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勇者様は異世界転生が許せない! ~異世界侵略者を最強勇者が迎え撃つ!~  作者: おさむ文庫
ep.2 ニート生活の中で、食材確保は生命線なのです!
8/50

2-2 2人は異色なキノコ採集を始める

「食料採集、ですか?」


 リリカは突然のアレクからの提案を聞き返した。

 アレクはリリカの質問にうなずく。


「それじゃあやっと山の麓にまで降りていくわけですね!」


 リリカの表情が明るくなる。

 引きこもり勇者の口から飛び出た。外に出る宣言にリリカは喜んだ。

 食材を調達するということは、山を下りて買い物に行くということだ。リリカの中ではその考えが真っ先に浮かんでいた。


「よかった~。さすがにアレク様でも人間の生活はしていたんですね。本当に人付き合いがなかったらどうしようかと思いましたよ」


 リリカの反応に対して、アレクは真顔のままだ。


「なに言ってるんだ?」


 アレクはキッチンの窓から見える外の景色を指さす。山の冬景色がそこには映し出されていた。


「ここは山の中だぞ。食料はこの中からとるに決まってるじゃないか」


「え?」

 リリカの表情が一気に固まる。


「いやー、ちょうど1人じゃ採集に行くのも大変だったんだよね。いいときに来てくれたよ」

 そう言いながらリリカの肩をたたくアレク。


 リリカは気持ちの急降下にまだ付いていけていなかった。


「ハハ、ハハハ」

 固まった笑いを口から漏れ出しただけだった。


 そうして、食料採集の準備が始まった。

 とは言っても、リリカはただ外で待つのみで、家の中でアレクが何やらごそごそと準備をしていた。



 アレクは外に出てくると、彼の手にはかごと1冊の本があった。

 アレクは両方をリリカに渡す。


 リリカは食材を入れるかごを背負い、手に取った「キノコ図鑑」と書かれた本をまじまじと見つめる。

 100ページはありそうな厚さだった。


「これは?」

「見ての通り、キノコ図鑑だ。俺はこの山にあるキノコは覚えているからな。リリカはそれを見て覚えておけよ」


 それだけ言うとアレクは木の生い茂る方へと歩き出した。


「なぜキノコ……」

 リリカは疑問をつぶやきながらも、アレクの背中を追った。


 リリカの疑問はすぐに解決されることになった。

 アレクの家から少し歩いたところには、木々と一緒に数多くのキノコが生えていた。

 視界一杯に広がるキノコの量にリリカは圧倒される。


「こんなに生えてるんですね……」

「この時期はあまり食べれる野草も生えていないからな。キノコは大事な食料源なんだよ」


「うまいしな」

 キノコを目の前にしてつぶやくアレクの目はどこか輝いているようだった。


「でも、アレク様、」

リリカはしゃがんで、すぐ近くにあったキノコを1つ手に取る


 純色の青の房に、黄色の斑点が付いている。何とも主張のはげしいキノコだが、似たようなものがそこらへんにたくさん生えていた。


「これ食べられるんですか?」

 リリカは不安げにアレクに訊ねる。


「この山には毒キノコはほとんど生えていない。俺がちゃんと確認してあるからな」


 アレクは自信満々に答えた。


「めんどくさがり屋なのに、そういうところはしっかりとするんですね」

「まあな」


 アレクはそのままキノコ採集を始めた。手あたり次第見つけたキノコを手にとってはかごに入れている。

 一応選別はしているらしいことは、彼の手つきを見てわかった。

 アレクの手つきは軽やかで、鼻歌まで歌っているようだった。


「なんか、楽しそうですね」

「もともとは【村人】だからな。こういうのは好きなんだよ」

「めんどくさがりなのに?」

「楽しいことは別だ」


 リリカはふっと笑うと、キノコに手を付け始めた。

 山に生えているキノコは色とりどりで、食べられそうに見えなかった。しかし、図鑑を見てみるとやはりそのほとんどは食べられるようだ。


・(ヤバウマダケ)

全体的に真っ赤なキノコ。その名の通り珍味として知られている。

熱を通すと茶色に変色する。ソテーにして食べられることが多い。


・(モエツキダケ)

カサは白いが、ひだは赤い。ひだが青い(ウゴダケ)との見分けが必要。一般的にはスープに入れられるが、生でも食べられる。

 

「生で……」

 リリカはキノコを生で食べる人間がいるということに寒気を感じた。彼女の生きた中でありえない世界を覗き込んでいるようだった。


 リリカは見つけたキノコを一つ一つ図鑑と照らし合わせていく。なんとなくアレクが楽しんでいる理由がわかってきたようだった。


 リリカはアレクの方を見ると、彼はまだキノコを見つけてはかごに放り込んでいた。


「ねえ、アレク様、」

 リリカはレクの方に場所を近づき訊ねる。


「どうして、こんな山の中に住み始めたのですか?」

「この生活が性に合うんだよ」

 アレクはキノコを採る手をやめずに答えた。当たり前のことだという調子だった。


「でも、国の中じゃアレク様の事いろいろという人も出てきましたよ。“引きこもり”だの、“自意識過剰”だの。せっかく世界を救ったのに、それでいいんですか?」

「そんなの、俺がどんな生活をしていたって、言う人はいるだろ」


アレクはめんどくさそうにため息を吐く。


「俺は好きで【勇者】なんかになろうとしたわけじゃない。【勇者】なんて言い方も結局はただの職業の一つだろ?」


 やがて、アレクは立ち上がり場所を変えた。

 そのまま言葉を続ける、


「俺はもとはただの【村人】だ。特別なことなんて1つもない。役目が終わったら、あとは好きに生きさせてほしいぜ」


 リリカには、アレクの言葉が突き刺さった。

 アレクに対する評判を変えたい。そう思っていた彼女の考えが変わっていく。


 勇者には勇者としての苦悩もあるのだ。


「また敵が攻めてきたらどうするんですか?」

 昨日と同じ内容をアレクに問いかける。今度は純粋な質問として。


 アレクは表情を変えずに答える。


「来たらまた倒せばいいだろ」

「いいんですか? 無限にやって来るかもしれませんよ?」

「俺1人で解決できるなら、それでいいじゃないか。城にまで乗り込めば、関係ない人まで巻き込む。それはめんどくせえよ」


 アレクはそれだけ言うとキノコの方に顔を向けてしまった。


「優しいんですね……」


 リリカはアレクの背中を見てつぶやいた。

 彼女の瞳には、変わらない勇者の姿が映し出されていた。


「お、このキノコはなかなか珍しいな」


 アレクはひとつのキノコを取ってリリカに見せた。

 金色のカサに黒色の柄が付いたキノコ。他のものとは一線を画す豪華さがあった。


「見ろ、(アマツカダケ)だ! これはなかなか見ることができるキノコじゃないぞ。ソテーでもよし、スープに入れるのもよし。何でも合うが、やっぱり生で食べるのがいちばんだ」


「生で食べるんですか?!」

 それまでのリリカの感動が吹っ飛ぶ。

 まさかキノコを生で食べる人間が目の前に現れるとはリリカにも予想が付かなかった。


 アレクはカサをちぎってリリカに差し出す。

 金色に光り輝くキノコ。しかし、リリカはどうしても生で食べる気にはなれなかった。

 首を横に振ってキノコを断る。


「なんだよ」

 リリカに拒否されると、アレクは残念そうな顔をしてそのままアマツカダケを口に放り込んだ。


 ちぎったカサを食べた後は、残りを全部食べてしまう。

 あまりにもおいしそうに食べるアレクの姿を見て、リリカは少しだけ羨ましくなってしまった。


 リリカは試しにキノコ図鑑を開いてみる。 

 そんなに珍しいキノコはどんなものなのかが気になってしまった。


 アマツカダケのページを見つける。

 なるほど、確かにアレクの言うように高級な珍味らしい。


 しかし、リリカは説明の下にある赤文字に目を見開いてしまった。

 本から目を上げ、アレクに向かって叫ぶ。


「そのキノコ、ちゃんと確認してから食べましたか?! 【注意! 似た見た目の(ドクヅカダケ)は食べてはいけない。見分けるように】って書いてありますよ!!」


「……え?」


 リリカは図鑑を広げてアレクに見せる。

 アレクはすでにそのキノコを飲み込んでしまった。今更確かめることはできない。


「はは、大丈夫だよ、きっと」

アレクは力なく答える。彼の顔が少しずつ青ざめていく。


「本当に大丈夫でしたか? ひだの色はちゃんと確かめました?」

「……」


 アレクに冷や汗が流れる。

 それが体調不良なのか、不安なのかリリカには見分けがつかない。


 しかし、次の瞬間、アレクは白目をむき、そのまま膝から崩れ落ちた・


「アレク様!」

 リリカはアレクのもとに駈け寄る。アレクは白目をむいて泡を吐いていた。


 涙交じりの彼女の声が山の中に響いた。

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