55.愚か者の末路は総じて不幸だ
王都周辺でゴミ掃除に精を出したアロルドが、本家に顔を見せたのは数日後だった。
「伯父様、お仕事お疲れ様でした。午後のお茶の時間はご一緒できるでしょう?」
昼過ぎに顔を見せたアロルドへ、無邪気に駆け寄るのはジェラルディーナだ。護衛を兼ねて、婚約者のカストもしっかり一礼した。礼儀正しさはもちろん、姫への接し方も問題ない。よい拾い物をしたな。アロルドは満足げに頷いた。
「姫のお誘いとあれば、何を差し置いても応じますとも」
「うふふっ、伯父様はいつもそうね。あ、お父様なら執務室にいらっしゃるわ」
報告があるのでしょう? 先回りして告げる姫と挨拶の抱擁を交わし、アロルドは本家当主である弟の執務室へ足を向けた。抱擁の際、少し悔しそうな顔をしたカストににやりと笑う意地の悪さは、自分でも直らないので諦めて欲しい。背中に突き刺さる嫉妬の視線が心地よかった。
姫を手に入れる幸運な男なのだから、この程度は我慢しろ。そう背中で語って、悠々とこの場を後にする。屋敷に入る手前で振り返ると、ジェラルディーナは花を摘んでいるようだった。花鋏を手に、白い花を選ぶ。
それでいい。ジェラルディーナに汚い世界を見せる必要はない。彼女の手が届く範囲は常に整えられ、目に映る世界は美しく輝いていればいい。薄汚れた手を覆い隠し、たまに近くで触れるだけで満足だった。もちろん、カストが姫に釣り合わぬとあれば遠慮なく拐うが。
執務室の扉をノックし、応えを待って入室する。ある程度書類処理が一段落したところらしい。机で手紙を書くリベルトが顔を上げた。
「兄上、少し待ってくれるか」
「構わん。それより執務室ではアロルドと呼び捨てろ」
公私を使い分けろと告げるアロルドに、リベルトは心外だと顔に書いて反論した。
「そう仰るアロルドも、口調が兄が弟を叱るようでしたよ」
「……それは大変失礼いたしました。ご当主様」
久々に弟にやり込められて、逆に嬉しくなる。以前は手紙を後回しにして俺を優先したが、今は逆だ。そういった些細な変化が、弟に当主の座を押し付けた罪悪感を薄れさせた。やはりリベルトこそが当主に相応しい。
「お待たせしました。二人なので兄上とお呼びします」
公私を分けたと宣言されれば、アロルドも異論はない。応接用のソファに腰掛け、報告を始めた。
「元王太子ヴァレンテは、二つ向こうの国へ奴隷として売り払った。あの国の奴隷への扱いは牛馬に等しい。あの様子では三ヶ月もたぬだろう」
リベルトの表情は変わらない。アロルドはさらに続けた。
「元側妃は実家が爵位返上で平民となった。つい先日、隣国へ逃げようとして捕まったばかりだ……国境付近の山賊は女の扱いにさぞ慣れているだろうな」
父親のわからぬ子を何人か孕むが、産むことはない。彼らにとって必要なのは、欲を満たす女だ。孕んだとしても無理やり流産させるはず。その扱いの酷さは、奴隷に匹敵する。死んだら別の女を攫えばいい。その程度の感覚で扱った。
言わずとも構わない部分は省いた。もちろん伝わっている。無言で頷くリベルトは、そこで指を組んで背もたれに寄りかかる。
「最後に、男爵令嬢だ。モドローネ男爵家は没落、家屋敷もすべて手放し逃げた。両親はその後、不幸な事故に遭って死亡。娘は身を売ったが……これまた運がないことだな。病を移されたとか」
世間話のように、彼らの末路を伝える。不幸な事故、山賊、娼館での伝染病……すべてがアロルドの手の上だった。




