57.王城に新たな主が入った
――三年後、空だった王宮に新たな主が入城した。
「兄上のせいでこんなことに」
「そこは俺のお陰で、だろう」
眉を寄せて訂正するアロルド伯父様は、お父様の文句をサラリと流す。こうしていると、本当にご兄弟なのねと微笑ましくなった。幼い頃のご様子が、容易に想像できるわ。
王宮内は、内装ががらりと変わっていた。王妃様の好みで濃色の家具が多かったのだけれど、白木の柔らかな色が目立ちます。なんだか柔らかい印象でした。間取りも変わったと聞き、侍女や執事のランベルトと地図を片手に城を歩くことにしました。
これから私達一家が住む城ですから、迷うのは困ります。執事のランベルトも同様の意見でした。私専属の執事になった彼は、隠居は死ぬ時と明言しています。婚約者のカスト様と腕を組み、城の高い天井を見上げました。
「あら、天井絵も違いますわ」
「そうなのか? 天井絵など気にしたことがなかったな」
婚約当初は距離があり、護衛騎士としての態度を崩さなかったカスト様も、今は敬語も取れました。三年目の今年、あと数ヶ月で結婚式を挙げます。ここまで延びてしまった理由が、王家の継承問題でした。
お父様はシモーニ公爵家を使って建国するつもりで、現在の王家は隣国として扱うおつもりでした。その当てが外れ、王国とシモーニの領地をすべて継ぐ形になったのです。仕事が増えると嫌がるお父様を、伯父様が搦手で巻き込んだとか。
その辺は殿方の政ですので、私は口を挟む気はありません。お母様も同じように仰って、ほぼ毎日お茶や刺繍でご一緒しました。実は恋愛小説を読む趣味も、お母様とご一緒した際に教えていただいたの。貴族令嬢が婚約破棄されるお話が多くて、私の騒動が参考にされたと聞きました。
どのお話も幸せになって終わっている。それが嬉しくて、次から次へと読み耽りました。今では私も新たな本を楽しみにしています。
以前は宗教画の天井でしたが、見上げる先は一面の花畑です。謁見の間も見たのですが、ここは天井がステンドグラスに変わっていました。光が降り注ぐと教会のようですわね。
お父様達がまだ玄関ホールにいらっしゃるので、寝室を先に覗いてしまいましょう。まだドレスなどの荷物は解いていませんが、広くて落ち着いた雰囲気でした。この部屋を中心に、周囲は私や弟ダヴィードの部屋があります。王族となった私達の私的空間ですね。
まだ信じられません。私は王妃になるべく育てられ、この王宮へ通いました。けれど婚約破棄され、回り回って愛するカスト様と戻ってきたのです。それも私は「王子妃」ではなく「王女」として。
「ここが僕の部屋?」
ダヴィードの声が聞こえ、向かい側の部屋に急ぎました。全体に緑が多用された落ち着いた部屋は、日当たりもよく大きな窓から庭が一望できます。
「素敵な部屋ね」
「お姉さま! カスト兄様達の部屋も見せて」
手を引っ張る弟に微笑みながら、カスト様と廊下に出ました。ランベルトが案内する自室は、柔らかなクリーム色を希望しています。どんな風に仕上がったのかしら。楽しみです。




