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夏目さん家の猫さん

「クシュッ!」


 鼻がムズムズする。

 どうやら私は机に突っ伏していたようだ。のそのそと顔を上げる。頭にかぶったパーカーのフードに何だか圧迫感を感じて、フードを脱ぐ。このパーカーは穂香から貰った猫耳が付いたのパーカーだ。実は結構気に入っている。


「くぁ……、寝落ちしちゃったか」


 机の上にはエナジードリンクの空き缶と中身が半分ほど減った水のペットボトル。部屋は暖房がよく効いていて暖かい。モニターの画面には『YOU LOSE』と表示されている。モニターに目をやる。9:20と表示されていた。


 受験勉強という長き禁欲生活を終え、やっと自由にゲームできるようになったのだ。徹夜でゲームに熱中してしまうのも仕方ない。

 これはきっと私だけではないはず。

 きっと昨晩は、一部の例外を除いて同じように受験というしがらみから解放された生徒達が己が欲求を満たさんがため大いに遊びふけっていたに違いない。身近にいるその例外はすぐに思いつく。幼馴染の穂香だ。彼女は私と違って規則正しい生活を送っている。日課のシロの散歩を今日もこなしているに違いない。受験から解放されたばかりだというのにご苦労なことだ。


「ん? いいとこだったのに何で寝ちゃったんだっけ?」


 ふと疑問に思う。そういえば、眠る前の記憶がはっきり思い出せない。確か昨日は眠気を忘れ、FPSに没頭していたはずだ。

 でも記憶がはっきりしているのは午前2時くらいまで。トイレに行く前に時間を確認したから間違いない。そのあと、ゲームを再開して……


「そうだ」


 ゲームを再開してしばらくした後、急に頭が痛くなってヤバイと感じたのだ。頭を締め付けられるような感覚と、インフルエンザに罹った時のような倦怠感が突然やって……。きっとそこで意識を失ったんだろう。

 自分の身体が心配になり、手を見てぐっぱぐっぱと握って開く動作をしてみる。特に問題は感じられない。手のひらを自分の額に当ててみても、そんなに熱くない。ん~きっと平熱だろう。


「大丈夫そう?」


 何だったんだろう? でも体調は問題なさそうだから平気かな? そう判断したとき、私のスマホから着信音が流れた。スマホの画面に表示された名前を確認する。


「明日香さんだ」


 明日香さんというのは穂香のお母さんだ。私の両親は今海外にいるため、よく面倒を見てもらっている。昨日は受験のお疲れ様会を開いてくれ、豪華な手料理を振舞ってくれた。穂香の好物である稲荷寿司や私の好きな唐揚げももちろん用意されていた。私の第二の母とも言える人だ。ふわふわした雰囲気とやや天然なところがある人だが、とても勘が鋭い人でもある。

 こんな時間にどうしたんだろうか。


「はい、美夜子です」


「もしもし、おはよう美夜子ちゃん」


「おはよう、明日香さん」


「朝早くにごめんなさいね?」


 現在時刻は9時を過ぎているから、朝早くという表現は本来は正しくはないだろう。でも、私が徹夜でゲームをしていたであろうこと、そして今の時間に私が起きていると判断して電話してきた明日香さんからすれば正しい表現だろう。ちなみに今まで明日香さんからの電話で、私が電話に出れない時間に電話がかかってきたことは一度もなかったりする。


「ん、どうかしましたか?」


 明日香さんの声にいつもの元気がない気がする。何かあったのだろうか?


「実は穂香がね。シロのお散歩から戻ってこないの」


「何時に出たの?」


 モニターに目をやる。9:20と表示されていた。


「いつも通り6時頃よ」


「3時間以上。それは確かに心配」


「そうなのよ。テレビでは神隠しにあった人がいぱっぱい出てるから、おかしな場所には近づかないようにって注意されてるし」


「ほう」


 神隠し? 何をいってるんだろうか。このいたるところにカメラがつけられた現代で神隠しがいっぱい?


「ただでさえ、犬や猫とかの動物の耳や尻尾が人に生えたって世間で騒がれてるし」


「ちょっと待って」


 情報処理が追い付かなくなって、明日香さんの言葉を止めた。神隠しというファンタジーワードさえ大したことがないんじゃないかってくらい大それた発言だ。きっと私の聞き間違いに違いない。


「動物の耳が生えた? 人に? 何を言ってるの?」


「そうなのよ! 驚きよね~」


 え? 聞き間違いじゃない!? 


「今朝起きたら穂香も私も狐耳が生えてたし」


「ほう?」


 私は頭が痛くなって、自分の頭に手を当てる。すると、ふにっという想定外の感触がした。

 あれ? パーカーのフード脱いだはずっと首の後ろに手を伸ばすと、予想通りフードがあり、引っ張りながら後ろを見るとフードに付いた猫耳が見えた。


「美夜子ちゃんはおかしなところなかった?」


 その言葉にドクンッと私の心臓が跳ねる。

 私は恐る恐るモニターの電源を消して、暗くなった画面に映る自分の顔を見る。


「猫耳?」


 可愛らしい猫耳としか言いようのないものが私の頭に生えていた。

読んでいただきありがとうございました。

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