狐さん、就職する
「でもこれで、シロのお荷物にはならないよね」
穂香のイメージとはやや違ったものの、彼女は狐火という攻撃手段を入手した。狐火がどのくらいの威力があるかは定かではないが、少なくともシロに守ってもらうだけ存在ではなくなったはずだと前向きに考えた。
「次は職業……かな? でもよく考えて選択するようにって書いてあったよね。みゃーちゃんと連絡が取れたら相談できるのに……」
穂香はダメもとでスマートフォンの画面を確認してみたが、やはりアンテナは立っておらず連絡は取れない。ゲーム好きの美夜子であればきっとこの状況に対応する的確なアドバイスをしてくれそうなのにと、残念そうにため息を吐いた。
(とりあえず職業の画面を見てみよう)
その穂香の意思に従って、開きっぱなしだったサポートボードは職業画面を表示する。
「わっ、考えるだけで本当に変わるんだ~」
穂香は、言葉にせずともサポートボードが自分が見たい画面に切り替わったことに感心した。先ほどの説明にはあったが操作も意思だけでできるという事実に驚いた。
「いつかこういうスマートフォンとかが出てくるのかな? でも、それはそれでなんか怖いな~」
穂香は、いつか来るかもしれない未知の技術を想像した。考えていることを機械に読み取られるというのは便利そうだけど、なんか嫌感じがしたのだ。
(あれ? そうしたら、もしかして今考えていることもこのボードを通して誰かに読み取られているかもしれないってこと?)
穂香は怖くなって深く考えるのを止めて、今は目の前のサポートボードに表示された職業画面と向き合うのが大事だと気持ちを切り替えた。そして、ふと疑問に思った。
「これ、どうやったら選択できる職業がわかるんだろう?」
そんな穂香の疑問に答えるように、画面はポップアップウィンドウが出てきた。
『あなたの適性職業は"戦士"、"巫女"、"猟師"です。この中から一つ、職業を選択することが可能です。』
その画面を見て、穂香は目を丸くする。
「お~、3つの中からの選択できるんだ。戦士は何となくわかる。武器持って戦うやつだよね。巫女は、何だろ? お祓いとかできるようになるのかな? それと、猟師……お祖父ちゃんが猟師やってるからかな?」
戦士と巫女は何をもって穂香に適性があると判断したかわからないが、猟師は祖父の影響かもしれないと穂香は思った。
穂香の祖父は北海道に住んでおり、猟友会に所属している。穂香は帰省したときに、祖父が振舞ってくれるジビエ料理を好んでいる。また、穂香が自ら進んで獲物の解体などの手伝いをすることから、祖父から特に可愛がられ、いろいろなことを教えてもらってきた。穂香本人は猟より料理することに興味があったのだが、同年代の少女より適性はあるのかもしれない。
そして、穂香はこの3つの職業から自分が選ぶなら何がいいかを考え始める。
(戦士はちょっとやだな)
真正面から大きな蟻と戦うのは嫌だと、戦士はすぐに候補から外した。
(猟師か~、狩りガールっていうのも結構かっこいいかも……)
近頃は女性の猟師さんが増えてきて、狩りガールと呼ばれているのを思い出した。祖父は最近は猟師が減って、大変だとぼやいていたこともあり、自分がいつか手伝えたらなと思う気持ちもあった。
(でもやっぱり一番気になるのはこの巫女なんだよね)
この状況を切り抜けることを考えたとき、なぜだかこれを選んだ方がいい気がしたのだ。
(……何ができるか正直わからないけど、ここは自分の直感を信じよう!)
「よし、巫女に決めます!」
穂香がそう言うと、画面が切り替わって、職業が巫女になった。そして、再びポップアップウィンドウが出てきた。
『スキル:浄化を取得しました』
(職業選択でもスキルが習得できるんだ~。浄化か~、やっぱお祓いみたいなやつかな?)
そう思って、狐火のときのように浄化スキルを試してみたが、何の効果があるのか確認できなかった。MPも減らないことから、浄化というスキルは何か発動条件があるのだろうかと首を傾げた。
読んでいただきありがとうございました。