37.恋愛と勘違いしてはいけないわ
専属騎士という存在は知っています。第一王子ヴァレンテ様にもいらっしゃいました。ですが、王子妃候補に過ぎない当時の私にも護衛はいましたが、専属騎士はつきませんでした。
「おはようございます、ジェラルディーナ姫」
朝の支度を終えた私は、自室の前に立つ騎士服のカスト様に驚きました。いつから待っておられたのでしょうか。お声がけをくだされば、もう少し早く準備しましたのに。そう伝えると、にっこり笑って首を横に振ります。
「私は騎士で、姫の護衛です。客人ではないのでお気遣いなく。影のように従い、姫をお守りするのが仕事ですから」
「……そうなの、ですか?」
驚いた私は慌てて歩き出そうとし、回り込んだカスト様に止められました。エスコートは騎士の役目なのだとか。婚約者や父親が立ち会わない場で、騎士が代わりをすることがあります。カスト様の手袋に覆われた手に、指先を触れました。
自分でも驚くほど心臓が高鳴ります。この音が聞こえてしまいそう。深呼吸して気持ちを抑え、笑顔を浮かべました。どんな時でも淑女は微笑んで受け止めなければなりません、そんな教えが過ぎります。
不思議と、微笑みを作った私を見るカスト様が、表情を曇らせました。この顔はお気に召さないでしょうか。カスト様のエスコートで階段を降りて、玄関ホールの奥へ続く廊下へ進みます。食事のために家族が集まる部屋の扉は開かれていました。
「おはようございます」
カスト様が先に挨拶をしたのは、執事のランベルトです。同じように丁寧に挨拶を返したランベルトが、私の座る椅子を引いて待ちます。腰掛けながら見たカスト様は、悔しそうでした。
「次は私が、姫のお世話をしたいのです」
屈んだカスト様の小声での要望に、私は小さく頷きました。ランベルトは執事で、仕事でしているの。騎士様も同じだわ。勘違いしてはいけないのよ。王子妃を追われた私に同情して、カスト様は優しくしてくださるだけ。恋愛感情ではないのだから。
言い聞かせて顔を上げた向かいで、伯父様が肘をついてにやりと笑いました。お行儀が悪いのに、どうしてか魅力的です。素敵な女性を見つけて結婚なさればいいのに、きっと希望者が殺到しますわ。
あれこれ考えを巡らせる私の隣に、弟のダヴィードが駆け込みました。焦った様子で額の汗を乱暴に袖で拭います。ハンカチを差し出したのですが、遅かったですね。でも受け取って大切そうにポケットに仕舞う弟は、幸せそうでした。
「おはようございます、お姉さま。今日は僕の練習を見てくださるんですよね」
「ええ、いいわよ」
予定は何もないので、ダヴィードがそう望むなら時間はあります。剣術の練習を私が見ても何も分かりませんが、褒めることや認めることは出来ます。それで弟のやる気が出るなら、素敵なことです。一緒に暮らした記憶の少ない姉を尊重する弟に、微笑みかけました。
なぜかダヴィードはカスト様を睨んだ後、向かいの伯父様にも唇を尖らせて不満を露わにします。もしかしてお強い二人に嫉妬しているのかしら。年下って可愛いんですのね。私は微笑ましくなって、自然と柔らかな笑みで目を細めました。
**********
今年も綾雅の作品にお付き合いくださり、ありがとうございました。来年もよろしくお願いします。良いお年をお迎えください(o´-ω-)o)ペコッ




