62.伯父様は私の味方ですもの
「ふむ。姫の決めたことなら、俺が反対する理由はありませんな」
剣術の稽古を付けてもらったダヴィードが、足元でへたりこんでいます。伯父様は息ひとつ乱さずに、私とお話をしているのが不思議ですわ。ダヴィードだって体を鍛えているでしょうに。まったく敵わないようです。
「国王たる者、簡単に膝を突いてはならぬと教えたはずだ。罰として10周走ってこい」
「膝は……っ、ついて、ませ……、はぁ。尻をついた、だけ」
「屁理屈はいい。20周だ」
これ以上反論しても、さらに周回数が増えると判断して口を噤むダヴィードは、乱暴に汗を拭って立ち上がりました。膝が笑ってるようですが、大丈夫かしら。心配でダヴィードの様子を窺っていると、伯父様が問題ないと言い切りました。
「俺がリベルト……現国王陛下を鍛えた時は、もっと厳しかったぞ。この程度で人は壊れませんので、ご安心ください。ですが、姫は真似をなさいませんように」
「真似したくても出来ませんわ」
ふふっと笑って、走り始めた弟を見守る。なんだか不思議な感じです。見覚えのある外壁の中庭は、以前花が咲き乱れる美しい庭園でした。今は平らにならされて、訓練場になっています。外壁があるので、外から襲撃されたり侵入される心配がない、と伯父様が主張なさったとか。
「公爵家の領地を継いだら、伯父様に守っていただけるかしら」
「俺は姫を守りますが、カストが拗ねますぞ」
そうでした。カスト様は夫として領主になるのですから、私や領民を守るのは彼の仕事になります。うっかり失言しないようにしましょう。
「姫は俺の説得を先にして、国王陛下を後回しにしましたな?」
「ええ、だって伯父様は私の味方ですもの」
先に味方へ根回ししてから動くのが正しいのでしょう? 伯父様がお父様の説得に協力してくれるのを期待しています。はっきり希望を口にすれば、伯父様は声を立てて笑いました。
訓練に使った木製の剣を脇に抱えて、ダヴィードに声を掛けました。
「姫のお供をするゆえ、今日の訓練はここまでだ。20周が終わったら戻っていいぞ」
「くそっ! ずるいぞ!! 伯父上」
「悔しかったら強くなることだ」
まぁ、伯父様とダヴィードは仲がいいのね。殿方はすぐに仲良くなってずるいけど、私を伯父様が優先してくれるのは嬉しいですわ。きっとダヴィードから見たら、私の方がずるいのかも知れません。
伯父様と腕を組んで、お父様の執務室へ向かいます。すでにお母様と伯父様を説得したので、怖いものなしですわ。ノックした扉を開いた先で、書類の山を処理するお父様が埋もれて見えました。
国王になると、こんなに仕事があるのですか? ダヴィードにこなせるかしら。私が残って処理を手伝った方が……でも、利用されたら困るわ。あれこれ考える私に、伯父様がこそっと教えてくれました。
「あれは、最初だけだ。国王になったばかりで改革などするから、この状態は自業自得だな」
どうやら普段の処理量はもっと少ないようです。そうですよね、トップの決裁がなければ何も動かない国では、今後困りますから。お父様にはしっかり基礎づくりをお願いしましょう。




