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第四話 飼育係、猫を勧める


 現状説明。

 虎、逃げる。

 ライオン、追いかける。


 残念ながら檻の中からは出れないので、二人で狭い空き教室をぐるぐるしている。


「なんで逃げるんだ! 一緒に頑張ろうぜ、みたいな雰囲気だったろ!」

「そういう雰囲気を台無しにしたのは誰よ!」

「友達がめちゃくちゃ少ないってだけで、ゼロってわけじゃないから安心しろ!」

「安心できるわけないでしょ! なにが万事解決だ、この嘘つき!」

「嘘じゃねえ! これから本当にしていくんだって!」


 今めっちゃカッコイイこと言った気がする。

 

「なにカッコつけてんの、全然響いてないから!」


 うわ、俺の心にダイレクトアタック。

 ライフゲージ赤いんだけど大丈夫かな。


「とにかく話を聞いてくれ!」

 

 俺の魂の叫びが届いたのか、虎杖(いたどり)の足がピタリと止まった。

 ゼーハーと息をついて、肩を激しく上下させている。

 違うわこれ、普通に動き疲れてるだけだわ。


 虎杖はまだ友達がほしいという願望の前で、俺に対する期待を捨てきれないようだった。

 息を整えながら元居た場所に戻り、教師の隅に座る。

 

「……友達がいない人が、どうやって友達をつくる方法を教えるのよ」


 それは至極真っ当な質問だった。

 運動ができない人が運動を教えることはできないし、勉強ができない人が勉強を教えることはできない。

 だが、友達づくりに限ってはこの限りではない。

 

「逆だよ逆。友達がいないからこそ、友達をつくる方法がわかるんだ」


 俺が自信たっぷりに喋っていると、訝るような視線がもうこれでもかってくらい飛んでくる。

 勝手に虎杖の言葉を代弁すれば、「なにいってんのこいつ」くらいには思われているんだろう。


 だが、ここで怯むような藤堂玲央ではない。

 だっていつも「なんだこいつ」って思われてるから。

 もうこの話やめていい?


「さて問題です。なんで俺に友達ができないでしょうか」


 なおも自分で自分を傷つけながら、俺は虎杖に説明するため話を続ける。


「なんでって……顔が怖いから?」

「余計なお世話だ。でもって不正解」


 ヤンキーは一人ぼっちどころか仲間の絆で結ばれてるだろ。

 そういうことだ。知らんけど。


「顔が怖くても、金髪ピアスでも、体格が厳つくても、友達はいくらでもできる」

「外見は関係ないってこと?」

「まあ、そう受け取ってもらってもいい」


 詳しく話せば長くなるので、今は余計な説明を省いていく。

 シンキングタイムは終わり、すぐにネタ晴らし。


「答えは相手に寄り添ってないからだ」


 俺の言葉に、虎杖がピクッと反応する。


「俺は自分から友達をつくろうとしていない。だから友達がいない」

 

 いないと言っても、二人思い当たる人物はいるけど。


「単純なことだよ。友達がほしいなら、自分から動かないといけないんだ」


 稀になにをせずとも勝手に人が寄ってくる人種がいる。

 それはそれで大変だろうし、友達が沢山できてハッピーとはならない。

   

 そういう一部の話はさて置き、今は俺たちの話をしよう。

 誰からも寄り付かれず、孤独で一人ぼっちな俺たちの話を。


「虎のように怖いだっけか? まずはそのイメージをどうにかしろ。そうすれば、友達百人も夢じゃない」


 本来、虎杖茜は稀な人種側のはずだ。 


 腰あたりまで伸びる絹のような美しい金髪に、一切の汚れを知らない白い肌。

 くっきりとした二重と、サファイアを思わせる青色の瞳。

 スカートの裾から覗く白い脚はスラりと長く、制服の下から主張する膨らみは魅惑的だ。

 

 類まれない容姿はそれだけで人を惹きつける。

 だが、引き寄せられた先が獰猛で凶暴な猛獣だったら誰でも逃げ出すのが道理だ。


「虎じゃなくて猫になれ。誰からも愛されるような、可愛い子猫ちゃんに」

 

 言いたいことを言い終わった俺は、無言で虎杖を見つめる。

 途端に静寂が訪れ、古びた時計の針がチクタクと進む音がはっきりと聞こえた。

 

 虎杖はうつむいてしまい、動く気配がない。

 俺ができるのはアドバイス、それから背中を押すだけだ。

 

 あとは本人次第。

 友達をつくるために、自分から動けるかどうかだ。


 時間にしてはそんなに長くなかった。 

 けれど、随分と考えた様子の虎杖はやがてゆっくりと口を開く。


「…………にゃーん」

「いや、成り切れとは言ってねーから」


 なにはともあれ、これからの方針は決まった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] かわよ…… やっぱ面白いんだよなぁ 昨日はタイミング悪くてツイート見れなかったけどまさかの新作とは…… まぁ、消えた過去作は置いておいてこの新作、期待出来るのでやはり楽しみ!!! [気に…
[気になる点] あれ、俺なんかやっちゃいました?→何処の某孫だ!(笑) [一言] 金髪、ピアス、鍛えた肉体。 成る程それは確かにライオンだしそんな人物が飼育係やっていれば疑われるのも仕方ない。 友人…
[良い点] にゃーん!!!!
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