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13.この俺を含めたすべてを疑え

 国王アルバーノは、王太子の時点から愚鈍さを危惧されていた。この国では王族に対する貴族の監視の目が厳しい。だが建国の祖であるライモンド王の血筋を絶やすことは、国の歴史を蔑ろにするに等しかった。ゆえに貴族は王族を監視し続ける。


 愚行を成すとみなされた王に対し、貴族家の中でも有能な能力と血筋の婚約者を宛がう。それでも騒動を起こせば、王位継承権と王族の地位を容赦なく剥奪してきた。今回の第一王子ヴァレンテ・デ・ブリアーニのように。


 アナスタージ侯爵家は、先先代国王へ妃を差し出し補佐を務めた。その後、先王の時代には宰相も妃も出していない。なぜならば、ここにも貴族達による統制が効いているからだ。正妃を差し出したり宰相を務めた家は、次の代では要職に就くことが出来ない。才能により取り立てられることはあっても、決定権を持つ要職は与えられなかった。これはアナスタージ侯爵だけでなく、すべての貴族家に適用される。


 貴族達は互いを監視することで、愚かな王家を頂点に戴いても崩れない体制を作り上げたのだ。その監視体制の隙のなさは、他国が参考にするほどだった。


 シモーニ公爵家は先代の王弟が継いだ家系で、王族にもっとも近い血筋を誇る。どの貴族より近い位置にあり、当代当主であるリベルトの人望は厚かった。どの貴族家であっても、シモーニ公爵家へ悪感情を向ける家はない。


 ジェラルディーナが2歳になったばかりの夏、大規模な水害と飢饉が国を襲った。どの貴族家も備蓄を開放し、領民を守ることに必死になる。だが悲しいかな、領主家と広大な領地の規模が釣り合わぬ家もあった。このままでは民が飢えてしまう。困った領主達を助けたのが、シモーニ公爵家だ。


 広大な領地で蓄えた備蓄を自領に開放するだけでなく、余剰分を他家に惜しみなく分け与えた。そこに地位の差や柵はなく、求める者へ平等に配分されたのだ。この采配によって領地の危機を脱した貴族が、公爵家に心酔するのは当然であろう。


 先代の王弟殿下が遺した言葉に「備えは国の規模をもって考えよ」という一文がある。他にもいくつか言葉は遺されたが、その言葉が有名になったのは、この飢饉の際にリベルトが何度も口にしたためだ。


 各領地の備蓄量や収穫量は毎年、国に報告されている。国民全体が必要とする備蓄を弾き出し、報告された量を差し引いた。自領で必要とする備蓄の倍に相当する食料や燃料を、シモーニ公爵家は蓄えて備える。毎年入れ替えるため、年を越した食料は民に安く下げ渡された。


 シモーニ公爵領に、食うに困るほど追い詰められた領民がいないのは、この施策のお陰である。それらに追従し、本家を支える分家もまた、家や領地の規模より大きな備蓄を抱えていた。今回はそれらを兵糧に変更しただけの話だ。


「リベルト、兄として警告する。王妃殿下を疑え。ジェラルディーナ姫が可愛ければ、常に周囲を疑うのだ。この俺を含めたすべてを」


 一回り近く年の離れた兄は白髪の混じる髪をかき上げる。彼にしたら、姪は孫と変わらぬ存在だった。愛らしく、何をしても許してしまう。彼女の幸せを願う意味において、王家との婚姻は阻止したかった。


「私に兄上を疑え、と?」


「そうだ。今の俺の進言を疑い、同時に王妃殿下の言動を疑ってかかれ。そうすれば、真実が見えるだろう。リベルトは俺の自慢の弟だからな」


 俺を信じろとは言わない。これが兄だ。リベルトは泣きたくなる気持ちで頷いた。まだ決断は出来ないし、判断の基準にする情報が足りない。だが……兄アロルドの忠告を無駄にすることは避けたかった。

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