念話で伝えた方がシロに内容が伝わっているようだ。そのため、穂香はしっかり伝えたいときは念話で伝えることにしたのだ。


「くぅ?」


 シロはパチクリと目を瞬きをする。


『シロばっかりに任せられないからね。私だって戦えるってところを見せてあげるよ!』


「わぅ!」


 シロは鳴き声の返事と念話を使って『わかったよ!』という思念伝えてきた。


「お~、えらいえらい」


 穂香は念話って便利だな~と思いながら、お利口に返事を返したシロをまた撫でまわした。そして、上着のポケットに入れておいたジャーキーを取り出す。

ジャーキー以外の荷物はシロとの散歩用ショルダーバッグに入れ、ステータスボード機能の一つである収納にしまってある。バッグを持って収納したいと念じるだけで、手元からバッグは消え、収納画面の表示が変わっていた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

<収納>

 2/100

 ・ショルダーバッグ

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 取り出すのも簡単で、表示されたものを選ぶと『取り出しますか?』という選択肢が現れるので、そこではいと言えば取り出せた。また、画面に出ている数字は収納に入る容量を教えてくれているようだ。手荷物があっては探索がし難いので、穂香はこの機能をありがたく使っている。

 穂香は手の平にジャーキーを乗せ、シロに差し出した。


「くぅ」


 シロは嬉しそうに食べたが、もっと食べたいとばかりに声を上げる。


「ごめんね。お腹すいたよね」


 ダンジョンに入ってからだいぶ時間が経っているし、今日はシロも朝ごはんを食べていない。お腹もすいているだろう。それでもダンジョンから出られる目途が立っていない今、全部食べさせてい待っては後が怖いのだ。


『もう、あんまりないからダンジョン出られるまで節約しないといけないの』


「わん」


 穂香が念話で伝えるとシロは残念そうにしつつも、シロはわかったと返事をする。


 穂香は気を取り直して探索し始める。まだ行ったことのない通路を歩いているつもりだが、ちゃんと記録は付けていない。スマートフォンでメモをしようかと思ったが、どうメモしたらいいかわからないし電池が切れてしまうのも怖かった。電池はまだ80%はあるし、どうせ電波が届かない場所なのだから本来であれば探索に有効活用すればいいことは穂香もわかっている。それでもスマートフォンが何かの際に電波を拾って、誰かと連絡がとれるのではないかという淡い期待が捨てられないでいた。


「何か印をつけられたらいいんだろうけど。何も持ってないからなぁ」


 ヘンゼルとグレーテルのように、パン屑を落としてでも道しるべをつけたいところだけど、パンどころかシロのおやつのジャーキーしかない。地面に置いたらシロがすぐに食べてしまうだろう。


「それにしても、どこまで行けば出口があるんだろう」


 ずっと続く洞窟の岩肌は歩いても歩いても変わり映えしない光景だ。


(出口……あるよね?)


 もしかしたら出口なんてなくてさ迷うだけなのかもしれないと思うとだんだん心配になった。


(お水もそんなにないし。食べ物はシロのおやつしか持ってないし)


 このまま、この洞窟に閉じ込められたままでは数時間のうちに物資は尽きてしまう。


「大丈夫! きっと、出口は見つかる!」


 悪い方に向かてしまう自分の思考を振り切るように穂香は言い、足を進めた。


 しばらく進むと「ウォン!」とシロが突然警戒の声を上げた。シロから『注意!』というピリピリした思念が飛んできて、慌てて穂香は身構えた。


 シロが警戒しながら進むのに習って、穂香も辺りを見回しながらいつでも動けるように膝を少し曲げて進む。すると少し遠くに不思議な物体が見えた。


 シロは立ち止まり、穂香を見た。どうするか穂香の指示待っているようだ。

 穂香が『注意して進もう』と念話でシロに伝えると、シロは声を出さず『わたった』とう思念を返してきた。そして、穂香とシロは徐々にその不思議な物体に近づいていと、はっきりと不思議な物体が見える距離まで近づいた。


「何これ?」


 その物体を見た穂香はさっきまでの緊張感を忘れ、思わずそう呟いた。シロも不思議そうに鼻を鳴らしながらその物体の周囲を歩き回り始めた。

 それは丸い形をした水色の半透明の物体だった。大きさはバスケットボールくらいだ。


「ん~、何だろこれ?」


 水のようにも見えるがそうではないだろう。それは水だまりになるわけでもなく、地面の上に丸い形をしてあるのだ。


「わっ!? 動いた!」


 じっと見つめていると、それはフルフルと震えながらナメクジのように地面を張って進み始めたのだ。


「これってもしかして……スライム?」


 穂香が持っているスライムに関する知識は、美夜子がやっていたRPGに登場する雑魚モンスター。もしくは、洗濯ノリやホウ砂で作るぷにぷにふわふわな感触がする物体だ。穂香が今イメージしているのは前者で、雑魚モンスターとしてのスライムだ。


「ん~、本当に不思議な世界に来ちゃったんだな~」


 穂香が呆然としている間にも、シロはスライムを好奇心旺盛に匂いを嗅いで回る。そして鼻を押し当てたり、前足で小突いたりし始めた。小突かれるたびスライムはぷるぷる震える。なかなか愛らしい。


「こら、シロ。まだよくわからないんだからそんなのに触ったら危ないよ」


 とはいえそんなに危険性を感じなかったので、穂香は軽く諭すようにシロに言う。しかし、シロは遊ぶようにスライムにちょっかいをかけ続けている。


(なんだか可哀そうになってきたな~)


 シロのおもちゃとされているスライムを不憫に思い、そろそろやめるさせようとしたその時、シロの小突いた前足がスライムにはじかれるのではなく、中に沈んでいった。


「ワゥ!?」


 シロは驚き前足を引こうとするも、スライムが纏わりつくように伸びてシロを離さない。シロが前足を振っても水の中で藻掻くかのように意味をなさず、後ろに飛ぼうとすると掴まれているかのようでうまく距離を取れない。


「キャキャン!」


「シロ!」


(ど、どどどどうしたら?)


 シロの様子を見れば、物理攻撃が効かないだろうことはわかった。物理攻撃が効かないとなれば別の手段をと穂香の思考が行きついた。


『狐火!』


 穂香がスキルの発動を念じながら「ふぅ〜〜!」っと息を吐くと、青白い炎が地面を舐めるようにゴウと這っていく。その炎がスラムに当たると、スライムは身を硬直させたようで、シロの前足がスライムから解放された。そして、スライムはそのまま青白い炎に呑まれ、溶けるように消えていった。


「よかった~」


 穂香はそれを見届けたあと、腰を抜かしてへたり込んでしまった。不意に訪れたシロの危機をとっさに狐火を使って撃退できたのはラッキーだった。どうやらスライムは物理攻撃は効かないが、魔法のような攻撃は有効だったらしい。


 シロはしゅんとしながら、へたり込んだ穂香を心配して近寄ってきた。尻尾も力なく垂れ下がっている。


「もうシロ、わからないもの触っちゃダメだよ」


「くぅん」


 穂香が叱るようにシロに言うと、シロは『ごめんなさい』という思念を穂香に送り、穂香に鼻を押し付けてきた。穂香はそれを易しく受け止める。


「よかった~」


 穂香はシロを抱きしめてモフモフする。するとどこからともなく、ぐぅと間の抜けた音がした。


「はぁ、安心したらお腹減ってきちゃったよ」


 食べ物ないのにと思っているとシロが穂香の上着のポケットに鼻を当てて、『食べて』という思念を送ってきた。


「え?」


 そして早く早くと急かす様に鼻を押し付けてくる。穂香はシロの勢いに負け、ポケットからジャーキーを一切れ取り出した。


(え~と、シロが食べてと進めてくれるのは嬉しいけど……大丈夫かな?)


 シロのおやつ用に買っているは、鳥のササミをジャーキーにしたものだ。それも素材にこだわった無添加。ペット用とは言えおいしそうなものを買ってあげたいという飼い主の心から、安心できそうなものを買っていたのだ。確かに食べても大丈夫な気がする。


(実は結構おいしそうだな~とは思ってはいたんだよね)


 いつもシロが嬉しそうに食べることもあって、穂香も前から気になってはいたのだ。

 シロから向けられる期待の目に応えるため、穂香は「いただくね」といってからジャーキーを口に入れた。


(う~ん、塩気がないし少しかたいかな……。ペット用だから塩分控えめにしてるんだね。でも意外といけるかな)


『どうどう?』というようにシロが穂香の前を左右に歩き回る。味はともかく、シロの気持ちが嬉しくて穂香は心が温かくなった。


「ふふふ、ありがとうシロ。食べて元気出たよ!」


 そう言うとシロは嬉しそうに尻尾を振りながら穂香に頭を擦り付けた。


「やっぱりここは、危ない場所だね。シロ、これからも注意して進もうね」


「ワン!」


 ダンジョンの危険性を再認識した一人と一匹が、ダンジョンをさらに進むとすぐにまた不思議なものを見つけた。


「あれ、なんだろ?」


 穂香とシロが見つけたものは、石造りの四角い枠だった。

読んでいただきありがとうございました。

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