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第4話 元聖女様、鍵を開く

 

「うーん……」


 眩しい光が収まると同時に私の体に倦怠感がのしかかってきた。

 イマイチ気分が良くない。乗り物酔いでもしたかのような気怠さだ。

 それでも私はゆっくりと目を開く。


 光に包まれる直前に馬車の扉が開く音がしたのだ。

 だけど殺される事無く私はまだ生きている。


「ここは……どこ?」


 つい先程まで私は王国の街の中を護送用馬車で揺られていた。

 しかし、今は目の前に街並みは無く、武器を手にしていた騎士もいなければ乗っていた馬車も無い。

 周囲に木が生い茂っているだけの景色がそこにはあった。


 もしかして! と私には思い当たる節があった。

 この世界の住人は誰しもが魔力を持っていて、魔法を使う事が出来る。

 魔力の量や適正によって使える魔法は限られてしまうけれど、その中に違う場所へと一瞬で移動出来る魔法があると聞いた事がある。

 未来から来たロボットが使うどこにでも行けるドアみたいな魔法だ。


「この鍵の力よね?」


 私は治癒魔法が使えるけど、転移の魔法なんて使った事も教えてもらってもいない。

 だけど、この鍵が光って見知らぬ場所に移動したから、鍵が転移魔法を発動させたのだろう。

 だとすると私の倦怠感は鍵に魔力を吸われてしまったのだと納得出来る。


「いったい何の鍵なのかしら?」


 見た目も不思議な素材で出来ているけど、魔法まで発動するなんて益々謎が深まった。

 神聖教会のトップでもある養父様がくれた物だから何か仕掛けがあってもおかしくは無いけれど。


 私が鍵を握ったままその場で立ち尽くしていると、再び鍵が光った。

 ただし今回は眩い光では無く、淡い光が漏れて真っ直ぐ前に伸びていく。


「この先に何かあるのかしら?」


 まるで道しるべのように伸びている光。

 私はその光に導かれるように足を動かす。

 人の気配もしない、何処なのかすら分からない場所をただひたすらに歩く。


 森の中を数分くらい歩いただろうか、プツリと何かに遮られてしまうように光は何も無い場所で消えていた。

 きっとココに何かある。

 そんな根拠の無い思いを胸に、私は光が消えた場所に足を踏み入れた。


 トプン。


 シャボン玉の膜を破れるようなそんな感覚を肌で感じた。

 これは教会の敷地に魔物が侵入しないように張られている結界に近いものだ。


「うわ〜」


 その認識は正しかったようで、何も無いと思っていた場所に急に家が現れたのだ。

 家といってもこじんまりとしたログハウスでは無く、ちょっとした屋敷のようなものだった。

 二階建ての見事な屋敷。お金持ちや貴族のような人が住みそうな家がどうしてこんな森の中に?


 そんな疑問を抱きながら屋敷の中に入ろうとする。

 誰か人がいれば話を聞きたいけど、残念ながら鍵が閉まっていて中に入れない。


「多分、この鍵よね?」


 私は手にしていた不思議な鍵を鍵穴に差し込んだ。

 すると再び体から魔力が抜けていく感触があり、ガチャリと鍵が回った。


「お邪魔しまーす」


 ゆっくり扉を開いて中に入る。

 屋敷の中には家具なんかがそのまま置いた状態になっていた。

 玄関から奥に進んでリビングのような場所に辿り着くけど誰もいない。

 何の物音もしない静かな屋敷だった。

 それこそ荷物はそのままで何年も誰も住んでいないような雰囲気だ。


 キョロキョロと室内を見ていると、リビングの隅っこに人影のようなものが見えた。

 布のようなものを被っているけど人っぽい。

 隠れて私を驚かせようとしているのかも?と思ってその布を取っちゃう。


「ひぃ!?」


 布の下にいたのは人では無かった。

 そこには人形が椅子に座っていたのだ。

 人形といっても人間そっくりな子供がおもちゃにするようなタイプでは無く、絵を描く人が使うデッサンタイプだ。

 しかも、顔がのっぺりしているのに体はリアルな造形の。

 自分より身長の高そうな人形を間近で見てしまいビックリしてしまった。


「この家の主人は絵描きなのかな?」


 それにしては道具やキャンバスすら見かけなかったが、屋敷の隅々まで探索したわけでも無いので気にしても仕方ないか。

 驚いたせいで疲れたのか、私は倦怠感を感じながら人形にまた布を被せる。

 触った感触としては何とも言えないツルツルした材質の人形さんには再び眠ってもらうとして、屋敷の人を探さなきゃ。



 だがしかし、この後も屋敷の中を一通り歩いて人がいないか調べてみたけど誰もいなかった。

 外に出ているのかもしれないと考えて屋敷の中で待たせてもらったけど日が暮れて真っ暗になっても帰宅する気配は無かった。


 仕方ないけど、私はリビングにあるソファーをお借りして一晩を明かす事にした。


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