狐さんとパーティー設定
穂香はスキルの取得と職業の設定を終えて、自身の探索準備を完了した。
(あとは、……パーティーか~。シロとパーティーを組めるのかな?)
「まずは、パーティー画面を開いて」
声にしなくてもいいのは穂香もわかっているのだが、声や指で操作したほうが穂香には感覚的に操作し易いようだ。
「候補リストにあるシロを選択っと」
<候補リスト>
・シロ
『シロへの要求を下記から選択してください。
パーティー 申請
フレンド 申請』
「へ~、シロとフレンド登録もできるのか~。でも、シロとフレンドになってもチャットはできないよね? まずは、パーティー申請を選択!」
『シロにパーティー申請を送りますか?』
「はい!」
『シロにパーティー申請を送りました』
シロを見る。
「シロ」
「クゥ?」
「シロにパーティー申請を送ったから、承認してほしいんだけど……。わかるかな?」
「ワン!」
『シロがパーテー申請を受けました。シロがパーティーに追加されます』
「おっ、承認された! シロは本当に賢いね~!」
穂香はシロを撫でる。
(念話って、シロと話せるようになるのかな?)
穂香はシロに伝われ~!っと思いながら念を送る。
《シロ、私の声が聞こえる?》
「ワン」
シロの鳴き声とは別にシロから肯定の意思みたいなのが伝わってきた。
「お、おお~? すごいよこれは!?」
《シロ、何かし喋ってみて》
穂香にシロから否定の意思のようなものが伝わってくる。さすがに話すことはできないようだ。穂香は試しに好きな食べ物や遊び等、いくつか質問をシロにしてみた。
(なるほど~、実際にしゃべれるわけではないけれど、シロからYES・NOや嬉しい、嫌いって感情が何となくだけどわかるようになってる! 意思疎通ができるようになってるんだ!)
結果、シロと会話ができずとも意思疎通が可能ということがわかりテンションが上がっていた。ペットを飼っている人であれば、今の穂香の気持ちに共感できるだろう。自分のペットと意思疎通が取れるというのはペットを飼っている人にとっては夢のような出来事に違いない。
「すごいすごい! これは革命だよ! ダンジョンに来てよかったって初めて思ったよ!」
「クゥ~」
突然テンションが上がった穂香に《どうしたの?》といった困惑の感情がシロから穂香に伝わってくる。それに、穂香は少し正気に戻った。
「ご、ごめんねシロ。ちょっと嬉しくなっちゃって。もう落ち着いたから大丈夫だよ」
「ワフ」
穂香はシロから《いいよ》という肯定の感情を受け取った。穂香は一度深呼吸をして心を落ち着かせた後、ボードのパーティー欄に新たに記載されたシロを指で触って選択する。しかし、特に表示は変わらない。
「シロのステータスが見れると思ったんだけど、この方法じゃないのかな?」
サポート画面を前に、ムムムと穂香がうなっているとシロから《わかった》という思念が伝わってきた。
「え?」
穂香が思わずシロの前に穂香が見ているのと同じサポートボードが出てきた。そのサポートボードには穂香に見覚えのあるサポート画面が穂香に向けて表示されている。
「シロはサポートボードの文字が読めるの?」
日本語で記されたボードを見て、穂香はシロに問いかけたが、シロから否定の意思が伝わってくる。
「そっか~。じゃあ、サポートボードあってもよくわからないよね?」
また、シロから否定の意思が伝わってくた。
「え? じゃあ文字読めなくても内容がわかるの?」
するとシロから《なんとなくは》といった曖昧な肯定の意思が伝わってくる。それに、このサポートボードを理解するのは無理だと穂香は結論付けた。そして彼女は本題に入ることにした。
「ねぇシロ、私にシロのステータス見せてくれないかな?」
そう、彼女はシロの情報を把握しておこうと考えていたのだ。出口を探すダンジョン探索において、シロが高い戦力を持っていることは既に示されている。とはいえ、これからは二人、いや一人と一匹のパーティーで探索をするのだ。お互いのできることを把握しておくことは何よりも大切になる。
「ワン!」
シロから肯定の意思が伝わるとともにシロのサポートボードがメニュー画面から切り替わった。
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<名前>(稲森)シロ
<種族>犬
<HP> 60/60
<MP> 50/60
<状態> 普通
<アビリティ> 勇敢 健脚
<加護> 宇迦之御魂神
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「わ~、アビリティが二つもある! シロは私を助けてくれたもんね。本当に勇敢だったよ!」
シロのステータスを確認して、穂香は納得の表情を浮かべた。あの活躍を見れば、勇敢と健脚のアビリティを持っていても不思議ではないと思った。
「うつのみたまがみ様はシロにも加護をくれてるんだ。散歩の途中にお稲荷さんにお参り行ってるからかな? ありがたいねシロ?」
どうやら穂香に加護をくれた神様はシロにも加護を与えてくれていたようだ。そのことから穂香は散歩の途中にお参りに行っている稲荷神社かもしれないと思ったのだ。
「クゥ?」
小首をかしげたシロからは、『わからない』といった思念が伝わってくる。神様と言われてもよくわからないみたいだ。
「シロ、職業も見せてもらってもいいかな?」
「ワン!」
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<職業>
猟犬
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「お~、既に職業設定されてるんだ。どうやってるんだろう? ……それしても猟犬か~。やっぱり私も猟師を選んでおくべきだったかな?」
穂香は既に職業が設定されていることに驚いた。シロがどうやって職業選択をしてるのかはわからないが、猟犬という何だか頼りになりそうな職業についててシロを頼もしく思った。
最後の確認事項はシロのスキルだ。それは、穂香が最も確認したかったことだ。穂香はごくりと唾を飲む。
「シロ、最後にスキルを確認させてもらってもいいかな?」
「ワン!」
シロは元気に答えた。そして、シロのボード画面表示が変わる。
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<スキル>
サポートボード、嗅覚強化、身体能力向上、爪牙、威嚇
<所持スキルポイント> 2
<習得可能スキル>
挑発:1ポイント
自然回復力向上:1ポイント
エアロステップ:2ポイント
風刃:2ポイント
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(おお~! すごい!なんかシロの方が攻撃的なスキルがいっぱいある! スキルポイント2あるから、この魔法っぽい風刃が習得できるよ!)
シロのスキルはダンジョン探索において、役に立ちそうなスキルをたくさん所持していた。
(ダンジョンに入ったのが私だけでなくてよかった~!)
穂香はシロの充実したスキルを見て、自分一人がこのダンジョンに入ってなくてよかったと安堵した。ただ、彼女は忘れている。そもそも彼女がこのダンジョンに入る原因を作ったのはシロだったことを。
「エアロステップってなんだろ? 空を走れるのかな?」
他のスキルは何となくわかるが、エアロステップだけ具体的にどんなスキルかわからず穂香は声に出してまった。
「クゥン?」
返事と共に、シロから『わからない』といった疑問を持ってる思念が伝わってきた。
「……ウォン!」
そして、『わかった!』という肯定の思念が続いて送られてきた。
「え?」
穂香が声を上げるが時既にシロはエアロステップを取得していた。そして、所持スキルポイントは2から0に減っていた。
「Oh……」
念話が使えるようになったとはいえ、まだまだちゃんとしたコミュニケーションを取るのは難しそうだと肩を落とした。
(ここは、堅実に自然回復力向上とか風刃とか取ってもらおうと思ってたのに……)
「ワッフ! ワフッ!」
シロの喜ぶ声と思念に穂香は顔を上げると、なんとシロが空中でジャンプをしていた。足場のないはずの空中でだ。
「ふゎっ!? すごい! すごいよシロ!」
エアロステップは本当に空を駆けるスキルだったようだ。それを即座に使いこなしているシロは相当なものだろう。穂香は先ほどの落ち込みなど忘れ、歓声を上げた。
そして、スキルを試し終えたシロは誇らしげに穂香の足元へ向かってきた。穂香はサポートボードを消し、ダンジョンの先を見据えて言う。
「それじゃ、出口を目指して出発だ!」
「ウォン!」
こうして穂香とシロ、一人と一匹のダンジョン探索が始まった。
読んでいただきありがとうございました。