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【完結】愛され公爵令嬢は穏やかに微笑む  作者: 綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢をよろしく
本編

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05.王家に対する信頼は大きく揺らいだ

 序盤で台無しになった夜会から抜け出し、王宮を足早に駆ける。丁寧に撫でつけた黒髪が乱れるのも気にせず走るのは、ピザーヌ伯爵家嫡男カストだ。表情は厳しく、目元は憎しみすら湛えている。彼の脳裏を占めるのは、先ほどの断罪劇だった。


 シモーニ公爵令嬢は、カストの恩人である。ピザーヌ伯爵家を救ったと表現できるほど、助けられた。彼女にそれほどのことを為した自覚がないらしく、謝礼はすべて孤児院への寄付に回してくれるよう願う人だ。シモーニ公爵令嬢以上に心の綺麗な女性を知らない。


 第一王子ヴァレンテ殿下の婚約者として、未来の王妃となることが約束された身だった。そうでなくても、カストが焦がれても手の届く女性ではない。だから忠誠を誓った。騎士として神に誓いを立てる。シモーニ公爵夫妻にも、この誓いは伝えていた。


 第一王子側の不貞による婚約破棄、なんという茶番か。この場合に破棄を申し立てるのは、シモーニ公爵家側だった。断じて王家ではない。王家は公爵家に伏して詫びるべき立場だった。あのような人前で辱められ、あの方は何を思っただろうか。


 泣くことも出来ぬ痛みを抱えて崩れ落ちた姿は痛々しかった。早々に王妃殿下が庇われたからよいが、そうでなければシモーニ公爵令嬢の評判にかかわる事態だ。このままでは済まさぬ。足早に抜けた廊下で、慌てふためいた伯爵家の侍従が追いついた。


「カスト様、何がございました」


 夜会が終わる時間には早い。不自然な時間に出てきた主君を案じる彼に、屋敷へ戻ると伝えた。怒りに震えるピザーヌ伯爵子息カストが門をくぐる頃、他の貴族も続々と引き上げる。


 王家に対する信頼は大きく揺らいだ。


 四代前の国王が起こした事件に匹敵する、深い溝が生まれたのだ。生まれた時から王妃になることを義務付けられたシモーニ公爵令嬢の話は、高位貴族なら知らぬ者はない。王妃となるために施された教育の高さはもちろん、立ち居振る舞いも完璧な淑女の鑑だ。


 彼女に代われる貴族令嬢は存在しないと言わしめた婚約者を蔑ろにし、あのような公式の場で横暴に振舞った第一王子に批判は集まる。何より、国王が途中で遮らなかったことに不満が噴出した。王妃殿下が間に入らなければ、あの場は決闘を申し込む紳士の白い手袋が会場を舞っただろう。


 シモーニ公爵夫妻に恩を感じる貴族は数えきれない。王家より信頼の厚いシモーニ家の令嬢は心痛で倒れた。この状況は、己の傘下にある下位の貴族にも知らせる必要がある。今後の王家の対応次第では、反乱も辞さぬ覚悟だった。


 ピザーヌ伯爵子息が憤りながら通った廊下を、侯爵や伯爵の肩書きを持つ男女が青ざめた顔で足早に帰路に就く。見送りに出る王城の侍従が間に合わぬほど、彼らの動きは迅速だった。時は金なり、夜会で起きた騒動はその夜のうちに子爵、男爵はもちろんのこと、出入りの商家にまで伝わった。


 どれほどの愚者であろうと息子。国王がかけた温情は、悪手として貴族達に受け止められる。翌朝のモドローネ男爵家は、今後の付き合いを断る旨の書簡が山積みとなった。事実上、貴族社会から締め出されたのだ。


 貴族社会は評判や噂が物を言う。慈善家で知られるシモーニ家は、貴族で最高位の公爵を賜り王家の血を濃く受け継ぐ。第二の王家と称されるシモーニ公爵家の令嬢から婚約者を奪った、()()()()()()がいる男爵家と付き合う貴族はいなかった。


 この日を境に、モドローネ男爵家は没落の一途を辿る。それは貴族社会が下した制裁のひとつであった。

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