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【完結】愛され公爵令嬢は穏やかに微笑む  作者: 綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢をよろしく
本編

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19/79

19.屋敷が要塞のようでした

 なんとも疲れた。リベルトは溜め息を吐いて、愛娘の手を握り直す。王族の前を退室する際はエスコートしたが、こうして手を握るのはどのくらい振りか。懐かしさに目を細めた。


 幼い頃は「おとうちゃま」と舌足らずに呼びながら、後ろをついて回ったものだ。可愛くて、つい隠れたりしたな。姿が見えなくなって泣きながら探すのが愛おしくて、数回やらかしたら執事ランベルトに殴られた。あの後マルティーナにも叱られたんだっけ。思い出し笑いをした父に、娘は首をかしげる。


「どうなさいましたの?」


「いや、こうして手を繋ぐのは久しぶりだと思ってな。懐かしさに顔が緩んでしまった」


「ふふっ、そうですわね。昔はよく追いかけました」


 思い出話をしながら王宮を出て、馬車に乗る。合図を出すと走り出す。揺れる馬車の中で、首を絞めつけるジャボを緩める。ひらひらした胸飾りは正装や公式の場では必須だった。首とジャボの間に指を入れて、無理やり引っ張った。少し楽になる。精神的に消耗したため、疲れが重く感じられた。


「お父様、苦しいのでしたら外されてはいかがでしょう」


「そうだな。もう屋敷に戻るだけだから良いか」


 ジェラルディーナの提案に乗って、窮屈な飾りを取り払った。袖のレース飾りと対になったジャボを、胸元のポケットに押し込む。口元を押さえて上品に笑う娘の姿に、自然と表情のこわばりも解けた。


「王都の屋敷から持ち出す物があれば、ランベルトに指示すればいい。メーダ伯爵、いや兄上が心配していたぞ。一緒に本家に顔を出すそうだ。父上や母上が喜ぶだろう」


「あの伯父様が送ってくださるのですか?」


「ああ、そうか。そう考えると豪華な護衛だ」


「ええ。将軍職を蹴った方の護衛ですもの」


 メーダ伯爵アロルドは、剣術はもちろん槍術や軍師としての能力も優れた武人だ。跡取りを弟リベルトに譲ると決めた時から、己の得意な分野を磨いた。その能力で将軍職を打診されながら、あっさりと断った。その理由が「シモーニ本家を守るための武力である」という不器用なものだ。


 王家もシモーニ公爵家も一緒に守ればいいと言われても、彼は首を縦に振らなかった。守るものが複数あれば迷うので、優先順位をつけなくてはならないから、と。その実直さはもちろん頑固なところも、昔から変わらない。


「我が国最高の武人による旅なら、何も心配いらない。昼寝して過ごせそうだ」


「お父様ったら、伯父様に叱られますわ」


 ジェラルディーナは生まれると同時に、王家の花嫁に望まれた。だから一緒にいられた時期は短く、こうして雑談をするのも久しぶりだ。領地経営を兄に任せることが出来たら、王都の屋敷に住む選択もあっただろう。


「ティナも、ダヴィードも待っている。ようやく帰れるのだな、ルーナ」


 父の思わぬ言葉に動きを止めた後、ジェラルディーナは口角を上げて微笑みを浮かべて頷く。


「はい。楽しみです」


 王妃殿下の出方は気になる。あの異常な執着も恐ろしいし、何か起きそうな嫌な予感はあった。それでも愛娘を守るためなら、この身を盾にして剣を取って戦おう。愛しい娘はあと数年で嫁ぐ。嫁ぎ先に変更があったとしても、残された時間は僅かだ。出来るだけ長く共に過ごしたかった。


 婚約をなんとしても断るべきだったな。ジェラルディーナの成長期を半分ほど見逃してしまった。後悔してももう取り戻せない。


「あら、随分と物々しいこと」


 屋敷が近づいて驚いた様子のジェラルディーナに、リベルトも外を覗く。屋敷の周囲はどこの要塞かと思うほど、兵士がびっしりと警護していた。


「兄上の仕業だな」


「伯父様ですわね」


 二人で同時に犯人を言い当て、声を立てて笑った。慌ててはしたないと声を押さえようとした娘へ父は首を横に振る。


「今は王宮ではない。自由に振舞え」


 力いっぱい締め付けたコルセットが解けるように、王子妃教育により固まったジェラルディーナの気持ちは緩んでいく。それと同時に微笑みも柔らかくなっていった。

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